実店舗のリテールがあり、ECがある
チャールズ&キースは、チャールズ・ウォンとキース・ウォンが1996年、シンガポールに出店した靴店が始まり。その後、バッグやサングラスなどのアクセサリーも展開し、アジアをはじめとする海外にも出店した。都会のスタイリッシュな女性をコアターゲットとし、各国の主要都市に出店。トレンドを反映したデザインとリーズナブルな価格のプロダクトで、20~30前半を中心とする女性たちのファッションマインドを捉え、グローバルブランドへと成長を遂げた。現在、シンガポールや中国をはじめとするアジア、ヨーロッパ、中東など35カ国に600店舗超を出店している。
日本のマーケットに進出したのは2014年。オンワードホールディングスとの共同出資でチャールズ&キース ジャパンを設立し、店舗展開をスタートさせた。原宿などの都心立地もあったが、ファミリー層をコア客層とする郊外型ショッピングモールへの出店が多く、都市型を志向するブランドアイデンティティーとかみ合わず苦戦。16年12月に合弁を解消し、全店舗を閉鎖した。翌17年1月にシンガポール本社の子会社として日本法人、チャールズ&キース ジャパン合同会社を設立。直営展開に切り替え、同年4月にECから再スタートした。
現在は売上高に占めるEC比率が約40%と高いチャールズ&キースだが、「ECは当初、ちょっと苦戦した」と青木洋明ゼネラルマネージャーはいう。「ブランドに対する認知度がないとECにはなかなか流入がない。実際、18年から実店舗を出店するとECも伸びてきた。リテールとECとがそれぞれ相乗効果を狙って補完し合うビジネスモデルと考えている」。
その後、コロナ禍に突入すると一時的に閉鎖を余儀なくされた店舗もあったが、SNSを中心にブランドの認知が広がり、ECが伸びるのと並行して、新たな好条件の立地への出店も増えた。「実店舗はあくまでも都市型に絞って、地方の小さな都市や郊外には出店せず、地方や郊外のお客様はECで購入してもらう戦略を採っている」。結果としてコロナ禍がむしろ追い風になり、3年間は毎年2ケタ増を続けた。売上高は現在は70億円近くまで伸びている。
今年2月、グローバル旗艦店の最新型を渋谷に出店
「ブランドに認知を高めるためのリテール」の起点となる実店舗は現在、主要都市の中でもトレンド発信地とされる立地に絞り込み、19店舗を出店している。中でもブランドの世界観を表現し、最新のコレクションを幅広く提案しているのが路面店だ。渋谷、表参道、名古屋、京都、大阪心斎橋、神戸に6店舗を展開している。
路面店はグローバル旗艦店と位置づけられ、その最新型として今年2月にオープンしたのが渋谷店だ。スペイン坂にあった店舗を閉じ、より通行量の多い立地で新スタートを切った。地下鉄渋谷駅から徒歩3分ほどの渋谷センター街、井の頭通り沿いに立地するガラス張りの建物で、関東初の2フロアで構成する。総店舗面積179㎡の空間デザインは、世界各国でプロジェクトを手掛ける建築事務所デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツとチャールズ&キースが共同で手掛けた。同事務所による店舗設計は、四条河原町店に次いで2店舗目となる。
店内は白を基調としたクリーンでシックなイメージだが、「和」を感じさせるテイストの材質を使用した壁面や梁は同じ白でも柔らかみがあり、梁は角の丸みが優しい印象を残す。暖色系の照明を使うことで空間に温かみを生んでいる。レジンで作られた什器やテーブルは空間に馴染みながらもアクセントとなり、接客や来店客が靴の試履きなどに利用するソファは他店にはないモスグリーンで自然なムードを醸し出す。2階の壁面にはモノクロームアーティストの桜井智が渋谷店のために描き下ろした絵画作品2点を展示。空間デザインに調和しながらも、そこだけ時間の流れが止まるような静謐な空間だ。
プロダクトは、1階ではバッグ、2階ではシューズを提案し、アクセサリーを含めた約220スタイルを揃える。2階には国内では渋谷店限定の有料サービスとして「カスタマイゼーションスタンド」も設置。購入したバッグや別売りのトートバッグなどにイニシャルや、見本帳から好みのアイコンを選んで刺繍できる。自分向けやプレゼント用に人気で、訪日外国人客にも好評なサービスだ。
毎週投入される新作、多様なコラボも注目
オープンに際しては新ライン「L’initial(リニシャル)」も披露した。本革などの上質な素材を使用したラグジュアリーなプロダクトで構成され、新たなエンブレム「C&K」を施したコレクションだ。渋谷店では「レザー ショルダーバッグ」と「レザー ボクシーバッグ」を先行発売し、好評を集めた。
開店以来、バッグでは24年春夏にローンチした「Toniバッグ」シリーズが人気。「Toni トニーノットカーブホーボーバッグ」は、緩やかにカーブを描く三日月型のフォルムにノット(結び目)モチーフを施し、素朴なデザインに華やかさを生んだ。柔らかなPUレザーを使った絶妙な長さのストラップは身体の脇に自然と馴染み、内ポケット付きのバッグ内は必需品のほか、折りたたみ傘やペットボトルも無理なく収納できる。取り外し可能なスマートポーチが付属するのも嬉しい。
シューズはベーシックなパンプスはもとより、ヒール付きのローファー、トレンドのメリージェーンが好調を継続、厚底からフラットタイプまで型数を充実させている。これらは買い替え需要も多いアイテムだ。「Rooney ルーニー バックルブロックヒールメリージェーン」は、ダイナミックなチャンキーヒールと、あえて中央に配置したベルトバックルが特徴。ヒールは約6cmあるが、クッション性の豊かなインソールで快適な履き心地と歩行をサポートする。素材はPUレザーとボアの2タイプ。「Lu ルー レザーボウブレードヒールサンダル」は、大きなリボンとカーブを描くヒールがシンボリック。上質な牛革素材が醸し出すクラス感を大人のエレガンスに昇華させ、華奢なストラップで程よい抜け感を演出した。もちもちとしたインソールによる履き心地も人気の理由だ。
- 今夏発売した「Toni トニー ノットカーブホーボーバッグ」
- 「Rooney ルーニー バックルブロックヒールメリージェーン」
- 「Lu ルー レザーボウブレードヒールサンダル」
コレクションは基本的には春夏・秋冬シーズンに発表するが、旗艦店の渋谷店では「常に最新のプロダクトと出会えるよう、新作と再販の要望が多いモデルを含め、毎週10~15型を投入している」と青木さん。これにより顧客はもとより、普段から通勤などで毎日通りかかる人にとっても鮮度の高い売り場を維持している。
加えて、様々なブランドとのコラボレーションがある。「ブランディングの一環で、年間で2つのブランドとコラボレーションを企画している」という。24年1月にはロンドンを拠点にアバンギャルドなニットウェアを提案する新鋭デザイナーブランド「Chet lo(チェット・ロー)」と協業したカプセルコレクションをローンチ。ドリアンの果実にインスパイアされたチェット・ローのアイコン「スパイクデザイン」とチャールズ&キースの定番モデルを融合し、シューズ、バッグ、ヘッドバンドに仕上げた。
3月に発表したのは、上海のファッションブランド「Short Sentence(ショートセンテンス)」とのコレクション。同ブランドのカラフルで軽快なデザインと、両ブランドに共通する都会的なライフスタイルからのインスピレーションを掛け合わせ、「都会の中の喧騒を旅する心の様子」をバッグ2型とシューズ1型に表現した。他にも韓国のイラストレーターHENN KIM(ヘン・キム)、フランスのフットウェアブランド「both(ボス)」など個性派ブランドもあれば、ディズニーキャラクターもあり、多種多様なコラボレーションを見せる。
Toniシリーズのホーボーバッグは、色落ちを表現したビンテージライクなデニムを使い、フロント部分にロゴをプリントした存在感溢れるデザインとなっている。ビンテージゴールドの留め具がトレードマークの「Charlot(シャーロット)」シリーズでは、横長タイプでハンドル付きの「Charlot シャーロット イロンゲイトトップハンドルバッグ」が新登場。丸みを帯びた独特のフォルムは様々な服と相性が良く、シーズンレスなスタイリングを演出する。デニムを使ったモデルは、パッチワークデニムとレザーを組み合わせ、フェミニンな魅力とマスキュリンな強さを両立させた。デイリーカジュアルにお薦めなのは「カーブメタリックアクセントショルダーバッグ」。その名の通り柔らかな曲線のシルエットが特徴で、濃淡を効かせたデニムとマットなナイロンの2タイプを揃える。
- 24年秋シーズンの「Toni トニー ノットカーブホーボーバッグ」。写真左がダークデニム
- 「Charlot シャーロット イロンゲイトトップハンドルバッグ」
- 「カーブメタリックアクセントショルダーバッグ」
シューズも個性的ながら、手持ちの服との組み合わせで様々な表情を見せる。「Robbie ロビー プラットフォームニーハイブーツ」のダイナミックなブロックヒールにスクエアトゥはコーディネートの主役級の存在感。トップエンドのベルトのディテールがアクセントを添えている。大胆なデザインながらカジュアルにもフォーマルにも履きこなせる注目の一足だ。「Robbie ロビー アンクルストラップチャンキーメリージェーン」は、ショートブーツとメリージェーンを掛け合わせたようなルックスとチャンキーヒール、ガチャベルト風の3本のストラップが魅力。ブラックの合皮レザーとダークグレーのデニムでは表情ががらりと変わり、カラーソックスなどとのコーディネートも楽しい。「Robbie ロビー ポインテッドトゥメリージェーンフラット」は、シャープなつま先に対して大胆にあいたアッパー、ガチャベルト風のストラップが特徴。しっかりと足を包み込み、バックファスナーで着脱しやすいのも嬉しい。
- 「Robbie ロビー プラットフォームニーハイブーツ」
- 「Robbie ロビー アンクルストラップチャンキーメリージェーン」
- 「Robbie ロビー ポインテッドトゥメリージェーンフラット」
拡大路線よりも着実なブランディングを
業績が拡大し、実店舗も増えているが、「日本では拡大路線ではなく、リテールとECの共存をテーマにブランドを成長させていく考え」と青木さん。グローバルの売上高は中国が圧倒的なシェアを占め、次いでシンガポール本国と続き、日本は10%に満たない。ただ再上陸して以降の日本の伸長率はグループではトップで、ファッション感度が高く、世界中から集客がある市場である点が注目されている。絞り込んだ立地で1店1店の求心力を高めながら、高いパーセンテージを占めるECとのバランスを図り、ブランド価値を高めていくことに力を注ぐ。
旗艦店の一つである渋谷店は、当初の計画通り20~30代前半の女性客を中心に、幅広い客層が来店し、母娘客も訪れる。アジアや中東、欧米などからの訪日外国人客も増え、現在は20~25%を占める。京都の四条河原町店はインバウンド比率が25~30%に上り、特に欧米からの旅行者が多いという。チャールズ&キースはグローバル展開ではかねてより欧米市場への進出を計画していたが、コロナ禍で中断していた。今後、改めて欧米進出を目指すうえでも、渋谷店や四条河原町店などの旗艦店はブランドの体験価値を高める、世界に向けた発信拠点として重要な役割を担う。だからこそ、1店1店の空間を作り込み、VMD表現や接客を通じた付加価値の高いコミュニケーションによってチャールズ&キースの世界観を実感してもらうことがとても重要なのだ。急伸する業績の背景には着実な取り組みの積み重ねがあった。
写真/遠藤純、チャールズ&キース ジャパン合同会社提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。