旗艦店はリラックスと程よい緊張感が融合した空間

「AURALEE」とは「日の当たる場所」を意味する。そう言われれば、装飾を控え、シンプルでナチュラルな色使いの服からは、日の光が差す朝の情景のようなイメージが浮かんでくる。デザイナーの岩井良太は、素材や生地そのものからデザインの着想を得ることが最も多いという。国内外に原材料を探し、糸を作り、日本の産地で生地に織り上げる。一般には分業化されている工程にデザイナーが密接に関わり、服作りの大半の時間を生地作りに費やす。その生地だからこそのデザインとパターン設計、国内屈指とされる職人による裁断・縫製を経て、洗練された穏やかなシルエットの服へと収斂される。生地問屋を母体とするブランドとしてデビューしたことも、オーラリーらしい。生地とデザインが溶け合った服はミニマルであるがゆえに世代やジェンダーを問わず着用でき、コーディネートの汎用性も高い。客層も幅広く、2015年のファーストコレクションからメンズ・ウィメンズを同型数で展開してきたこともあり、男女ともにファンを増やしてきた。
その発信拠点となる直営店を南青山に出店したのは、デビューからわずか2年後のこと。オフィスの移転を考えていたタイミングで、卸先のブランドから紹介されたのが現在の店舗だった。卸先は1階と地階の2フロアの物件をプレスルームとして使っていたが、移転に伴い、オーラリーに声がかかった。もともと直営店を持つことは目標の一つで、出店先も根津美術館の近くというイメージがあったことから、条件はぴったり。133㎡ある1階を直営店にし、地階はオフィスとバックヤードとして使った。

「オーラリー トーキョー」1階の売り場

店舗の空間デザインを手掛けたのは、建築事務所アーキタイプを主宰する建築家の荒木信雄。「別荘のようなリラックスしたムード」と「アートギャラリーのような程よい緊張感」をテーマに、オーラリーの服と親和するミニマルな空間に仕上げた。
躯体を生かしながらも、店奥には白い壁面を設け、左手には大きなミラーを張ることで空間に広がりを生んだ。特徴的なのは、床と天井のレイアウト。エントランスから一段上がった絨毯敷きの床が店奥まで伸び、これと平行に白い天井が躯体を覆うように設けられ、床と天井の間に生まれた空間は他のスペースとは異なる空気感を醸し出す。床の両サイドにはラックが配置され、右にはメンズ、左にはウィメンズのコレクションが並び、柔らかな光が注ぐ。ここは服を際立たせるステージであり、「日の当たる場所」なのかもしれない。エントランス付近と店奥の2カ所、売り場から離れのようにはみ出した空間にフィッティングルームがある。
23年には、ブランドの成長とともにスタッフも増えたことからオフィスを移転し、空いた地階にも売り場を拡大。総店舗面積は282㎡となった。地階フロアは1階と同じマテリアルを使った売り場を展開し、ゆったりと服選びをしたい人のための特別なフィッティングルームも備える。

  • エントランス側のフィッティングルーム
  • ラック掛けの服がずらりと並ぶ地階の売り場
  • 会話をしながら服を選べるサロンスペース

ランウェイを体験し、見えてきた世界観の伝え方

2フロアに分かれてはいるが、特にカテゴリーを設けてはいない。「メンズもウィメンズも並列に見せたい」というデザイナーの思いから、フロアをメンズとウィメンズに分けることなく、シーズンコレクションを単純に分割してディスプレイしている。ウインドーも無ければ、トルソーさえ無く、ラック掛けされた服が整然と並ぶ。取材時には24-25年秋冬コレクションをラインナップしていた。

取材時には24-25年秋冬コレクションをラインナップ

今季は酷暑の最中にあった8月の立ち上がりや商品の入荷日に行列ができ、コートなどのアウターが早速完売になるなど「特に動きの速いシーズン」という。「今季のショーはこれまでで最も手応えがあり、海外のレビューもたくさん出た。その熱量が日本にも伝わったのか、レビューと購買は必ずしも直結しないと思っていたが、ここへきてつながった実感がある」と同社。プロダクトはすでに高い評価を獲得している中で、ここ数年はコレクションが持つ世界観の伝え方を試行錯誤してきたことが実を結んだシーズンなのかもしれない。
オーラリーは18年の「FASHION PRIZE OF TOKYO」受賞をきっかけに、19年秋冬シーズンに初めてパリ・コレクションに参加して以降、メンズのウイークでもウィメンズのウイークでもメンズとウィメンズを発表してきた。デビュー時から特にコレクションのテーマを設定することなく、素材や生地を起点とした服作り、表現したいデザインがあって糸や生地を作ることから始める服作りを行ってきたが、ランウェイショーを経験してプロダクトの伝え方にも力を入れた。ショーを構成するスタイリストや演出家など「見せる」プロたちと共にショーを作り上げていくために、そのシーズンで表現していく世界観の共有が必要と実感したからだった。

23-24年秋冬コレクションより
23-24年秋冬コレクションでは、起き抜けに服を羽織って街へ出るようなイメージを表現
23-24年秋冬コレクションより
23-24年秋冬コレクションより

ただ、テーマといっても社会に対するメッセージなどではなく、日常を切り取ったシネマティックなシーンと、そこにいる個々人のスタイルのイメージを言語化しているのがオーラリーらしい。例えば、23-24年秋冬のテーマは「起き抜けに羽織る衣服」。朝、目覚めて、心地良いまどろみのままに服を羽織り、近所へ散歩に出かける。無造作な雰囲気はまさに日常であり、そこで羽織られる服は上質で上品ながらシワや毛玉をデザインに取り入れるなど、ストリートカジュアルとは異なる穏やかなラフさを備えたリアルクローズだ。24-25年秋冬は「帰り道」がテーマ。仕事帰りに友達や家族とのディナーなど、ちょっと気分が高揚する場に向かう。昼から夜へ、オンからオフへ、ほっと息をつく時間へと移ろうニュアンスをコレクションに表現した。ショーの華やかさとは一線を画す、等身大の穏やかで上質な服の魅力をストレートに感じられる親密な空気感が伝わったのだろう。さらに共感が広がり、今季はこれまで以上に存在感を増している感がある。

24-25年秋冬コレクションより
「帰り道」をテーマにした24-25年秋冬コレクションのランウェイ
24-25年秋冬コレクションより
24-25年秋冬コレクションより

見て、触れてこそ感じられる素材感とディテール

24-25年秋冬シーズンはアウターを中心に好調に推移している。「LAMA SHETLAND WOOL TWEED OVER JACKET(ラマ シェットランドウール ツイード オーバージャケット)」は、一見するとクラシカルな素材感のツイードジャケットだが、英国羊毛と長い繊維長のアルパカを混紡することで軽量かつ温かい。同素材のコートは早々に完売する人気となった。
コートではチェスターコートが押し。ダブルブレストがエレガントな「SUPER FINE WOOL MOSSER CHESTERFIELD COAT (スーパーファインウール モッサー チェスターフィールドコート)」は、くるぶし丈のオーバーサイズフィットで温かく、見た目に反して軽やかに着こなせる。それを可能にしているのは、カシミヤと同等の繊度を持つオーストラリア産のウルトラファインメリノウール。15.5マイクロ(Super160's)を独自の配合で紡毛糸にし、織り上げた生地に縮絨をかけて起毛させ、毛羽を刈り揃える「モッサー仕上げ」を施した。「SPONGE WOOL MELTON CHESTERFIELD COAT(スポンジウールメルトン チェスターフィールドコート)」は、スポンジのようなメルトンの素材感とリラックスしたシルエットが魅力。表の生地に採用したメルトンは、Super120'sの高品質な紡毛糸を使い、変則的な組織に織り込むことで微細な凹凸感を与え、空気を含んだ柔らかく膨らみのある質感を持たせた。裏面には特殊技術を駆使して弾力性のある素材を組み合わせ、表情は上質なウールメルトンでありながら、スポンジのような弾力性と柔軟な手触りを生み出した。

  • 「LAMA SHETLAND WOOL TWEED OVER JACKET」
  • 「SUPER FINE WOOL MOSSER CHESTERFIELD COAT」
  • 「SPONGE WOOL MELTON CHESTERFIELD COAT」

ダウンアウターも素材と加工のミクスチャーを追求する。「SUPER LIGHT NYLON RIPSTOP DOWN BLOUSON(スーパーライトナイロンリップストップ ダウンブルゾン)」は、程よいボリューム感にショート丈のコンパクトなシルエットで、コーディネートが楽しみになる一着だ。生地は15デニールの極細ナイロンウーリー糸を使用した超軽量の極薄ミニリップストップ、裏面に特殊なウレタンコーティングを施し、防風性と撥水性を確保した。中綿には英国産のホワイトダックダウンを使用。製品に詰める前に再度、加湿乾燥加工を施すことで、より軽くふっくらと仕上げている。

「SUPER LIGHT NYLON RIPSTOP DOWN BLOUSON」

極上かつ希少なモンゴル産のベビーカシミヤの毛を100%使用したシリーズは、オーラリーの定番として人気を継続。3色を展開し、ベビーカシミヤの風合いを損なわないよう、ブラックとパープルは原糸を低温で時間をかけて染めて自然乾燥させ、ブラウンは無染色で原糸の色味を最大限に生かしている。「BABY CASHMERE KNIT CARDIGAN(ベビーカシミヤ ニットカーディガン)」は、薄く、軽く、柔らかく、温かく、シンプルなデザインだけにコーディネートも自在だ。
ウィメンズでは、希少なベビースーリーアルパカのタムヤーンを使用した繊細な毛足が特徴の「BABY SURI ALPACA SHEER KNIT ONE-PIECE(ベビースーリーアルパカ シア―ニットワンピース)」や、カシミヤに匹敵するとされる繊維が細いベビーキャメルによる「BABY CAMEL FLANNEL DRESS(ベビーキャメル フランネルドレス)」といったフェミニンなデザインもラインナップする。

  • 「BABY CASHMERE KNIT CARDIGAN」
  • 「BABY SURI ALPACA SHEER KNIT ONE-PIECE」
  • 「BABY CAMEL FLANNEL DRESS

18年春夏からメンズ・ウィメンズで展開しているデニムも、糸から作り上げたオーラリーの逸品。ビンテージの風合いを手仕事で表現した「SELVEDGE FADED HEAVY DENIM PAINTER PANTS(セルビッチ フェイデッド ヘビーデニム ペインターパンツ)」や、洗い込んでもリジッドデニムの風合いをキープする「HARD TWIST DENIM 5P PANTS(ハードツイストデニム 5ポケットパンツ)」などを熟練職人と共に作り込んだ。

「HARD TWIST DENIM 5P PANTS」
「SELVEDGE FADED HEAVY DENIM PAINTER PANTS」

注目度が高まる中で、続く「穏やかな挑戦」

コレクションはランウェイで発表されたものばかり。ショーピースを製作するブランドが多いが、オーラリーはランウェイで発表する服と実際に販売する服が同じであることを貫いてきた。そのプロダクトを国内外のセレクトショップを中心に卸す一方、自らの実店舗とECサイトで販売し、いずれも伸ばしている。
ECは20年にオンラインストアを立ち上げ、インスタグラムと合わせ、新作が店頭に入荷する2週間前に商品やコーディネートの画像をアップする態勢を採ってきた。この発信スタイルを続けてきた結果、ECだけでなく実店舗の客数も増えたという。素材感やサイズ感などを感じたいと、入荷日を目掛けて旗艦店に来店する顧客が増えている。客層は20~40代を中心に幅広く、ここ数年は男女客ともに増えた。特に男性客の増加が目立ち、今後も変動はあるだろうが、現在の顧客構成比は男性客が60%、女性客が40%となっている。旗艦店のオーラリー トーキョーは夫婦などカップルでの来店が多くある。
多様なブランドとのコラボレーションも、オーラリーへの注目度の高さを感じさせる。19年からコラボを重ねてきたのは「New Balance(ニューバランス)」。最新コラボは、ニューバランスのMade in USAシリーズとして16年の発売以来の人気モデル「990v4」をベースに、オーラリーの24-25年秋冬コレクションと親和するニュートラルなカラーとディテールを凝らした。ダスティーブルーとトープカラーの2タイプ。ヌバック、レザー、スエードを贅沢に配したアッパーは、ミニマルな中にワントーンの濃淡で奥行きを感じさせる。ダスティーブルーの990v4のソールにはライムグリーン、トープカラーにはダスティーブルーを差し色に使い、アクセントを効かせた。

ニューバランスとコラボした「AURALEE×New Balance MADE in USA 990v4」。トープカラー
ニューバランスとコラボした「AURALEE×New Balance MADE in USA 990v4」。ダスティーブルー

今年はテキスタイルのデザインとクオリティーで定評のあるデンマーク発のライフスタイルブランド「Tekla Fabrics(テクラ ファブリック)」との初コラボも実現。日本とスカンジナビアの文化が交差する「温泉」に着想を得たコレクションを展開。タオルやスリープウェア、アウターウェア、ニットアクセサリーと、ライフスタイルに寄り添うアイテムを製作し、今秋発売した。

テクラとは「温泉」から着想したコレクションを展開

ランウェイで発表する服が日常で着られるリアルな服であることを体現し続けてきたオーラリー。ファッション業界からも、マーケットからも、ブランドに向ける眼差しは熱くなっている中で、「穏やかな挑戦」は続く。

写真/野﨑慧司、オーラリー提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る