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特集
2016.03.18
1990年代末の音楽風景~『1998年の宇多田ヒカル』をめぐって~

音楽と社会、時代のバランス

多くのメガヒットが生まれ、音楽が時代を彩っていた1990~2000年代初頭。あれから時は流れ、音楽をとりまく状況は大きく変化している……。今回も著書『1998年の宇多田ヒカル』が話題の宇野維正さんにお話を聞きます。音声版とともにお楽しみください。

音楽と社会、時代のバランス

音楽で世に出る、これを実現させるための登竜門として、多くのコンテストが開催され、80~90年代に実際に多くのバンドがデビューを果たした。音楽を作り世に問うために“バンドを組む”のは、当たり前の事だった。

「例えばRADWINPSの野田(洋次郎)くんでもいいし、Dragon Ashの降谷(健志)くんでもいいんですが、彼らが今、音楽をやりたいとして、果たしてバンドを組むのだろうか?って思うんです。僕は、組まないと思っていて。今だったら、バンドを組まなくても音楽は出来る。バンドを組む人は“バンドをやりたい”んだと思う。『1998年の宇多田ヒカル』という本は、CDメディアが音楽シーンをどう変えていったのかというサブテーマがあるんですが、CDメディアの変革と同時期に、音楽制作の現場でも多くの変化が起きていたんですよね。それに伴って、バンドだったり、そのバンドが参加するコンテストであったり、これらの役割が、ずいぶん変わりましたよね」

2016年の現在、1990年代と比較すれば、制作環境を構築するためのコストは劇的に下がり、web上をはじめ発表の場は自由に選べるようになった。作る、送る側/受ける、聴く側という境界は曖昧になった。

「1998年という年は、70年代後半から始まった第1次バンドブーム、続く80年代後半~90年代の第2次バンドブームの、帰結点でもあるのかもしれないですね。本の中では、“CD時代の終わり”といったようなことを、わりと挑発的に書いてはいるんですが、いろんなところで新しいことは始まっていて。ただ、何百万といったCDのセールスによってもたらされた、音楽が社会にもたらすダイナミズム……といったようなものは、もう起こらないと思います。やっぱり音楽は、その時代、社会とのバランスによって形作られていく。1990年代でいえば、音楽は、カラオケ文化に代表されるような、コミュニケーションツールであり共通言語……といった側面が強かったんですよね」

音楽が社会にもたらすダイナミズム。これを端的に知らせてくれるのがヒットチャートという存在だ。音楽と社会、時代の関わりを、ヒットチャートは映す。そしてヒットチャートは、潜在的な音楽ファンを新しい世界へと誘う窓の役割も持っている。そのチャートが持つ意味合いも、1990年代末と現在とでは、ずいぶんと変化した。

「アメリカで、2015年には“See You Again”と、“Uptwon Funk”という、誰もが口ずさむヒット曲が生まれているんですよね。グラミー賞は“Uptown Funk”がとったんですが、“See You Again”も“Uptown Funk”も、全米のシングルチャートで10週以上1位にランクされた。そんなヒット曲が、アメリカにはまだあるんです。誰もが口ずさむヒット曲みたいなものがちゃんと生まている。1位が週ごとに変わっていくような日本のヒットチャートの状況はやっぱり特殊だと思います」
(つづく)

AKAI MPC 2000<

AKAI MPC 2000
1990年代にHIP HOP、クラブミュージックなどを中心に、楽曲制作に大きな変化を与えたサンプラー〈AKAI MPC〉シリーズ。アマチュアの音楽制作のすそ野を広げるきっかけとなった機材のひとつ。感覚的な操作を可能にしたパッドによる打ち込みビートが、多くの名曲を生み出した。
※写真のMPC2000は1997年の発売

AKAI MPK mini MK2

AKAI MPK mini MK2
1990年代の名機MPCシリーズのDNAを受け継ぐAKAIの最新の一台。機材、パソコンなどの充実で、自宅録音による制作スタイルが1990年代に比して飛躍的に普及した現在でも、MPC時代から受け継がれる感覚的な打ち込みが可能なパッドは健在。DAWソフトのMIDI音源などサンプル素材を自在に操ることができるコントローラーだ。
※2014年発売のMPK mini MK2



宇野維正
「ロッキング・オン・ジャパン」「CUT」「MUSICA」等の編集部を経て、現在は「リアルサウンド映画部」で主筆を務める。編著に『ap bank fes official document』『First Love 15th Anniversary Edition』など。

1998年の宇多田ヒカル
宇野維正
『1998年の宇多田ヒカル』
(新潮新書)