「サタデーズNYC」のコレクションとしての「サタデーズ ゴルフ」

サタデーズNYCは現在、日本では代官山、名古屋、大阪、神戸に路面店、京都髙島屋S.C.と阪急うめだ本店にインショップがある。エスプレッソバー・カフェを併設した路面店を軸に出店してきた。代官山の旗艦店が日本における1号店で、2012年の出店以来、30~40代のアクティブ層を中心にジェンダーを問わずファンを集め、「12年が経って根強いコミュニティーができてきている」とサタデーズNYCプレスの勝亦涼さん。目掛けて来店する訪日外国人客も多く、「中国、台湾、韓国などアジア圏のお客様は日本でしかサタデーズNYCの商品を買えないため、フラッグシップの代官山店には団体で押し寄せる」。
12年の日本上陸時のブランド名は「サタデーズ サーフ ニューヨークシティ」だったが、「暮らしの中にはサーフィン以外にも様々なアウトドアのカルチャーがある。そこでサーフ感は残しつつ、スポーツとカジュアルを両軸とするライフスタイルブランドへと進化させた」。15年にサタデーズNYCにブランド名を変更し、カテゴリーを広げた。その過程で、創業者のMorgan Collett(モーガン・コレット)とColin Tunstall(コリン・タンストール)は自らもオフに楽しんでいたゴルフに着目。ブランドを象徴するサーフィンと同じく、自然を感じながらアクティビティーに集中するスポーツであることから、22年春夏シーズンにサタデーズNYCのコレクションとしてサタデーズ ゴルフを立ち上げた。

「サタデーズ ゴルフ」のイメージビジュアル
「サタデーズ ゴルフ」のイメージビジュアル

コロナ禍では屋外で安心安全に楽しめるスポーツとしてゴルフがブームになり、ウェアやギアの需要増加を背景に参入も激化した。しかし新型コロナ感染症が5類に移行後、ブームは落ち着き、撤退するブランドも散見される。サタデーズNYCのゴルフ領域への参入もコロナ禍だったが、サーフィンと同様に自分たちの体験と共感を起点に始まったことが、強みとして蓄積されてきたのかもしれない。タウンでもフィールドでも着こなせる都会的で洗練されたデザインと、パフォーマンスをしっかりとサポートする生地やディテールなどの機能性を兼ね備えたプロダクトを着々と開発。デビューして3年だが、プロフェッショナルやファッション愛好者など幅広い層の支持を集めている。

ただ、サタデーズ ゴルフは単独のブランドではなく、あくまでサタデーズNYCのコレクションという位置づけ。実店舗においては、立地や客層に応じてコレクションや定番からセレクトしたプロダクトをコーナー展開してきた。その中で「サタデーズ ゴルフを目掛けて来るお客様やゴルフのウェアやギアを探しに来たお客様に商品を見せ切れていなかった」ことから、コレクションの世界観を見せる場として代官山店を出店した。

ミラースタンダードフォントの「Saturdays Golf」のフラッグが目印
サタデーズ ゴルフ代官山店

ゴルフ経験者も未経験者も惹きつけるデザインと機能

サタデーズ ゴルフ代官山店は、代官山駅とサタデーズNYC代官山店の間、ジュンが運営するゴルフブランド「HYPEGOLF(ハイプゴルフ)」があった建物に入居した。木と石をメイン素材とした内装を居抜きで使い、サタデーズNYCの都会的なイメージと自然が共存する空間を生んだ。1階の巨大モニターではサタデーズ ゴルフのシーズンコレクションのビジュアルが流れ、ブランドらしいゴルフカルチャーを体感できる。2階へと続く階段にはアメリカ在住のゴルフフォトグラファーKohjiro Kinno(コウジロウキンノ)氏が撮影したビジュアルが展示され、シリアスプレーヤーも、ビギナーも、ゴルフ未経験者もゴルフをアートとして楽しめる。2階は木を組み合わせたナチュラルなムードの空間で、ウェアを中心にバッグやシューズなどのギアをゆったりと選ぶことができる。

階段の壁面を使いコウジロウキンノ氏のフォト作品を展示販売
木と石のイメージが印象的な店内(1階)
自然光が優しく差し込む
2階の売り場ではウェアを中心に提案

オープニングを飾ったのは25年春夏コレクション。毎年このシーズンに人気なのは、シアサッカーシリーズだ。生地の凹凸により肌との接地面が減り、サラッとしたドライタッチで清涼感を増す。ポロシャツやジャケット、ショーツ、パンツの4アイテム・6型を揃え、「半袖のポロシャツやショーツは早い時期から動く」。ポロシャツは独自のパターン設計で袖から脇にかけてカッティングを施し、スイング時の腕の動きを妨げない構造を生んだ。クロップドパンツはシアサッカーの清涼感はもちろん、ベルトループ仕様で、なおかつゴムと紐も付いているため、デイリーにも活躍する。ゆったりとしたシルエットのテーラードジャケットは、動きやすさを重視し、ストレッチ性も備える。ポロシャツでは、高伸縮性のサッカー素材を特殊なメッシュ組織「ドットエア」に織り上げたシリーズも好評。通気性と吸水速乾性に優れ、「試着すると涼しさを実感し、購入されるお客様が多い」アイテムだ。

  • 「Seersucker SS Polo(シアサッカー ショートスリーブ ポロ)」
  • 「Seersucker SS Polo(シアサッカー ショートスリーブ ポロ)」
  • 「Seersucker Cropped Pants(シアサッカー クロップドパンツ)」
  • 「Seersucker Jacket(シアサッカー ジャケット)」
  • 「ドットエア」のメッシュ生地を使った「Seersucker Polo Shirt S/S(シアサッカー ポロシャツ)」

ゴルフといえば襟付きシャツのイメージが強かったが、最近ではゴルフ場のドレスコードもカジュアル化が進んだ。その中で人気を呼んでいるのがモックネックシャツだ。サタデーズ ゴルフではローンチ時から代名詞的なアイテムとなっている。ハイゲージで編み込んだ鹿の子素材を採用し、袖から脇の下にかけて切り替え、背面の縫い目を無くすことでスムーズなスイングを可能にしている。速乾性やUVカット機能も備え、ドライな着心地を持続するのも魅力だ。ファーストコレクションではポロシャツを凌ぐ売れ行きで、その後も目的客の多いアイテムとなっている。
晩冬から春先にかけてよく動いたのは、「Nylon 4way Stretch Blouson(ナイロン 4ウェイストレッチブルゾン)」。縦横2方向にストレッチ性を備えたナイロン素材をベースに、切り替え部分にはメッシュのディテールを施し、両脇にベンチレーション機能を持たせたデザイン性と実用性を兼ね備えたブルゾンだ。同素材のショーツとのセットアップ購入が多い。

「Nylon 4way Stretch Blouson(ナイロン 4ウェイストレッチブルゾン)」
人気を継続する「Classic Mock Shirt(クラシック モックネックシャツ)」

サタデーズNYCと共通展開しているグラフィックアイテムも注目。シーズンごとに新たなグラフィックを描き起こし、プロダクトに施す。25年春夏シーズンは「Wavy Saturdays(ウェービーサタデーズ)」の文字をグラフィック化し、半袖Tシャツ、長袖Tシャツ、ポロシャツの3型を製作した。Tシャツは程よい厚みのコットン100%生地を使い、シーズナルグラフィックをフロントとバックにプリントで表現。ポロシャツはゴルフラインのアイテムで、高い吸水速乾性とストレッチ性を備えた「COOLMAX鹿の子」を採用。フロント右胸部にグラフィックをワンポイントであしらい、ビッグサイズのバックプリントはコースの自然の中で映えること請け合いだ。
この他、バッグブランド「PHILMENT(フィルメント)」とコラボレーションしたゴルフアクセサリーも面白い。ラウンドに必要なギア一式を収納できるバッグやゴルフボールを12個まで持ち運べるポーチ、ゴルフシューズバッグなど、高強度かつ軽量なアイテムが揃う。

「フィルメント」とコラボしたゴルフアクセサリー
シーズングラフィックをあしらった「Wavy Saturdays SS Tee(ウェービーサタデーズ ショースリーブTシャツ)」

本国とのディスカッションをベースに日本でMDを企画

ゴルフラインのプロダクトは、あくまでサタデーズNYCの世界観との親和性を重視しながら、本国とのディスカッションをベースに日本のチームが企画し、製品化しているものがほとんど。「10年以上にわたり日本におけるサタデーズNYCのブランディングに携わり、ファンのコミュニティーを醸成してきたからこそ、現在のようなパートナーシップの在り方が培われた」と勝亦さん。ブランドの基軸である「オーセンティックであること」を前提に、「ジェンダーを問わず着用でき、かといってシンプル過ぎない絶妙な塩梅のデザインを目指しながら、素材やパターンではゴルフをする人たちをしっかりと支える機能を追求している」という。バランスを最重視する姿勢が窺える。
サタデーズNYCというブランド自体が、ニューヨークの都会的なデザインとサーフカルチャーのミクスチャーから始まり、そのバランスの絶妙さで共感を広げてきた。ブランドのロゴ「\(スラッシュ)」も、オンとオフ、都会と自然など様々なもののバランスを表現し、相反する概念であっても心地良く融合することが意図されている。ゴルフラインもまた、トレンドとは異なるサタデーズNYC流のカルチャーの文脈で「バランスの美学」ともいえる世界観を醸成していることが、コロナ禍のブームを経ても人気を継続している理由だろう。

代官山店にはウェアやギアと並んで、カリフォルニア発のゴルフカルチャー誌『THE GOLFER’S JOURNAL(ザ・ゴルファーズ・ジャーナル)』がさり気なく置かれていたりする。これまでのゴルフ専門誌とは異なる美しいビジュアルを中心に構成されたムックで、アメリカで人気を呼んでいる。このビジュアルの撮影を担当しているフォトグラファーの一人が前述したコウジロウキンノ氏。今後は店舗空間を活用し、キンノ氏のアーカイブ展示なども企画し、カルチャーを発信する考えだ。「代官山店はこれから自分たちでどんどん味付けしていく空間だと思っています。女性のお客様の来店も多いので、ウィメンズの品揃えも拡大していく」としている。

サタデーズNYCらしさを感じさせるサーフボード。スラッシュロゴを入れた芝生で巻いたサーフボードの前で写真を撮る人も

写真/野﨑慧司、クロスビー・イースト提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る