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――デビュー10周年、おめでとうございます。この10年間を振り返ってみていかがですか?

「長くもあり、短くもあり、すごく速かったと思うけど、すごくゆっくりだったようにも感じるし。魔法のような瞬間もあったけど、辛い時期もあって……。すべてが詰まった10年でした。でも、振り返ってみると、立ち止まることなく常に前進し続けてきた。だからこそ、今回のアルバムに辿り着けたと思います」

――久しぶりの来日ですよね?

「実は先月も来ていて、今年だけでも3度目の日本なんです(笑)。その前は、2015年の『シェネル・ワールド』のときだから2年くらい前ですね」

――その間、日本の音楽シーンの印象は変わりましたか?

「正直な話、そこまで詳しく聴けていなくて、語るほどではないんですけど……。でも、少なくとも、以前よりも柔軟性があるというか、いろんなものを受け入れる寛容さが増した気がしますね」

――最新作『Destiny』ですが、何よりもまず、ジャケットやアーティスト写真で見るシェネルさんの変化が印象的ですね。

「自分の中でも、以前は作り込まれた感があるんですよね。J-POPというシーンで、アートワークもそれを意識したものだったので。当時は自分の中で、どういうことをやりたいかがまだ確立されていなくて、“こういうのをやってみたらどう?”と言われて、“そうね、おもしろそうだからやってみる”という感じで。好奇心もあったので、実験やチャレンジをしていたというか。結果的に、思いのほかたくさんの人に聴いていただけて、私も楽しかったんです。だけど、それをずっと続けていると、『アイシテル』とか『シェネル・ワールド』をリリースした頃に、このまま続けて大丈夫かな?っていう気持ちも芽生えてきて……。なので、『シェネル・ワールド』をリリースした後、敢えてレーベルとの契約を継続せず、この先、自分自身がどういう音楽をやっていきたいんだろうっていうことをしっかり見つめ直すために、思い切ってオフを取ることにしたんです」

――そうだったんですね。

「でも、ロスにいる時の私は昔から今みたいな感じなんですよ。みんなが知らなかっただけ(笑)。当時も“ラブソング・プリンセス”なんて言われましたけど、取材で人に会うと、もっと大人しい人なのかと思ったとか、そのギャップに結構驚かれていました(笑)。でも今は、作品に合わせたテイストを演じなくてよかったと思うし、自分らしさを貫いていたから、今回のような作品ができるべくしてできたんだなって思います。もちろん、“ラブソング・プリンセス”という一面もちゃんと持ってますけどね(笑)」

――サウンドの印象も変わりましたが、これもシェネルさんがもともと持っていた音楽性ということでしょうか?

「オフをとっていた2年の間に、自分なりにいろいろと模索して、ここに辿り着いたと感じる部分が大きいですね。以前の作品のメロディーは、歌っていてすごく好きなんですけど、トラックとしては、もっといま風のサウンドを取り入れたいっていう気持ちはありました。でも、当時はそういうのはJ-POPのシーンでは実現できなくて。それが、今回はちゃんとできたんですよね。それって、さっき言ったように、日本の音楽シーンがオープンマインドになった部分もあるんじゃないかなって思います」

――シェネルさんは、『Destiny』を“ハイブリッドな作品”と評していますが、そのキーワードの意味するところは?

「もともと洋楽として作っていた曲がたくさんあって、本当はそれをそのまま洋楽として出そうと思っていたんですが、ただ、もしJ-POPとして日本語の歌が欲しいのであれば、それらの曲に日本語詞を乗せてもOKというスタンスだったんです。そこにドラマ「リバース」の主題歌の話が来たんですね。それが「Destiny」です。「Destiny」は日本で書かれた曲だったので、洋楽として作った他の曲といっしょにアルバムに入れると、浮いてしまう。そこで、もっとハーフ&ハーフな作品にしたいという気持ちが芽生えたんです。私が洋楽として作った曲にフィットするサウンドを、日本のプロデューサーたちと作ってミックスする。日本でプロデュースしたものと自分でプロデュースしたものを融合させるという意味で“ハイブリッドな作品”なんです」

――なるほど。そんなエピソードがあったんですね。

「いまの時代のサウンドを、シェネルらしい作品で届けたいという気持ちは以前からありましたし、ずっとやりたいと思っていたことでもあったんですが、『Destiny』でようやくそれが実現できたと思います」

――自分の意見を貫いたという感じ?

「そうですね。今回はけっこう強気で、こうじゃなかったらやらないとまで言いました(笑)。もちろん、自分の意見を押し通すだけではなく、相手の意見も聞き入れて着地点を見つけました。日本のマーケットを知るプロフェッショナルに任せる気持ちもありつつ、同時に自分の直感がこうだと言っていることを、しっかり口に出して伝えなきゃと思っていたので」

――逆に日本の制作陣が手掛けた「Destiny」にはどんな印象を持ちましたか?

「曲自体はすごく好きだなと思いました。でも、サウンドの面では少しビートが軽い気がしたので、よりずっしりした重いビートにしたいと思ったのと、ストリングスを入れたいという希望は伝えましたね。そんな風に、いろいろな手を加えて、自分が歌いたいと思える曲ができあがるまで意見を交わしました」

――日本では、ドラマ「リバース」の主題歌として注目されて、すでに大ヒットしています。

「「Destiny」は、ドラマの主題歌だからこそ歌おうと思った部分もあるんですよ。自分が作っていた曲があるところに、もしこの曲だけぽんと差し出されて、それを日本向けのアルバムに入れたいと言われていたら、たぶんNOと言ってたと思います。だって、すでにある曲とは毛色が違いすぎるから。でも、ドラマの主題歌にはぴったりだと思ったし、メロディーも歌詞も、これまで私が日本で歌っていたものとはずいぶんと違いましたし、この“違う”という部分が私にとってすごく大事で、そこに惹かれた部分もあります。新しい私のサウンドを日本のみんなに聴いてもらう上で、この曲は、とてもいいオープナーになっていると思いますね」

――この曲のミュージックビデオもクールですが、振り付けを手掛けたのは旦那さんなんですね?

「そうなんです。彼はもともとヒップホップ・ダンサーで、ふだんもヒップホップ・ダンスの振り付けをしているんですけど、この曲はいわゆるコンテンポラリー・ダンスに近いものになっています。つまり、彼にとっては、私が日本語で歌うのと同じくらい新しいことに挑戦したってことなんです。そんな彼を、私も誇りに思いますし、本当に素晴らしい作品に仕上がったと思うので、ぜひたくさんの人に見てもらいたいですね」

(つづく)

取材・文/片貝久美子



シェネル『Destiny』
2017年6月14日(水)発売
UICV-1084/2,500円(税別)
Virgin Music


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