いつもの毎日を豊かにする、ベーシックだけれどちょっと特別なもの

アウトドアプロダクツは1973年にロサンゼルスで創業したライフスタイルブランド。78年に発表した「452」モデルがシンプルで軽量、丈夫な作りで人気を呼び、デイパックのスタンダードと言われるポジションを築いた。現在は世界60カ国超でプロダクトを展開している。ファッショントレンドの発信拠点の一つとして重視しているのが日本だ。ブランド設立から50年を迎えた昨年、新たなブランディングへ向け、日本ではオリジナル商品を展開してこなかったアパレル分野への本格進出を発表した。アウトドアプロダクツの商標権を持つ伊藤忠商事と大手セレクトショップのベイクルーズが、日本におけるアパレルに関するライセンス契約とブランドストアの運営・販売の独占契約を締結。ベイクルーズは生産・販売の基盤を生かし、日本独自の商品開発・店舗戦略を進めていく。
クリエイティブディレクターに抜擢されたのは、セレクトショップ「シンゾーン」でディレクターを務め、人気ブランドに育てた染谷真太郎さん。21年に自身の会社CINCHI(シンチ)を立ち上げ、「未来のビンテージ」をコンセプトとするデニムブランド「Oblada(オブラダ)」を展開する一方、ファッションブランドのディレクションも手掛けている。今回のアパレル展開では、アウトドアプロダクツが創業時からテーマとする「アウトドア愛好家に好まれる日用品」に通じる「Usual Things」を新たなコンセプトとして設定した。誰もが着用・使用できるベーシックだけれど、ちょっと特別なもの。いつもの毎日を豊かにするワードローブ。そのメッセージを込め、「OUTDOOR PRODUCTS Usual Things」のコンセプトを打ち出す。「ベイクルーズが構想していたのは、ファッション感度の高い女性に響くメンズライクなウィメンズブランド。販路は、これまであまり出店してこなかったSCを強化していく。その話を受けて、僕は鹿児島に住む義理の姉を思い浮かべたんですね。彼女は『好きな感じの洋服を買えるお店がない』とよく嘆いていました。好きな服を買いたいけれど、地方では買い物をする場が限られ、好きな感じの服ほど価格的に手を出しにくかったりする。そういう人たちにファッションを楽しんでほしい。そんな思いから、アウトドアプロダクツのディレクションを引き受けました」と染谷さんは話す。

自らSCを巡ってみると、メンズライクなウィメンズブランドはあまりなく、買いやすい価格帯となるとさらに選択肢は少なかった。メンズライクなウィメンズ服を得意とし、産地を守りたいという思いや技術力の高さなどから国内生産にこだわってきた。しかし相応な価格になるため、アウトドアプロダクツでは中国を中心とした海外生産を選んだ。これまでとは異なる生産環境だったが、「縫製もきれいで、難しい作りのものを難なくこなしてきたりと、むしろ僕のほうが勉強になっています」という。約2年をかけて完成させた2024年春夏コレクションでは、アウターが1万~1万2000円、パンツ・スカートが6000~8000円、ワンピースが7000~9000円、シャツ・ブラウスが6000~7000円、Tシャツ・スエットが3000~6000円と、リーズナブルな価格を実現した。「価格はあくまで買いやすく、服作りは妥協せず、自分が納得できるクオリティーを追求したい」とし、コレクションは通年テーマを設定して春夏・秋冬の2シーズンで80~100型を発表していく。

中目黒店の壁面に飾られた2024年春夏コレクションのルック

初のコレクションは「DOWN TOWN GIRL」のライフスタイルを表現

24年春夏から24-25年秋冬の1年間は「DOWN TOWN GIRL(ダウンタウンガール)」をテーマにコレクションを展開し、品揃えの幅と奥行きを見せる。テーマは、久しぶりに訪れたロサンゼルスのダウンタウンで見かけた女性たちの着こなしから着想を得た。「東海岸のニューヨークのような都会的なスタイルをした女性たちたくさん見かけたんです。Tシャツとメンズライクなシルエットのトラウザーにローファーを素足でつっかけ、使い古したバックパックを合わせているような感じ。その着こなしから彼女たちのライフスタイルを想像して、服やバッグなどを作っていきました」。
キービジュアルのスタイリングは象徴的だ。シングルテーラードジャケットはオーバーサイズなシルエットで、丸みを描いたピークトラペルと低めに配したゴージラインがやさしい印象を与え、リラックスした着こなしを引き立てる。上質なウールのように見えるポリエステル素材を使い、シワになりにくく、洗えるのも嬉しい。同素材のハイウエストのテーパードパンツとのセットアップは、メンズライクだからこそ立ち上がってくる女性らしさのバランス感が魅力だ。
「GIベルトボイラースーツ」は中目黒店の出店に合わせて店舗用のユニフォームとして製作したものだったが、スタッフの人気が高く、商品ラインナップに加えた。ラフな印象のジャンプスーツをウールライクなポリエステル素材で上品なムードに。胸には「OUTDOOR PRODUCTS」と「DOWN TOWN GIRL」のロゴをブルーの糸で刺繍した。GIベルトがアクセントとなり、スタイルを引き締める。つなぎの上部を脱いで腰で巻き、パンツっぽく着用するなどスタイリングの工夫も面白い。

  • シングルテーラードジャケットと同素材のテーラードパンツのセットアップ(グレー)
  • シングルテーラードジャケットと同素材のテーラードパンツのセットアップ(ネイビー)
  • スタッフがユニフォームとしても着用する「GIベルトボイラースーツ」

ワンピースはレーヨン使いのビンテージライクな花柄、開襟のデザインを採用。古着屋で自分に合うサイズのワンピースを見つけるのは意外と大変なことから、ビンテージに寄せた。白のクルーネックをインナーに使い、開いた襟元から覗かせるレイヤードスタイルがお薦め。発表するや、「アスレチックブルゾン」とのコーディネート(写真)で売れている。アスレチックブルゾンは軽量の撥水ナイロンを使い、広めの身幅、短めの着丈にすることでアウトドア感を抑え、洗練されたスタイルを生み出した。小さく畳んで持ち運べ、襟にフードを内蔵しているので梅雨時にも役立つアイテムだ。
デニムでは「Usual Things」としてのウェアと相性の良いアイテムを求め、同じアメリカ発のブランドである「LEE(リー)」に別注した。ハイウエストのパンツとスカートの2型、ワンウォッシュのインディゴブルーと洗い込んだライトブルーの各2色を揃えた。

ビンテージライクなワンピースと「アスレチックブルゾン」のコーデが人気

メンズライクなファッションを引き立てるのが、アウトドアプロダクツの真骨頂であるバッグ。「シンプル・軽量・丈夫、そしてリーズナブル」のブランドフィロソフィーを堅持し、デビュー当時から継続するミニマルなデザインのデイパック「452」モデルは、7サイズ・12色を展開。中目黒店では「DOWN TOWN GIRL」の刺繍入りを限定販売する。

カラーバリエーションも豊富
アウトドアプロダクツを象徴する「452」を「DOWN TOWN GIRL」の刺繍入りで提案

Usual Thingsのオリジナルバッグで、ブランドのアイコンアイテムとなりそうなのが「CUBE BAG(キューブバッグ)」。愛らしいミニサイズで、軽くて丈夫なナイロン素材に芯地を入れてふっくらと仕立て、型崩れしにくい形状を生んだ。底鋲付きで自立する。マットな素材感に、ベーシックなブラック、ビビッドなブルーやイエロー、ピンク、グリーンが新鮮だ。「アウトドアプロダクツのバッグの新しい核を作りたかった」と染谷さんは話す。小さなバッグだが、リップや財布、スマホ、鍵など日常によく使う物を収納でき、買い物で増えた荷物などはエコバッグに、また仕事用のノートパソコンやファイルなどはトートバッグに入れ、「合わせ持ち」するのも可愛い。同素材で、サコッシュのようなカジュアル感とレザーバッグのような品を併せ持つショルダーバッグ「SQUARE POCHETTE(スクエアポシェット)」も製作した。肩掛けはもちろん、ストラップを短くすればハンドバッグのようにも持てる。
「EVERYDAY BAG(エブリデイバッグ)」は、ナイロン製の巾着型バッグ。スモールとミディアムの2サイズで、ベーシックなデザインなのでユニセックスで使える。ブラック、ホワイト、パープル、グリーン、ネイビーの5色。ブランドオリジナルのシールを貼ったパッケージ入りで、ギフト需要にも対応していく。

  • 「CUBE BAG(キューブバッグ)」
  • キューブバッグと同素材の「SQUARE POCHETTE(スクエアポシェット)」
  • ギフトにも喜ばれるパッケージでも販売。写真上と右下が「EVERYDAY BAG(エブリデイバッグ)」

ショッパーにもこだわりを覗かせる。S・M・Lサイズがあり、SとMは袋を開けたときの音の心地良さにこだわり、かなり薄くて耐久性もある素材を使い、アウトドアプロダクツのスローガン「PACK FOR LIFE」の文字をプリントした。「生活(人生)のためのバッグ」「生活(人生)のために荷造りしなさい」という2つの意味が込められている。このショッパーと同じ型のレザー製バッグも製作し、販売している。

Mサイズのショッパーと同じ型・色のレザーバッグ(左)
店舗限定のショッパー

売り場とオフィスが一体化した発信拠点

オリジナルのプロダクトを集積した中目黒店は路面店で、新コンセプトを体現したブランドの発信拠点となる。店舗面積は約130㎡。売り場はエントランスからL字型に広がり、その奥にレジカウンターとブランドのオフィスを備えている。「販売スタッフはもちろん、ブランドに関わる人たちが実際に仕事をしている。こういう空間からアウトドアプロダクツというブランドが発信されているということがお客様にも感じてもらえるといいなと思ったんです。お客様と一緒にブランドを育てていくようなイメージ」と染谷さんはいう。

アウトドアプロダクツ中目黒店

全体的には躯体を生かしつつ、アウトドアプロダクツのバッグから連想される色を内装に表現し、温かみと居心地の良さを重視した空間作りに取り組んだ。明るく強い色彩使いを特徴とするメキシコの建築家ルイス・バラガンの建築からインスピレーションを受け、メインの売り場の天井には明るいイエローを配し、壁面はすっきりとした白だが、触れると漆喰調の素材感が感じられる。植栽も豊富で、その彩りが心地良さに深みを与える。オフィス側の天井はスケルトン、壁面は売り場よりも滑らかな印象に統一し、床は工事時の書き込みをそのまま生かすことで、スタジオのような空間に仕上げている。レジとオフィスのスペースは売り場とは木製の壁で区切られているが、昔の商店や銀行をイメージしたというレジの窓口を大きく取り、ガラスの扉や窓を設けることで開放感を生んだ。
中目黒店では店舗空間や店前の庭も活用し、月1回程度のペースでイベントも開催していく考え。ゴールデンウイークにはカリフォルニア発のスペシャルティーコーヒーブランド「ヴァーヴコーヒーロースターズ」のポップアップを予定している。「物販だけでなく、居心地を楽しむイベント」も含め、空間での体験を提供していく。

  • エントランスから見た売り場。天井のイエローが印象的
  • 売り場の奥にはレジとオフィス
  • オープン時には売り場奥に巨大なデイパックのあるフォトスポットを設置。今後はインスタライブなどプロモーションにも使っていく

中目黒店をブランドの発信拠点として、今後は駅ビルやSCへの出店を計画している。4月下旬には神奈川・海老名のSCに出店する。「海老名の店舗では床をカーペットにします。商業施設は効率が求められますが、居心地の良さを大事にしたいんです。なかなか無い雰囲気の店になると思います」と染谷さん。日本だからこそ体感できるアウトドアプロダクツの世界観、新たなファンの広がりが期待される。

写真/野﨑慧嗣、ベイクルーズ提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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