店舗ごとにカラーを変え、その土地にまつわる要素で空間を創る
エンフォルドはカラーや素材、ディテールなど多様な要素をミックスした構築的な服作り、あえて身体のフォルムを隠すことによって歳を重ねて変化する女性の体形に対応し、上品で抜け感のあるデザインで、大人の女性の支持を集めてきた。16年にニューヨーク・ソーホーに期間限定店舗を出店し、19年にはロンドン、ロサンゼルス、香港でポップアップストア、20年にはパリでインスタレーションを行い、海外展開も積極的に進めてきた。ブランドの立ち上げ時から重視しているのが実店舗だ。店舗空間には立地ごとに異なるデザインやカラーを採用。店舗がある土地の歴史やカルチャーなど様々な要素を融合して空間へと収斂する方法を採っている。
その端緒を切ったのは、22年に出店した海外初となる単独直営店、韓国の江南店。韓国では現在4店舗を展開し、それぞれにデザインが異なる。各店舗を象徴するのはカラーだ。江南店はダークイエロー、釜山店はシアン、明洞店はシーグリーンなど、その土地に合わせたカラーで店舗全体を覆っている。什器は、様々な姿勢をとる人に見立てた円柱や、韓国の伝統的なフォルムの陶磁器、2人の人が抱擁しているような形状のオブジェなどが異素材の組み合わせで作られ、その多様性をカラーが優しく包み込むイメージだ。ブランドサイドは「『ENFÖLD=包み込む(抱擁する)』という言葉の意味を表現するための最もシンプルな方法として考えたフォーマット。オンラインでのショッピングが日常的になった中で、各土地によって異なった店舗をデザインし、より特別なオフラインでの購買体験を提供したい」としている。
日本では23年秋に移転増床した阪急うめだ店でこの手法が採られ、24年4月にナゴンスタンスとのショップインショップで新規出店した日本橋髙島屋S.C.店はその最新形となる。
彩度を重視したダークターコイズとホワイトが包む世界
日本橋髙島屋S.C.店は新館2階に立地し、敷地面積はエンフォルドで関東最大の約144㎡。エンフォルドのDNAを持ち、異なるシーンを想定してデザインされているナゴンスタンスを複合することで、オン・オフに対応したより広がりのあるMDを展開し、2ブランドの世界観をしっかりと発信する空間作りに取り組んだ。
日本橋という立地で意識したのは「高級感」。エンフォルドの服を提案する空間では、これまで韓国や大阪の店舗で採用してきたカラーよりも深い色味のダークターコイズを選んだ。エンフォルドの服は色の彩度にこだわり、カラーはできるだけ鮮やかに、黒は白っぽくならないように黒くなるよう試行錯誤しながら作られている。店舗のカラーもまたトライアンドエラーを重ねた。ダークターコイズが覆う空間にディスプレイされた服たちは、さながら暗い海を漂う熱帯魚のよう。遠目からでも強い印象のカラーながら、店内に入ると思いのほか心地良い。色に圧迫されずエンフォルドされる感覚になるのは、店奥の壁面を半円に切り取った大きな窓がもたらす開放感もあるだろう。
さらに、床はカーペット、壁面はマット、日本をイメージさせる「徳利」の形状にインスピレーションを得たハンガーラックベースは高光沢仕上げやアクリルの積層を施していたりと、異素材ミックスによって同じ色でも異なる表情・質感を生んだ。売り場中央にフィッティングルームを斜めに設置し、その窓側の壁面を鏡で覆うことで空間がよりゆったりと感じられる。エンフォルドの服の計算されたリラックス&エレガントが空間にも体現されている。
- 半円の大きな窓が売り場に開放感をもたらす
- 売り場中央にフィッティングルームを設置
- フィッティングルームの壁面には大きな鏡
ナゴンスタンスは、17年にエンフォルドで発表したクルーズコレクションのヒットを受け、ブランド化した。いつもの日常とは違う「どこか」、自分自身が調和する場所で纏(まと)いたくなる日常と非日常が交錯する服を追求している。服の生地や配色に特徴があるため、その見応えに焦点を当て、日本橋髙島屋S.C.店の売り場はギャラリーのようなミニマルな空間に仕上げた。床も壁も白で統一してエンフォルドの空間と明確に分けつつもフラットな地続きなので、客は興味の赴くままに二つの売り場をめぐることができる。木製をメインとした什器に並ぶ服は、自然で明るい空間の中だからこそ1点1点が際立つ。
- ギャラリーのようなナゴンスタンスの売り場
- シンプルに商品の色など特徴を見せる
- ナゴンスタンス側からエンフォルドの売り場を臨む
聞けば、照明の照度と色温度をエンフォルドとナゴンスタンスでは変えているという。エンフォルドは来店客が落ち着きを感じるよう少し黄色い色合い、それに対してナゴンスタンスは青い照明を採用した。照度や色温度は専用のアプリ上で個別に設定でき、VMDの変更はもとより、季節や天候に合わせて細かな設定の変更を可能にしている。
世代を超えて大人の女性に寄り添うデザイン
オープン以降は、エンフォルドとナゴンスタンスの顧客や、新規客では界隈のオフィスで仕事をしている女性が多く、アジア圏を中心とした訪日外国人客も訪れる。顧客の中には「母娘で来られるお客様、中には親子三代で買い物をされるお客様もいる」。客層は40代を中心に親子客も含めると20~60代と幅広く、接客を通じてしっかりと説明を受けたうえで気に入ったものを購入するケースが多いという。
エンフォルドで好評なのは、24年春夏シーズンに初めて発表したクルーズコレクション。コロナ禍では年末のホリデーコレクションとして家の中でリラックスして着られるニットやカットソーなどを提案したが、今夏はバケーションを楽しみたいというマインドの高まりを受け、夏に着るドレッシーな服をクルーズコレクションとして5月中旬から展開した。
特に動きが良いのはリネンのシリーズ。「SOLID LINEN SHIRT(ソリッドリネンシャツ)」は、袖口と裾の広がり、立体的な肩のシルエットが新鮮だ。リネンのハリ・コシ感を残しつつ平織りで柔らかく仕立てた生地は、肌あたりが柔らかで優しく、通気性も高い。「LINEN SHIRT-ROMPERS(リネンシャツロンパース)」はショートパンツタイプのロンパース。1枚で着用できるようロングスリーブで仕立て、袖口を広くとることで涼しく解放的に仕上げた。ボディラインをさり気なくカバーするシルエットも好評だ。
着るだけでこなれた雰囲気を演出できるのは「CHECK ALL-IN-ONE(チェック オールインワン)」。高密度に織り上げたグラフチェック柄素材を使い、袖にボリュームを持たせたコクーンシルエットに仕上げた。家庭で洗えるのも人気の理由。「ONE-SHOULDER COCOON DRESS(ワンショルダー コクーンドレス)」は、バルーンシルエットのサマードレス。デコルテラインを健康的に見せ、大人なスタイルを演出する。インにTシャツを合わせれば、肩を見せることに抵抗がある人もおしゃれに着こなせる。
また、エンフォルドではバッグやアクセサリー、ソックスなどの小物も熱い視線を集めている。コレクションは小物とのスタイリングを想定して作られているからだ。特に靴下は新作が出ると早々に完売することもめずらしくなく、カラー物は全色を揃える顧客もいる。定番の「HIGH-GAUGE SOCKS(ハイゲージソックス)」はシンプルな無地だが、ブランドらしい鮮やかで深みのあるカラーで、サンダルでもスニーカーでも足元に魅力的なアクセントをつける。中綿入りの立体的な紐を編み込んだアッパーが特徴の「PADDET SANDAL(パデットサンダル)」とのコーデもカラフルで面白い。
- 「HIGH-GAUGE SOCKS(ハイゲージソックス)」
- 「JACQUARD LONG-SOCKS(ジャカード ロングソックス)」
- 「PADDET SANDAL(パデットサンダル)」
ナゴンスタンスは、エンフォルドのクルーズコレクションだった頃から「大人の女性のための水着」として人気のスイムウェアが、今季も好調に推移している。アシンメトリーなカッティングが特徴の「sky asymmetry cutting swim tops(スカイ アシンメトリー カッティング スイムトップス)」は、ナゴンスタンスらしいスカイブルーが鮮やか。同素材のフレアシルエットのショートパンツ「sky round-slit swim short-pants(スカイ ラウンド スイムショートパンツ)」との組み合わせでお腹が出ないよう着丈が設定されている。ショートパンツはヨガウェアとしても活躍する。スイムウェアは今季、チェックやボーダーなどの柄物の動きが早いという。コロナ禍を経て水着ニーズが増え、特に顧客の多くがカラー物は一通り持っていることから、柄物を目当てに来店していることもあるだろう。
ウェアでは、取材時にマネキンでディスプレイしていたのは「サークルドレス」と「タフタ サスペンダースカート」。サイドパフドレスは、上質な光沢の素材を使ったカットソードレス。前身頃のハギ幅を細くすることで着用時に身体のラインを華奢に見せ、少し長めの袖は二の腕まわりをさり気なくカバーしてくれる。胸下位置で着用できるタフタ サスペンダースカートは、後ろウエストのストッパー仕様や両サイドの大き目のポケットなどブランドらしいディテールを凝縮した。軽めの素材で着用しやすいのも魅力だ。
シーズンの新作は毎月初と月半ばに投入されるが、エンフォルドもナゴンスタンスも人気定番は初日に完売することも少なくない。これは顧客とスタッフの距離が近く、次はどんなものが、いつ頃、入荷されるかなど、日頃からの来店時のコミュニケーションによる。事前に買い物計画を立てる顧客が多く、入荷時期に合わせて来店する。コロナ禍でECを強化し、オンラインによる発信も充実させたことで、実店舗への問い合わせや来店も増えた。
リアルもバーチャルもマーケットとの接点は多様化したが、実店舗を基盤とした提案スタイルは変わっていない。むしろリアル空間でブランドの世界観を伝え、購買の体験価値を高めるVMDや接客をより充実させる方向にあると感じられる。
写真/野﨑慧嗣、エンフォルド、ナゴンスタンス提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。