──前作『Y/our Song』から約6年ぶりとなるオリジナルアルバムを完成させた今の心境を教えて下さい。
「“やっと生み出せた”というのが正直な気持ちです。これまでで一番長い制作期間だったので、“やっと”という気持ちが大きかったです。実質的な制作期間は3年間…でも、その間の心境の変化も大きかったので、制作過程でいろいろ歌詞を見直したり、リリースするまでの進化もかなりありました。それも含めて、リハビリのような時間を過ごすことができました」
──アルバム『Dreamin'』の“美しい現実逃避”というコンセプトは、当初からあったのでしょうか?
「いえ、最初は決まっていませんでした。1人目の子どもを出産してからの5年間は、本当にめまぐるしくて、これまでの状況…妄想をしながら“こういう曲を作ってみよう”とか、人間ウォッチングをして、インスピレーションを得て曲作りをするような状況になれなくて。出産前は、自由な時間があっての制作だったので、ガラッと環境が変わって難しくなってしまいました。その間、ライブはちょこちょこしていて、“ファンの方たちも新曲を聴きたいだろうな”という気持ちを感じていたので、無理やりにでも自分をそのモードに持っていって、最初は週1くらいのペースでスタジオに入るようにしました。すると、その時間だけは何の制限もない、自由な空間だったので、夢のような時間に感じていたんです。その現実逃避する時間を、そのままアルバムのコンセプトにしました」

──子供が生まれると、視点も変わりますし、自分の変化も歌詞や歌に出てくると思うのですが、いかがでしょうか?
「すごく変わりました。守るべき存在が出来たからこそ、今までにない深い愛も感じますし、孤独もそれと同じくらい感じていて。これまでは自分自身を一人で守ることはできたけれど、それが外にある存在だと、自分のハートもむき出しになってしまうことに気付きました。新たなアングルで愛というものに向き合えた制作期間になりました」
──新たにに描けたのはどんなことでしたか?
「愛しているからこそ自由にさせてあげるとか、手放すなど、そういった強さという大きな愛を描けるようになりました。さらに声の成分に温かみが増したようで、ずっと一緒にレコーディングをしているスタッフさんやエンジニアさんに“声が変わったね”と言ってくださって驚きました」
──不思議ですね。
「神秘的ですよね。私は歌手なのでこういったことをリアルに感じ取れますけど、きっと女性はいろんなことが進化して母親という存在になるんだと思いました」
──素敵ですね。そういった変化が現れると、創作意欲もより湧いてきたのではないでしょうか?
「私はすごく不器用なタイプで、集中するとゾーンに入ってしまって、そこから抜け出すのが大変なタイプなんです。でも育児って、何かをやり遂げようとしても、何度も中断されてしまうので。それが積もりに積もってパンクしそうになった時があって…。でも、だからこそアルバム制作にエネルギーを向けるために、限られた時間とリソースの中でどれだけ自分が思い描いている、新しいBENIを作品として音楽化できるか?というのが大きなミッションになりました」
──新たな環境と状況で音楽制作に取り組む中で、改めて、楽しさや面白さを感じたのではないでしょうか?
「すごく感じました。音楽は化学反応なので、誰かと一緒にスタジオに入ると、その人と私にしかできない何かが生まれるんですよ。今回、アルバムを新たなメンバーと作り上げたからこそ、無限の可能性が拡がる中で、“一緒に音楽を描いていく”というプロセスが今の私の心境にすごくフィットしていました。冒険もできましたし、新たな自分も引き出せた気がします」
──特に刺激を受けたのはどなたでしたか?
「Chaki ZuluとT.Kuraさんと一緒に制作した曲が何曲かあって。Chakiとはこれまでも何曲か作っていましたが、Kuraさんとは初めてでした。Kuraさんの曲は私の青春時代からずっと聴いていたので、そんな先生たち(笑)に委ねる部分を残しつつも私がやりたいイメージを具現化していくプロセスがどの曲にもありました。最初にこのメンバーで作ったのが「Diamond Life」です。この曲では、自分の中にある葛藤やフラストレーションをパワーソングのように仕上げていきました。セルフラブ・アンセムは、描く角度が違うと響きも違うんですよ。「Diamond Life」ではきれいごとのような言葉を並べて“前を向いて自分らしく”というのではなく、ネガティブでダークな影も入れることを意識しました。大変なことを乗り越えた後のことではなく、今でも戦いながらやっているという立ち位置を意識して作っていきました」
──とても共感度の高い曲になっていますね。
「そうだと嬉しいです。戦いの中で、どうポジティブでいられるか?、強くいられるか?を意識しました」
──きっと、守るものが増えたからこそ、より強くならないといけないことも増えたんだと思います。
「わかります。“本当の強さってこういうことなんだ”というのを感じるようになりました。それが曲にもしっかり落とし込めたように思います」
──T.Kuraさんは、2000年代に青春を過ごした人たちにとって、誰もが通っているプロデューサー/コンポーザーですが、一緒に曲を作ってみていかがでしたか?
「本当に勉強になりました。Kuraさんからは、“アトランタに住んでいた頃、マライアのセッションに行った時は~”とか、“彼女はこういう風に録っていたよ”とか、本当に驚くようなエピソードもたくさん出てきて。私はルーツにあるR&Bやソウル、ヒップホップなどを聴いて感銘を受けていたからこそ、“あのルーツに戻りたい”という気持ちもあったので、すごくいい経験になりました。私だけだと思いつかないようなハーモニーや発声の仕方、リズム感など、Kuraさんのタッチもたくさん入っています。歌った時も、“新しい私だ”と実感出来たので、すごく不思議で幸せな感覚でした」
──本当に“美しい現実逃避”が出来ていたんですね。
「はい。私の中に“BENI LAND”が出来ていて、自分の好きなように自由に表現して、音楽を作っていくことに時間をかけられることが至福でした。今は何でも早くできてしまいますし、いろんなプロセスがどんどん短くなっていく世の中だからこそ、1音1音を選びながら作っていくことができたのが、私にとっての一番の想い出です」

──Sunnyさんの手による「Bandage」も本当に素敵な曲でした。
「ありがとうございます。アルバム制作が終盤に差し掛かった時に、BENIと言えば、歌い上げる泣きのバラードが求められていることに向き合って、親友のSunnyにテーマを話して、書き上げてもらいました。初めてこの曲を聴いたときに、あまりにも素晴らしくて思わず泣いてしまいました。きっと、聴く人たちそれぞれにフィットする、タイムレスなテーマなので、歌うたびにグッとくる曲になりました」
──アルバムには「フライディ・チャイナタウン」と「RIDE ON TIME」、80年代のシティポップを代表する名曲のカヴァーも収録されています。
「制作期間中や、リリースが空いた時期もシティポップなどのカヴァー曲は配信していたんです。その中からこのアルバムにサウンド的にフィットする曲を選びました。どの曲も名曲なのでプレッシャーを感じながらも、自分のタッチはしっかりと加えたので、自信が持てる曲たちになりました」
──さらに初回限定超特別盤は、約6時間半に及ぶ2年間のライブ映像を収録したBlu-rayが3枚も! これは豪華ですね!
「ライブになると、凝り性なので準備期間にはゾーンに入ってしまって周りが見えなくなってしまいます。でも、数年後に映像を改めて見返すと、その時々のベストをちゃんと作っていたことを実感できました。なので今回収録したライブ映像も数年しか経ってはいませんが、すごく良い想い出のような…まるでタイムカプセルのように楽しんでもらえたら嬉しいです。言ってしまえば、ライブの方が歌って絶対にいいんですよ」
──あはは。ライブって、最高ですからね。
「そうなんです。なので私のライブに来たことがない人にもぜひ体感してもらいたいです。私もレコーディングブースで歌った歌は、ステージでの歌を超えられたことがなくて…それだけライブってすごいエネルギーなんです。じっくり味わってもらえたら嬉しいです」
──BENIさんの今後のライブも楽しみにしていますね。
──そして、今は子育てに音楽活動にと大変な毎日を送っていると思いますが、仕事以外の現実逃避は出来ていますか?
「私は旅が好きなので、先日お休みを頂いて、LAから少し離れたオハイにある、希少カメの保護研究施設「タートル・コンサーバンシー」に行ってきました。そこは保護施設と宿泊施設が一緒になっていて、本当に素晴らしい所だったんです。いろんなカメを間近で観察することが出来て、動物好きな子供たちは大興奮でした。とても解放感もありましたし、癒されました。子供たちは、次のクリスマスも誕生日もカメが欲しいと言い出してしまって…(笑)。我が家にカメを迎え入れる日も近そうです」
──そのご報告を楽しみにしていますね(笑)。では最後にencore読者にメッセージをお願いします。
「アルバム『Dreamin’』はとにかく自由に作らせてもらったアルバムだからこそ、聴いてくださった皆さんが自由に踊れる曲や、浸れる曲、ゆったりした気分になれる歌もあります。幅広く、リミットのない世界をイメージして作ったアルバムなので、気持ちを解放して聴いてもらえたら嬉しいです」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
写真/中村功
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

BENI New Album『Dreamin'』 Release Live
2026年11月7日(土) 東京 渋谷ストリームホール
第1部 open 13:30 / start 14:00
第2部 open 17:30 / start 18:00
2026年11月8日(日) 愛知 CIRCUS NAGOYA
第1部 open 13:30 / start 14:00
第2部 open 17:00 / start 17:30
2026年12月5日(土) 大阪 ESAKA MUSE
第1部 open 12:30 / start 13:00
第2部 open 16:30 / start 17:00

BENI “THE SHOW” 2026
2026年11月1日(日) 神奈川 Billboard Live YOKOHAMA
[1st.show] open 14:00 / start 15:00/[2nd.show] open 17:00 / start 18:00
※2ステージ完全入替制
2026年11月23日(月・祝) 大阪 Billboard Live OSAKA
[1st.show] open 14:00 / start 15:00/[2nd.show] open 17:00 / start 18:00
※2ステージ完全入替制
2026年12月3日(木) 神奈川 Billboard Live YOKOHAMA ※追加公演
[1st.show] open 16:30 / start 17:30/[2nd.show] open 19:30 / start 20:30
※2ステージ完全入替制
2026年12月11日(金) 東京 Billboard Live TOKYO
[1st.show] open 16:30 / start 17:30/[2nd.show] open 19:30 / start 20:30
※2ステージ完全入替制









