今季の大きなトピックは、「カルヴェン」と「クレージュ」がそれぞれ新任デザイナーによるコレクションを発表したことだったが、それ以外に大きな話題となったものは無かった。そんな中、各ブランドはショー以外にも様々な催し物を準備し、ファッションピープルたちを楽しませた。「アンリアレイジ」は、10月2日から4日間、25回目のコレクション発表を記念して、北マレ地区のギャラリーで回顧展を開催。これまで発表されたアイテムを展示したほか、伝説ともなっているセレクトショップ「コレット」のディレクターだったサラ・アンデルマンをキュレーターに迎え、アルファベットに因んだ26のアイコニックアイテムの販売も行った。「サン・ローラン」は、自らの生家を被写体にした写真集を発表したシャルロット・ゲンズブールを迎えてサイン会を行った。「ヨウジヤマモト」はドローイング集を発表し、カンボン通りのブティックで出版記念パーティーを開催した。「アン・ドゥムルメステール」は、パレロワイヤル内の新ブティックをオープンし、お披露目パーティーを行い、「ジャン・シャルル・ドゥ・カステルバジャック」はマテル社とのコラボレーションによるバービーの発表パーティーを開催した。白いシャツに特化したメーカー、「ブリエンヌ」はパリ10区の邸宅でガーデンパーティーを行い、DJをユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問が務めた。
これまでと比べるとやや地味。とはいえ、普段のパリにはない華やかさを演出したファッション・ウィークだった。一方、街では高校生によるデモ行進が社会問題化し、パリコレクション会期中は激しい抗議行動が頻発。地下鉄の駅が閉鎖されるなど、ヒヤリとさせられる瞬間が何度も訪れた。ファッション業界と現実世界との乖離・コントラストを痛感させられた今季だった。

ガニー Ganni

ディッテ・レフストラップによる「ガニー」は、北マレ地区のギャラリーでプレゼンテーションを行った。「Just Like You」と題し、子供の頃に両親の服を引っ張り出しては、着せ替え人形のように遊んでいた時代をイメージした。ビッグサイズのセーターや極端に大きなハットは、サイズの合わないアイテムを子供が無理矢理身にまとうイメージから着想。ゴチャゴチャとあらゆるアイテムをミックスし、野暮ったさや垢抜けなさを演出しながらも、アンバランスの中にあるバランスの妙を見せている。それぞれに母親が履いていたようなサテンのパンプスを合わせ、エレガントな部分を残しつつ、これまで以上に若々しいイメージで統一されたコレクションとなっていた。

アンリアレイジ anrealage

パリでのコレクション発表が今季で25回目となる森永邦彦によるアンリアレイジ。「SKIN」と題し、脱ぎ捨てられ、更新されていく「外側の表層」と、不変の内なる「自己」を探究したコレクションを発表した。また、手塚治虫の『火の鳥』から着想を得て、燃え尽きて灰になっても絶えず生まれ変わる姿を服に投影。チェックモチーフのスーツは美濃和紙を用い、うろこ状のアンサンブルは東レの「ウルトラスエード」を使用。プリントは、京セラの節水型インクジェット技術「FOREARTH」によるもの。見る角度によって色が変わる3Dプリントのビュスティエは、SEKISAIの「Effective Skin」の技術を用いた。電圧を掛けることによって色が変化するE Ink(電子ペーパー)製の鱗モチーフのドレス、そして前シーズンに見せた「LEDデジタル・スキン」製のアイテムで幕。圧巻のフィナーレとなった。BGMには1919年に録音されたストラビンスキーの『火の鳥』を採用。ダフトパンクのトーマ・バンガルテルが編集し、服との見事なシンクロを見せていた。

サン・ローラン Saint Laurent

ブランド創始者、イブ・サン・ローランが「魔法の色」と称賛したゴールド。アンソニー・ヴァカレロは、今季様々なアイテムを様々なトーンのゴールドで表現した。素材は、テクニカル素材からオーガンジーやモスリンなどのシルク、金糸によるギピュールレース、ラテックスやブロケードなどのジャカード素材まで幅広く、それらをトレンチコートやランジェリードレスなどにあしらい、絢爛(けんらん)な世界観を披露。金糸のブロケード素材のアイテムには刺繍(ししゅう)が施され、ヘビのヒールのサンダルや、フィルグリー(透かし彫り)のイヤリングなど、アートピースのようなアクセサリーが合わせられる。最終の黒のシリーズでは、ブローチのようなボタンをあしらったジャケットやオーガンジーのボールガウンなど、クチュールメゾンらしいアイテムで構成し、美しい締めくくりを見せた。フィナーレでは、ブランドのアンバサダーでもあるシャルロット・ゲンズブールが『You are so much Yves Saint Laurent』を歌唱。今季はヴァカレロがアーティスティック・ディレクターに就任して10周年、かつヴァカレロ最後のコレクションとなり、メゾンのアイコンでもあるスモーキングが最初に発表されてから60周年を迎える節目の年で、それらを祝うに相応しいショーとなった。

クレージュ Courreges

新任のアーティスティック・ディレクター、ドリュウ・ヘンリーによるクレージュ。ブランド創始者、アンドレ・クレージュのクリエーションに最大限のリスペクトを込めつつ、モダンに解釈してバリエーション豊かなルックでコレクションを構成した。南アフリカ出身のヘンリーは、英セント・マーチンを2014年に卒業後、フィービー・ファイロ時代のセリーヌやJWアンダーソン、バーバリーでデザイナーを歴任。ニコラ・ディ・フェリーチェの後任として、今年5月にクレージュに着任している。クレージュのアーティスティック・ディレクターとなったばかりの新鮮な気分を、新しいアパートへの引っ越しになぞらえ、家をイメージしてショー会場には様々な種類のイスを配置。オレンジやネイビーといった1960年代をイメージさせる色使いにバターイエローやライムグリーンなどの中間色を加えて、新生クレージュを印象付けた。スタンドカラーのシャツやGジャンの襟には、アンドレ・クレージュのイニシャルであるロゴを配置。ウォッシュニットやウォッシュウールといった重厚感ある素材をドレスやトップスに用いて、造形的な美しさを表現。総スパンコール刺繍のトップスや、ダリアのコサージュをあしらったショールなどクチュールメゾンらしい表現も垣間見せている。今季は1960年代のブーツをビンテージ加工して復刻し、ハットもアーカイブから引用。ブランドのコードをフル活用して、グラフィカルで遊び心あるクリエーションを見せた。

ドリス・ヴァン・ノッテン Dries Van Noten

架空の映画のヒロインをイメージしたジュリアン・クロスナーによる「ドリス・ヴァン・ノッテン」。イメージは、黄金時代ともいわれる1950年代のハリウッドで活躍する女優。「スクリーンの外側であっても、女優は映画のなか同様グラマーである続けるのか」を考察。そして日常着であっても、ほんの少しの捻りや装飾的要素を加えるだけで、より一層グラマーになるとクロスナーは結論付けたという。ボーダーのシャツ、ポロシャツ、ワークウェアジャケットといったカジュアルなアイテムは、それぞれダブルカフスにし、ダーツを取ってブローチ風の刺繍を施し、シースルーに仕立てて、新たな魅力を放つよう巧みに変換している。このコレクションのためだけに制作された架空の映画のポスターは、ドレスやスカート、コートのプリントとして登場。アイテムによってはベールを重ねてポスターのモチーフをぼやかし、装飾性を抑える効果を加えている。過剰なグラマーにならないよう、敢えて引き算するという逆説的なアイデアも印象的だった。

トム・フォード Tom Ford

官能的で艶やか。ブランド創始者のクリエーションを、常に前進させ続けるハイダー・アッカーマンによる「トム・フォード」。今季もシルクやナパレザーといったなめらかで繊細な素材をあしらいながら、エッジーでセンシュアルなアイテムでコレクションを構成している。シルクのジャケットにはレザーのパンチングTシャツをコーディネイトし、重厚な作りのジャケットとコントラストを生む透け感を演出。胸にはブラック・オーキッドのコサージュ。ナパレザーのライダースには、イルージョンのような飾りのジップを配し、本来ならニットを用いるリブもレザー製。ワークウェアインスパイアのオールインワンはシルククレープ製で、凹凸感ある絶妙なテクスチャーを見せる。ラインストーンを全面に配したジャケットや、カットした部分にビーズを刺繍したレザー製アンサンブルなどクチュール的な表現も垣間見せた。コレクションの最終章は黒のシリーズ。前シーズンで発表している構築的なドレスは進化し、鮮烈な印象を与えた。

バレンシアガ Balenciaga

Courtesy of Balenciaga

「Everyday Couture」と題したコレクションを発表したピエール=パオロ・ピッチョーリによる「バレンシアガ」。7月に発表されたオートクチュールコレクションの流れを汲み、クチュールのテクニックを日常着に落とし込むという大胆な発想で物作りに挑んだ。マニッシュなシャツには、コサージュのような花びらが飾られ、Tシャツのヘムには造形的なフォルムを出すために細かなステッチが施され、優雅な曲線美を描く。シルクオーガンジーの粒で構成されたドレスには、ホワイトデニムを合わせてカジュアルな装いを提案。ブルー、オレンジ、ピンクといったピッチョーリらしいカラーパレットの中にクリストバル・バレンシアガ作品やスペインを想起させるブラックを交え、またバスクシルエットのパンツやAラインの構築的なドレスなど随所にメゾンのコードを散りばめながらモダンな解釈を見せた。

リック・オウエンス Rick Owens

OWENSCORP

メンズコレクションに引き続き、コレクションタイトルを「STONE(石)」と題した「リック・オウエンス」。ストーンは、「気品あるストイシズム」、「キリストの復活の際に脇に投げられた石」、そして「他者への攻撃としての石を投げる行為」を意味し、「他者への攻撃に抗うことは、ささやかな人生の使命である」というメッセージをコレクションに込めている。輸送の際に使用される工業用のナイロンベルトをテキスタイルに変換し、ダブル・デュシェス・サテンを発案。独特な張りを持つ素材感を生かした、重厚感ある構築的なドレスが生まれた。1日に30メートルしか織れない高密度なピュアシルク「デュシェス」によるドレスも登場。岡山県児島のデニムは、イタリアの自社工場でブリーチなどの加工を施し、ドラキュラカラーのブルゾンやロングスリーブのミニ丈ドレスなどに用いられた。今季もメンズコレクションに続いて、連続する張力のネットワークの中に、圧縮力を受ける個別の構成要素が配置された構造「テンセグリティ」の概念を用いたチュールによる装飾のフレームを様々なルックに配している。200メートルのチュールを用いたミルフォイユジャケットは、GRS認証を受けたリサイクルナイロンチュールによるもの。1着の制作に45時間を要したといい、今季はオートクチュール的な素材使いやテクニックが新鮮で、若いクリエーターとのコラボレーションは一切無く、近年では珍しいコレクションとなった。

ステラ・マッカートニー Stella McCartney

当初より、「ファッションは動物の生命の犠牲の上に成り立つべきでない」と主張してきた「ステラ・マッカートニー」。今季は、海洋資源が脅かされる状況の中、海のイメージをコレクションに投影し、海が内包する生命を讃える内容となっている。海の生物の要素は様々なアイテムに反映。ニットのモチーフやバッグのチャームには、シャチやイルカ、ヒトデやタツノオトシゴがあしらわれ、ストラップレスのトップスやスポーティーなアンサンブルには、深海の生物のようなフォルムが採用されている。海中を描いたイラストTシャツやトロピカルなプリントのデニムパンツは、1980~90年代のビンテージイメージ。クリノリンのような彫刻的な造形のアンサンブルは、セパレートで着用可能。ジャケットのラペルやドレスの縁には、海の生物を思わせる有機的なモチーフが刺繍され、重厚さを演出。今季は特に、廃利用された海藻のバイオマスを利用したリビングインクによるサステナなプリントも発表。海と自然への愛情あふれるコレクションとなった。

イザベル・マラン Isabel Marant

ブランドのコードを忠実に守りつつ、新しい解釈を見せたキム・ベッカーによる「イザベル・マラン」。ロックのエッジーさ、ヒッピー的なオプティミズム、ノマドの重厚な装い、アフリカや南米のエスニックテイストなどブランド創始者の作風は咀嚼(そしゃく)され、より着やすいモードに仕上がっている。今季は1960年代に活躍したフォトグラファー、サム・ハスキンスの作品からインスパイアされ、コレクションのセクシーでフェミニンな傾向はハスキンスの作風からの影響を色濃く感じさせた。エスニックモチーフのシフォンのミニドレスや大胆なシースルーのレーシーなロングドレスなどはあったものの、大胆なドレス類・夜会服は見られず、あくまでもカジュアルな印象。マクラメ編みを応用したレーシーなドレスや、ビンテージ感溢れるスパンコール刺繍のミニドレスなど、ハンドクラフトに光を当てるクリエーションを見せ、新たな方向性を感じさせるコレクションとなっていた。

アンダーカバー Undercover

パリ市内のショールームで、最新コレクションを発表した高橋盾による「アンダーカバー」。1999年の自らの春夏コレクション「RELIEF」のデザインを元に、着古したような色落ちのテクニックを用いて進化させ、新たな魅力を見せている。襟の形に色落ちしたジャケットや、ワッペンが外れてしまったかのようなベースボールジャケットは、それぞれバックサイドにチュールの装飾と羽が飾られ、前後のイメージが全く異なる仕掛けになっている。背中の開いたデザインも多く見られ、レースアップになっていたり、裏地のディテールが見えるような小窓のようなデザインだったり。そこに、定まらない中心線やだまし絵(トロンプルイユ)など、このブランドらしい視覚効果も加わり、不思議な魔力を持ったルックが完成。2024年の春夏コレクションから着想を得て、背中に羽をあしらったジャケットも新たに発表した。04-05年秋冬コレクション、「But Beautiful」のディテールも随所に登場するなど、自らのアーカイブを紐解くコレクションとなっていた。

ロエベ Loewe

アーティスティック・ディレクターであるジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスの二人が、青春時代を過ごしたというニューイングランドの港町。そして、アンダルシアの太陽、スペインの陽気さとバロック様式。今季の「ロエベ」は、二人にとっての旧世界と新世界を対比させながら、新しいビジョンとクラフトを織り込み、再びロエベのイメージを刷新させた。一見スポーティーなアノラックはシルク製で、バックサイドのジップを開けるとフォルムが変化する。脱着可能なレジン製の襟を合わせたニットポロやワイヤーを仕掛けたスリーブのジャケットなど、カジュアルに見せつつ、大胆な仕掛けが施されているルックで構成されている。無造作にタオルを巻いたかのようなシースルーのドレスは、実は半透明のビーズを編んだニット。造形的なフリルを飾ったレザードレスやレザースカイビング加工を施したブルゾンなど、クラフトの側面を強調するようなルックも魅力を放っている。ディップしたペップを刺繍したタイダイのドレスやループで埋め尽くしたニットドレス、ビーズを全面に刺繍したフローラルモチーフのドレスなど、見どころが満載のコレクションとなっていた。

イッセイミヤケ Issey Miyake

ダンサーたちのパフォーマンスからスタートした、近藤悟史による「イッセイミヤケ」。ナイロン製の薄い布を運び込み、球体にしたかと思うと、布を大波のようにあしらって迫力あるパフォーマンスを披露。そしてモデルが登場した。今季は、人間の身体と布との関係性を考察し、その両者の「間(ま)」に着目。冒頭の身体に密着するようなビュスティエは、ブラのパッドを作る技術を応用したワコールとの協業によって生まれたもの。型は3Dプリンターで作成し、繊維は60%植物由来の樹脂でリサイクル可能。ロボットが繊維を吹き付けてカットし、人間の手がほとんど入らないアイテムとなっている。ガーター編みのピッチを不規則にして、有機的な風合いを出したニットのシリーズや手作業で生地の中に球体を入れて縛り、ツイスト加工を施してシワを出した立体的なフォルムのシリーズ、風船のモチーフを京都の職人が墨流しで描いたシリーズなど、空気の存在を確かに感じさせるアイテムが続く。身体に密着したビュスティエとは対照的に、風をはらむバルーンのようなルックが登場。細いナイロン糸を使ったアイテムは、歩くと大きく膨らみ、見る者の目を楽しませる。近藤は「風を通すことで喜びを表現したかった」と語っていた。アイデアに満ち溢れ、力強くもしなやかで優美なコレクション。制作段階から対話を重ねたという中野公揮による演奏とのシンクロも美しく、圧巻のフィナーレとなった。

ランバン Lanvin

「Gentle Confidence(優美なる佇まい)」と題したコレクションを発表したピーター・コッピングによる「ランバン」。アーティストのジョージア・オキーフやモデルでソーシャライトのティナ・チャウといった独自の個性と独立性を持った女性たちからインスパイア。強さ、しなやかさ、そしてエレガントな彼女たちの姿を、ランバンという伝統あるクチュールメゾンの現在に重ねて見せている。デイウェアからフォーマルなイブニングまで幅広く揃え、創始者ジャンヌ・ランバンが活躍したアール・デコ期から1980年代まで、様々な時代のエッセンスを取り入れながら、直線的なシルエットを強調。幾何学モチーフのミラー刺繍のドレスは、一見1930年代風ではあるが、レイヤードにすることでモダンな印象に。ウエストをシェイプしたジャケットは、タイト&ルースなカッティングで1980年代のボディーコンシャスとは異なるシルエットを生んでいる。大きなラペルが特徴的なコートは、シルクを用いてソフトに仕立て、優美な曲線とラペルの直線が美しいコントラストを見せていた。ショーには登場しなかったが、メンズコレクションに引き続きレディスでも「ジョン・スメドレー」とのコラボレーションニットが発表される。マクラメのような襟を配し、グラフィカルな構造に仕上げたランバンらしいアイテムとなっている。

ジバンシィ Givenchy

女性の生活の一部に合ったものでは無く、全ての時間帯に適合するフルワードローブを揃えることを目指したというサラ・バートンによる「ジバンシィ」。様々なアイデアに裏打ちされた、色とりどりのバリエーション豊かなアイテムでコレクションを構成した。今季は、エトロのアーティスティック・ディレクターだったマルコ・デ・ヴィンチェンゾをレザー部門に迎え、新しいバッグを3点発表。制作時にハサミで服をカットしているバートンの姿からインスパイアされた「カット」バッグは、ジッパーを開けるとハサミで切り開いたようなフォルムとなるのが特徴。そのバッグからインスパイアされたジッパー使いのレザードレスがファーストルックとなった。その他にクルミをイメージした「チェストナッツ」、月のフォルムを象った「エクリプス」も登場。バートンによるジバンシィのファーストコレクションでも見られたパウダーケースをあしらったベルトを合わせたスポーティーなデニムルックやブルーのレザーシャツとスカートのワークウェアインスパイアのセットアップなど、既存のカジュアルなデイウェアを再構築。身頃を交差させたジャケット、ベルト部分をポケットの口にずらしたレザースカートやバックパネルを肩に移動させたトレンチなど、大胆なカッティングのアイテムが目を引く。ビッグサイズに作って後から折り畳んで身体のラインに合わせるピンチシェイプのアイデアは、今季はジャケットの他にパンツでも見られ、絶妙なボリューム感を見せた。アレクサンダー・カルダーのモビールからインスパイアされたという、ゴールドワイヤーをあしらったシルクドレスやロングフリンジの原色ドレスも秀逸。最終の葛飾北斎イメージの刺繡のドレスは、アレキサンダー・マックイーン時代のジバンシィを彷彿(ほうふつ)とさせ、師へのリスペクトを感じさせた。

ヨウジヤマモト Yohji Yamamoto

ボーンやフリンジ、ロープなどをあしらい、これまで以上に装飾性の高いルックでコレクションを構成したヨウジヤマモト。ワイヤーで花びらのようなラフルを描いた大胆なドレスでスタート。グラフィカルではあるものの、フューチャリスティックな感触はなく、このブランドらしいエレガントなクラシシズムが漂っている。今季も様々な素材を組み合わせているが、特にレザーの存在が目を引いた。薄手のニットを重ねたレザードレスは、素材感のコントラストが新鮮な美しさを見せる作品となっていた。ショールの端に見られるフリンジをあしらったルックが多く見られ、また先端をほどいたロープをあしらったシースルーのドレスも印象的。「ほどく」という創作行為は、和を感じさせるプリントのドレスのスカート部分やツイードをほどいたドレスにも見られ、特にツイードのドレスは破壊的な要素とはかない美しさの両面を見せ、鮮烈なイメージを残した。「ほどく」とは逆に、リボンを編んだドレスも登場。最終ルックは深紅のフリンジドレス。山本耀司の実験的で自由なクリエーションを十二分に堪能できるコレクションとなった。

アライア Alaia

今年1月にクリエイティブ・ディレクターのピーター・ミュリエが去り、デザインチームによるコレクションを発表した「アライア」。旧カルティエ財団の建物内に、永遠性の象徴としてのレムニスケート(8や無限大の記号)状のプロジェクターを配し、スケーターのコンテンツを手掛ける映像作家、ジュリアン・クリンスウィックスによるムービーを流しながらミニショーを行った。女性との対話、クラフツマンシップとの対話など、アライアというブランドが持つ様々な「対話」をテーマに掲げ、ブランド創始者のアズディン・アライアからピーター・ミュリエまでのクリエーションの歴史を紐解いている。アズディン・アライアの特徴でもあった小さなボタンと襟裏にレザーをあしらったジャケット、ピーター・ミュリエの作風を思わせるプリーツを配したバターカラーのミニ丈ドレス、1990年代のアライアを思わせるウエストに大きなリブを配したレザーのAラインコート、ミュリエらしいサイドが大きく開いたスカートなど、それぞれの特徴的なディテールやシルエットを取り入れたルックを交互に見せている。カットレザーをスパンコールのように手で縫い付けたミニ丈ドレスや、先端にビーズを配したニットループのコートドレスなど、緻密な手作業によるクチュール的な作品も目を引いた。

ウジョー Ujoh

テーラードを独自に解釈してきた西崎暢による「ウジョー」。今季はスポーティー&カジュアルな要素を加えて、新境地を見せている。ゆったりしたシルエットのジャケットは、アイテムによってはバックサイドがパネル状に開く構造に。日本のみならず、ヨーロッパでも夏の暑さが問題化しているが、気候の変化に則したクリエーションを見せている。軽やかな素材を用い、清涼感あるルックで構成しているのも特徴的だった。デニムとサマーウールのパンツは、それぞれジップで半分に分けることができ、ショーでは男女のモデルが半分ずつをシェアする形で登場。今季はディッキーズとのコラボレーションに見られるように、ワークウェアの要素を多分に取り入れているが、パタンナー出身の西崎は、実際に服を解体するところから始め、解きほぐした状態から再構築をしたという。緻密な計算を感じさせるカッティングは、パンツの裾のボリュームやジャケットのヘムのあしらいなどに見られ、強い特徴を有している。それらを組み合わせたルックは、ワークウェアでありながら、テーラードにも通じるエレガントな仕上がりを見せ、威厳さえ感じさせた。

シーエフシーエル CFCL

「Knit-ware:Harmony」と題したコレクションを発表した高橋悠介による「CFCL」。フィンランドの建築家・家具デザイナー、アルヴァ・アアルトによる「美とは、機能と形態の調和である」とするデザイン哲学から触発されたという。今季はフィンランドのジュエリーブランド「カレワラ」とのコラボレーションを行っているが、高橋は、当地を訪れた際にサナトリウムで目にした光景、インテリアの色使いや明るさ、光の美しさをコレクションに投影。1930年代のアール・デコ期のココ・シャネル、マドレーヌ・ヴィオネ、そしてジャン・パトゥの作品からもインスパイアされている。昨今の暑さを意識し、シースルーのニットパンツを提案。トップ部分にジャケットやボリュームのあるトップスを合わせて、美しいコントラストを見せている。ハンカチを無数に縫い付けたニットドレスは、ハンカチ状のニットを織り、それを一枚一枚手で縫い付けたもの。アイテムによっては手染めしている。機能性を求めることよりも、生活を彩る美しさを重視し、人間との調和を目指したという今季。このブランドの出発点では感じられなかった、官能的で女性的な側面をたたえる美しいコレクションに仕上がっていた。 

ルイ・ヴィトン Louis Vuitton

「ERGONOMIE」と題し 、エルゴノミクス(人間工学)的なアプローチを試みたニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」。衣服と人間の身体との調和を目指し、柔軟性や流動性を考慮したデザインと素材使いのアイテムを揃えた。軽やかさやしなやかさといった特性を持たせるために、今季はニットやニットジャージーといった素材が多用されている。また身体の動きを制限しないために、シンプルなフォルムのアイテムが多く見られた。人間の身体に沿って「第二の皮膚」になるように創作をしたというが、ボディーコンシャスにはせず、無理のないシルエットに仕上げているのも特徴的。チュール素材を重ねたニットジャージーのドレスのヘムには、丸い形状のチェーンを通し、グレーのジャケットには金属のパーツを飾り、メタリックな輝きを加える。ダイヤモンドモチーフのジャカードニットドレスには、プラスチック素材の大きなスパンコールを縫い付け、ジェスキエールらしいフューチャリスティックな表現がアクセントになっている。装飾性の高いラフルを飾ったアイテムは、ボタンで脱着が可能で、ラフルを取り除くとシンプルなコートに変貌。着心地や機能性を重視したためか、リアルなデイウェアとして活用できそうなルックがいつになく多かったのも印象的だった。

まとめ
今季もそれぞれのブランドが自由なクリエーションを見せていたパリ。トレンドというものは存在しないのだが、共通項が無かったかというと、それは嘘になるのかもしれない。心当たりはなくもないのである。
バーガンディカラーのレザーコートやニットのコートドレスを発表したアライアは特異な例だったが、日本のブランドを中心に暑さを意識した薄くて軽い服作りを見せていたことは印象的だった。ウジョーはパネルがなびくようなジャケットを生み出し、CFCLはニットのシースルーパンツを発表。特に言及はなかったものの、高橋盾のアンダーカバーも、ジャケットやシャツの背面を大きく開けるデザインを見せていた。今夏のヨーロッパにおける熱波により、来年以降は欧米のブランドも涼しさを強調するようなアイテムを提案する傾向が生まれるかもしれない。
コンセプトとして、身体と衣服の調和を目指したブランドが目に付いた。ルイ・ヴィトンは、身体と衣服の調和を目指し、見た目の柔らかさはもちろんのこと、機能性と着心地まで細部に渡ってこだわりを見せた。イッセイミヤケは、身体と衣服との間(ま)を考察し、その関係性を様々なボリュームの服で表現。CFCLは機能性よりも生活を彩る美しさを重視したが、人間と衣服の調和を目指したことには変わらず。そのまま「ハーモニー(調和)」をコレクションタイトルに組み込んでいた。
「ビンテージ」という言葉も多く聞かれた今季。デザイナーに熱狂的なビンテージマニアは少なくなく、古着のエッセンスを織り込むブランドが多かった。旧作からインスピレーションを得て、リアレンジして発表するブランドも目に付いた。前述のアンダーカバーは、自らのコレクションから様々なディテールを抽出して新しいアイテムに再構成したアイテムを発表。イザベル・マランは旧作のプリントを転用してドレスを制作。クレージュも、特にシューズとハットは1960年代のアーカイブからの復刻だった。そういった創作行為は、どこのブランドでも前々からごく普通に行われてはいるのだが、今季は敢えて公言するブランドが目立っていた。ビンテージを重んじる傾向は、ファッション業界のみならず一般化しつつあり、その勢いは止まらない。ここ1年程で、ファッションにおける一大勢力となっている。パリ中央のサン・ポール駅からレピュブリック駅に掛けてのチュレンヌ通り、及びチュレンヌ通りに接するポン・オ・シュウ通りがビンテージショップ街に生まれ変わり、週末は歩行者天国のような賑わいを見せる。若い世代のビンテージ熱の高まりは、止まるところを知らない。ハイブランドの服が高くなり過ぎているため、ビンテージを買わざるを得ない状況が生まれているせいではあるものの、古き良き時代のオンリーワンの服を求める傾向はこれからずっと続きそうである。

取材・文/清水友彰
写真/ブランド提供

清水友顕(しみず ともあき)
1994年、大学卒業後に渡仏し、96年にモード学校ステューディオ・ベルソーを卒業。ランバン、ケンゾーでの実習経験を経て、ファッションジャーナリストとして活動。古いビーズやぬいぐるみ収集を発端に蚤の市巡りがライフワークとなり、2010年以降は蚤の市イベントを日本各地で開催。著書に『パリ蚤の市散歩〜とっておきガイド&リメイク・リペア術』、『パリのヴィンテージファッション散歩』。

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