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――当初は10周年に何をやろうと思っていましたか。

「10年経ったからご褒美じゃないけど、そういうことをやりたかったんですよ。しかも昔の曲も未だに好きでライブでよくかけてるんで。でもインディーズの頃の音源をサブスクに出す気がまるでないわけですよ。でもやっぱサブスクに音楽を好きな人が集まっているのも事実じゃないですか。今、音楽好きはストリーミングでたくさんの種類の音楽を聴くタイプになってきちゃったから、そういう人にも昔の曲を聴いてもらいたいなっていうのは実際あったんですよ」

――もしかしたら全キャリアから編むこともできたかもしれないし。

「そうそうそう。ベスト盤だったかもしれないし……みたいなね」




――初期の4作からのセレクトで再録というテーマは、クラウド上に初期の楽曲がないということも理由でしょうけども、今のバンドだからというのも大きいんじゃないですか?

「大きいですよ、やっぱり。メンバーもベーシストが変わったり、このカチュカサウンズ時代っていうのはパーカッショニストはいなかったので、それで特に去年トワイライトツアーが僕の中でめちゃくちゃ楽しかったんですよ。で、“ああ、いいバンドになってるなあ”みたいな実感もあったんで、何かそういう流れをレコードにできたらいいな……とすら思っていた」

――2019年のフジロックを見ましたが、完全にバンドでしたよ。

「そんな感じしましたよね。あれは良かったなあ……そういう感じが何かこう、レコードにもう一度残したい――ライブ盤とかじゃなくね――気持ちはありましたね」

――結構、決め事があったんですよね。アレンジを極力いじらないとか。それは澤部さんの曲作りにおいて重要なことのような気がして。

「うん、そうかも。あんまりアレンジはいじりたくないですよ」

――もちろん1stの『エス・オー・エス』はいろんな手法をやっているので変わるとは思いますが。

「うん、そうそう。そこは流石にこうならざるを得ないんですけど(笑)」




――ところで選曲のテーマというか基準は?

「いちばん大きいのはベーシストが変わったこと。で、パーカッションが映える曲、このふたつですね。ほんとに純粋に過去4作をベスト盤的に編んでいったら、また違う選曲になったとは思うんです、ま、そんな変わらないかもしれませんけど(笑)」

――再レコーディングなのに、オリジナル3rdアルバムと称するその心は?

「なんだろう?これは僕らもまだ迷ってますよ。新録ベスト盤って言ったほうがほんとは易しいじゃないですか。でもなんか、“いや、でもなんかなあ……”みたいな。コンピレーションでもないし、ベスト盤でもないし、じゃあもう、オリジナルアルバムって言い方でいいんじゃないの?みたいな。結構、消極的な選択ではあったんですけどね(笑)。でも未だに悩んでますし、このアルバムに対してどういう説明がいちばん適切なのかっていうのはね。でもやっぱりいい曲がただひたすら入ってるアルバムにはなったと思うんですよね」

――なかなかできない。というか、たぶん誰もやってないことですね。

「そうですね。ちょっとオーパーツ的な感じがしますよね(笑)。よくカクバリズムもポニーキャニオンさんも付き合ってくれたなと思いますね」

――このアルバムとは別に今は曲を蓄える時期という感じですか?

「そういう風に思ってたんですけど、やっぱできなくなっちゃいましたね。やっぱコロナ禍で、曲が全く書けなくなっちゃったんで」

――それは心的理由ですか?

「だと思いますよ。やっぱ環境が変わってしまったことが大きくて。だから仕事とかで曲を書かなきゃいけない時はなんとか絞り出せれるし、それが“うわ、こんな曲書けちゃったな”みたいなこともあって、それはおいおい発表されるはずですけど(笑)。でも、『トワイライト』の次を考えようと思った時には手が止まっちゃうんですよ。そういう意味で、これがあったのは僕にとっては救いだったかな」

――今年は特にですけど、「自分は何者なんだろう」みたいに考えているアーティストさんが多いですね。

「この期間でね。わかるなあ!」

――発表するかはわからないけど、とにかく作るって人も多い。

「羨ましい(笑)。そっちのほうが健全だと思います」




――澤部さんの中ではバンドに持っていくとか、リリースすることを考えると手が止まっちゃう?

「止まっちゃうんですよね。やっぱこう、『トワイライト』もそうでしたけど、日常のほんの一瞬をどう切り取るかみたいなことをやっていたので、そこに対して、ね?」

――そのまま出すか、それとも書かないか。

「結構ね、どうにもなんなくなっちゃったって感じ。気持ち的にいうと」

――ファンタジーを描くのならまた違うんでしょうけど。

「そうそうそう。で、やっぱ曲を作って、レコーディングをするなりライブをしてみんなに聴いてもらって、フィードバックがあって、次の作品にそれが活きてくみたいなことって、あまり意識したことなかったんですけど、やっぱそういう流れっていうのは実際あったんだろうなっていうのはね、思いましたね」

――今回の演奏は基本的に一発録りなんですか?

「基本的にはそうです。あ、そうそう!何で録り直したかってもうひとつ理由があって、昔のレコード、そのカチュカサウンズで作ってた頃はとにかく予算がないわけですよ。「ストーリー」なんて、2万円くらいで録ってますからね、スタジオ代(笑)。ライブハウスの使ってない時間を2万円で借りて。で、売り上げが入ったらメンバーとかにはギャラを渡していくってスタイルでやってたので」

――生々しい話ですね(笑)。ところで転機になった曲、思い入れの深い曲をお聞きしたいんですが。

「そういう意味だと、「ストーリー」だと思います。やっぱ「ストーリー」ができて、みなさんがたくさん聴いてくれたから今があるっていうのはもう絶対間違いのないことですね」

――どういう広がり方をしていきました?もちろん、音源を買った人、ライブで聴いた人がそうだと思いますけど、わりと年上のミュージシャンの方にも広がっていったと思うんですが。

「でも「ストーリー」の頃はほんと口コミっていうイメージでしたけどね。だってプロモーションビデオすら上げてなかったわけですから(笑)。それなのに3000枚ぐらいパーっと売れて。“ああ、これはなんかうまくやれるんじゃないかな”みたいに思った最初でしたね」

――今回再録されて、楽器の鳴りの良さを認識しました。

「ね?ほんととっても良く録音してもらいました」

――さすがにクオリティが高くて。でも歌詞の若くて苦い内容はそのままなわけじゃないですか。その辺はいかがですか?この頃の歌詞は。

「あー……でも当たり前のようにライブでやってきた曲も半分以上入っているので、歌詞についてはそんなにこう、今と違うなとも思ってないんですよ、正直言うと。ま、強いて言うなら、「サイダーの庭」を作るくらいまでは、歌詞なんてわかりづらければわかりづらいほどいいと思ってたフシがあったんですけど。曲がポップに開けたんだけど、歌詞が内を向いちゃったなって反省があって、そこで歌詞の書き方は少し変わった気がするんですよね。そういう意味では「CALL」以前は、まだこう、わかりづらい歌詞を書いてた頃のアルバムではあるかな(笑)」




――初期の澤部さんって、男の子の目線でも女の子の目線でも、遠くからその人のことを祈ってると言うか。それは今も通底してるかもしれませんが、すごくそういう気持ちになります。

「ああ、ありがとうございます」

――そういう見えないけど気持ちみたいなものを信用して生きてる気がして。あと、代表曲シリーズが冒頭に固まっています。

「代表曲……やっぱ頭3曲はワーッと行こうと思ったんですよね」

――強いですね。

「でも意外と自分にとって大きいのは4曲目の「ともす灯 やどす灯」っていう曲ですね」

――いい曲です。

「「ストーリー」を書いて、こんないい曲書けるんだからって、自分の中でハードルがグンと上がったんですけど、その後、しばらく「なんかうまくいかないな」みたいな、あんな曲書けたんだから、もっとすごい曲書けるだろうみたいな、そういう期待に応えられる曲があんまり書けてなかったんですよ。その時に「ともす灯、やどす灯」とかできて、また「ウォー、これはいいぞ」って、すごい興奮したのは当時、覚えてますね。「ともす灯、やどす灯」とか「月光密造の夜」あたりは本当の意味でのスカートの最初のピークだったんじゃないかなって気がしますね」

――確かに「ともす灯 やどす灯」はオリジナルももちろんそうなんですけど、新録バージョンは、悲しいし暗い。でも何だか勇気が出る、勇敢になれる感じが今回さらに強くなった気がします。

「うれしい」




――ほんとに澤部さんが書いた歌詞の通奏低音は年齢とかも変わらないというか、こんだけ大人の豊かなアンサンブルになっても本質的な部分は変わらない。

「変わんないって気はしますね。うん。なんかそれはわりとうれしかった部分ではあるかな。変な言い方ですけど、もっとみっともないアルバムになるんじゃないかって思ってたんですよ。どっかでね(笑)」

――上手くなっちゃって……みたいな?

「そうそう。“何?この人ら”みたいな。“上手くなっちゃったし、音もよくなっちゃって、何やってんだか”みたいになっちゃうかなって、最初ちょっと心配してたんですけど、そうは見えなかったのは安心した部分ですよね(笑)、ほんとに。でもなんかこう、勢い重視でずっと録音してたんですよ、やっぱ4枚目ぐらいまでって。で、よく考えたら今も勢い重視だなってことに改めて気づきましたね。スタジオのグレードも上がって、エンジニアとも対話を続けて、それぞれの好みがわかってきて。だから円熟してるっちゃしてるんですけど、なんて言うか、若い頃に作った曲の前ではその円熟が、大した価値になってない(笑)。いい意味でそんな気がして。それは不思議だなと思いましたよ」

――円熟では越えられない何かなんですかね。

「うーん……なのかな。バンドの演奏が円熟したところで、みたいなね(笑)」

――滲み出る青さなんですかね。

「うんうんうん。それはあるんじゃないかなと思って、ちょっとうれしくなりましたね」

――逆に今だと書けない、初期だからこそという曲はどのあたりですか?

「どうだろうなあ……なんかね、ま、正直あるんですよね。「千のない」とか、こういう曲は今は書かないだろうな。悔しいけど、「セブンスター」とかももう書けないのかも知んないなあ……でも、「セブンスター」は書ける自分でいたいかな(笑)。でも「千のない」とか「月の器」は単純にすごい昔の曲なんで、やっぱその頃と今は状況とか使える手札も違うんで。そういう意味では特にその2曲は顕著。他は正直、“いや、いつでも書きますよ!”という気持ちではいます。気持ちだけはね」

――いずれにしても役に立つたたないというより、自分にとっていいかどうかが大事な音楽だと思います。

「でもそうですね。自分のために音楽をやってきた10年間だったのかもしれないっていうのはね、改めて録音して思いましたね。実際、そうしてきたんですけどね」

――このアルバムは前半戦ではありますけど。人に出会う転機になった曲でいうといかがですか?

「でもずっと1stからそうなんですよ。この年からいきなりってことはなかった気がして。「エス・オー・エス」出したら曽我部恵一さんが反応してくれたりとか、『ストーリー』出したら出したで、なんかこの時を境にみたいのをあんまり感じてないんですよね。ライブ誘ってくれたり、レコーディングに誘ってくれたりとか」

――結局は曲が連れて行ってくれる?

「うん。毎回そうですね。曲だな。いい曲のあるバンドっていう」

――2010年ぐらいから始まった人たちで、曲がいいから残っていくってなかなか大変なことだと思うんです。

「ほんとにそう思います(笑)。よくやってる。ははは!」

――しかしこの4作を録り直した作品が『アナザー・ストーリー』というタイトルなのもなかなか綺麗な収まり方で。

「ははは!ほんとにね。『アナザー・ストーリー』ってタイトルは僕の好きな映画で、「あなただけ、今晩は」ってビリー・ワイルダーの映画があって、そこの、ま、ちょっと狂言回し的でもないけど物語のキーになる、登場人物の口癖が“余談だけど”みたいな感じで、それにアナザー・ストーリーっていう言葉を使ってて。それが好きなんで“アナザー・ストーリーっていいな”と思ったんですよね(笑)」

――ムスターシュの「これは余談だが」ってセリフですね。

「ちょっとパラレルワールド的な意味合いもあるんですよ。別の世界のお話ぐらいの気持ちでとってもらえたら、こういう1stアルバムもあったかもしれないみたいなね、そういうのもあるし、こういうグレイテストヒッツがあったかもしれないとか」

――楽曲ももちろんなんですが録音がいいので、歌詞が明瞭に聴こえますね。

「そうかも。昔は僕も歌もここまで歌えてなかったし、今でも上手いと思ってませんけど、最初の録音よりかはちったあ、上達してんだろうって気持ちになってますね(笑)」

――歌が聴こえるというのは腑に落ちる感がありますね。では、最近スカートを聴き始めたというリスナーにはこのアルバムをどう紹介しましょう?

「単純にそういう人たちにはこういう古い曲があるんだよっていうのを提示したいですね。昔から聴いてくれてた人はふつうにに真正面から楽しんでほしいし。新しく聴く人たちも、昔からの僕を知ってる人も、これから知る人にも全方位に向けてできたアルバムに結果的にはなったかなと思いますね。なんか難しいんですけど、ちょっとベスト盤ぽい性質があると、どうしてもなんかね……それまでのファンに向けてとか、これから好きになる人もこれを聴いてくれればみたいな、なんかそれともちょっと違うし、ほんと説明が難しいんですよね、このアルバム」

――これまで聴いてた人にとっても今のこの音像で聴けるのが喜びでしょうし。

「だといいなあ。でも“あのジャミジャミの音がいいんじゃん!”とか言われたら、“僕もそう思います”しか言えなくなっちゃうんですけど(笑)」

――それはその頃のそのリスナーの思い出も含まれてるから。

「そうそうそう!それでもなお、“曲を聴いてくれ”って、より強く言えるようなものができたかなと思いますね。“こんないい曲があるんだよ”って改めて言える感じはする」




――実はこのレコードも生々しいので。バンド好きな人にしっくりくるのかなと思います。

「なんでこのアルバムを作ろうかと思ったところがもうひとつあって、今みたいな環境でレコード作れるのっていつまでなんだろう?ってね。思ったわけですよ」

――確かにスタジオも減ってきてますし。

「スタジオも減ってるし、聴く人も減るんじゃないかと思って。こんないい環境で録音スタッフ、メンバー含め、いい時期にやれることはやっておきたいって気持ちはありましたよ」

――レコード芸術というか。

「そうそうそう。ね?来年ポニーキャニオンさんが“君たち売れないから、もうやめてくれよ”っていうのも全然あるじゃないですか(笑)。やっぱりポニーキャニオンさんのチームだから宣伝もしてくれるしね。「エス・オー・エス」とか「ストーリー」とか、カチュカサウンズの4枚ってのはまともなプロモーションなんてひとつもしてないんですよ」

――またここから10年、20年付き合える曲ばかりなので。

「そうそうそう。だからこそ、こうなんていうか、今やっとかないと!って思ったんですよね」

――いつ作れなくなるかわからないですし。

「そうそうそう。もうCDなんて売れない!CD出しません!とか、まあ、ないと思いますけど、そういう感じになりかねない売り上げなので、バンドとしては(笑)。それにCD好きなんですよね、意外と」

――フィジカルで聴いたらさらに細部まで聴こえて気持ちいいですけどね。

「そういう気持ちでこっちは作ってるんですよね。やっぱ曲だけだと弱いと思っちゃうんですよね。そのサブスク解禁するしないでめちゃくちゃ悩んだ時期があったんですけど、スカートの古い作品はコレクターズアイテムとして楽しんでもらって、ちょっと悲しいけれどサブスクとかでこういうのを聴いてよって気持ちはある。それでみんながいいんだったら、それでいいよって(笑)」

――それでも広がる曲だと思いますけども。

「だといいなと思ってはいます。もうちょっとパッ!とこういうアルバムで、って言えたらよかったんですけど」

――なんて呼んだらいいのか分からないアルバムが出来たというのが……

「正直なところなんですよねえ」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/中村 功



スカート
スカート『アナザー・ストーリー』
2020年12月16日(水)発売
CD+Blu-ray/PCCA-04982/4,950円(税込)
CD/PCCA-04983/2,750円(税込)
ポニーキャニオン




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