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SMART USENの「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」、第22回のゲストは株式会社アルファ代表、クリエイティブディレクターの南 貴之さん
――南さんのいちばん新しい仕事は東京ミッドタウン日比谷のHIBIYA CENTRAL MARKETですよね。あれはやはり有隣堂がキーデバイスというかコアになっているんですか?
南 貴之「いや、実は当初、有隣堂さんからは本を置かなくてもいいって言われたんですが、逆にこちらから置きましょうと提案したんですよ」
――有隣堂というと大店のイメージがありますが、こちらは品揃えが独特ですよね。
南「POSTの中島佑介くんにセレクターをやってもらっています」
久保雅裕「こっちはこの人がキュレーションした本棚、こっちはこの人のキュレーションって感じになっていてとてもおもしろいんだよね」
――本棚があり、居酒屋、理容室、コーヒースタンドもあってと。あの場所に昭和の雰囲気を感じる人もいるようですが、僕はむしろ特定の時代感を感じないんです。
南「それが狙いなんですけどね。どの時代なのか、よくわからなくするっていうか……」
――これは南さんが手掛けているお店や服にも共通しているように思えるんですが、どれも時代とか、性別とか、国、世代感が曖昧なんですよね。
南「僕はそれをフラットと呼んでいるんですけど、すべてをフルフラット化したい。なんていうか、いちばん嫌いなのは、“これはこのジャンルだよね”とかセグメントされることなんですよ。何屋だかよくわからなくしたいし、何だかよくわからないモノを置きたいんです。それは意図的にやっていますね。まあ、セントラルマーケットだと、いちばん目立つのは床屋さんだったりしますので、人によっては昭和を感じるんでしょうけど、それは受け取る側の自由だと思いますし、僕としても“どうぞお好きに”というスタンスですね」
――作り手として明確な意思があるけれど、お客さんに対してはニュートラルというか……
南「まあ、そうですね。僕自身、押しつけられることが嫌いなんで(笑)」
――1LDK然り、グラフペーパー然りですが、南さんは、その場所でないと成立しないという部分であったり、物件自体の箱としてのポテンシャルを重視しているように感じるんですが?
南「そうですね。日本ではそれがいちばん難しい部分ではあるんですが……そもそも街にデザインがないですし、古い建物を大事にしないから。狭小住宅が多いから、古い物件を探すとやっぱり狭いし、天井も低いし。そういう意味では、ベースのマテリアルは海外の方が優れてるなといつも思っちゃうんですけど、逆にその難しいなかで、何を作るかっていうことを考えますね。でも、最近は日本のよさを感じることも多くって、特に海外の人と話していると、感じるのは、なぜ日本人は日本のものやデザインを大事にしないんだろう?ってことなんです。海外の人も“なんで海外のものをありがたがっているの?”、“なんで日本人が着るのにファッションのストーリーは外人モデルなの?”って言うんですよ。それは僕も昔から思っていることではあるので」
――変なコンプレックスというか、自分たちを卑下してしまいがちですよね。
南「もちろんなんでもかんでも日本のものがいいわけじゃないし。だから世界的な基準でフラットにしたいわけなんですよ。先日リニューアルしたグラフペーパーは、昔のアパートの建て込みを活かして、ぶっ壊した躯体のままになっているんですけど、それがいわゆるかっこいいスケルトンの剥き出し感じゃなくて(笑)。昭和40年代の建物ですので、いま作ろうと思っても作れないですから、それは絶対残したくて。そのかわりそれ以外の部分はびっちり作り込んでいますけど、そのコントラストを出したかったんです。なんか、そういうマニアックな癖があるんですよね」
――物件との出会いというか、縁ですね。
南「そうですそうです。こういうことがやりたいからこういう物件を探すってことはあまりやっていなくって、“この物件だったらなにができるか?”って考えますね。正直、商圏というか場所はどこでもよくって、“この場所でやろう”とか“こういうことをやりたいから物件を探そう”という思考はないかもしれない。だからマーケティング的な要素は一切ないですよ」
――久保さんは、よく海外からのゲストをアテンドしてグラフペーパーに連れて行くと言っていましたが、皆さんの反応はどうですか?
久保「あのね、やっぱりデザイナーとかクリエイターという職種の人が多いから、さすがに“えーっ!”って感じじゃないんですよ。“ふーん……なるほどね”みたいな反応が多いかな。でね、みんな決まって“すごく日本ぽいよね”って言うんですよ。でも彼らがグラフペーパーのどこに日本らしさを感じたのか僕にはわからない。これはパリコレの日本人デザイナーが出展しててもよく言われていることなんだけど、僕らみたいなドメスティックな日本人には、彼らにとっての日本ぽさって感覚を理解するのは難しんだよね。もしかしたら何らかのバイアスがかかっているのかもしれないけれど、でも確かに彼らが感じる“日本人らしさ”がどこかにあるんだろうね。精神性とかね」
南「たぶん、彼らがグラフペーパーに感じた日本ぽさって、商品を見せないことだったり、店自体がわかりづらかったりってことじゃないかな。あちらの人たちにとって、隠すとか、見せないってことは美徳じゃないから。奥ゆかしさって思考はないと思うし」
久保「そうかもしれないね。まあ、僕の場合、フランス人を連れて行くことが多いので。フランスはジャポニズムっていうか、日本の情報が行き届いてるじゃない。そういうある種の先入観というか、予備知識があるから、そこに驚きはないんだろうね」
――逆に南さんが海外にお店を作るとことろを見てみたいです。
南「それはalphaのプロジェクトの一環としては考えていることではありますけどね。海外も、やるなら卸じゃなくて自分たちの手でやりたいので。僕らはずっとコンサルティングの仕事をしてきて卸の必然性を感じたことがないんですよ。自分たちで店を持てば、自分たちの商品が好きなお客さんだけを呼べるし、ショーをやらなくても半年間かけてじっくりクリエイションを見せられるし、だったらお店を作っちゃえばいいのにって思いますよ。ちょっと斜めに見ちゃってる部分はあるかもしれませんけど、“俺、海外でも結構やれちゃうんじゃない?”って思いますから(笑)」
――いま、近い未来という意味で、南さんが考えてる企画って何かありますか?
南「そうですね、セントラルマーケットはこの前1周年の春祭りをやったばかりですが、次は6月かな?四季折々の祭りをやろうと思っていまして。もちろんそこではさまざまなポップアップだとかコラボレーションの仕掛けを用意していますので。あとは京都の小川珈琲さんといっしょに東京にお店を作るプロジェクトがありまして。いま物件を探しているんですが、決まればそれが結構大きな仕事になるかな。僕がコーヒー屋さんを手掛けるは初めてなんで」
――セントラルマーケットにもフードはありますが、楽しみですね。
南「まあ、僕が普通のコーヒー屋さんを作るかわからないですけど(笑)。そこはお楽しみということで」
――さて、10代を振り返っていただいて、ファッションには興味がなかったけれど音楽は好きだったという話でしたね。
南「そうですね、僕はUKロックから聴き始めたんですけど、高校生のときはもうマッドチェスターは終わってたのかな。プライマル・スクリームとかね。まあいちばん好きだったのはストーン・ローゼズですけど、そのあとのブリット期のオアシスだったりブラーも聴いていました。基本、イギリスのロックが好きなんですね。USのオルタナも聴いていましたけど」
――USだとニルヴァーナがブレイクしたころですね。ダンスミュージックはどうです?
南「聴いてましたよ。プロディジーとか懐かしいですね。あとはMTVを見ていたので、ビョークが「アーミー・オブ・ミー」のPVで柔道着みたいな衣装にリーボックのポンプフューリーを履いてたのはすごく記憶に残ってますし、ジャミロクワイを見てガッツレー(ガゼル)とか古着のジャージを探しに行っていましたね(笑)」
――意図的にインプットを探さなくてもクリエイティブできるという言葉がありましたが、耳に入ってきた音楽とともに彼らのファッションは染み付いているんですね。
南「うん、それはあるかもしれない。こうやって話をしているといろいろと思い出すもんですね(笑)」
(おわり)
取材協力/株式会社アルファ
取材・文/高橋 豊(encore)
写真/柴田ひろあき
■南 貴之(みなみ たかゆき)
1997年、H.P.FRANCE入社。sleeping forest、CANNABISを立ち上げる。2008年、alpha.co.ltdを設立し、翌年I.D. Land Companyの1LDKディレクターに就任。現在はFreshService、Graphpaperや東京ミッドタウン日比谷のHIBIYA CENTRAL MARKETのディレクションを手掛けている。
■久保雅裕(くぼ まさひろ)
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。