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――まず、初めにニューアルバム『赤星青星』のテーマを教えてください。吉澤さんはアルバム毎に明確なテーマを儲けていますよね。

「そうですね。いつもアルバムのテーマに沿って、自分の考えや動きが引っ張られているような気もしていて。最終的には、アルバムを作るために、いろいろなことを味わっているような……」

――“少女時代”から“日常の絶景”、“物語”と続き、前作となる4枚目のアルバム『女優姉妹』は“女性”がテーマになっていました。

「デビューからはずっと自分の中にあるものをアルバムのテーマにしてきたんですけど、前作で “他者としての女性”を描いてみたいと思って。最終的には自分自身との対峙に終着する曲を集めたんですけど。ずっと一人だったので、今度は関係性を広げていける見せ方をしたいなと思って。その最初として、本作では、“恋人”をテーマに、主人公ともう一人、“二人きりの関係”を描きたいなと思いましたね」

――テーマを決めて、次はどう進めていきました?

「まず、タイトルからですね。遠い星に生まれた二人が出会うイメージにしたかったので、対極にある色として、『赤星青星』というタイトルにしました」

――どうしてそんなに遠く離れたところで生まれた二人が思い浮かんだんでしょうか。“二人きりの世界”というと、最初にすごく距離が近いイメージもありますが。

「ほんとですね(笑)。誰と親しくなっても、やっぱり遠いところにいるというか……この話をしたことがないので、あまりうまく言えないんですけど、別の星というのは、別の国とか、別の立場というわけではないんですね。誰であっても、生まれや育ちが違うと、分かり合えない部分がある……いや、もしも生まれや育ちがいっしょだとしても分かり合えない部分はありますよね。でも、その二人が手を伸ばし合うところにロマンチックを感じるんです。だから、魂の双子のように、出会うべくして出会った二人だとしても、やっぱり分かり合えない部分があるっていう。同じこと言ってますけど(笑)」

――(笑)ロマンチックであると同時に、冷静というか、分別があるというか、あくまで“個”は“個”のままで二人きりの世界を作っているのが吉澤さんらしいなと感じます。しかも、さまざまな二人きりの関係を描いた10の物語のいちばん最初「ルシファー」の恋の相手が堕天使だっていう。作詞は歌人の穂村弘さんとの共作になってますね。

「今回のアルバムを作ろうと思った時に、どなたかと共作したいと思って。穂村 弘さんは、私が中学生のころに言葉の“ときめき”を教えてくださったというか、ずっとファンだったんです。だから、このアルバムでごいっしょできたらなと思って。曲のテーマはどうしようって考えていたんですけど、自粛期間中に久しぶりにコンビニに行ったんですね。曲を描いてるうちに昼夜がどんどん逆転していって。明け方、外に出た時に、東の空で星が一粒輝いていて。綺麗だなと思って、Twitterに書いたら、誰かが“ルシファーですね”ってお返事してくれて。そのツイートを後から探したら見つからなかったんですけど、そのことを思い出して、穂村さんに“ルシファーというタイトルで曲を書きたいです”ってお伝えして。そこから生まれたいくつかのフレーズをお送りしたら、穂村さんが私のフレーズに連句のような形で新しいフレーズを足してくださって。二人で一行ずつ書いて曲が生まれていった感じですね」

――堕天使との出会いですよね。

「真夜中に堕天使を見つけた主人公が拾って帰るっていう。触っただけでも怪我しそうな、美しい人。優秀な天使が神様に地獄=地上に落とされたという、翼をもがれた天使との恋というイメージで描きました」

――サビがとても神秘的な響きで素敵だったんですが、この曲を幕開けにしたのはどんな理由からですか。最初からファンタジーというイメージを持つ人もいるかもしれない。

「恋人をテーマにしたときに、トキメキというものを入り口にしたいなと思っていて。今、自分がときめきながら描けるものを想像した時に浮かんだのが、異種の存在だったんですね」

――アルバム全体を通して、相手は異種の存在ですか?

「いや、曲ごとに違うかなと思います。ただ、“恋人”っていうと、一般的には若い男女のイメージがあるかなと思って。でも、相手が異性でも同性でも、生き物でも、生き物じゃなくてもいい。このアルバムを聴いてくださった方が、その時に夢中になってるものとの関係性に置き換えてもらえたらいいなというのがあったので、なるべく広い意味での関係性を示したいと思ったら、のっけから異種の、異界の存在になりました」

――なるほど(笑)。続いて、シングルとしてリリースされた「サービスエリア」が収録されています。

「久しぶりに出したシングルで、今回のアルバムの中でいちばん最初に取り掛かった曲なんですけど、久しぶりにリリースする曲という気負いもあり、時間が掛かりましたね」

――<恋人たちは遠い星に辿り着き>というアルバムのテーマを担うフレーズも出てきます。別々の遠い星から来た二人ですか?

「いや、全然、現実からの来た二人ってというイメージでした。高速道路に乗って、サービスエリアに辿り着いた頃には、異世界に変わっているという。なんか、サービスエリアって、お昼の顔と夜の顔で、また違う雰囲気が流れていますよね。その夜に感じる寂しさをロマンチックに描けたらいいなと思って」

――恋人同士がいっしょにいるのに、なんとも言えない、うら寂しい空気が漂ってますよね。

「そうですね。今、この時間が止まればいいのになっていう感覚でしょうか……だけど、止まらないんだよなっていう寂しさが出てるのかなと思います」

――このまま1曲ずつ、楽曲の主人公である二人の関係性をお聞きしたいなと思います。「グミ」は公園でスマホゲームをやってる二人が思い浮かびます。

「友達が数年前に<最初の一個と最後の一個をくれる人を神様だと思っている>と言ってて。そのフレーズいいねってメモしてて。そこから、最初の一個と最後の一個ってなんだろうって考えていくうちに、最初の一個は与えられたものだけど、最後の一個は与えられているようで、何かを奪われているのかもしれないなと思って。そこから、相手をどんどん崇めてしまうというか、神格化してしまう主人公が浮かんで。だから、公園で無邪気にじゃれあっているような、子供っぽくて透明感のあるところから、どんどん濁っていくような不気味さも入れられたらなと思いながら描きましたね」

――神格化=濁っていく感覚なんですね。

「そうですね。周りが見えなくなっていく、盲目みたいなイメージです」

――この曲には<恋人はいつも光りだす>とあります。「ルシファー」の“星”、「サービスエリア」の“遠い星”や<赤と青に光る>というフレーズを含め、本作には“星”や“光”という言葉が度々登場しますね。これは何のメタファーとして使ってますか。

「それが今回のアルバムのポイントになってますね。いろいろな書き方があって。憧れや眩しいという気持ちもありますし、前作に収録されていた「ミューズ」や本作の「流星」のように、その人の傷を光として描いてることもある。「サービスエリア」は信号としての光ですね。コミュニケーションとして、ほのめき合う光でささやいている。アルバムを通してずっと、光というのがモチーフにありましたね」

――「グミ」は真夜中の公園でスマホに照らされてる相手の顔が見えますし、「ニュー香港」もテレビゲームの光があり、“ちいさな星の隅”というフレーズがあります。

「うんうん。「ニュー香港」はゲームの中で、登場人物に恋をするっていう歌ですね。お相手は龍なんです。何度もゲームがクリアできなくて、リセットされて、また再び出会って、恋に落ちる。それを何度も繰り返してる。主人公はゲームをしているテレビ画面のこっちにいるんですけど、ゲームの中に入ってる時はそのゲームの主人公になってて、記憶も無くなってるというような感じです」

――吉澤さんにとってゲームは身近ですか。2曲、続いてますが。

「いや、そんなに身近じゃないです(笑)。子供の頃からそんなに得意ではないですね。「グミ」や「ニュー香港」にはドラクエ感もあるので、今、後追いでやってます。曲を書いたあと、実際にどうだったんだろうなと思って。ダンジョンってこういうところなんだって。曲を書き上げる前にやっておけばよかったと思いました」

――あはははは!「鬼」は嫉妬心ですよね。

「嫉妬ですね。でも、なるべく可愛く描こうと努力しました(笑)。ヤキモチを焼いて、ツノが出て来て、鬼になるっていうシンプルな曲です」

――「ゼリーの恋人」は青春ですかね。

「そうですね。10代の頃から付き合いが始まって。いっしょにいすぎて、お互いが自分だと思うような溶け合った感覚があったけど、大人になっていった時に……」

――別れを選びますよね。

「ずっとはいっしょにいられれないけど、この主人公にとっては、青春の一瞬を共有した、忘れられない人になってるのかなと思います」

――溶け合うような感覚が理想だという人もいると思うんですよ。どうして別れを選択したんだろうなって思ったんですが。

「共依存の関係っていうものが心地よかったんだと思うんですけど、その時間はどうしても過ぎてしまうんですね。その時間が過ぎたときに、固まりきらなかった二人の関係だけが残ってしまって。愛の結晶にはならなかったっていう歌ですね」

――最初に「分かり合えない部分が絶対にある」とおっしゃってましたが、吉澤さんは、恋人というテーマにおいて、好きなら全部分かり合えるはずだし、ずっといっしょにいるよねという夢見がちなところがないんですよね。

「私はずっといっしょにいること、死ぬまでいっしょにいることが運命だとは思わないんですよね。ひとときの間でも、何か壁が取っ払われて、お互いをわかったような感覚を共有できた人は……例え、それが錯覚だとしても、やっぱり特別な人だなと思ってて。この二人は、溶け合いたいと思って溶けちゃったんですよね。で、形が生まれないというか、ずっと輪郭がぶよぶよしたままで別れを選ぶという。形=答えが出せなかった二人かなと思います」

――別れの曲の後の「リダイヤル」はストーカーになってて。

「このやり口は、得意な方ですね」

――あはははは!

「フレーズを繰り返すような曲を作ろうかなと思ってて。リダイヤルはコール音が繰り返されているイメージがあったし、ラブリーなホラーを描きたいなと思って。この曲の主人公は、相手の分のおもてなしも用意してて、ずっと待ってるんだけど、その人は来ない。アメリカンなキッチンを思い浮かべてたので、チェリーパイにナイフが突き刺さってますね」

――この物語の後を想像するのが怖いです(笑)。「流星」もひどい話ですよね。主人公は“僕”です。

「僕っていう一人称は、今まで一度しか使ったことがないんですね。なるべく性別を意識しないアルバムにしたいなと思いつつ、男性目線の曲を描きたいなと思って、僕にして、陰のある人に惹かれる時期があるよなと思って。それを期待してたんだけど、自分の存在によって、相手がどんどん朗らかになっていって、思ってた人じゃない! みたいな。それならば、“君”の心に傷つけようっていう、ほんと、ひどい話です」

――あはははは!「鬼」から「流星」の流れはかなり苦味を感じてます。

「そうですね。恋のときめきから、いろいろとわがままを言ったら、振られちゃって、ストーカーになったけど、相手はこんな気持ちだった、みたいな感じのイメージですね」

――そして、「リボン」では新しい出会いが訪れます。

「これは二十歳くらいの時に描いた、特別な曲ですね。他の曲でも言えるんですけど、いつもアルバムごとにテーマがあるので、そのテーマに見あった曲を入れたいって思ってるんですね。「リボン」は、二人で向き合っているような関係性だったので、まだ早いなと思って。自分自身との対峙というものを描き切ってない時点でこれを出すのはなと思って、眠っていて」

――10年後に歌い直してみてどう感じましたか。

「すごく拙さを感じましたね。全部、書き直したくなったんですけど、やればやるほど、難しくなっていって。この曲がいちばん大変だったんですけど、今回、初めてごいっしょした編曲の森 俊之さんが“なるべく変えないで欲しい”って言ってくれたんですね。もっとカッコよく、もっと上手に、書こうと思えば書けるかもしれないんですけど、その当時に書いた熱量には勝てないというか……だから、最終的には、あんまり変わってないですし、すごく優しい歌になれたんじゃないかなと思います」

――最後にドラマ「おじさまと猫」のOPテーマとして書き下ろした「刺繍」が収録されています。ドラマ側からは何かリクエストがありましたか。

「おじさまとか、猫とか、ドラマに登場する具体的なモチーフはむしろ、出さずに書いて欲しいってということでしたね。もっと自分に寄せて、大切な人との温かい関係を書いて欲しいというオーダーだったので自分の中にある物語を提出しました」

――“運命の人”である“貴方”はもうこの世にはいないようです。

「雪景色とおばあさんっていうイメージがあって。すごく雪が降った日に、狐につままれたじゃないですけど、なんか異世界と繋がって、その人が帰ってきたような気がするっていう」

――最後は一人きりになってます。

「そうですね。そう終わりますね。二人でいたものが溶けた時に、実は自分は一人だったと思い出すというか。二人でいた時には紛れていた痛みとかも、また思い出すっていう」

――堕天使もドラゴンも幽霊も消えてしまってる感じがします。

「うんうん。やっぱり、私は一人だったんだっていうところなんですよね。でも、今までとは決定的に違うところがあって。このアルバムでは、自分の存在意義や拠り所みたいなものを、最後は相手に委ねるという終わり方をしている曲を選ぼうと考えていたんですね。だから、最後まで不安定なのは、自分の思想も出てるかもしれないです。誰かに自分の大切なものを渡したときに、自分がすごく不安定になる。でも、そこに美しいものがあるかもしれないし、人と関わることだけで知れる、繋がりというか、感情や景色を書きたいなと思っていて」

――実際に完成して、ご自身ではどう感じましたか。

「今まで自分の内省的なものとか心象風景って賑やかだったのかなと思いましたね。二人きりの関係を書こうと思った時に、歌詞もそうですけど、サウンドもひっそりしたイメージがあって。寂しさみたいなものが出て、よかったのではと思います」

――ひとりより二人の方が寂しいっていうことですよね。すでに次のアルバムのテーマも気になってるんですが、その前に東阪ツアーも決定してます。

「ツアーをするのは2年ぶりなんですよね。お客さんにライブを見てもらうのが久しぶりなので、今まで通りにできるかって言われると、多分、違う形にはなっていると思うんです。今までは、1年に2回はツアーをして、その合間にフェスやイベントがあった。ステージというものが、そこまで自分にとっては非日常ではなかったけど、今はその感覚はないので、自分がどうなってしまうのかは不安です。でも、ま、ちゃんとやると思います(笑)。お客さんに会えるのが楽しみですし、この『赤星青星』の曲や世界が皆様に伝わったらいいなと思いますし、いろいろな仕掛けも用意しているので楽しんでもらいたいですね」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ





吉澤嘉代子 赤青ツアー2021
2021年3月24日(水)昭和女子大学 人見記念講堂(東京)/ イープラスStreaming+(オンライン配信)
2021年3月28日(日)NHK大阪ホール

吉澤嘉代子

※ライブ、イベントの内容は開催当日までに変更される場合があります。必ずアーティスト、レーベル、主催者、会場等のウェブサイトで最新情報をご確認ください。





吉澤嘉代子
吉澤嘉代子『赤星青星』
2021年3月17日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/VIZL-1877/6,050円(税込)
ビクター
吉澤嘉代子
吉澤嘉代子『赤星青星』
2021年3月17日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-65488/3,300円(税込)
ビクター




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