<PR>
J-POPフリークの音楽アプリ「SMART USEN」



――まずシングルのお話から。「駆ける」は曲だけ聴いてまさか箱根駅伝のCMとは思わないだろうなという飛距離がありました。

「うれしいです(笑)」

――そもそものきっかけって?

「博報堂ケトルの林 希さんというクリエイティブ・ディレクターの方がスカートを好いてくれていて。去年出た『トワイライト』の中の「あの娘が暮らす街(まであとどれぐらい)」っていう曲のMVを撮ってくれた方だったんですね。その方から“こういうのやるんだけど、ちょっと1曲書いてくれない?”と。そういう感じで始まりました」

――そうだったんですね。お題は箱根駅伝ということで、そのあたりは意識されましたか?

「意識もしたし、たとえば“テンポはあの曲のあれぐらいのテンポ感がいいですかね?”っていう打ち合わせを1回したんですけど、でもなんか気持ちをうまく持ってけなくて……最初は。そんな大袈裟にぐん!と上がる感じじゃないんですけどね。でも“そういう感じでやれたら……”みたいな。でも“テンポは目安なんで”って、そのとき言われたこともしっかり覚えてたんで(笑)。とにかくそれで1回、そういうのはなし!自分のための新曲を書くぞ!と。それで頭を動かして、そっちに行こうと思ったんですよね。そうしたらあれよあれよという間に“おお!これはいい曲だ”っていうのができてしまって。じゃあこれを出してみようと思って、形を整えてから聴いてもらったら“いいと思います”みたいな感じだったんで、助かりました」

――非常にボトムが低いというか、イントロからその重さに誠実さを感じる曲で。歌詞も端的ですし。

「そうですね。メロディがこんなに少ない曲とは思ってなかったですね」

――澤部さんが完全に自分の新曲として作ろうとなったマインドや音楽的なモードがこういうものだったと。

「うんうん。リフっぽく聴こえるけれど、でもちょっとひねくれてる感じもあって、コードとか進行に。それはすごい気に入ってますね」



――内容としては箱根駅伝というところに紐付けなければいけないわけで、そこはいかがでしたか?

「でも結構ドラマっぽい内容だったんですね。CM自体が。だから変に駅伝に囚われるよりかは、そのドラマで描かれてるものの心情を……みたいな感じだったと思います」

――CMは、箱根駅伝にフォーカスしてるんじゃなくて、それを見ている男女の視点ですもんね。そしてこの“痩せたアスファルト”というフレーズが秀逸です。

「それはうれしいです。僕もそこは“ああ、やった!”と思いました」

――このイメージはどこから?

「単純にあまり手入れの行き届いていないアスファルトの道というかね。なんかたまにこう、東京とかでも車で走ってて、きれいに舗装されてるところはすごい舗装されてるんだけれども、そうじゃないところもあるじゃないですか。なんかそういうのを見て、その“痩せた大地”みたいな言葉の対比じゃないんだけども、何かそれに替わる言葉になるのかも……と。アスファルトが痩せることってないと思ってたんですけど、なんかだんだん時間が経つにつれて“あ、そういうものもあるかもしれない”みたいなね。それと、自分の心の手入れの行き届いていない部分だとか、そういうものを重ねたつもりです」

――しかもギターサウンドも素な感じの自然な歪みだったりして。それでも洗練されてるように聴こえる理由ってなんなんだろう?と思って。

「あ、うれしい。そうですね……どこなんだろうな?でもAメロはかなり屈指の出来ですね、スカート史上(笑)。この曲、サビが1回しか出てこないんですよ。でもAメロは2回出てきて、それも最初のAメロと全くいっしょってわけじゃなくて……2/4拍子が最初のAパートに入るんですけど、2回目は入らないんですよね。そういう細かい変なことをやったりして。それがうまくできたなあと思いますね」

――歌詞も1番は「諦めて前を向くよ」なんですけど、2番はもう一歩進もうとしている。

「うん。そうそう。追い詰められてるとまでは言わないんだけど、繰り返しじゃないみたいなね。そういうものは結構、意識はしたかもしれないです。そういうドラマというか、CMの内容を見てなのか……自分でも分かりませんけど。でも結局は冒頭のリフに戻ってくる、みたいなね。でも終わり方はちょっと違う。そういうことができてたらいいなと思います(笑)」

――箱根駅伝にまつわるいろんな境遇の人がいるわけですが、この曲のふたりは自分ってどういう人だって決めちゃった印象があって。

「なるほどね。そうかも。自分でつけてしまった枠にどう折り合いをつけるのか?みたいな、そういう曲かもしれないですね」

――「駆ける」って動詞じゃないですか。珍しいタイトルだなと。

「そうですね。あんまり今までもつけなかったし、なんかスタッフからも“そんな駅伝に寄せたタイトルじゃなくて大丈夫ですから”ってメールが来たんですけど(笑)。“いや、そこはもっとスカートっぽくやっていいんですよ”って言われて、いやいやいや!これでいいんじゃないかなと思って」

――この曲で描かれてることから立ち上がってきた言葉なんですか?

「そうですね。“痩せたアスファルト駆ければ”っていうのが、やっぱこの曲でいちばん表現したかったっていうと変ですけど、なんかそういうものになった気がして」

――二重の比喩になってると思って。痩せたアスファルトもイメージできますし、駆けるってことをたぶん、この歌の主人公はしてなかったんだろうし。

「うん、そうかもしれない。やっぱそうなったときにいちばん大事なのは、この“駆ける”って言葉なんだろうなと思って」

――簡単な言葉で言うとリスタートなのかもしれないし。

「ああ、ね?“たどりつくかな?”って自信のない感じもいいなあと思ってますね」



――シンプルな分だけピアノ一音入ってくるだけでも、すごく景色が変わってきますね。

「そうなんですよ。やっぱりあまり派手な装飾を入れないっていうのは徹底してやってますね。だからこそいま言ったみたいなピアノの一音が効いてくるみたいなのがね、いいなあと思ったんですよね。そう、僕、去年か一昨年あたりでようやくプリファブ・スプラウトを聴くようになって」

――お、意外です(笑)。絶対通ってるって思ってましたが。

「そう。それでいま夢中になって聴いてるんですけど。なんだっけな?『ヨルダン・カムバック』に入ってる曲で、「All The World Loves Lovers」って曲があって。なんかそれのAメロのほんと“テロレロレロ”ぐらいしか弾かないピアノのフレーズがあって、それにすごい感動しちゃって。なんかそういうのは改めて考えた部分ではありますね」

――プリファブ・スプラウトはいわばブームじゃなくてずしりと歴史的な存在のバンドで。

「そうなんですよ。でも二十歳くらいの頃はわかんなかったですね。『スティーヴ・マックイーン』は昆虫キッズの高橋くんが好きで車でかけてたりしたこともあったんだけど、そのときはわからなくって」

――その中にある一個一個の楽器のことがわかってくると面白いみたいな?

「そうそう」

――そして今回、ダブルAサイドということで。しかも「絶メシロード」ってテレ東の十八番じゃないですか。「標識の影・鉄塔の影」はそれなりに主人公の背景も勘案して書いたんですか?

「そうです。これは完全にあてがきですね。「駆ける」は一度自分の目線に戻しましたけど、これは徹頭徹尾、ドラマに寄り添って書いたって曲です」

――ドラマの内容も、音楽好きのマスターがいるお店とか、ベタな回もありますけど、あまり寄り過ぎず?

「そうですね。あんまり。でも打ち合わせのときに言われたのが、週末で家に帰るときの感じ……みたいな話だったんで。そこはドラマの持ってるイメージに寄り添わないと絶対、変にエゴを出したらダメだなと思ったんですね。で、脚本とかも見せてもらって」

――車を走らせてどこかに行くタイム感がすごくあるなと思って。

「わりといい具合に――変な言い方ですけど、いい湯加減で――仕上がったという気はしますね。変に熱すぎず、冷たすぎず。そのくらいのものを求められてると思ったんですよ。なんかあんまりゴリゴリに“スカート、大名曲書きました!”みたいなのはちょっと合わない気がして。もっとなんか平常のプラスアルファというか、そういう感じなんだろうなと脚本とか読んで思ったので」

――それだけに「駆ける」はさらに独立した曲に聴こえますね。

「そうそう。だから「標識の影・鉄塔の影」だけだとたぶんシングルとして切ってなかったと思いますね。「駆ける」でまた何か新しいものを提示できる気がしたから“ああ、シングルにしてもいいんじゃないか”と思えたんだと」

――それぐらい「駆ける」は進行形の新曲であると。

「そうですね。これからのスカートみたいなのが――まだ分かりませんけどね――いまのムードではこれはでかいなと思ってます」



――なるほど。ところでこれまでの10年の活動の中で、澤部さんが思う大きな出来事やこの作品があるからいまのスカートがあると思う作品は?

「転換点っていう意味だと、やっぱ『エス・オー・エス』を出したっていうのは当たり前に大事ですね。これは最初500枚作って。1年経たずに売り切れたんですよ。こんな名前も知られてない僕の無名のCDを買ってくれるなんて!みたいに思ってて。“わ、うれしいな。もうちょっと続けよう”と思って。最初はやっぱりね、音楽で飯食えるとか思ってなかったから。しばらくフラフラして様子見て……みたいな、大学卒業して、フラフラして両親には申し訳ないんですけど(笑)。それでやってみて、その中で「ストーリー」って曲ができてっていうのがやっぱり大きいかな。うん、「ストーリー」ができたのはかなり大きいです」

――いまではライブの鉄板曲ですし。

「やると気持ちいい曲だし、歌ってても気持ちいい。「ストーリー」が思いがけず売れたっていうのは大きいですね。その、生活って意味でもバンドの態度って意味でも」

――バンドとは名乗ってないけれど、バンドになったことも大きいですか?

「そうですね。で、やっぱみんなサポートだっていうのがある種の強みだったのかなって気はしますね」

――ミュージシャンとして力を発揮してくれることが?

「そうそうそう!僕自身もそんなにコントロールフリークってわけじゃないので“じゃこういうコードでこういう曲なんでやってみましょう、ワン・ツー・スリー”みたいのがやっぱり、最初の頃――特に「ストーリー」の頃は――重要だったと思いますね。いまはさすがにある程度のデモを作って持っていくことはあるんですけど、でも『20/20』の頃とか全然、デモ作らなくて“ちょっとこういう曲なんですけど”ってやってましたね」

――ライブを見ててもパーマネントなバンドにない空気感というか、運命共同体的なバンドだと出ない空気を感じます。友達同士ではあるんでしょうけど。

「そうそうそう!いまだに楽屋とかではスタッフが引くぐらい爆笑してますからね(笑)」

――みんなが頼っちゃうと息苦しくなるんだろうし。

「ああ、そうかも。だからほんといい湯加減でやってますよ。ほんとは最初みんなそれぞれ“正妻”がいたんですよ(笑)。メンバーそれぞれバンドとしての正妻がいて、それがだんだんみんな止まっていくんですよね。昆虫キッズってバンドもやめちゃったし」

――そう考えると2010年代の真ん中あたりが分岐点だったのかもしれないですね。

「そうですね。遠くになりにけりって感じしますね」

――10年というのが長いのか短いのか。先ほどもおっしゃっていたようにサポートメンバーのバンドが活動休止したりしたことを考えると……

「ま、長かったんだろうな。やめた人の多さを見て、初めて長かったんだなって感じはしますね」

――音楽性だったりムードとかに反して、みんな生き残っていくにはなかなかハードなタイミングでもあり。

「そうなんですよ。不況なんでね(笑)」

――ちょうど2010年代の10年間ですね。

「うん。ぴったりね。ま、ずっとスカートは“永遠の過渡期だ”っていうのがあってあらゆるものの狭間っていう意識もあって。いま、20代後半のバンドの流れみたいなものには僕らはもう置いて行かれたし。逆にそれより前のムーブメントとかには自分は属せなかったっていう居心地の悪さもどっかであって。技術的な意味でも狭間だったしね。MySpaceからSoundCloudへ……みたいなね(笑)」

――確かにどっちに音源を上げるか、2010年ぐらいだと悩ましいタイミングですね。

「ほんとツイッターぐらいですよ、恩恵を受けたのは(笑)。でもツイッターもどんどん居心地が悪くなっていくし。使いづらい」



――最近は大物アーティストもストリーミング解禁される時代なんで、いまの10代の人なんかはどんな時代からでも入れる感じになってきましたが。

「まあね、それでいいとは思うんですけどね。それでなんかいままでCD買って聴いてくれていた人たちがストリーミングに流れていくのは辛いですね。何回も言いますけど不況なんでね(笑)」

――ははは!でもまあ、それまで音楽聴いてなかった人が聴き始めるのであれば……と?

「希望がありますよね。もう廃盤だとかそういうものを一切気にしない海に飛び込めるのはほんとにいいことだと思いますよ。ただねえ……」

――手放しではよろこべないところが澤部さんにはきっとありますよね。

「歴史とか情緒がね。やっぱブックレットでクレジットが見れないのが問題だと思います。どうしたらいいんでしょう?作詞作曲だけじゃなくて、誰が録音したとか、ディレクションしたとか、やっぱそういうのを見て、“このプロデューサー面白いからちょっと他の人のも聴いてみよう”ってなっていた自分を否定されるようで歯痒いです」

――ライナーノーツを読めるプラットフォームを作らないと(笑)。

「ははは!なんか自分たちが発信できる何かがサブスクには必要だと思いますね。セルフ・ライナー・ノーツとかそういうことじゃなくてね。クレジットとか、誰が演奏をしてるかとかね」

――4月には着席の会場でワンマンライブがありますね。

「そうなんですよ。この日本橋三井ホールは去年、カーネーションの公演があって――僕、見に行けなかったんですけど。見たかったなあ!と思って――座席でいうと700ぐらいなんですよね」

――傾斜がなだらかで見やすいし、幅広い年齢層の人がじっくり楽しめる会場だと思います。

「だから選曲も割と座って楽しめる曲……って感じにしようかなと思って。座りじゃないとできない曲もたくさんあるんで、スカートは(笑)。ちょっとそういう曲をやれたらなと思ってます」

――スカートほどいろんなセットリストを組めるバンドはなかなかいないと思うので、このホールライブは楽しみですね。

「そうですね。その振れ幅を今年は見せられたらなと思っています」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/桜井有里





■スカート10周年記念公演 “真説・月光密造の夜”
4月11日(水) 日本橋 三井ホール(東京)



駆ける/標識の影・鉄塔の影
スカート「駆ける/標識の影・鉄塔の影」
2020年3月18日(水)発売
PCCA-70550/1,200円(税別)
ポニーキャニオン


J-POPフリークの音楽アプリ「SMART USEN」



アプリのダウンロードはこちらから

Get it on Google Play
Get it on Google Play
一覧へ戻る