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──InterFM897の「TOKYO MOON」が2020年で10周年を迎えました。

「まずは続けてこられて良かったと思っています。とにかく、あっという間でしたね。10年の間に曜日や放送時間帯、番組枠と、いろいろと変更がありましたが、ここ何年かは現在の日曜日の夕方5時からの放送に落ち着いているので、聴きやすくなったのかな。まあTOKYO MOONだから、時間的にはちょっと早いのですが(笑)」

──今回、「TOKYO MOON」の10周年を記念して、番組と連動したグループ展「somewhere not here」を開催しましたが、ラジオ番組とアート展というコラボレーションを立ち上げた理由を教えてください。

「今回のアート展に関しては、元々はアーティストの石浦 克さんからお話をいただきました。彼がこの時期に会場になったBRICK&MORTARでご自身の企画を考えていた事もあったのと、コロナウイルスによる自粛期間中に彼とやり取りをする中で“10周年を形にしてみませんか?”という話になり、それが“松浦俊夫の音楽選曲活動を支援するプロジェクト”というクラウドファウンディングの立ち上げのタイミングでもあったので、それであれば出展してくださるアーティストの作品をドネーションの一部にする企画になったんです。

クラウドファウンディングって、普通はTシャツを購入して支援みたいな形が多い気がしていまして、ただそれだけはしたくなかったので。それならアートの方が私的には合っているのかなと。実際にトレードして、その対価として支援金としていただくという形で、クオリティに関してはきちんとした物をお渡ししたかったんです」

松浦俊夫

「somewhere not here - TOKYO MOON 10th Anniversary Exhibition」の会場となったBRICK&MORTAR 中目黒店

松浦俊夫

■松浦俊夫(まつうら としお)
1990年、 United Future Organization (U.F.O.) 結成。 5作のフルアルバムを世界32ヵ国で発表。2002年のソロ転向後もDJとして国内外のクラブやフェスティバルにも参加。またイベントやファッションブランドなどの音楽監修も手掛ける。2013年、現在進行形のジャズを発信するプロジェクト、HEXを始動。アルバム『HEX』をブルーノートからリリース。2018年、イギリスの若手ミュージシャンたちをフィーチャーした新プロジェクト、TOSHIO MATSUURA GROUPのアルバムをワールドワイド・リリース。InterFM897「TOKYO MOON」、Gilles Peterson’s Worldwide FM「WW TOKYO」などのレギュラープログラムがある。



──今回のアート展の参加メンバーを紹介していただけますか?

「サイモン・テイラーはTOMATOの中心メンバーで、80年代後半、私がまだクラブキングのスタッフだった時に会ってからの付き合いなんですが、U.F.O.時代にはアルバムをはじめ、2016年にリリースしたディスクガイド「TOKYO MOON」のアートディレクションなども手掛けてくれています。

ノーバート・ショルナーは、サイモンからの紹介で知り合ったフォトグラファーで、1993年にU.F.O.のファースト アルバム『United Future Organization』をロンドンでレコーディング中にセッションしたのが初めての出会いですね。

TAKAYは私がロンドンに送り込んで、その後ノーバートのアシスタントになることで海外でのキャリアがスタートしたフォトグラファーです。いまはニューヨークを拠点に活躍しているのですが、先日、俳優やアーティストが山本耀司さんの洋服を着るという写真集の展覧会のために東京に来たら、コロナウイルスの影響でニューヨークに帰れなくなってしまったという……それでちょうど日本にいるのでお願いしました」

松浦俊夫

ノーバート・ショルナー、サイモン・テイラー、TAKAY、村上 周が手掛けたTシャツはクラウンドファンディングのリターンのひとつ



──映像作品はMVという感じでしょうか?

「映像は、展覧会の中心人物でもある石浦さんの作品で、私のユニットであるTOSHIO MATSUURA GROUPの新曲MVになっています。彼から自分の映像作品とセッションしたいという話をもらって、ちょうどこちらも新曲があるので、それだったらMVとして作りましょうという事になりました。こちらは「アートにエールを!東京プロジェクト」にも応募した作品なんです」

──松浦さんは、ご自身の曲やDJを映像とコラボレーションして、それをひとつの作品として発表される事が多いですよね?

「今回、会場からの配信企画のDJでもVJが入っていますが、音楽自体はどちらかというとポップスではないので、視覚的な部分がいっしょに出た方が、先入観なしで聴いてもらえるのかな……という考えがあります。2018年にリリースしたTOSHIO MATSUURA GROUPのアルバムの収録曲である「LM Ⅱ」では、アーティストの水野健一郎さんから作品のフッテージであるアニメーションの動画を借りて、それを編集して、新しい作品としてリミックスみたいな感じにしてみたんですよ」

松浦俊夫

2016年刊行のディスクガイド『TOKYO MOON』のアートディレクションはTOMATOのサイモン・テイラー



──伊藤桂司さんも昔からのお付き合いですか?

「実は昨年ここで石浦さんの展覧会があった時に初めてお会いしました。伊藤さん自身が音楽も好きで、私のラジオ番組も聞いてくださっていたみたいで、それだったら伊藤さんにも参加をお願いしたいと。伊藤さんは、U.F.O.を初めて聴いた時期、94年とか95年のご自身の作品をセレクトしていただきました」

──長谷川踏太さんとは?

「2000年くらいにTOMATOのスタジオに遊びに行った時に、新しく入ったメンバーとして紹介されたのが初めてかな。その後、VJでツアーとかに参加してもらったりしました。彼のようなちょっと捻っている人というか、何か笑わせてくれるような感じの作品も欲しかったので。ただ、彼の企画で「盗めるアート展」という展覧会が始まった時期でしたが、初日にすべて盗まれて終了してしまって。それでこちらに参加していただける事になったので良かったなと(笑)」

松浦俊夫

8月9日、BRICK&MORTARで行われた無観客インスタライブ

松浦俊夫

DJに松浦俊夫、VJは石浦 克と悳 祐介という布陣



──松浦さんにとって、ラジオは重要なファクターのひとつでしょうか?

「特にヘビーリスナーだった訳ではないのですが、ロンドンのラジオの影響は受けていて、それは発信する事というか、音楽を中心にした番組という部分ですが、日本にはまだそういう番組が少ないと感じていたんですよ。それで大人が聴けるモダンな音楽が流れる番組として「TOKYO MOON」を始めたんです。それが10年間も続けられたという事もあり、リスナーにもそういう聞き方がある程度浸透したのかな、という気はしていますね」

──松浦さんは店舗用BGMサービス「OTORAKU」で、春夏秋冬の季節ごとにプレイリストを手掛けていますが、そのテーマと選曲内容を教えてください。

「やはりBGMという事で、空調の様に音楽を空間に漂わせて、そのお店なりの雰囲気を醸し出せるようなものになって欲しいという考えから、「Music Air Conditioning」という言葉をテーマにしました。選曲はシーズン毎に2パターンのプレイリストで大体100曲程度を目安にというオーダーでしたので、半分をその時のフレッシュな音楽を選曲し、もう半分はその時々でテーマを決めています。たとえば、現在公開されている夏編だと「Club Jazz History 1980 - 2020s」という感じで、クラブジャズ・クラシックですね。契約されている業種は飲食店と美容室が多いとお聞きしていまして、世代的にもそういう音楽を聴いてきた方が多いのかなという考えで、そんなテーマでまとめています」

松浦俊夫

ライブペインティングは村上 周



──どのように選曲されているのでしょうか?

「使用可能な楽曲が限られているので、そのなかでどうやって納得できるところまで落とし込むかを毎回試行錯誤しながらやっています。“何かを探す”という新しいゲーム的な……そんな感覚ですよね(笑)」

──次回は秋編のプレイリストですが?

「食欲の秋なので、飲食店さんを応援できるような感じ、とは考えています。ここ最近、やはり飲食店さんにとっては厳しい状況が続いている事もありますし、お店にいらしたお客さんにも食事している間くらいは楽しい雰囲気を感じてもらえるよな、そんなお手伝いができればいいですよね」



──松浦さんのなかで、DJと選曲家、どちらに軸足があると考えていますか?

「いま、この段になって思うのは、DJよりも選曲家に近い活動という気がしています。“自分の中でこれが良い曲だからみんなに聴かせたい”……そんな感覚に近いですよね。80年代にクラブに行き始めた時、カメラマンやスタイリストがDJをやっていて、自分のライブラリをシェアするという部分からそのカルチャーに入っているので、その部分は変わっていないかな」

──日本のみならず世界中の音楽シーンが閉塞した状況にありますが、今後の松浦さんの活動において、なにか目的や目標はあったりしますか?

「先が見えないだけに、臨機応変に対応しながら、そのなかで自分のやりたい事をどう形にしていくのか。そういうバランスとの勝負の時期かなと考えます。いまでのやり方は通用しないですし、どんな形でもとにかく生きていかないといけない。かたや何か表現するという事は必要だと考えています。だから、ルールがあった時よりも、ルールがなくなったいまの方が我々の真価が問われるし、生きてくるのかな……ピンチをチャンスにというのは、こういう事だと思いますね」

(おわり)

取材・文/カネコヒデシ
写真/柴田ひろあき
協力/BRICK&MORTAR 中目黒店



松浦俊夫

エキシビジョンに参加したアーティスト、インスタライブのクルーと

松浦俊夫

BRICK&MORTAR 中目黒店



■カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。「Japanese Soul」主宰。音楽イベントの企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、イベントのオーガナイズ、ラジオ番組制作&司会、選曲、DJなど活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に駆け巡る仕掛人。





BGMアプリ「OTORAKU -音・楽-」 “Music Air Conditioning” Curation by 松浦俊夫



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