建築の構造設計と老舗メーカーの靴作りの技術が生んだ革新

UNITED NUDEとは、「プロダクトはインターナショナルチームによって生み出されて進化(united)し、そのチームが自由に素直な気持ち(nude)で意見を交わし合える環境から発展する」ことを表す。ブランドの草創期から国や人種など様々な違いを超えてチームを編成し、アイデアを出し合い、物作りを進めてきた。その中枢が、創業者のレム・D・コールハースとガラハド・クラークだ。
コールハースは、オランダを拠点に世界的に知られる建造物を設計してきた建築家レム・コールハースの甥にあたり、自身も建築の道に進んだ。靴との接点となったのが、英国の靴職人ガラハド・クラークだった。その名から察せられるように、ガラハドは英国の老舗靴ブランド「Clarks(クラークス)」の創業家に7代目として生まれ育ち、靴職人となった。建築と靴、それぞれを専門とする二人が出会い、建築的なアプローチによる靴作りが始まった。

レム・D・コールハース

ブランドが立ち上がったばかりの頃、そのプロダクトに遭遇したのが、当時日本のデザイナーブランドの販売をはじめ、海外ブランドの輸入販売を手掛けていた青田行さんだ。現在は様々なファッショブランドの営業代行を行うブルー フィールド ジャパンを運営する一方、ユナイテッド ヌード ジャパンの社長として輸入販売に携わっている。「当時は円高の時代で、EU圏の関税も高い時代でした。日本製の靴をヨーロッパで売ろうとすると非常に高価になってしまうんですね。そこでヨーロッパで靴を作ろうと、産地を回っていたんです。靴工場を探している中で知り合ったのが、クラークスの人たちでした」と青田さん。「日本でファッションをやっているのなら、7代目が友人と始める新しいブランドを見てほしいと。そのときに見たのがファーストシューズの『メビウス』でした」。靴の生産工場を紹介してもらうことを条件に、ユナイテッド ヌードの取り扱いを決め、海外におけるファーストディストリビューターとなった。

「Mobius Hi Black」

ところが、新しいブランドとはいえ、展開していたのはメビウスの1型で、黒と赤と白の3色のバリエーションがあるのみだった。ただ、デザインはアート作品のようにユニークで、靴としての強度も高く、しかも軽量。聞けば、ドイツの著名建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエがバルセロナ万博に際してドイツ館の建物とともにデザインした「バルセロナチェア」が着想源という。クロスしたメタルフレームが脚部から背もたれへと延びるその画期的な形状から想像を巡らせ、アッパー、ヒール、フットベッド、ソールを1枚のレザーの帯で一体構造化することでメビウスの輪を表現したハイヒールサンダルを生み出した。鮮烈な印象を残すのは、大きな輪を形成するヒール。空洞になっているが、緻密に計算された立体構造はアート性を際立たせるとともに歩行時の安定性も確保し、ドイツ車のエンジンルームに使われている強化プラスティックを採用することで軽量かつ強度にも優れる。建築家の思考・デザイン・設計と靴作りの伝統技術を掛け合わせることで、従来の靴の概念を超えた一足に収斂させた。以降も、当時は珍しかったカーボンを靴のパーツに取り入れたり、3Dプリンターで木型を製作するなど、靴作りの常識にとらわれず新たな素材やテクノロジーを積極的に採用。ミッドセンチュリーのイームズチェアに想を得た「Eamz(イームズ)」や三角形をモチーフにした「Delta(デルタ)」など定番モデルを拡充していった。

「Delta Wedge Sandal Bronze」
「Eamz Ella Platinum」

「建築家の出自なので、靴のデザイナーとは観点が違うというか。建築は様々なデータを分析し、設計図を描き、模型を作って建物を建てます。実物と同じサンプルを作らないので、計算の世界なんですね」と青田さん。靴は歩行・走行時に体重の何倍もの重さがかかるが、「耐震や免振のように思考し、いかに力を逃がして楽に履けるようにするかを計算しています」。コールハースが設計したアーティスティックな構造とバランスを両立させているのが、コンフォートな靴を作り続けてきたガラハドの技術だ。日本市場では当初、「本当に履けるのか」「どうやって履くのか」「飾っておいたほうがよいのか」とよく尋ねられたそうだが、クラークスの七代目が靴作りを担っていた(現在、ガラハドは別のプロジェクトに注力するため、ユナイテッド ヌードを卒業)という設立時の背景を伝えると「安心感、信用が生まれ、実際に履くことで心地良さを体験すると購入、リピートにつながっていった」。その後、高度な技術を持つ中国・広州の工場に技術が継承され、世界の市場に供給する体制を整えた。

昨春、日本の旗艦店を表参道に移転。ブランドの世界観を唯一体験できる場に

直営店は現在、アムステルダムにグローバル旗艦店を置き、ヨーロッパ、アメリカ、中東、アジアに10店舗ほどがある。コロナ禍前まではグローバルに直営店を拡大したが、コロナ禍中のライフスタイルやショッピング環境の変化に伴いECの強化へと舵を切り、実店舗は主要都市の中でも発信力のある立地に絞り込んだ。日本のリテールは表参道の旗艦店「UNITED NUDE TOKYO(ユナイテッド ヌード トーキョー)」を核に、ECやポップアップストアを展開している。日本の旗艦店はジャパン社を設立した16年に表参道に出店し、20年に北青山に移転、さらに25年に現在の地へ移転リニューアルした。移転とはいえいずれも徒歩数分圏内の立地でユナイテッド ヌードの「今」を体現してきた。

昨年、表参道に移転リニューアルした「UNITED NUDE TOKYO」

表参道店は70㎡のコンパクトな空間に、靴を建築物と捉えるブランドらしく建築資材を活用して可動式の什器を配置し、フレキシブルに見せ方を変化させられる売り場を作った。カラフルな断熱材を組み合わせた台は、ユナイテッド ヌードの特徴的な色使いを想起させる。アールを描きながら広がるオブジェのような什器は、カナダのデザインブランド「molo(モロ)」によるプロダクト「softblock(ソフトブロック)」。ハニカム構造の紙製パーテーションで、もともとは音響システムとして開発された。直線にも曲線にも広がり、売り場のレイアウトに合わせて自由に形を変えることができる。

  • カラフルな断熱材やモロのソフトブロックを什器に

取材時は26年秋冬コレクションへとMDがシフトしたばかり。コレクション制作にはジャパン社の声も取り入れているという。特にカラーやトレンド、素材については日本側の情報や意見が求められ、他の拠点都市の直営店の声も踏まえ、コールハースを中心とするデザインチームがデザインに落とし込む。シーズンごとに約50~60型が発表される中から、日本では日本のマーケットに合うプロダクトをセレクトして輸入し、提案している。
「今季はデザインの傾向としては、洋服のトレンドに呼応してクラシックなムードが強まり、ヒール物が増えるなどエレガントな要素が出てきています。スニーカーが定着した中で、そろそろ違うものへとシフトしてきているのを感じる」と青田さん。象徴的なのは、アートピースのような佇まいのショートブーツ「Zuma Luna Hi(ズマ ルナ ハイ)」。前季に人気の出たシリーズの新作で、ジップを前から後ろへ変更した。立体感のあるレザーに流線を重ねたキルティングラインを施し、シャープなポインテッドトゥを組み合わせることで、独創的でありながら優しさを感じさせるエレガンスへと昇華させた。内側へ柔らかく湾曲したヒールはデザイン性だけでなく、安定感のある履き心地も兼ね備える。

「Zuma Luna Hi」

最も動いているのは、「Stomper(ストンパー)」シリーズのローファー。トラッドなアッパーとヒール高60mmの大胆にカットしたソールの組み合わせは、まさにユナイテッド ヌード。マジックテープ製のヒールベルトでフィット感を高めているのも特徴だ。「端境期にすごく人気のあるモデル」とは、ユナイテッド ヌード ジャパン専務の青田季句さん。「夏のサンダルから、ブーツにいくにはまだ早い、でもスニーカーは履きたくない。そんな気持ちに応えるシューズです。ソックスとのコーディネートで、クラシカルだけどちょっとスタイリングで遊べる。秋を意識し始めた頃に、つま先を出したくないというお客様にも好評」。

日本のソックスブランド「Kiwanda Kiwanda(キワンダ キワンダ)」の別注ソックスとのコーディネートも人気
Stomper Loafer」

アイコンの「Eamz(イームズ)」は、結婚式などのオケージョンにも人気だ。「ガーデンウェディングなど式のカジュアル化が進み、界隈にはそうした式場が多いこともあります。セルフプロデュースによる式の増加に伴い、靴も自分が好きなものを選ぶという傾向が強まりました。ドレスの裾からちらっと見えてもカッコ良く、普段にも挙式の思い出とともに履き続けることができる。ユナイテッド ヌードの靴は修理して長く愛用するお客様が多いのですが、そういうストーリーもお話しするとより気に入っていただけます」と季句さんは話す。今季はアッパーの柔らかなカットがエレガントな「Eamz Ella Platinum(イームズ エラ プラティナム)」が好調だ。緩やかな傾斜により110mmのヒール高を感じさせない履き心地を生み、シルバーは光沢が華やかさを演出する。より落ち着いた印象の「Eamz Ella Black(イームズ エラ ブラック)」も揃う。

「Eamz Ella Platinum」と「Eamz Ella Black」

「革新的なブランドイメージ×ヒューマンタッチな接客」が育む関係性

ユナイテッド ヌード トーキョーの客層は40~50代の女性を中心に、20代から60代アッパーまで幅広く、ユニセックスラインやウィメンズの大きいサイズ(26.5cmまで展開)を買い求める男性客も増えてきている。「どんなファッションスタイルにも沿うことを重視して作られているのは、ユナイテッド ヌードの靴のもう一つの特徴」と季句さん。スタッフの間では『似合わせシューズ』とも呼ばれているという。コーディネートが気に入り、思った以上の履き心地の良さを実感して購入に至るという流れがある。さらに接客では、より快適に履くためのコツもアドバイスする。「踵をしっかりと合わせることで、土踏まずや指先が開放されて楽に履けるんですね。だから、履き方はしつこいくらいお伝えしています。『これください』『はい、どうぞ』のような売り方ではなく、足を傷めることなく、快適に、おしゃれに靴を楽しみ続けてほしくて店を続けてきた」。
その思いからパーソナルな対応を重視し、出店以来、顧客カルテの情報を更新し続けてきた。「カルテを作成してよいかを尋ねたうえで、『ノー』というお客様以外は会話やフィッティング時に知り得たことを記録に残し、いつ来店されても一人ひとりに寄り添った対応ができるよう心掛けている」。ブランドの革新・前衛的なイメージからするとちょっと意外だが、ヒューマンタッチな接客はユナイテッド ヌード トウキョウの持ち味だ。顧客との関係性をコツコツと築くことで、リピートや口コミによる紹介を積み重ねてきた。

26年秋冬コレクションより

この10年余りではパーソナルスタイリストと共に訪れる客も増加している。「こういう物が買いたい、こういうTPOでのスタイリングを提案してほしいといったお客様の要望に沿ったショッピングルートにユナイテッド ヌードを入れてくださることが多く、国内はもとより、欧米やアジア圏など海外からも訪れます」と季句さん。プロの視点を取り入れたセルフプロデュースのニーズの増加を背景に、前述した結婚式などのオケージョンや様々なTPOにおいて自分らしさを表現する「似合わせシューズ」の存在感が増している。

26年秋冬コレクションより。バックパックは建築家や海外へ仕事で行く人に人気の定番「Stealth Backpack(スティールス バックパック)」
26年秋冬コレクションより

靴を大事に履き続けたい顧客に向けたフォローの一環で修理にも対応してきたが、現在は顧客の相談内容に応じて、関係を育んできた修理専門の職人を紹介する仕組みを採っている。「ユナイテッド ヌードの靴の修理に対応する修理屋さんが増えたことと、店を介すよりも直接やりとりをしたほうが話が早く、お客様の要望のニュアンスがダイレクトに伝わるんですね。交換が必要なパーツはお買い上げのうえ、修理屋さんに持ち込んでいただく。お客様にとってはお抱えの修理屋さんができることになり、こちらが思った以上に喜ばれています」と青田社長は話す。靴のクリーニングには店頭で対応し、「ソールを直したり、補色をしたほうがよいなどの気づきがあればお伝えし、快適に履き続けられるようアドバイスする」と季句さん。修理やクリーニングをしながら新しい靴を買い足し、どちらも大事に履きながら次の靴との出会いにつながっていく。きめ細かな対応によって顧客が増え、買い上げベースで20%程度の訪日外国人客も一過性の買い物に留まらず、顧客化していくケースが多いという。
靴の常識にとらわれないプロダクトの革新性と長く大事に履いてほしいというユナイテッド ヌードの思いは、実はシューズボックスの内側に綴られている。購入体験を経て、改めてそのメッセージに触れることで1点1点の靴への思いを深める人も多いのではないだろうか。

写真/遠藤純、ユナイテッド ヌード ジャパン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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