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特集
2016.10.07
特集 宇多田ヒカル最新作『Fantôme』

宇多田ヒカル特集Vol.3――インタビュー後編

宇多田ヒカルへのインタビュー後編では、活動休止の6年を経て変化を遂げた歌詞や歌声について、『Fantôme』に参加した椎名林檎、小袋成彬、KOHHという3人との豪華なコラボレーションについて語ってもらった。

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――『Fantôme(ファントーム)』はダンサブルな「道」という曲で始まります。“人間活動”期間中に起こった様々な出来事を経た宇多田さんの率直な想いが凝縮されているような歌詞ですね。

「そうそう。“私は元気です。行きますよー!!”って感じで(笑)。この曲の作詞の過程で、アルバムの主題を自分なりに捉えることができました。言いたかったことが言えてスッキリしました」

――わずかに英語とフランス語が用いられていますが、このアルバムの歌詞はほぼ日本語で書かれていますね。

「1年半くらい前から“次のアルバムは日本語で歌うことがテーマ”とスタジオで話していました。いまの自分の感覚だと英語を使うことが“逃げ”に感じられてしまって。だから今回は制作をスタートさせる段階から、日本語で歌う意義や“唄”そのものを追求しようと決めていました」

――“人間活動”(=活動休止)期間以前と比べると歌い方が変わったように感じられます。

「日本語のポップスで勝負しようと決めていたので、言葉をしっかりと伝えたくて、以前よりも丁寧に歌いました。それと日本語の唄は、声と歌詞が前面に出てこないと成立しないので、トラックも極力少な目にしました」

――歌詞の中にはこれまでになかったアダルトな表現や描写も見受けられますね。

「私はデビューの年齢が若かったせいもあって、以前は性に直接触れるのはタブーな気がしていたんです。でも今回からはPG13からR指定になったというか(笑)」

――そうした曲のひとつでもある「俺の彼女」の終盤では、アルバムタイトルでも用いたフランス語で歌うくだりがありますね。

「フランス語は何の前触れも計算もなく出てきて、自分でも少し驚きました。クールで尚かつ“艶っぽい”響きが欲しかったのかもしれない。この曲は活動休止前から温めていたものでした。昔の彼に“ 《俺の彼女は歌が上手い》 って歌詞の歌を作ったよ、あはははは”と言われたことがあって(笑)。デモの段階では冗談半分の歌詞だったんだけど“俺の彼女”の部分はキープしたいなと思って(笑)」

――ゲストも豪華です。「二時間だけのバカンス」では同期デビューの椎名林檎さんとデュエットされていますね。

「林檎ちゃんとはかれこれ長い付き合いですね。この曲では日常と非日常の危うい関係を表現したかったので、母であり妻でもある私たち二人なら説得力が増して面白いかなと思って(笑)。私は子供が出来るまで“日常”というものがなかったので、日常を手に入れた分、非日常的なスリルを求める気持ちも分かるようになったんだと思います」

――「ともだち」ではTOKYO RECORDINGS主宰の小袋成彬さんが参加しています。

「サビの歌詞が出来始めた段階で、“私一人でひっぱるのつらい”とディレクターさんに相談したら、彼が以前から注目していた小袋さんのことを教えてくれて。私、小袋さんとのレコーディングで、初めて母以外の歌手に歌入れを終始じっくりと見られたのでちょっと緊張しました(笑)。あと〈荒野の狼〉という曲は、小袋さんとお茶をしている時に、お互いにヘルマン・ヘッセが好きだという話から『荒野のおおかみ』という作品を思い出して、そこから歌詞が広がっていきました。メインの歌入れが全て終わった後に取り掛かって、この吐息でアルバム全体のレコーディングを締め括りました」

――その「荒野の狼」では、曲の冒頭から吐息が聴こえてきます。「花束を君に」の冒頭や、他の曲でも聞こえてくる宇多田さんの息は、生者の存在感をフィジカルで表現しているように感じられます。

「“息”を使った表現は、実はこのアルバムのちょっとした裏テーマでした」

――さらに「忘却」ではラッパーのKOHHさんが参加していますね。

「私は少し前から知人に教わって彼のファンだったんですが、オファーしてみたら彼も私のファンだと分かって(笑)。KOHHのラップパートは彼自身に書いてもらいました。他人の言葉が自分の曲に混ざることも初めてでしたが、自然と真ん中で落ち合えました。生き方を考えることは死に方を考えることと同義だと私は思っているので、これまでの人生を振り返りながらこれから向かうところに思いを馳せました。 《いつか死ぬ時/手ぶらがbest》 という最後の一行に全てが凝縮されています」

――「人魚」はハープの奏でる調べと、そこに乗せて歌われる歌詞が美しい曲ですね。

「母の死後、“もう音楽を作れないかもしれない”と思っていた時に、ギターを弾いていたら、ふと出来てしまった曲でした。これも“美しい日本語の曲を”と高い理想を掲げて臨んでしまったせいで、作詞にすごく苦労しました。1年ほど悩んで、理想に追いつかないとあきらめかけた時に、ブワッと言葉が出てきました。完成したという達成感も強く、いま最も誇らしく感じている曲です」

――そしてアルバムは「人生最高の日」を経て、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のテーマ曲となった「桜流し」で幕を閉じます。

「〈人生最高の日〉では、初めて行く場所へ向かう時の高揚感を描きたかった。そして〈桜流し〉は、最後にしか置きようがなかった曲でした。これまでアルバムの曲順は制作チームと議論しながら固めていたんですが、今回は初めて自分で決めました。そういう意味でも、自分のプロジェクトのリーダーという立場に進んで納まったと思える制作になりました。こんなに“聴いてほしい!”と思うのなんて初めてかも?っていうくらい(笑)、すごく聴いてほしいアルバムになりました。何かしらの想いが届いて、皆さんに受け入れてもらえたら嬉しいです」

――では最後に、この『Fantôme』は宇多田さん自身にとってどんなアルバムになったといえますか。

「“受け入れて、受け入れられる”アルバムでしたね。作ること自体が究極のセラピーだったというか。自分でも〈道〉を繰り返し聴いていたら“悲しくない、もう大丈夫”と思えてきましたから。必死に前へ進んだことで確かな自信を持てた一枚です。こんなアルバムはもう二度と作れないと思います」

(おわり)

取材・文/内田正樹



<特集 宇多田ヒカル最新作『Fantôme』>
宇多田ヒカル特集Vol.1――『Fantôme』ディスクレビュー
宇多田ヒカル特集Vol.2―― インタビュー前編
    宇多田ヒカル特集Vol.3――インタビュー後編



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