──NEW EP『OWN』もとても素敵な作品ですね! 音楽へのこだわりを細部にまで感じる作品となっていますが、制作当初から構想ははっきりしていたのでしょうか?
「今回はメジャーデビューしてから2作目ということもあり、前作からの心境の変化を意識して作り始めました。前作の『Too much!』は自分の限界を突破する勇気を表現したくて制作しましたが、今回はその勢いを引き継ぎ、より足を地につけて、人生を選択していくという意識…失敗を恐れず型を破っていきながら、自分の人生を選び取っていく感覚を表現したくて。2025年にメジャーデビュー作品となるミニアルバムをリリースして、ツアーをして、そこから得た感覚、心境を反映していきました」
──ソロになり、リリースを重ねる中でより自分らしさが出てきたのでは?と感じました。
「そうですね。音楽の趣味趣向や、自分自身で探りながら音楽をし続けているところは変わらないですが、より自分の中で突き詰まってきた感覚があります。それをしっかりと表現できたこの『OWN』だからこそ、今、すごく満ちている感覚があります」
──『OWN』というタイトルもすごく素敵です。
「ありがとうございます。もともと自分の人生を選んでいる、所有しているという感覚で日々を過ごしていきたいという願いはずっとありました。それを実現できるようになったかもしれないからこそ、“これからもそうしていくんだ”という意志をこのタイトルに込めました」
──失敗も自分のものにすることができ始めたら、一番強いですよね。
「はい。今、やっと自分の中に起こったことが俯瞰して受け止められるようになってきた気がしています。傍から見てどうなのか?ということは関係なく、自分の中で処理をするエネルギーと上手く向き合えるようになったように思います」
──リード曲「幸福失格」もコンセプチュアルな曲となりますが、どんな想いで制作されたのでしょうか?
「この曲は私が出演するドラマ『付き合ってあげてもいいかな』のエンディング主題歌として書き下ろすことから制作が始まりました。ドラマで私は“冴子”というキャラクターを演じていて、冴子目線で恋愛について思っていることや葛藤が落とし込まれています。ドラマをきっかけに聴いてくれる方も増えると思うからこそ、この曲をリード曲にして、MVも制作しました。“試行錯誤、実験をしながら人生をOWNしていく”というテーマで制作していて、これまでは私の感情から曲が出来ていくことが多かったからこそ、曲を作るきっかけが、演じる役からインスパイアを受けて作っていくのも実験だと思いました。そういう縁に恵まれたこともすごくいいタイミングだと思いましたし、ソロでここまでドロッとした恋愛の歌を歌うこともなかったので、すごくチャレンジしがいのある曲でした」
──冴子は、すごく強くて、可愛い子ですね。
「そうですね。冴子を知れば知るほど、共感できる部分も増えましたし、この曲を作ったことによって、演じる時にすごく助けられた部分があったんです。この曲を思い浮かべながらドラマを撮影していくことで、より理解が深まりました。とは言え、冴子としては歌わず、ちゃんと鞘師里保として歌っているので、すごくいい掛け算が出来たと思います」
──すごくいい相乗効果になったんですね。
「でも、こういったバックボーンがありながらこの曲は何故か“鞘師らしい”と言っていただくこともあって。そこがすごく不思議でしたし、でも…わからないこともなくて。まだまだチャレンジできることがあると思いました」
──こういった挑戦をすることで、より新たに視野が広がったのではないでしょうか?
「はい。それに、主演の二人で密にコミュニケーションをとってお芝居をしていく作品にここまでエネルギーを費やしたことが初めてだったので、共演した小西桜子さんと、役の上で何かを一緒に乗り越えている感覚なのか、お芝居を突き詰めているのか、わからなくなる瞬間がありました。そういった時間を過ごせたのはすごく良かったので、こういった濃い時間を過ごせる作品にどんどん挑戦していきたいと思うようになりました」
──その他にも、楽曲提供のアーティストさんたちがすごく豪華ですね。新たな刺激を大きく受けたのではないでしょうか?
「ものすごくいい刺激をもらいました。「I AM」は、サビを自分の声だけで構成しています。すごく斬新ですし、カッコよく仕上がったのでとても満足しています。皆さんと一緒に、“こういうのってかっこいいよね”と話し合いながら追求できる環境はすごく幸せだと思いましたし、ライブでバンドアレンジをしたらカッコよくなりそうだと感じました。数年前の私だったら、バンドでツアーをするなんて想像もしていなかったので、今は、こうやって新たなことを想像できることもすごく嬉しいです」
──この曲の没入感は素晴らしいですね。
「いいですよね。この曲はシンガーソングライターのVelaさんと一緒に方向性を決めていきました。自分の声を加工して、トラックのように使うのも面白いのでは?とみんなで話し合いながら作っていきました。楽曲の基盤が出来て、仕上げる段階で、“この音を入れよう”、“これは抜こう”と音を差し引きしてバランスを整えていく瞬間がすごく楽しかったです。もっと音を付け足すこともできたのですが、すっぴんの自分の姿の歌詞だからこそ、より生歌が前に出る構成がいいと思って、出来るだけ削ぎ落して生歌が聴こえるようにしました。そのプロセスもすごく勉強になりましたし、本当にいい経験でした」
──他の曲に対しても、今だからこそ歌える言葉が歌詞に並んでいるのでは?と感じました。
「「どっち?」の<未完成でも ホンモノ>というフレーズや、「I AM」の<足りないのが 私らしいから>というサビは、一見ネガティブなフレーズに聴こえるかもしれないですけど、それをフラットに歌えているのがこれまでの楽曲とは違うように感じています。これこそが今の私だから歌える曲になったと思います。以前の私だったら、“今、私はこの状態です”と歌うことを躊躇していたと思います。でも、自分の人生の歩みと、音楽を作ってリリースしてきたという積み重ねが、私自身をアーティストとしても、歌手としても、個人としても成長させてくれたからこそ、出来たと思いました。意図的にそうしているわけではなかったのですが…」
──今、改めて振り返ることで自分自身で“大人になったな”と思う瞬間はありますか?
「後輩と一緒に食事をしに行って、値段を見ずにカードでお会計が出来るようになりました! 以前は最初に伝票を見て“おぉ~!”と驚くこともありましたが、最近では“こういうこと”と思えるようになりました(笑)」
──あはは。でも、先輩にそうしてもらっていたからこそですよね。
「はい。たくさんの方に気にかけてもらいながら過ごしてきたという実感があるので、私もちゃんと下の世代にしていける大人になりたいと思っています。そう言えば、10代の頃は私自身、体型を気にしたり、“身体に悪いことをしている…”という強迫観念に駆られて自分が食べたいと思うものを素直に食べられなかった時期がありました。でも、今の若い子にはそういう想いをしてほしくないからこそ、好きなものを食べて欲しいんですよ。今振り返ると、もっと食を謳歌しておけばよかったと思います」
──まさに失敗も自分のものにするという、『OWN』のテーマにも当てはまりますね。
「本当だ! そうですね(笑)」
──EP『OWN』を制作することによって、より音楽への想いも変わってきたのではないでしょうか?
「“音楽って、こんなに楽しめるんだよ!”という可能性を周りの人達が提示してくれることも増えて、“私がやりたかったのってこういうことだ!”と思うことも増えてきました。その環境にいられることがすごく幸せです」
──今、その音楽に対してのインプットはどうやっていますか?
「SNS全盛期だからこそ、すべての感情を得られるものを3分の中に詰め込まないといけない感覚があったのですが、最近では生活の中にそっと佇めるような楽曲を作ることができている気がします。こういった感覚でもっと楽曲を作っていきたいです。それと同時に、ライブをすることがすごく楽しいので、ライブ映えをする曲や、“ライブでこれをしたら楽しいんだろうな”という曲と、生活に入ることができる曲のバランス感を探っていきたいです」
──秋の夜長にピッタリなEPになりましたね。
「そうですね。「I AM」は朝焼け感もありながら、夜に寝静まっている時の感覚もあって。「2AM」は深夜2時に聴いていただくことが一番だと思いますが(笑)、寒い時期にどうしてもネガティブになりそうな思考を止めてくれるような、一緒に落ちていきはしない曲になっているので、これからの季節にたくさん聴いてもらえたら嬉しいです」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
写真/野﨑慧嗣














