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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



[section heading="ゲストスピーカー"]

鈴木 春(バーニーズ ニューヨーク ウィメンズファッションディレクター)
幼少よりインドで育つ。コミュニケーションの大切さを感じ、小売業への興味を抱き、1989年のバーニーズジャパン立ち上げ期よりプロジェクトに参加。ウィメンズアクセサリーバイヤーを経て、現在はウィメンズのバイヤーへのバイイングイメージや、新規リソースを開拓するファッションディレクターとして日々世界を奔走する。趣味は読書と海、プール。

藤井かんな(エストネーション・ウィメンズ・ディレクター)
アパレル企業のプレス、バイヤーを経て、現職。 ウィメンズの商品コンセプト、シーズンディレクションなど方向付けを行い、オリジナル/セレクトの提案を強化する。セレクトのコアブランドやニューブランド選定、全体のスタイル提案などに時代潮流を読み取りながら取り組む。目下、チーム力アップが大きな目標。

[section heading="モデレーター"]

久保雅裕(encoremodeコントリビューティングエディター)
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

[section heading="時代変化と呼応するラグジュアリーの提案"]

――ともにラグジュアリーブランドを軸に、大規模な売り場を展開しています。何ブランドぐらいの取り扱いがあり、どのようにMDに落とし込んでいるのですか。

鈴木「ブランド構成を見直して少し絞り込んだところなので、ウェアで言うと80ブランドぐらいです。その中で私の役割は、バイヤーのバイイングをサポートすることと捉えています。様々な情報を収集し、取捨選択してバイヤーに伝えています。その時に大事にしているのが、ストーリー付けです。こういう流れが来ているから、この商品ではなくこっちにして、売り場ではこんなふうに提案したらいいんじゃない? という感じでストーリーを投げかけています。今は時代がものすごく変化していて、前年までは良かれと思ってやっていたことが、今年はあまりプラスに思われないこともあります。サスティナブルへの関心も高まる中で、贅沢な楽しみとして提案していたものが、無駄と捉えられてしまうかもしれません。そのような変化をいち早く察知してバイヤーにフィードバックすることで、時流に合ったお店になっていってほしいのです」

藤井「私はもうちょっと現場に寄ったポジションでしょうか。エストネーションはウェアで約100ブランド、雑貨も含めると200ブランドを超えます。現在はMDの再構築に取り組んでいるところです。そのコンセプトが”The Essence of Luxury”。時代に呼応した本質的なラグジュアリーのあり方をもう一回、見直して提案していく考えです。コアとなるブランドは初めにある程度設定して、モード/コンテンポラリー/キャリア/デイリーなど、テイストやシーンのポジションを明確にしながら、各バイヤーとコンセプトに沿ってブランドを選定しています。鈴木さんがおっしゃったような変化がある中で、お客様にとってのラグジュアリーの価値も変わってきていると思うのです。ライフシーンも多様化している中、”いつ、どこで、どんな人が着る?”といったスタイルを明確にしながら、”何を一番に提案していけばいいのか”を取り組んでいるところです」

――バーニーズ ニューヨークではどのようにブランドを選定しているのですか。

鈴木「買い付けの前にリコメンドシートを作成しています。新規と既存で取り入れたいブランドを一覧にし、今絶対に買ってほしいブランドから優先順位をつけていくのです。それをやりながら、バイヤーの声を聞いていきます。すると、”この前のリコメンドはイマイチだったんですけど”、”本当はニットが欲しいんです”、”スニーカーの新商品はありますか”など、いろんな声が返ってくるんですね。そうした現場の声を咀嚼しながらブランドやアイテムを選定し、バイヤーの欲しいものがない場合は追加で探しに行くという流れです」

――ともにラグジュアリーブランドを軸に、大規模な売り場を展開しています。何ブランドぐらいの取り扱いがあり、どのようにMDに落とし込んでいるのですか。

鈴木「ラグジュアリーブランドに関してはなるべくボリュームを持たせて、各ブランドのインパクトをかなりストレートに表現しています。それがバーニーズのコアです。セレクトショップでは一般に、例えばあるブランドのニットが1枚あって、その隣りに別のブランドのダンガリーのシャツが1枚あったりしますよね。お客様のクローゼットがイメージできるように編集されています。それはすごく響くのですが、バーニーズではラグジュアリーブランドに関してはそういう編集をしていません。バイイングも2ラックが基本です。2ラック以下でしか買えない場合は見送るというぐらい、店頭でのインパクトを重視しています。そのベースがあるから、カジュアルゾーンでは編集もできるし、新しいデザインにも挑戦できるのです。さらにオリジナル商品もあれば、アイテム編集もある。このようなミックスがバーニーズの強みです。それを維持していくハードルは常に高いのですが……」

藤井「エストネーションもスケール感は大事にしています。代表的なのが六本木のラグジュアリー・ブランドやデザイナーズ・ブランドのラインナップ。ここは、エストネーションの強みでもあり、世界中の今、これからを感じるファッションコンシャスで、着たい服、リアルランウェイ体験ができるみたいなセレクションを大事にしています。ただ、課題もあります。多くのシーンをもつお客様に向けて、お仕事や学校行事、食事会やリゾート提案など、さまざまなシーンやテイストをどう編集していくのか。その再構築へ向け、ブランド全体で”Beauty, Variety, Excitement”というテーマが掲げられています。バラエティーはスケール感とつながる大きな要素で、単にモノのバリエーションではなく、様々なシーンやテイストによるダイバーシティー。エキサイトメントは、トキメキやワクワク感。ビューティーには、当然、美しさ、美意識もありますが、ファッションを通して日々ハッピーになるという広い意味も込められています。多様な価値観を大事にするという流れがある中で、3つの軸を通じていかにラグジュアリーを提案できるか。そういう挑戦を始めています」

バーニーズ ニューヨーク六本木店にて

[section heading="セブランドの進化があって、一緒に前へ進んでいける"]

――バイイングやMDに携わってきて、この仕事が楽しいと感じることもあれば、悩ましいと感じることもあるかと思います。

鈴木「楽しさ、悩ましさは時代によって変わるというのが実感です。今はブランドの数がものすごく多いですよね。しかも一定のレベルをクリアしていて、粗悪品はほとんどありません。とは言っても、全部は買えないという悩ましさがあります。良いと思うブランドが5つあっても、2つしか入れられないとか。そのため、新しいものを買う時には取り扱いを止めなければならいブランドが出たり、短いスパンで結果が出ないとストックに入ってしまう商品もあります。実店舗だけに捕らわれず、頑張っている若いブランドと取り組む方法など、先を見据えて考えていく時期だと思うのです。EC、ポップアップ、イベント……。多様なチャネルを持っていないと、作っている人たちにリスクをお願いすることもできません」

――なるほど。逆に、楽しいと感じる時は?

鈴木「時代が変わったと実感できた時ですね。例えばスニーカーの種類が増えたり、スニーカーを履いて会社に行ってもよくなったり。ドレスもオールインワンで結婚式に行けるようになったり。そういうことをモノとして表現してくれる人たちがいて、値段的にもお客様が挑戦できるモノが出てきたりすると楽しくなります。女性の本当のニーズ、思っていたことを形にしてくれる人たちがいるということが、うれしい。  以前は、ファッションの世界にいる私たちは、上から目線だったと思うのです。そんなつもりはなかったとしても。”お客様に半年先、1年先はこうなります”とか、”これはヨーロッパの誰々が作っているから高価なんです”とか。それがある瞬間から、SNSの浸透は大きかったと思うのですが、お客様の方がよく知っているというケースも現れてきて。高級ブランドであっても、気に入らなければ買わないということもあります。そういうことがあって、作る側が買う側に寄っていったんですね。以前はデザイナーも概念的なことを言っていれば通ったけれども、今は着る人をイメージして物作りをするようになっています」

藤井「ファッションは時代を映す鏡と言われますよね。嗜好が変わったり、生活が変わったりする中で、ファッションの変化を感じたり、想像したり、予想したりしながら、新しいものを提供していくことが私たちの仕事だと思っています。新しいものと古いものがあって、両方に良さがありますが、ファッションは常に新しさや鮮度が求められるものです。そこを常に考え、探し、発見するというのはすごく楽しいことの1つです。一方で悩ましいのは、どうしても選択が伴ってくることです。ブランドの採用や継続、取り止めなど様々な判断が求められます。選択の連続で、決めなければいけないことが積み上がっていく。大きな選択もあれば小さな選択もありますが、楽しさと悩ましさが背中合わせという感じですね」

――とりわけ、ブランドを切るというのは苦渋の選択です。その判断基準は何でしょうか。

藤井「ブランド自体が進化していかないということでしょうか。変わらない良さは確かにあります。でも、変わらないと感じさせる進化をしているからこそ、変わらない良さが認知され、続いていくと思うのです。微妙な時代の流れを読み取っていきながら、進化を遂げていくことができないブランドは、やはり継続が難しくなってきます。止まっているということは、一緒に前へ進んでいけないということなので……」

[section heading="自ら変わり、「驚き」を提案する"]

――では、直近の今秋冬はどのような展開をお考えですか。

藤井「前述したシーンとテイストによるMDを強化し、六本木ヒルズ店において、オリジナルとセレクトの商品を各シーンでグラデーション展開する編集ゾーンをリニューアルします。強みであるオンのスタイルは、パブリック性の高いオフィシャルなシーンを持つお客様に向けてのハイクラスなセットアップや、オン、オフの汎用性が高いスタイル、オフシーンでも、デニムカジュアルだけでなく、フェミニンからユニセックスまで、バラエティー性をしっかり提案できるゾーンにしたい。オリジナル商品もトレンド提案を強化しながら、クオリティーも高めていきます。オリジナル比率を高めることではなく、スタイル提案をより強化することが狙いです。そのためにはバイヤー、デザイナー、パタンナー、MDの連携の充実も必須と捉えています。また、スケール感の表現では現在、モード、メゾンブランドのダイナミックな展開として”ロエベ”や”レポシ”などのブランドをショップイン形式で展開していますが、モードエリアは更にVMDなどメリハリも強化し、新規ブランドによる3カ月間の長期ポップアップも計画しています。ワクワク感の創出という点では、メゾンブランドや、アップカミングな新規ブランド、強みのジュエリ―ブランドや、ライフスタイル分野を含めた様々なブランドによるイベントを企画中です」

鈴木「バーニーズは、お客様が買う価値はどこにあるのかをもう一度、みんなでしっかり伝えていくことに挑戦します。”VALUE OF 〇〇〇”をテーマに、いくつかの括りを設けています。その1つが”FUNCTION”。秋冬のスタートとして展開します。”これを持ったらお客様の生活がより便利になって、自分らしいスタイリングもキープできます”という提案です。機能以外にも、クオリティーを重視する人もいれば、アート性を重視する人もいるなど、ニーズは様々です。多様な価値観に応じてテーマを設定し、より分かりやすいメッセージを投げかけていきたい。  もう1つの大きなテーマが”We Do Wow(ウィ・ドゥー・ワオ)”です。バーニーズ ニューヨークの創業者、バーニー・プレスマンはかつてシーズンの宣材写真を選んでいる時に、写真家に対して”グッドとかベターの話を聞きたいんじゃないんだ、驚かせてほしいんだ!”と言ったそうです。前年より良いとか、今ある中ではベストといったことではなく、驚きを提案してほしいと。このプレスマンの言葉はバーニーズのDNA、アイデンティティーだと思うのです。驚きを提案することに改めて向き合っていきたいと考えています。10月に銀座本店が15周年を迎えるので、それに合わせて”15のWow”を提案します」

――バーニーズ ニューヨークと言うと、僕はサイモン・ドゥーナンのイメージがすごくあります。クリエイティブ・ディレクターとして大活躍しました。

鈴木「確かにバーニーズ=サイモンのイメージが強いのですが、だからと言ってそこに留まっていないのがバーニーズなんですね。ものすごく変化が速い。どんなに成功した企画でも、2回以上はやらないんです。一般的には”前年に成功したから、ここだけちょっと変えて”となってしまいがちですが、絶対にそれはしない。80~90年代にはサイモンがやったことが新しかったと思うんです。その仕事は今もリスペクトされていて、サイモン自身もバーニーズの名誉職としてものすごくリスペクトされているけれど、それはそれとして、当時から常に変化をし続けて今につながっています」

エストネーション六本木店にて

[section heading="新しい自分を発見するファッションの力"]

――よく「服が売れない」と言われますが、この状況はファッションの力を見直すチャンスでもあると思います。FBに携わる人たちにとっては、そこが仕事の醍醐味かもしれません。

鈴木「今は一人では何もできないというか、クリエイティビティーの連携が必要だと思うのです。そんな意識で人と接すると、ものすごくマンパワーを感じる瞬間があります。未来を見つめてファッションをやっていこうという一人ひとりの創意工夫が、ストレートに胸に響いてくる。ベテラン、若手を問わず、そういう人たちから受けたインパクトを、お客様とも現場のスタッフともシェアしたいと強く思います。
 また、私は昨年、NHKの番組に出させていただきました。韓国出張に密着してくださったのです。同行した番組スタッフはファッションとはまったく関係のない方々でした。皆さんに共通する感想は、”ファッションは日常を彩るものだということがよく分かった”ということでした。そのメッセージを受け、私たちは”ファッションに馴れてしまっているのかもしれない”と反省したんですね。と同時に、”ファッションには力があるんだ”と改めて思えて、単純にものすごく嬉しかったです」

――「ファッションって面白いんだ」と興味を持ってくれたということですね。でも、ファッションには興味がない人も、まだ大勢いるのが日本の現状かもしれません。

鈴木「楽しいことは好きなんだと思うのです。だから、ちょっと美味しいものが出たりすると行列ができたりする。楽しいことはものすごくしたいし、その楽しさを共有するということがあります。それに対して、ファッションはいまだ一方通行というか、共有の仕方が難しい部分があると感じます。例えば、私は苦手な人と会う時に、着る服でちょっと気持ちを上げたりします。”好きな服を着ていたからリラックスして何かができた”とか、”助けてもらっている”という実体験があります。そういう体験の共有が大切なのではないでしょうか」

藤井「今、ジャケットがトレンドですよね。例えば新卒の人たちの入社式でも、自分たちなりの着方をして自己表現をしているのが感じられたのですが、それに対して先輩スタッフが”今日はそのジャケットで楽しめた?”とフォローしてあげる。そうした問いかけは嬉しいし、ファッションを考えるきっかけになると思うんですね。”今日は何を着よう”と思うことは、その日がどんな一日になるかにつながります。当たり前のようですが、そんな感じで毎日の中にファッションがあって、素敵な服を着ることで自信を持てたり、リラックスできたり、新しい自分になれたりする。それがファッションの原点なのではないかと、最近すごく感じます」

――ファッションが持っている力を、とくに力だと感じさせることなく理解し、喜んでもらうこと。その結果として「ファッションが私を励ましてくれたんだ」とお客様が実感できるような役割を果たしてくこと。そこまでのストーリーをどうやって提案していくかが、お二人に共通する思いであり課題と感じました。本日はありがとうございました。

(おわり)

撮影協力/エストネーション六本木店、バーニーズ ニューヨーク六本木店
文/宮下政宏
写真/遠藤 純





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