今シーズンは「プラダ」がMFWのオープニングを飾り、また初日の夜には「ヴォーグ・ワールド」が開催されて、初日から話題の多いファッションウイークとなった。「グッチ」「フェンディ」「ジル サンダー」「マルニ」「ボッテガ・ヴェネタ」など、今シーズンは2シーズン目となるクリエイティブ・ディレクターたちが率いるブランドにとっては、本領発揮のシーズンだ。
傾向として見られたのはまず、軽やかさと機能性。メンズにも見られた、軽くて快適な装いという流れは、ウィメンズにも見られた。エアリーで透け感のある素材が醸し出すフェミニンな要素を駆使しつつ、これまでウィメンズファッションでは二の次になりがちだったメンズライクなユーティリティーも重視される。次に挙げられるのは、多様なスタイルの提案。一つのテイストに絞るのではなく、クラシックからカジュアル、ガーリーからロックまで、様々な女性像を一つのコレクションに入れ込んだブランドは多い。そしてもう一つは、誰もが着られるような日常的な要素。普遍的でウェアラブルなピースをランウェイではレイヤードやミックスマッチなコーディネートで特別なものにして提案していた。さらに加えるならブランドへの原点回帰。それぞれのブランドが持つ独自の魅力を今一度見直すというものだ。いずれも、服が売れないと言われ、ファッション業界が低迷する中、今まで以上にマーケットを意識した傾向と言えるかもしれない。
プラダ(PRADA)
プラダのDNAともいえるスカートにフォーカスし、様々なフォルムや装飾によって、スカートのみでコーディネーションを展開した。プリーツ、深いスリット、ラップ、ボリューミーで端を摘んだものなどデザインは様々で、厚手のコットンから、ナイロン、ラテックスまで多岐にわたる。ベルクロに施したクリスタル刺繍、ビジューのようなイメージの大きなメタルスナップ、本来は内部構造の材料であるクリネリンを外側に使うなど、工業的な機能性と装飾的な美しさのコントラストを両立。アーカイブプリントから数千時間かけた刺繍まで、刺繍やプリント同士がぶつかり合うようなルックもある。トップはスカートを引き立てるようなミニマルなブラが多用され、ナイロンパーカーやペイントされたバイカーズブルゾンと併せ、ユーティリティーやスポーティー感覚をプラスしたルックも。「明晰さ」をテーマに、意識的に決断することで装飾や誇張を排除したメンズコレクションに続き、あえてアイテムを限定しながら無限にスタイルを広げる可能性を提案した。
ディーゼル(Diesel)
グレン・マーティンスが手掛ける最後のコレクションは、その集大成ともいえるパーティーがテーマ。クラブのようなセットには200人のパフォーマーが観客に紛れ込み、不可解または官能的なパフォーマンスを繰り広げる。ランウェイにはトラックスーツの襟とシャツの袖口を融合させたリブニットセーターや、レザーやデニムとつながったソックス、レザージャケットと合体したブレザーなど、異なるアイテムを一体化させたルックが多数登場。またカットアウトでオーキッドをかたどったアイテムたちや、バックをカットアウトしたオーバーニースカートなど、肌見せの要素も満載だ。ツイードコートやウィンタージャケットなど冬のイメージを軽やかなシャツなど春のワードローブにプリントしたり、ジャージー素材の上にマイクロデニムショーツを転写プリントしたり、デニムボンバージャケットにベースボールジャケットやバイカージャケットに見えるフォイルプリントを施したりと、お得意のトロンプルイユも健在。ベルトだけで固定されたトップ、トロンプルイユで蘇った切りっぱなしのシアリングコートなど、グレン就任当時のピースを想起させるピースも登場し、「破壊的で、セクシーで、流動的で、楽しい」という方向性を一貫して提案した6年間のキャリアの大団円を飾った。
ジル サンダー(Jil Sander)
ジル サンダーに根付く厳格さ、精密さ、統制、そして秩序と力を表現するユニフォームを出発点に構築し、解体し、再構築するという作業から生まれたコレクション。プレスによるシワ加工やステッチを多用し、スポーツとクラシックを融合させる。テーラリングは小さな襟にボタンをあえて高い位置にし、ボタンを掛け違えたようなコートや部分的につまんだようなジャケットも登場。6mの生地を使ったボリューミーなドレスやコクーンシルエットのトレンチコートなどボリューム感のあるアイテムや、日本画のようなプリントもあり、ブランドのコードをリスペクトしながら、それを変容させ、意外性を盛り込むことで、新鮮な美しさを提案した。
フェンディ(FENDI)
「I like my body when it is with your body(あなたと一緒にいる時の、自分の身体が好き)」というE.E.カミングスの詩の言葉を象徴とし、身体や他人との繋がりをテーマに、感情的に自由な感覚に身を委ねることを強調した。ルチアーノ・ファブロの作品「ミラーキューブ」から連想した、ランウェイに来場者が写りこむ鏡張りの会場セットは、自と他の対峙や繋がりを表す。ランジェリーを出発点にし、レースや刺繍など様々な装飾の下着が登場。そこにファーやテーラードジャケットなど重めのアウターをレイヤード。また胸元が大きく開いたドレス、マイクロショートのトップスやカットアウトによる肌見せも。さらにレザーにレースのようなカットアウトを施したドレスや、ビーズやスタッズを施したアイテムなど職人技の生きたピースも多い。様々な素材やテイストをミックスすることで、男性らしさと女性らしさをジェンダーレスに描き、重さと軽さ、パンクとクラシックといった相反する要素を入れ込みながら、身体と心が主体的に求めるスタイルを描いた。
エトロ(ETRO)
「エトロ ヘイロー(光輪)」をテーマに、太陽の優しい後光に包まれたようなリラックスした軽い空気観の漂うコレクション。シフォンやレース、サテンなどの軽やかな素材やフリンジ、フリルなどのディテール使いで動きのあるシルエットを描く。そこにウインドブレーカーやスエードブルゾン、デニムジャケットなどを合わせたルックも。長いトレーンのドレスやガウンコートなど長く広がるロマンチックなテイストから、スパンコール使いのシャープなスカートやドレス、スリムなレザーパンツまで揃う。「エトロ」のアイコンであるペイズリーは、ソフトに輪郭をぼかしたプリントやデニムの濃淡、クロシェ編みのモチーフで主張し過ぎることなく登場する。マルコ・デ・ヴィンチェンツォ退任後、優しいトーンにスイッチし、幻想的なボヘミアンテイストを展開した。
オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)
次の目的地へ向かうためのエネルギーを満たす「エネルギーステーション」がテーマ。ガソリンスタンドのようなセットには、今回コラボしている「ホンダ」のコンセプトモデルバイク「オニツカタイガー ホンダミッドスポーツコンセプト」が登場。コレクションにも「ホンダ」のロゴ入りアイテムやバイカーズジャケット、トラックパンツ、レースアップブーツなどモータースポーツのディテールを生かしたルックが多数展開される。それらにテーラードジャケット、またはフラワーモチーフやリボンなどのレトロでガーリーなアイテムを合わせて、コントラストを利かせたミックススタイルを提案。さらにデヴォレ加工のベルベットでグランジを、シルクフリンジを多用してウエスタンのテイストもプラス。テーラリングとスポーツウェアを融合させ、ユーティリティーの要素を生かしつつエレガントに今のムードを演出した。
ブルネロ クチネリ(Brunello Cucinelli)
「サヴォアフェールの本質」をクチネリ流に解釈し、自然から生まれるものこそが人間が本能的に求める美しさであり、そんな自然からの様々な要素を調和して新しい形として生みだすのがサヴォアフェール(匠の技)だと考える。自然の色やたんぽぽのフラワーモチーフなど自然の要素を散りばめ、ウイーンに伝わる籐細⼯をヒントにした刺繍やクロシェ編みで作り上げられた編地をニットウェア、スカート、Tシャツ、アクセサリーなどに使用。オーガンジーなどのエアリーな素材やリネン、シルク、スパンコールなどきらびやかな素材でフェミニンさをプラスする。マリンテイストのニットやバミューダパンツなど日常的なテイストや柔らかい曲線を描いたテーラードジャケット、ボンバージャケットなど、メンズのユーティリティー要素を女性らしく再解釈したアイテムも登場し、独特の世界観を醸し出した。
マックスマーラ(Max Mara)
探検家のフレイヤ・スターク、野生動物写真家のオサ・ジョンソン、大陸を横断したドライバーのエヴァ・ディクソン、飛行家のアメリア・イアハートとベリル・マーカムといった、1930年代に当時の既成概念を打ち壊して世界を旅し、未知の地を切り拓いたアクティブな女性たちが着想源。キーとなるサファリジャケットは、リネンや光沢のあるギャバジンで仕立てたり、ドレープを寄せてサイドで結んだりすることでモードな装いに。部分的にオーガンジーを使用したトレンチコートやジャンプスーツ、長めのシルエットのカーゴベストやカーゴポケット付きのペンシルスカートも登場する。ウエストマークしたコートやワイドパンツ、体にフィットしたニットドレスでフェミニンさをプラス。冒険服の機能性に軽やかなエレガンスを融合することで、ラグジュアリーに昇華させた。
アンテプリマ(ANTEPRIMA)
「不思議の国のアリス」からの着想で、知性とユーモア、そして好奇心を持って自己発見をする女性像をコレクションに落とし込んだ。オーガンジーやシフォン、薄いニットなど透け感のある軽い素材を多用し、トロンプルイユやパイピング使い、熱ラミネート加工を施した糸で編み立てたポワンテルレースのディテールなどで、日常的なアイテムに捻りを利かせている。ロマンチックなバラの花びらのモチーフが、レース、ラッフル、3D 刺繍などで各所に登場し、その一方で、カーゴパンツやショートパンツ、ブルゾン、そしてオーバーサイズでボクシーなシルエットでボーイッシュなイメージを加えて二面性を探求。洗練されたアイロニーと矛盾に溢れる「不思議の国のアリス」のように、ノスタルジーとモダンを融合し、見慣れたワードローブを新しいものへと再解釈した。
エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)
「時の痕跡」をテーマに、時間の経過によって生まれる素材の表情を通して、流れるようなシルエットや端正なジャケット、しなやかなテーラリングを再解釈。塩の結晶による素材加工や刺繍、アシッドウォッシュや低温染色によって生まれる不均一な色彩が独特の雰囲気を醸し出す。リネンには着込まれた衣服の風合いをトロンプルイユで再現し、シアサッカーには凹凸やしわを、ベルベットにはレーザー加工によるまだらな質感を施している。リネンや薄手のシルク、シャツ地、ビスコース、ジャージーなどの素材を使い、アンコンジャケットやワイドパンツなどシルエットは軽やかに。珍しくプレゼンテーションで見せることで、素材の独特のニュアンスが強調されていた。
トッズ(TODS)
マッテオ・タンブリーニが思春期の頃に見ていた90年代のアクティブな女性たちが、普段の生活の中で感じる喜びをイメージしたコレクション。パーフォレーテッドレザーやナッパ、ウインドシルクなど様々な素材で仕上げたトレンチコートを主役に、プレシャスレザーのバイカーズジャケットや、パネルの付いたアシンメトリーなスカート、ランニングやバンドゥブラなど「トッズ」らしい革を生かしたアイテムが様々に登場。それに加え、スカーフを巻き付けたようなシルクドレスやバミューダパンツ、パラシュートパンツなどがリラックスした雰囲気を加える。また、職人技を駆使したパンチングを、トレンチやセットアップからゴンミーノやバッグに至るまで様々なアイテムに施し、かつニットにもパンチングのようなモチーフで統一感を与え、軽やかで楽しいムードを品良く演出した。
グッチ(Gucci)
「グッチとは何か?」という問いに対してのデムナの答えを「ザ ストア ショー」として描いた今シーズンは、創業者グッチオ・グッチがロンドンのサヴォイ・ホテルで働いていた当時からの連想で、ロビーを交差する様々な階層やキャラクターをコレクションに投影。会場にはブティックのようなセットが組まれ、登場するルックもラグジュアリーからプレッピー、ラッパーやインフルエンサーまで様々。ジョガーパンツやブーツなどの乗馬スタイルやツイードジャケットのブルジョア風スタイル、トレンチコートやテーラードなどのアーバンテイスト、ボンバー、キルトスカート、スパンコールのラガーシャツなどのプレッピーやカジュアルな要素、そしてボリュームのあるシアリングコートやティアドロップ型のウェイトによってシルエットを固定したグラビティードレスなどセンシュアルなピースと多岐にわたる。各所に施したホースビットのアクセントや赤と緑のグッチカラーを部分的に差し込んだディテールなど、ブランドのシグニチャーも散りばめ、原点回帰を通じて、誰もがなりたい自分になれる可能性があることを示唆した。
ドルチェ&ガッバーナ(Dollce&Gabbana)
「シチリアの美の意匠」をテーマに、ブランドのルーツであるシチリアの由緒ある邸宅に代々受け継がれる洋服や調度品を着想源としたコレクション。重厚なツイードジャケットやクロシェ編み、刺繍入りリネンのスカートなど祖母から譲られたようなレトロなピースやダマスク織、装飾トリム、家具張り生地など歴史的邸宅をイメージさせる生地を使ったアイテムが登場し、シャンデリアや家宝のようなジュエリーで彩られる。「ドルチェ&ガッバーナ」らしいレオパードからフラワーモチーフまで、ふんだんな柄使いも特徴的で、ミニマル傾向な時代の流れに抗するような、贅沢なクリエーションを展開した。
エムエスジーエム(MSGM)
ロゴを刷新しリニューアルを計る「MSGM」は 今シーズン「軽やかで強く、シンプルで、洗練され、親しみやすい」というブランドイメージに原点回帰。フラワーモチーフやストライプ、タイダイなどアイコニックなモチーフを多用し、お得意のパステルやビタミンカラーでカラフルに展開する。イタリアのポップアートの先駆者、マリオ・スキファーノへのオマージュで、星やヤシの木を描いたTシャツやスカートも登場。透け感のあるナイロン素材をレイヤードしたり、ネクタイをドレスに合わせたりとコーディネーションにも遊び心が溢れ、MSGMらしいポップでエネルギッシュな魅力がさく裂していた。
ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)
今シーズンのテーマは「進化」。そこには「スタイルとは変わることのないルールではなく、自分らしさを貫きながら、変化を受け入れる力」という理念が現れる。光を受けて輝く生地にコットンの風合いを加え、昼と夜の境界を曖昧にしたような装いを展開。メンズライクなジャケットを縦のラインを強調し、流れるようなシルエットに仕立て、端正に仕立てたスタイルと身体のラインに沿うデザインが交互に登場。シャープなショルダー、リズミカルな幾何学模様、メタリックなきらめきには、80 年代の気配を漂わせる。また、ジョルジオ・アルマーニが1942年の初聖体拝領の際に着用したスーツから着想を得てデザインされた胸元に白い花を添えた黒のスーツも登場し、没後約1年たった偉大なる創業者にオマージュを捧げた。
写真/ブランド提供
取材・文/田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等に携わった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。コレクション取材歴約15年の経験を生かし、メンズ、ウィメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を寄稿。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。
