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DJ KRUSH「DIVINE PROTECTION feat.渥美幸裕」はSMART USENの渥美幸裕特集で!



――前編に続いて、DJ KRUSHさんの最新作『COSMIC YARD』について伺っていきます。7曲目「LAW OF HARMONY feat. 近藤等則&森田柊山」はどのようなアプローチで?

「これも最初に渡していたトラックは、すごく平和な全然違うものでしたね。ヤオヤで作っていて、エレピが鳴っているような緩い感じの上でお二人に吹いてもらって、それを持って帰ってきて全部オケを取りかえて全然違うものにしました。近藤さんのスタジオで録音したんですけど、まず最初に森田さんが考えてきてくれた音を2テイクくらい入れて、それを録音している時、近藤さんは自分はどうアプローチしていこうかなって聴いているわけですよ。ある程度決まったら森田さんの音と僕のビートを聴いて近藤さんは重ねて録音していって。一番大変だったね。どう景色つけよう?って(笑)。生の音っていうのもあって、演奏の真ん中を取っちゃうと、次の繋がりが不自然で。最初はリズムなしのアンビエントもトライしたんだけど、自分で聴いてもなんかしっくり来なくて。で、リズムつけても、納得いかない。これが一番苦労したかな」

――この曲もひっくり返されたんですね(笑)。

「どういう景色をつけていこうかと後からどんどん手を加えていって、構成も全部変えちゃって。森田さんの尺八も近藤さんのトランペットもズラしたりとか、自分の描いているものに全部近づけていったんです。生楽器の人ってあまり動かされるの嫌な人がいて。でも近藤さん、森田さん、渥美さんもそうだけどすごく信頼してくれて。好きに料理していいよって言ってくれたので遠慮なく(笑)。ただし、ミュージシャンのグルーヴは絶対崩しちゃダメなので、そこは大切にしましたね」

――以前にも森田さんとは「寂」で、近藤さんとは「KI-OKU」で共演されてます。

「今回は、あの頃とは違うアプローチになっていると思っていて。森田さんは相変わらず先生という存在ですし、近藤さんは地球相手に吹いていて人生を重ねてきている。二人とも人生の先輩でもあるけれど、僕も人生を重ねてきているので。久しぶりにすごく日本的なものになったよね。この先もお互いまだまだ進んでいくんでしょうね。音楽をやっている限り終点はないから。どこまで自分を出していけるか。自分らしさを追い求めていけるかっていうのが大切ですよね。その過程がすごく大切で、結果はついてくるから」

――8曲目「BOW SHOCK (Interlude)」は、冒頭のリバース音でまた違う次元にトリップさせられますね。

「そうですね。それは意識していて。自分的にはいきなりスパンと違う場面にスッと行くようなニュアンスで。実は2年くらい前に作ったトラックで今回改めて弄り直したのでファーストインプレッションはもう忘れているという(笑)。この後ツアーが入っているんですけど、一発目がロシアで、降神(おりがみ)の志人(シビット)がこのビートでラップしてたので披露しようかと。そのラップがやばい!」

――9曲目「LA LUNA ROUGE feat. Binkbeats」は、Binkbeatsを初featしています。

「彼は一人で色んな楽器が出来るんですね。自分でサンプリングしてリアルタイムで組み立てていくスタイルなんですけど、出来上がってる曲もグルーヴがちゃんとあるし、色んな色を出せる人なので興味を持って。こういう人にアプローチしたら面白いのかなと思ってってオファーをかけたら僕を知っていてくれて」

――制作プロセスは?

「まずはこんな感じのなんだけどってビートを送って。それを聴いて世界観を作ったんでしょうね。あえてチープな機材を使ってやっていたりとか、ベースを自分で弾いたりとか、結構色んな音が詰まって返ってきて。で、少し隙間があるので、そこに僕が薄く少し景色を足していったりして。それを戻して、彼がまたインスピレーションが出てきたら違うフレーズを乗っけたりして。3、4回くらいのやり取りで出来上がりましたね。この曲は、音質とかドラムが違うけどフレーズがちょっとマイナーということもあって昔のポーティスヘッドとか、あの頃のトリップホップって言われてたようなニュアンスがあるかなと」

――音数は多いですけどぶつかってないですよね。

「家でミックスと編集している時にすごい細かいところに気を使ってますから。毎回一生懸命だけどそういう深いところまでちゃんと聴いてもらえると俺らも手が抜けないね(笑)」

――10曲目「IGNITION」はタイトルどおり点火装置という意味ですか?

「そうですね。行くぞ!みたいな。これはKRUSHぽいねという人が結構いますね。たぶんドラムだと思います」

――ドラムパターンからある種の生命感、静と動、躍動したカオス的な部分を感じました。

「このトラックは考えましたね。音数はあまりなくて、ドラムの鳴りは派手だけど、どこまでドラムのグルーヴで飽きずに皆聴けるかみたいなことは考えてました」

――アタックひとつ違うだけで少しオフェンシブに聞こえてしまう絶妙なバランスですよね。

「前回の『軌跡』を若干引きずっている感じで、排他的というかちょっとザラっとしてる。ストリート感はどっかで出したかったし。バランスっていう意味では、だいたいの曲は、家で作って、スタジオに持ち込んでプロツールスでミックスをするんだけどミックスはすごい大切。今の時代、やっぱり音楽を作るのに予算もなくなっているし、スタジオなんかも高くて借りられないじゃないですか。ソフトもあるし、家でミックスしちゃって、下手すればマスタリングまで完パケでやっちゃう人もいるけどね」

――11曲目「HABITABLE ZONE (Chapter 1)」のサウンドアプローチは?

「「EMISSION NEBULA」と同じで生っぽいというか、昔のハービー・ハンコックとかマイルスのバンドじゃないけど、そういうアプローチの一人バンド(笑)。どこに行くかわからない宇宙的感覚みたいな感じで作っていった。そしたら終わりがああなっちゃったからさあどうしようって(笑)。これ第二もあっていいよなって。あのベースのままだと長くなっちゃうから一回ここで切って……だからChapter 1なんです。あれ変な終わり方しているんですけど、次のアルバムで忘れてなかったら第二章もやるかもしれない」

――エレクトリック・マイルスのような、ある種インテリジェンスのあるビートですね。

「イメージは大体そう。その中で一人バンドとして各自がどう泳いで展開をつけていくか、ラップがのるループじゃないからどうドラマをつけていくか、それが自分ひとりで作るインストの醍醐味だと思っているんですね。僕もバンドでやっていた最初の頃は“お前は、そんな人のレコードで何が出来んだよ!キュキュキューとかやっちゃってさ”とか言われたり(笑)。そうやってすごくもがいて、もがいて、やっと認めてもらえるようになって。やがてビル・ラズウェルに誘われて、Pファンクのバーニー・ウォーレルともいっしょにやらせてもらったり、もちろん近藤さんもそうだし、そこで養ったものがHIP HOP的なループじゃなくて、インストとしてどう展開していくのかっていう部分では勉強になったし、それを活かしている感じですね」

――いまや、ヘッズたちはKRUSHさんの“キュキュキュー”で狂喜するわけですが(笑)。

「例えばQ-Bertなんか、あそこまでいくと芸術。話が逸れるけど、フランスで一回面白いイベントがあって。Q-Bert、DJ KENTARO、DJ KRUSHっていう顔合わせがあって。全然タイプが違うじゃん?特に俺はさ(笑)。でも面白い経験だった」

――12曲目「SPORADIC METEOR feat. 近藤等則」は、トランペット特有の景色の青さ、ブルース感を感じました。

「そうだね。青に近いかもしれないね。幅の広い宇宙感というか。壮大だけどキックとかスネアはイカれてるという。ぶっといというか、ドスンというか……一番最初の方に作った曲で、俺も力が入ってて、それが音に出ちゃってると思う。それが自然の中で吹いてた近藤さんと共鳴して、それが壮大さに繋がったんじゃないかな」

――この曲をアルバムの最後に置いた理由は?

「並べた時に、やっぱこれは最後だろうって。まわりとも若干テイストが違うし、結構強烈じゃないですか。だから最後にこれで締めようかなと思って。色々試してみたんだけど、アクも結構強いんでこの曲をどこに入れるかで色が全部変わってしまうんですね。なので、絶対最後だなって。逆にこっから曲順を考えていって、それで選曲していきましたね。だから一曲目がああいう緩めな感じになったっていう。曲数も、最初は10曲くらいで収めようかって言ってたんですけど、インタールードも入れようかっていうところで、結果的に12曲になりました。他にも候補になっていた曲がいっぱいあるんですよ。今回の色合いとかコンセプトには合わなかったトラックばかりですけど」

――前作『軌跡』でKRUSHさんを知った若い世代が『COSMIC YARD』がどう受け止められるか気になりますね。

「ラップのシーンが大きくなっていて、僕はすごくいいと思うんだけど、まあ、これからが勝負だと思う。どういうかたちで作品を出していくのか。たぶん僕もみんなといっしょで、自分自身と向かい合ってやってきたし、子供も孫もいるけど、HIP HOPにやられた人間がまだやっているんだっていうのもあると思うし。ループじゃなくて、ラップのオケだけじゃなくて、インストでもアプローチの仕方で色んな曲が作れるってことをDJたちに伝えたいね。“たまにはあれだろ?ビートでラップしてみたいだろ?”って。インストって僕らの言葉ですから」

――『軌跡』で1、2世代も違うMC陣から受けた刺激は大きかった?

「彼らの世代は、俺らが持ってないものを持っている。やっぱり俺がMUROとやっていた頃と比べたら、ものすごく技術もスキルも進化していて。かつそれぞれ個性っていうものを出してきているからすごいレベルの競い合いになっているよね。だから刺激になりました。俺らが知っていたラップじゃなかったよ。全然進化していた」

――ビートメイカー、トラックメイキングをやりたいと思っている若い世代にメッセージがあれば。

「みんなと同じで、僕は最初KRUSH POSSEっていうグループでやってて、MUROがラップしてたんだよね。いつもステージでラッパーの背中を見て、お客さんの真正面の顔を見て育った。2DJだったけど、ラッパーが主役だったし、その後ろでビートを崩さないこと、ブレイクビーツを2枚使いで流すっていうのが仕事だったんだけど、ある日それが解散して一人になってしまった。でも僕はHIP HOPにやられていたし、これで飯を食いたかったから、何をすればいいかって考えました。人と同じことをやっていてもダメだし、どんだけ自分の個性を出せるかっていうことが大切だろうなと思ってやってた。それは今も同じだし、追い求めている。どんだけ自分と向き合えあるか、どんだけ本気でそれでやっていくのか、その心構え。俺は本当にこれで絶対飯を食おうと思っていた。自分と戦えと。そのくらいの気持ちでやらないと」

――ではKRUSHさんにとってHIP HOPとは?

「来たね、重いのが(笑)……自分のやりたいことを気づかせてくれたとても大事な文化。まあきっかけは『ワイルドスタイル』なんだけど。それまでは荒くれた生活をしていたし、そっからDJっていう職業を成り立たせて飯を食ってこうってなったのは、もう本当にベタだけど人生に近い。俺はそれによって救われたから、HIP HOPに対して恩返しをしなくちゃって思っていて。それはやり続けていくことだと思うんですね。その背中を若い世代に見せ続けていくっていう。俺みたいな奴でも飛行機乗って、海外行って、音だけで勝負してるっていうことを見せ続けたいし、孫にもそんな俺の背中を見せたいしね。人生、道……って演歌歌手の人みたいだね(笑)。もうすぐツアーで1ヵ月くらいヨーロッパを回るんですよ。最初はロシアなんだけど、マイナス16℃だって。どうしようかな(笑)。まあ、『COSMIC YARD』にDJ KRUSHを思いっきり注入したので、みんなにそれを聴いてもらって、いっしょに次に進んでいきましょう!」

(おわり)

取材・文/じゃけ(GunJapanez)



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DJ KRUSH『Cosmic Yard』
2018年3月21日(水)発売
CD/ES81-2018B/2,500円(税別)
ES・U・ES CORPORATION


DJ KRUSH『Cosmic Yard』
2018年3月21日(水)発売
アナログ/ES81-2018A/2,778円(税別)
ES・U・ES CORPORATION


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