インダストリアルな空間に日本のクラフトマンシップを融合

ザ ケイジ デニムを出店したのは、表参道からキデイランド近くの路地を入った一角、豆大福で有名な和菓子店の瑞穂の正面。長く商いを営んできた原宿青果店の跡地を、オール・メイド・イン・ジャパンによるデニム専門店として引き継いだ。建物の外壁やアプローチには再生コンクリートを用い、徒歩数分圏内のダブルブランドショップ「ザ ケイジ・イジットアンドコー表参道」と共通のニュアンスを醸し出す。解体した建物のコンクリート塊を再利用したその素材は、環境に優しく、また雨に濡れるとよりきれいな表情を見せる。

「THE KEIJI DENIM」 東京都渋谷区神宮前2-9-2 1階

ガラス張りのエントランスから店内に入ると、ダブルブランドショップとは異なる空間が広がる。床や壁は白や淡いグレーで奥行きのある店内を覆い、断面がL字型をした建築鋼材「Lアングル」などの無機質な工業パーツを転用したブラックとシルバーのラックや可動式ショーケースを配置、天井にはエントランスから店奥までライン照明が伸びる。店舗空間は全て板倉さんがデザインし、工業建築の無骨さと現代的な洗練が共存するミニマルな空間に仕上げ、デニムを主役として迎え入れた。
インテリアにもデニム専門店らしい矜持が表現されている。象徴的なのは、中央付近に配された「RE盆栽○R」。枯れた盆栽に新たな命を吹き込む「TOUFU TOKYO(トーフトーキョー)」によるアートピースは今回、約100年前の木の幹を使い、藍で染めた桜の花を組み合わせ、造形した。休憩用のスツールは、徳島県産の阿波藍を使い、京都でレザーに「天然灰汁建本藍染」を施したオリジナル。フィッティングルームには、創業100年を超える国産畳表専門店「金原畳店」が仕立てた藍色畳を採用した。インダストリアルな空間に日本のクラフトマンシップを融合させ、ザ ケイジならではのデニムワールドを体現している。

店奥からの様子。手前は藍を染め分けたレザー製スツール
奥行きのある空間を生かしたライン照明が印象的
フィッティングルームには藍色畳を使用
藍色に染めた桜の花で造形した「RE盆栽○R」

デニム縫製工場「匠山泊」と協業し、「メイド・イン・ジャパン」を世界へ

ザ ケイジ デニムというメイド・イン・ジャパンの新たな発信拠点を設けた背景には、国内で供給されるアパレル製品の国産比率が長年にわたり低下を続けている状況がある。「1990年に約50%あった国産比率は毎年低下し、2025年には過去最低の1.1%になってしまいました。僕は長年にわたり服作りをしてきて、特にザ ケイジではオール・メイド・イン・ジャパンを続けてきました。ブランドが10年を迎え、この間ずっと作り続け、一番人気のシリーズがデニムなんですね。それでデニムを切り口に、改めて『日本製』を世界に発信したいと思ったんです。より多くの人たちにその価値を実感していただくには、実際に物作りを持続しているファクトリーとのコラボレーションが必要だと直感した」と板倉さんは話す。

「THE KEIJI」「IJIIT & Co.」デザイナー板倉慶二さん

協業先として白羽の矢を立てたのが、山口県のデニム縫製工場「匠山泊」だ。両者が出会ったのは05年のこと。匠山泊は、ジーンズの生産に限らず物作りの空洞化が進んだ中で、蓄積してきた技術力や適応力をベースに縫製工場としての進化に向けてこの年に設立された。メイド・イン・ジャパンの価値を伝える一環で初めてコラボレーションをしたのが板倉さんだった。ファーストコレクションとして製作したのは、これ以上の太さは無いとされる「0番手ステッチ」によるデニム製のジャケットとジーンズ。デザインとパターンを板倉さんが手掛け、デニム生地や縫い糸はもとより、リベットなどのパーツに至るまで国産の逸品、複数のビンテージ加工を施した生地には表象書道家の小山遊魚さんが感性表現文字で表現したロゴ、「大字」の漢字で創作したサイズ表記を、ガラス彫刻家の小山祐和さんが「エッチング彫刻」で彫刻した。「手縫い」のようなジグザグとしたステッチにはこだわり以上の情熱を感じる。「21年前に発表したジーンズのファーストモデルは今も売れ続けています。匠山泊は息子さんに代が変わって、僕が親と子の物作りを繋いでいる。そういうストーリーも備わったデニムシリーズ」と振り返る。

匠山泊とのファーストコレクション「VINTAGE WASH STRAIGHT JEANS」

ザ ケイジ デニムのオープンに合わせて、ファーストコレクションの「VINTAGE WASH STRAIGHT JEANS(ビンテージウォッシュストレートジーンズ)」に加え、27年春夏から正式にスタートさせるファクトリーブランド「匠山泊 THE KEIJI DENIM」のプロダクトも一部揃えた。縫製ラインに1880年創業の老舗工業用ミシンメーカーUnion Special(ユニオンスペシャル)社のビンテージミシンを配し、日本の職人の技術とビンテージのステッチワークにより「本物のディテール」を追求した逸品だ。また店内にはユニオンスペシャル社が開発した裾上げ専用のチェーンステッチミシン「43200G」を設置。針が斜めに動く独特の構造により、ジーンズの裾にパッカリングを生み出し、ビンテージのような味わい深い仕上がりになる。裾上げを通じてちょっと特別なデニム買い物体験を得られるのもザ ケイジ デニムならではだろう。

ユニオンスペシャル社の裾上げ専用ミシン「43200G」

匠山泊 THE KEIJI DENIMで先行発売したのは、ジャケット2型、パンツ2型、コート1型。「SELVEDGE DENIM JACKET(セルビッジデニムジャケット)」は、14ozのセルビッチデニムを使い、クラシカルなディテールを施したオーバーサイズのGジャン。背面のTバックのデザインやベルトが印象的で、サイドにはポケットを配して実用性を高めた。ザ ケイジらしい左右非対称のデザインを取り入れたのは「ASYMMETRIC DENIM JACKET(アシンメトリックデニムジャケット)」。特濃のインディゴで染めた7番手のムラ糸で織り上げた12ozのデニム生地は、ビンテージなムードを漂わす。コンパクトなサイジングとポケットなど左右のディテールバランスを追求した一着だ。「見え方はクラシックなんですけど、左右非対称とか、バックのディテールとか、アームホールを少し大きくして着やすくするとか、今の時代に合ったデザイン・設計をしている」と板倉さん。シンプルだが他には無いデザインはオープン早々から人気だ。

メンズは匠山泊 THE KEIJI DNIMの「ASYMMETRIC DENIM JACKET」と「SELVEDGE WAIST OVERALL JEANS」、ウィメンズはザ ケイジの「FAUX LEATHER COLLAR DENIM JACKET」と「HYBRID DENIM TIERED RUFFLE SKIRT SET」

「SELVEDGE WAIST OVERALL JEANS(セルビッチウエストオーバーオールジーンズ)」は、サスペンダーで着用されていたビンテージジーンズが着想源。ベルトレスでもきれいに穿けるようパターンを設計し、ワイドフィットでハイライズなオーバーオールジーンズに仕上げた。裾をロールアップしてセルビッチを覗かせるスタイルがお薦め。アシンメトリックデニムジャケットと同素材による「HIGH-RISE BARREL JEANS(ハイライズバレルジーンズ)」は、ハイウエストに設定したバレルシルエットが特徴。独自のパターン設計により、立体感のある美しいシルエットに収斂させた。
「UTILITY DENIM COAT(ユーティリティーデニムコート)」は、ワークウェアのディテールと洗練されたノーカラーのデザインを融合。フロントには実用的な4つのポケット、バックにはGジャン風のベルトを配し、ユニオンスペシャルのミシンでディテールにも妥協せず縫い上げた。10ozのライトデニムを使用し、オーバーサイズ仕様だが重さを感じさせず、軽快に羽織れる。THE KEIJI DENIMのショップスタッフのユニフォームでもある。

「HYBRID DENIM SHIRT WITH BELT」

ハイブリッドデザインでは、上質なシェットランドウールツイードのテーラードジャケットとデニムカバーオールを融合した「DENIM COVERALL TWEED JACKET(デニムカバーオールツイードジャケット)」や、トレンチコートをベースにデニムジャケットをドッキングした「HYBRID DENIM BALMACAAN COAT(ハイブリッドデニムバルマカーンコート)」、Gジャンとトレンチコートを組み合わせた「HYBRID DENIM TRENCH COAT(ハイブリッドデニムトレンチコート)」なども好評だ。ボトムスで注目なのは、「ASYMMETRIC PLEAT DENIM SKIRT(アシンメトリープリーツデニムスカート)」。ボールバイオ加工でソフトな風合いとナチュラルな表情を生んだデニムに、手仕事によるランダムなプリーツをアシンメトリーに組み合わせた。

「HYBRID DENIM BALMACAAN COAT」
「DENIM COVERALL TWEED JACKET」
「ASYMMETRIC PLEAT DENIM SKIRT」
「HYBRID DENIM TRENCH COAT」

デジタルプリントで今季を象徴するのは、「CHAIN PRINT CAPE SLEEVE DENIM JACKET(チェーンプリントケープスリーブデニムジャケット)」。ビンテージライクなデニムジャケットに手描き風のチェーンモチーフをプリントし、「ハンドとテクノロジーの融合の面白さを表現した」。デニムなのに柔らかく、肌触りの優しさも特徴となっている。他には無いデニムは、訪日外国人客に人気という。同素材のパンツとのセットアップもお薦めだ。「DENIM PRINT DRAWSTRING PANTS(デニムプリントドローストリングパンツ)」も面白い。3Dプリントで色落ちなどのダメージをリアルに再現し、まさにビンテージデニムの存在感を醸している。

「DENIM PRINT DRAWSTRING PANTS」
「CHAIN PRINT CAPE SLEEVE DENIM JACKET」

「ずっと国内で服を作ってきて、生産も工場と直接やりとりしているからこそ様々なことができるんですね。デニムに関しては服を構成するパーツも全て匠山泊で縫製し、縮率を計算して設計したパターンとともに各加工に出し、その後に縫製工場で合体させています。ものによっては複数の工場で各パーツを作ることもある」と板倉さん。デニムに絞り込んだことで、「やりたいことがたくさん出てきて、広くて深いデニムの可能性を改めて感じる」とも。メイド・イン・ジャパンのデニムを切り口として多様なクリエイションを展開するザ ケイジ デニム。今後はデニムの魅力を体感する店内イベントなども構想し、モノとコトの両面でザ ケイジ独自のデニム専門店としての経験を提案していく。


写真/遠藤純、イジット提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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