サザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』アルバムレビュー――全国アリーナ&ドームツアーも残すところ東京ドーム2公演！

サザンオールスターズの16枚目のオリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』。アルバムの発売に先駆けて、２月22日（土）にはJFN38局と茅ヶ崎FMの全39局同時生放送による一夜限りのアルバム完成披露全収録曲プレミア試聴会「＃サザンと夜遊び」開催。そして、３月19日（水）にリリースされたアルバムの完全生産限定盤には、ロングインタビューや楽曲解説が掲載されたSPECIAL BOOKを封入されていた。さらに、テレビやラジオ、雑誌などにも積極的に、時には瞬発的に出演し、制作に21ヶ月もかけたという本作に込めた思いを語っている。

アルバムの1曲目「恋のブギウギナイト」はフジテレビ系ドラマ『新宿野戦病院』の主題歌として書き下ろした楽曲で、エロティックなディスコサウンド。歌詞にはボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ「ノー・ウーマン、ノー・クライ」やザ・ビートルズ「ホワット・ユー・アー・ドゥーイング」と＜なんちゃって＞をかけたようなフレーズもある。ラスサビに向かう前に「イヨ〜」という歌舞伎囃子と鼓が入るのは、ドラマの舞台が歌舞伎町だったからかもしれない。

「ジャンヌ・ダルクによろしく」はTBS系スポーツ2024テーマ曲。2024年の夏のフランスを想起させつつも、サウンドはブルージーなロックンロールで、チャック・ベリー「ジョニー・B.グッド」のオマージュと思われるフレーズも。80年代を感じる良質なポップス「桜、ひらり」を経て、「暮れゆく街のふたり」は現代的なR&Bの衣装を着た男の情歌。これを最新のフォークソングと言い切ってもいいのではないかと思う。

日本の夏のお盆やお祭りを舞台にした「盆ギリ恋歌」の途中で、海外のSFドラマ『トワイライト・ゾーン』の主題歌（マンハッタン・トランスファー「トワイライト・ゾーン～トワイライト・トーン」）が近づいてくる遊び心も。そこにさらに70年代の日本のドラマ『浮世絵 女ねずみ小僧』で知られる小川眞由美さんの声やタイの歌謡曲の音源が混ぜ込まれている。この「盆ギリ恋歌」や原由子がヴォーカルを務める「風のタイムマシンにのって」には桑田さんが生まれ育った街である茅ヶ崎の風が吹いている。そして、闇バイトや特殊詐欺に足を踏み入れてしまった若者を想起させる「ごめんね母さん」はビリー・アイリッシュのローファイなヒップホップに対する日本の音楽シーンからの返答のように感じるが、それは＜悪いヤツ！！＞＝「Bad Guy」と連想したせいかもしれない。

デヴィット・ボウイやジム・モリソンも同乗しているようなグラムロック「夢の宇宙旅行」は＜御守りはIggy Popのサイン＞が＜目の前に大谷翔平のサイン＞と変わって、1960〜70年代から2025年の“今、現在”へとひとっ飛び。そして、「歌えニッポンの空」で生まれ育った故郷と、昨日、今日、明日に対して＜ありがとう！！＞と声をあげ、「悲しみはブギの彼方に」では再びサザンがデビューした1978年以前へとタイムスリップ。アマチュア時代に書かれたという楽曲で桑田はスライドギターを演奏しており、すでに多くの人が語っているように、「愛しのフィート」と同じく、リトル・フィートの影響を感じる。ブギウギやラグタイム風のピアノとブルージーなエレキギターが印象的なニューオリンズミュージック。70年代に活躍したリトル・フィートは祖国であるアメリカに対するシニカルな視点を持っていた。

そのままシームレスで、「悲しみはブギの彼方に」と同様にバンドセッションでアレンジを固めていったという「ミツコとカンジ」へ。70年代のアメリカンロックバンドのようなアメリカ南部のブラックミュージックをロックに昇華したオルガンの響きがフィーチャーされた曲の主人公は、きっと倍賞美津子さんと猪木寛至さんことアントニオ猪木の元夫婦に違いない。桑田さんのソロ曲「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」やサザンの「ゆけ！！力道山」など、昭和プロレスに対する憧憬は少年時代の原風景に近いのかもしれない。

アフリカ発祥の最新のダンスミュージックであるアマピアノとアフロビートを混ぜ込んだような「史上最恐のモンスター」は環境問題や紛争をテーマにしており、「Relay〜杜の詩」では長年愛用してきたビクタースタジオにほど近い神宮外苑に端を発する全国各地で起きている再開発問題に心を寄せる。リトル・フィートとサザンとはサウンドだけでなく、歌詞においても共通する部分がある。そして、NHK放送100年関連番組テーマソング「神様からの贈り物」には、最もわかりやすく、日本の芸能（エンターテインメント）への愛と感謝、リスペクトが込められている。クレイジー・キャッツが出演していた音楽バラエティ『シャボン玉ホリデー』から尾崎紀世彦「また逢う日まで」、服部良一作曲の「胸の振り子」、坂本九「上を向いて歩こう」…奥村チヨや弘田三枝子も浮かぶ。海外のポピュラーミュージックやジャズのスタンダードの日本語カバーから始まり、民謡をルーツにもつ演歌や歌謡曲、ロカビリー、フォークソング、グループサウンズを経て、J-ROCKやJ-POPと呼ばれるようになった日本のポップ・ミュージック100年の歴史を繋いだ讃歌のように胸に響く。

しかも、後人へと受け継いでいくという意思は感じつつも、その道を振り返って懐かしむのではなく、デビュー47年目の今もなおトップランナーとして先頭を走り続けているのがサザンの凄いところだ。今年１月11日（土）〜12日（日）の石川公演を皮切りに全国13箇所26公演に及ぶアリーナ＆ドームツアー『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」』をスタートさせ、初日からアルバムの新曲を全て披露したという。広島、神戸、埼玉、宮城、香川の5箇所12公演はアルバムのリリース前。3月15日（土）〜16日（日）の沖縄公演から、観客はアルバムをじっくり聴いた上での参加となり、横浜アリーナ公演を挟み、福岡、名古屋、札幌、大阪、東京の5大ドームツアーに突入した。今作が生のライブという場所で、ホーンセクションも擁するフルバンド編成になるとどんな響きとなるのか。例えば、「史上最強のモンスター」はユニークなビートだが意外とバンドによるキメが多い。「恋のブギウギナイト」で毛ガニさんは鼓を叩くのか？ 「夢の宇宙旅行」では関口さんはベースをピックで弾くのだろうか？ 5ヶ月間に渡った全国アリーナ＆ドームツアーのファイナルが近づいている。アルバムの曲たちが果たしてどんな仕上がりとなっているのか。今から東京ドーム公演が楽しみでならない。

（おわり）

取材・文／永堀アツオ

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https://southernallstars.jp/feature/thankyousomuch_sastimes

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