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――『2020』というタイトルはコロナ禍以前からあり、楽曲もあったそうですが、このタイトルが示唆するものは佐々木さんの中にあったんですか?

「いちばん最初はa flood of circleの歴史そのもののことを考えてたっていうか……世の中にどうアピールするかみたいなことじゃなくて。なんでかって言うと、去年、ギターのアオキテツが入って初めて『CENTER OF THE EARTH』っていうアルバムをメンバーとして向き合えて作れたって感じなので。それまでのイギリス行ってみようとか、外に刺激を求めて新しいもの作るって感じじゃなくて、メンバーが固まったわけだから、自分たちに向き合ってなんかやってみようみたいな気分もあって。だから対外的に何か意識して取り込んで作るって感じじゃなくて、ホントに自分から出てくるものとか、メンバーのふだんの会話から“あ、こういうことしたいのかな”ってキャッチして、曲を作っていく気持ちだった。だからタイトルを考えるときも、フラッドの歴史上で考えて、まだ数字のタイトルがないなと思ったんですよ(笑)。それだけで去年のうちに『2020(仮)』って付けて進めてたので。でも、いまとなっちゃ、コロナ的なこともそうだし、意味が乗っかりすぎてる言葉になったかなと思いますけど」

――a flood of circleというバンドがずっとロックンロールをやってる理由も聴こえてくるというか、音像にも新しさを感じます。

「ありがとうございます。その辺はタフにしてるかも。自分たちのやってることの、いいところをちゃんと成長させればいいだけだと思ってたんで。前より良くなってると思うし、突飛なことしてるって感じじゃないと思うけど、タフな音になってると思います」

――佐々木さんのボーカルにアルバムの多彩さの伏線を回収する強さがあるわけですが。

「ははは!」




――M1「2020 Blues」とM2「Beast Mode」は音像やテンポが近いので、豪快な走りだしって感じがします。

「テツが入ってからのa flood of circleみたいなものをメンバーで話し合って“これがa flood of circleだよね”ってわざわざ言葉で確認しあったってことじゃないんですけど、さっきも言ったように彼らがリハとかライブの隙間とかにぽろっとヒントをくれるんですね。“こういう曲やりたいな”とか、“これはできない”とか“やりたくない”みたいな……それをやってくとだんだんフラッドに求めてるのが、そういう元気なやつとか(笑)、速いビートとかうるさいギターとか、条件がなんとなく見えてきてたのでそれから作ったって感じですかね」

――面白かったのが、「天使の歌が聴こえる」にしても「Free Fall &Free For All」にしても、ちょっとカウパンク的な要素があるけど、ジャンルより映像が見える仕上がりで。

「うれしいです。自分たちが好きなジャンルわけしていったらいろんな名前のものを取り込んじゃってるというか、やってるかもしんないんですけど、あんまりその通りにできないっていうか(笑)、それでいいかなと思うし。自分はふだんラップも好きで聴くし、もっとチャレンジングにジャズみたいに複雑なコード進行の曲とかトライして作ってみようとか思うときもあったけど、それはまたメンバーが求めてるものを意識すると必然的に自分たちがやるべきルーツとか、どういうものを取り込んでくるかが自分の中で見えてくるとこがあって。だから、もし借り物のアイテムとかジャンルとかやっても、その4人でやるとフラッドになっちゃう。それが昔はちょっと嫌なときもあったけど、来年15年目となってくると、もはやそれが武器だとしか思えなくなってくるというか。そういう風になってると思います」

――例えばタイプとしてカウパンクの曲だと、終わりまでなんとなく予想できるんですけど、この曲はそういう感じじゃなくてどこに行くのか分からない面白さがあります。

「ほんとはもっとそれがやりたくて。まだちょっと、さっきの言葉を借りると伏線回収したがっちゃうところがある気がしてて。なんか映画とかで、“最後の5分間でどんでん返しが来る”みたいなプロモーションって嫌で。どうでもいいなと(笑)。もっと最初から最後まで俺は浸りたいってタイプで」

――プロセスに?

「そうなんです。伏線回収がうまいのもいいことなんですけど、自分的にはもっと予想外でもっとなんじゃこりゃ?でもいいと思うので、それはもっとできるようになったらいいなと思います。メンバーといっしょにいて予想だにしなかったところまでたどり着けてたらいいなと思うんですけど、まだ予想の範囲内だったり、ちゃんと仕組んだ台本をやっちゃってるところがあると思うので、もっと突き抜けられたらいいなと思って。ちょっとそれが言い訳がましいけど、これが完成形って思えてなくて。テツが入った最初のアルバムが前回で、今回2枚目で次の作品ぐらいで今のメンバーの手札、手持ちものが出し切れたらいいかなと思って。で、完成したらロンドン行くでもなんでも、違うアイディア取り入れるみたいなことやってもいいと思うんですけど、良くも悪くもまだこのメンバーの完成形を探してる。それはまだ行けそうだなって気はしてます」




――ひとつのロックンロールバンドがやることとしては情景に幅があると思いますし、それでもフラッドの色に染まるんだなと。

「だからバランス取っちゃってるんだと思うんですよね。初めて曲順を決めてレコーディングに臨んでたので。そうすると自然と何曲か録ったときに、この曲のイントロはこうで、この曲のアウトロはこうでって決まるから、まだやってないイントロにしようとか、まだやってないビートにしようとか、後、すげえ細かいんですけど、曲のキーがドレミファソラシドってあって、ドとミとファのキーがあるから、次はソにしようとか(笑)……そういう細かい幅。そういう積み重ねが大事かなと思って。そういうのはやっちゃってるかな。バランスとるって意味では」

――何が足りないみたいな気持ちになる?

「そうですね。とりあえず今回それをやってみようかなと。ホントに毎回違う作り方してもいいはずだし。最近、よく言ってるのは普通の会社員だと定年退職決まってたりとか、契約社員だったらここまでやるって決めているかも知んないけど、バンドメンバーって、そんな約束してないから、暫定死ぬまではやる、健康なうちは死ぬまでやるはずだと思うと、これからもいろんなやり方していいはずだし。いろんな作り方があっていいしって思ってるから。ま、今回はそれやってみようかなと思っただけっちゃ思っただけなんですけど。」

――バンドなので、ある程度の制約はあるでしょうけど。

「バンドは制約が大事だなと思うので。制約がある方がいいアートできそうというか。メンバーが器用じゃないとなと思うんですけど、こういうものを作るから、こういうパーツを考えてって振った方がアイデアが出てきそうなタイプなんですよね。今日はボールがあるから、ボールでどう遊ぶか考えようみたいな。ゼロから遊び方考えるとみんなわかんなくなっちゃう。だからこの楽器しかなくて、この声しかなくて、その中でマックス面白いことをどう考えるかってとこがたぶん、バンドには向いてるのかなと。制約は大事だと思います」




――今回、歌詞の世界にある意味、ジュブナイル小説を読んでいるような感覚を覚えました。

「そうですね。自分でもティーンっぽいなと思います。てか、どんどん大人になれなくなってきてる気がする(笑)。歌詞もどんどんそうなってきてる気がするな」

――すでにあるものが嫌ってことを歌ってると思います。

「うん。政治的なこともそうだし、なんかバイデンとトランプの話し合いとかも、やっぱ分断って言葉があまりにも当たり前になりすぎてるし。みんなどっちかの立場に決めた方が楽なんでしょうね。もちろん意見があるっていうのはすごくいいことだし、誰かを守るときって、誰かが敵になっちゃうから戦わなきゃいけないところもあると思うんだけど、たぶん子どもでいるってことは立場を決められないってことだと思うんですよね。でも立場を決めらんないからこそ、分断の間にいられることもあるかもしんないと思うので。何かに自分を当て嵌めすぎたりとか、立場を決定しすぎることをしなくていいってのが、ぎりぎりアーティストのいいとこだとしたら、やっぱそこはジュブナイルでいいのかなって、思ってますけどね」




――ひたすら駄々を捏ねるのはロックンロールだと思うんですけど、そういう意味では「欲望ソング(WANNA WANNA)」とかはそういうところが出てると思います。

「じたばた感出ちゃってます。なんかじたばたすることを最近ポジティブにっていうか、そうですね……それはあるかもしれない。もっとみんなじたばたしてもいいんじゃない?と思うときもあるし」

――めんどくさいからじたばたしないのかもしれない。

「割り切る方が楽だし。SNSとかに匿名で恐ろしい言葉をいっぱい言ってる人たちって、何か“割り切れよ”って主張してくる感じがあって。本名で本音を言ってる時はそんなに割り切れないこといっぱいあるはずなのになって思うから、なんかそういうことを書いてるかもしんないんです(笑)」

――割り切れなさに押しつぶされない感覚をもらえるアルバムかなと思いました。で、佐々木さんはソロ活動ではラップもやってらっしゃいますが、「欲望ソング」のトラップに載せるようなフローだったり……

「ああ、やってますね、三連ぽいところ?」

――あれ、いいですね。

「ありがとうございます。ロックンロールって歴史がありすぎるし、先輩もいすぎるし。そのバランスを最近思うことがあって、まんまチャック・ベリーみたいな50年代のロックンロールをやるのをロックンロールとしたら、もうとっくにロックンロールじゃなくなってるとも思うけど、それはもうすごい人がいるわけだから、どうぞやっといてくださいと。それを俺がやっても意味がないなと思うと、ちょっとそこもアンビバレントなのかも知んないけど、ルーツも好きだし先輩も好きなんだけど、それを全部捨てて何かやるっていうこともあんまり面白いと思えなくて。過去のこと引き受けながら新しくしてくみたいなバランスは考えちゃうんで。革ジャン着て三連のトラップのフローをブチ込む人はいないだろうと思って(笑)。まあ、自分なりのボケというか、ユーモアなんですけど。それは聴いて笑って欲しいとかいうほどのものではないけど、散りばめてるから。変なとこに着地したいみたいな、映画の例えと同じで。きっとこうなるだろうっていうのをちょっとでも裏切れると楽しいかなと思いますけどね」

――一回聴いて“えっ!?”って思うと、逆に印象に残るので。

「ジャンルってルールっぽくなってきちゃうというか。この辺、社会的なルールもそうだと思いますけど、昨日まで確かによかったルールもあると思うし、それが更新されてもっと意味のあるルールになったら最高じゃんと思いたいから。ルールがあるのは知ってるけど、どうやって塗り替えるかとか、よりよくするためにどうするか考える。もし自分が音楽的にいいルールを発明できたらいいなと。発明家になりたいなと思うし。それがもしできたら、この世の中にももしかしたらまだ発明的なルールがあるかもって思えるんですよね。文化に意味があるとしたら。だから発明家になりたいと思います」

――なんでもありのミクスチャーじゃなくて、自分にとって必要なエッジを獲得しに行ってる感じがします。

「そういうのができたら面白いと思うんですけどね。昔、山形の街にライブしに行った時に、楽屋に90年代のファッション誌がずっと置いてあったんですよ。裏原の頃でアメカジミックスって言葉が書いてあって、その頃はすごく斬新なミックスだったんですけど、今見ると普通だなと(笑)。そう思うと、このメゾンキツネのキャップと革ジャンも合わないはずだなと思うけど(笑)、下手するとスーパーダサいんだけど、うまくしたら発明かもしれないみたいなことはやっぱ興味ありますね。なんか服でもなんでもいいんですけど、そういう人見ると感動しちゃうっていうか。チャンス・ザ・ラッパーもそうだし。昨日までの自分の常識だとそれはなかった、なしだったことがアリになった時の感動って、マジすごいと思ってて。それは今もすごい興味あります」

――今はHIP HOPのビリオネアがファッションアイコンですからね。

「それは音楽的なギャグセンスと近いと思ってて。ジョン・レノンがNEW YORKって書かれたタンクトップ着て、丸いサングラスしてるのとか、たぶん当時“ギャグセン高いな”とみんな思ったはずなんですよ。それがカッコよさになってるというか、ちょっと笑えるぐらいのチャーミングさになってる」




――ファッションの話は腑に落ちますね。そしてこのアルバム、豪快に飛ばしていくだけじゃなく、ラストに「火の鳥」が入ってることによって、締まりますね。

「まさに「火の鳥」はバランスとってて。いちばん最後まで曲を詰め込んできて、もし「火の鳥」がなかったらもうちょっと小さいっていうか……スケールが大きい小さいは良し悪しじゃなくて、そういうものだっていうだけでどっちでもいいんですけど、今、フラッドでやろうとしてるもの、前作の『CENTER OF THE EARTH』から流れてきて、最後なんか大きい曲が来て欲しいなと思ったんで」

――ドラマチックですよね。歌詞の“マシンガン向けられたことがあるんだぜ”って人は実際にいたんですか?

「そうです。逆に11曲めまでは全部ドラマ入ってるけど、「火の鳥」だけはドラマじゃなくて自分のこと書いちゃいました」

――自分に起こった出来事とともにあった音楽のようなものが思い浮かぶんですけど。

「そんな感じですかね。これもジレンマみたいなことで、バンドのメンバーの話聞いてやりすぎてると、フロントマンでボーカリストなのにインサイドの自分はそれでもいいと思ってるけど、もう一人、客観的に見てる自分が“おまえ、それじゃ弱くね?”って言ってて(笑)。で、こいつの意見を聞くと、自分をちゃんと曝け出してる、そういう曲がちゃんとないと弱いんじゃない?なんか説得力ないんじゃないか?と思っちゃう自分がいて。その声に従って書いたらこうなったって感じなんです。自分の経験と、今回は“歌”の歌が多いんですけど、“歌”って歌詞が出てきたり、なんとかブルースとか、ローラーとか、狙ってそうしたわけじゃなくそうなっちゃったから、アルバムを締めくくるには自分をさらけ出して、かつ“歌”ってテーマで書ききることは必要かなと」

――11曲目までは主人公は最終的に明るく突き抜けていける、でも「火の鳥」は自分がどうにもならない時に必要な歌、そういう存在の曲なのかなと。

「今んとこそう感じてるかな。永久につかめない、音楽って空気の振動なので現実的につかめないってのもあるし、モノにしてないっていうか。手塚治虫の「火の鳥」って永遠にモノにできないんですけど、そういう感じかな。でもそれが大事っていうか」

――概念みたいなものかもしれないけど。心の中にないと終わっちゃうものかもしれない。

「そうですね。掴めないことがすごい大事で。10年前、バイトしてた頃より今の方が金もらってるけど、そこで掴んだものってあってもなくてもいいような(笑)。いちばん大事な音楽を続けるとか、何かを作り続けるとか、物事をもっとよくしたいってモチベーションがあるってことは、やっぱまだ掴めてないって思ってるのかなと。それは忘れたくないなと思いますね」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/桜井有里




■「音ナ図鑑」2020年10月19日~10月25日のゲストはa flood of circleの佐々木亮介!(music.usen.com)





■a flood of circle"2020 LIVE"
11月25日(水) 恵比寿LIQUIDROOM





a flood of circle
a flood of circle『2020』
2020年10月21日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/TECI-1699/4,800円(税別)
通常盤(CD)/TECI-1700/3,000円(税別)
Imperial Records




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