買い方が多様化。ワクワクする品揃えと買いやすい環境を整える

マッシュグループの公式通販サイトとして「ウサギオンライン」が開設された2013年は、ファッション系企業ではZOZOTOWN(ゾゾタウン)などのECモールに出店するケースが一般的で、自社ECサイトは大手アパレルが取り組みを本格化し、売り上げを拡大し始めていた頃だった。マッシュホールディングスではEC事業会社としてウサギオンラインを設立し、グループ全体のブランドに加え、他社ブランドの商品やインポート、ビンテージアイテムなども扱う「オンラインデパートメントストア」の運営を開始した。ウィメンズやメンズのアパレルはもとより、服飾雑貨やコスメ、食品など衣食住全般を網羅するデジタル上のライフスタイル提案型セレクトショップとも言える。開設後は20代半ば~30代前半の女性を中心にファンを増やした。コロナ禍では「イエナカ消費」の盛り上がりも受け、ルームウェアブランド「gelato pique(ジェラート ピケ)」を筆頭に売り上げが急伸し、21~23年は3期連続で2桁成長とその人気ぶりが実感される。

マッシュグループの全ブランドを扱う「ウサギオンライン」

これに伴い、14年から展開する実店舗「ウサギオンラインストア」も認知度を高めた。ウサギオンラインが扱うブランドからさらにセレクトしたウィメンズブランドを中心にMDを構成し、リアルのタッチポイントを充実させる取り組みだ。ラフォーレ原宿に1号店を出店し、その後はグループのブランドが出店していない郊外型ショッピングセンター(SC)が増加した。特に21年以降は新規開業するSCが増え、またコロナ禍で歯抜けになったスペースもあった中で、出店依頼も増加。多くの人気ブランドを擁し、立地特性に応じてウサギオンラインのセレクトによるMDが組める強みを生かし、出店を積極化した。22年には10店舗になり、2年後の現在はフランチャイズ8店舗を含む21店舗を運営している。
MDはマッシュグループを象徴する「SNIDEL(スナイデル)」、「Mila Owen(ミラ オーウェン)」、「LILY BROWN(リリー ブラウン)」、「gelato pique(ジェラート ピケ)」の4ブランドを軸に、客層に応じて「FRAY I.D(フレイ アイディー)」や「emmi(エミ)」、「CELFORD(セルフォード)」なども取り入れるほか、雑貨やコスメも展開。各ブランドのコラボアイテムやシーズン性・話題性のあるアイテムによるポップアップなども加わる。軸とする4ブランドは均等にゾーニングすることで分かりやすく見せ、コラボアイテムの展開期間中はそのブランドのゾーンを拡大し、注視ポイントを作る。結果、30~40代にはカジュアルに着こなせるミラオーウェンが好評で、若い世代にはリリーブラウンやスナイデルが動く。ジェラートピケは全世代に人気で、ギフト需要も取り込み、10~12月の繁忙期には男女を問わず多くの購入がある。

「ウサギオンラインストア」。写真は今年4月に出店した流山おおたかの森S・C店

「郊外型SCはデイリーに来店するファミリーのお客様がかなり多いんですね。都市部の店舗では約7割がマッシュグループの『MA CARD FOR GO GREEN』会員だが、郊外型SCでは会員(顧客)と新規客が半々の割合。ウサギオンラインやマッシュグループのブランドを知っている人もいれば、知らない人も結構います」とレディス営業本部の奥田宏部長。実店舗はマッシュグループのブランドを発見する場であり、あるブランドのファンにとっては、別のブランドと出会う場でもある。郊外型SCは都心店と比べて訪日外国人客が少ないことを踏まえれば、新規客が半数を占める状況は今後のエンゲージメントに大きく関わってくるだろう。
一方、例えばスナイデルのファンだけれど、地域に単独店舗が無いため、ブランドの公式サイトを利用していたという顧客が来店することも少なくない。実際に商品を手に取り、試着した上で、その場で購入するケースもあれば、オンラインで購入するケースもある。特に「『商品を持ち帰るのが面倒』という声が非常に多い」という。オンラインで商品に興味を持ち、試着の必要があれば実店舗に行き、決済は自身が普段から使っている方法やポイントが付くなどお得な方法を選ぶ。次に行くところがあり、大きなショッパーを持ち歩きたくないから、店舗で試着だけをして、注文と決済はオンラインを使うなど購入の仕方は様々だ。「買い方が多様化しているので、お客様がワクワクする品揃えと買いやすいシチュエーションを整えておくことを重視している」としている。

スナイデルの24年春夏コレクション
ブランドミックスで提案するゾーンも
今年7月にはリリー ブラウンとマリー クワントのコラボアイテムを展開
リトル ユニオン トウキョウのスニーカーも好評

リアルな「接点」ならではのコーディネート提案や限定アイテム

実際に購入する場所や方法は問わないだけに、新規客のリピート促進や顧客のファン化にとって重要になるのはオンラインではできない体験の提供だ。リアルの店舗空間だからこその体験価値として試着があり、スタッフによるオンライン上には掲載されていない商品やスタイリングなどの情報伝達がある。オンラインは1品番を何点も販売できる強みがあるが、実店舗の店頭ではスタッフの接客によって1人の顧客がコーディネートで購入する可能性が高まり、客単価の向上も期待できる。「店頭は最もストレートな顧客体験の場。スタッフだから伝えられる情報の提供には常に留意している」とEC管理本部の小林昌樹部長は話す。
18年以降は各ブランドの公式ECサイトも順次開設しているため、MDの差別化も必須課題だ。立地によって異なるMDの中で、ブランドを自在にミックスしたコーディネートの提案や、ウサギオンラインの限定アイテム、各ブランドで展開しているコレクションの限定カラーなどの独自企画で売り場の鮮度を高めている。

コーディネート提案は実店舗の強み

24年秋冬は「素材で秋冬を楽しむフワモコのアイテム」をテーマに、限定アイテム・カラーを打ち出す。
8月には2アイテムを投入した。「リリーベアプルオーバー」は、ウサギオンラインの11周年限定アイテムだ。リリーブラウンのアイコンであるリリーベアがふわふわの大きなウサギのぬいぐるみを抱えたモチーフをインターシャ編みで表現。ウサギは毛足の長いフェザーヤーンを用いて立体感を生んだ。モチーフもカラーリングもこのアイテムのために作成したもので、ホワイトやピンク、クリームなど5色を展開し、それぞれウサギのぬいぐるみのカラーが異なるのもポイント。厚すぎないニットに仕上げることで、春先まで着用でき、ジャケットやアウターとのコーデも楽しめる。
もう1点は「ワイドショルダーツイードボストンバッグ」。ミラ オーウェンの定番人気の型をツイード素材で製作した。三角形のやや小ぶりなサイジングが女性らしさを引き出し、ハンドル、底、ショルダーストラップにはレザーを用いることでデイリーに使いやすいバッグへと作り込んだ。ワイドなショルダーストラップにより重心が下がり、スタイルアップ効果も。コンパクトサイズながら襠がしっかりとあり、収納力が高いのも魅力だ。ホワイトとブラックの2色。ウサギオンラインとゾゾ限定で販売する。価格はプルオーバー、バッグともに1万3970円(税込)。

「リリーベアプルオーバー」カラー展開
「リリーベアプルオーバー」
「ワイドショルダーツイードボストンバッグ」(ホワイト)
「ワイドショルダーツイードボストンバッグ」(ブラック)

その他では、スナイデルの限定2アイテムも注目度が高いアイテム(9月以降に展開予定)。「ファーニットフーディー」は、フード部分にあしらったふわふわのファーが大きな特徴だ。ニットはもちもちとした厚手に編み上げ、トップスとしてはもちろん、アウターとして秋冬にも着用できる。すっきりとした丈感の「0サイズ」と着丈が14cmほど長い「1サイズ」から選べる。0サイズはワンピースやハイウエストのボトムとバランス良く着こなせる。柔らかで肌馴染みの良いアイボリー、トレンド感のあるグレー、大人っぽい少しくすんだピンクの3色で、価格は1万9910円(税込)。
「エコファースリーブニットプルオーバー」は、スナイデルの人気アイテム「フリルニットプルオーバー」をベースに、ふわふわとしたファーを取り入れた。デザインポイントはファーのボリューム感と肩空きの大きさ。ヘルシーな肌見せで女性らしさを演出する。ボディーはレーヨン混を使うことで肌触り良く仕上げ、首回りと身頃はすっきりとシンプルにまとめることで肩のファーとのメリハリを生んだ。こだわりはファーの色にも。柔らかなアイボリー、甘すぎず少しグレーを混ぜたような絶妙の色合いのピンク、大人っぽく着用できるシックなブラックの3色を展開する。1万5950円(税込)。

大人の女性をエレガントに引き立てる
ウサギオンライン限定の「エコファースリーブニットプルオーバー」
「ファーニットフ―ディー」1サイズ
「ファーニットフ―ディー」0サイズ
スカートと合わせれば落ち着いた着こなしに

ウェアの充実だけでなく、今後は「シーズン性やオケージョンを反映した雑貨の集積にも力を入れる」と奥田部長。各ブランドの直営店の顧客の来店頻度は平均で2~3カ月間に1回だが、郊外型SCの店舗は週に3、4回で、毎日のように店前を通ることも少なくないだけに、今のライフスタイルにプラスしたいものを集積することで「飽きずに来ていただける店にしたい」からだ。例年よりも猛暑が続く今夏は日傘に焦点を当て、各ブランドからセレクトして提案し、好調に推移している。「冬場であればマフラーなど、グループには様々なブランドがあるので、そうした企画を毎月のように展開していく」考えだ。

今夏の店頭では日傘を集めて展開

実店舗はオンラインストアや各ブランドへのエントリー

直営店の展開を始めて今年で10年が経ち、店作りのベースはできた。これまでに蓄積したデータからは、実店舗を利用した顧客はウサギオンラインで商品を購入するようになり、その後は各ブランドの直営店やECサイトへと流入していくパターンも見えてきた。
「実店舗はお客様とのタッチポイントであり、直接触れ合う機会であり、グループとしては新規会員を獲得する窓口。ウサギオンラインが提供したい価値が伝わる店作りを今後も立地に合わせて進めていく」と小林部長。「実店舗での体験がウサギオンラインへのエントリーになり、各ブランドへのエントリーにもなっている。そのプロセスを磨いていくには、実店舗にしかない品揃えをしたり、人気アイテムを欠品させないなど、当たり前ことを着実に実践していくことが重要だと思っています。そして何よりも店頭での接客力を高めること。接客を通じて購入したお客様はオンラインで購入しているお客様とはエンゲージメントの強さが全く違うので、もっと接客力を高めていきたい」とする。
店舗数の増加に伴い、数年前から販売スタッフの新卒採用を進め、新しい人材も育ってきている。今夏以降もすでに出店が計画され、店舗面積も広がりつつある。単に拡大するのではなく、「実店舗に来ていただけるだけの価値を磨き続け、オンラインや各ブランドへの確かなタッチポイントを作っていく」という。

写真/ウサギオンライン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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