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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN
パリコレクションやワールドトレンドをリードするラグジュアリー系ブランドでは、前回同様にブランドの原点や特徴、デザイナーの得意とする表現や好きな時代に戻りながら、ノスタルジーではなく新しいデザインを提案したブランドや、リリースに「“Think we must. We must think” - 考えなければならない。私たちがすべきことを。」と書いた「ディオール」など、サスティナブルを意識したブランドやアースコンシャスの流れを意識したブランドが目を引いた。
また、サスティナブルへの取り組みを服のデザインやもの作りだけでなく、コレクション会場も含めて行うブランドも登場。「ルイ・ヴィトン」のショーで使用された木材はすべて、フランスにある持続可能に管理された森林から調達。装飾に使用された木材はすべて、ショー終了後、環境保護を目的として芸術作品のエレメントをリサイクルまたはアップサイクルすることを使命とする団体「Art Stock」とのパートナーシップの一環として再利用のために寄付される。ディオールのショーの舞台に現れた森は、都市におけるインクルージョンの原動力として園地栽培に取り組み、環境デザインを行うアーティスト集団「アトリエ コロコ」とのコラボレーションによりデザインされたもの。会場のロンシャン競馬場に植えられた木々は終了後には3つの長期プロジェクトに参加し、様々な土地の一部になるという。ミニマムとマキシマムなど相反する要素を組み合わせた「ミュウミュウ」など、ミニマリズムやリラックスなどのトレンドに対応しながらも、装飾性も共存させたコレクションも提案されている。
一方、未来に向かい、常にこれまでなかったデザインや素材、機能、新しい美の概念や伝統的な服への異議申し立て、アイロニーやメッセージを打ち出し、パリコレクションに刺激を与え続けてきた日本人デザイナーのコレクションでも、原点に回帰しながら新しさを生み出そうとするブランドやサスティナブルやアースコンシャスを意識したようなブランドが増えている。
「イッセイ ミヤケ」は、身体と一枚の布の関係という同ブランドの原点に戻りながら、服を着る楽しみや喜びを表現。「ヨウジヤマモト」も、これまでタブーとしてきた美に挑戦しながら、どこからどう見てもヨウジヤマモトらしいコレクションを発表したが、地球温暖化も意識し、軽さや着やすさも追求。フィナーレに山本耀司が着ていたジャケットの背中には「NO FUTURE」と書かれていたという。「サカイ」は様々な異なる洋服の要素を組み合わせて調和のとれたハイブリッドを生み出すという独自の路線を続けながら、世界地図や地球儀のようなモチーフなども取り入れ、異なるものの調和や共存、明るい未来なども表現した。「ノワールケイニノミヤ」も植物や果物を着てしまったようなデザインや山の化身のようなムードのドレスなど、アバンギャルドやフューチャリスティックとサスティナブルが共存したようなコレクションを発表した。「ビューティフルピープル」もパタンナー出身のデザイナーらしい原点に戻りながら、24通りの着方の出来るデザインを提案した。「アンリアレイジ」は日常的なデザインを新たな視点で捉え直し、アバンギャルドに仕上げて見せた。数年前と比べると日本人デザイナーの数は減っているが、そのパワーは変わっていない。
そのほか、ダイバーシティの流れも定着。根源的な力強さを表現できることや、中国の次の市場のひとつと言うことか。アフリカなどからの影響を感じさせる力強いデザインや、アフリカの自然や大地を思わせる色や柄なども続いている。ストリートやアバンギャルドとアフリカ的なムードをミックスしたようなものも多く、色もイエローやオレンジ、ブルー、グリーン、茶などが目立った。ブラック・イズ・ビューティフルとでもいうように、たくさんの黒人モデルを使うコレクションや、様々な国のモデルを登場させるコレクションも当たり前になっている。「マニッシュアローラ」のコレクションには障がいを持つモデルも登場した。
2020年まであとわずか。今求められているのは60年代に未来派と呼ばれたデザイナーたちがビニールやメタルを使って作ったドレスや宇宙ルックではなく、ミニマリズムともいえるデザインやリラックス出来る服。そして、古着やレンタルした服を着ることや、フリマアプリで服を売り買いするのが当たり前になり、サスティナブルがトレンドではなく、2020年代以降のキーワードであり、不可欠な要素とも言われる今。ファッションが消費するエネルギーまでもが問題になる中で、デザイナーやブランドは原点に戻りながら、新しいだけでも奇抜なだけでも、ノスタルジックなだけでもない、時代を超えて古くならないタイムレスなデザイン、シーズンで終わらず、アップデートできるデザインや素材だけのサスティナブルには終わらない、持続可能なデザインとコレクションを生み出そうとしているのかもしれない。
取材・文/樋口真一(ファッションジャーナリスト)
写真/各社提供(マニッシュアローラ、アン ドゥムルメステール、セドリック シャルリエ、クリスチャン ワイナンツ、マリーン セルは樋口真一撮影)