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特集
2015.12.18
はっぴいえんどが開いた世界

松田聖子のアルバム『風立ちぬ』

はっぴいえんど解散後、それぞれの道を歩んだメンバーは、その後、歌謡曲の世界で再びタッグを組むことになります。伝説のバンド、はっぴいえんどが残したものとは? 解散後の70年代後半から80年代前半のお話を、サエキけんぞうさんに伺います。より詳細な音声版とともにお楽しみください。

松田聖子のアルバム『風立ちぬ』

はっぴいえんど解散後、細野晴臣、鈴木茂 は〈キャラメルママ〉〈ティンパン・アレー〉として、松任谷由実(当時、荒井由実)、吉田美奈子、小坂 忠ら、はっぴいえんど周辺のアーティストはもちろん、雪村いづみ、アグネス・チャン、南 沙織などの演奏・プロデュースを担当し、活動の領域を広げていった。大滝詠一は自らが主宰する〈ナイアガラレーベル〉を立ち上げ、アーティスト/ミュージシャンが自らレーベルを持つことは、まだまだ珍しい時代に、自身の作品はもちろん、山下達郎、大貫妙子を擁したバンド〈シュガー・ベイブ〉のアルバム『SONGS』など、他アーティストのプロデュースも積極的に行なった。松本 隆は、作詞家としてアグネス・チャン、チューリップ、太田裕美などに楽曲を提供、ヒットメーカーとして活躍する。70年代、それぞれの道を歩んだメンバーだが、歌謡曲が黄金時代を迎えた80年代前半に、松田聖子をはじめとするさまざまなアイドル、アーティストへの楽曲提供、演奏クレジットに、細野、大滝、松本、鈴木の名が再び連なることになるのだが……さて、この70年代に、音楽リスナーとしてサエキさんはどのような道筋を歩いていたのだろうか。

「77年になると、ロックがつまらなくなるんですね。イーグルスの『ホテルカリフォルニア』が76年なんですが……“そこでロックは終わった”って言われていて、本気でロック全般がつまらなくなるんです。高校の仲間でも、ロックが面白くなくなってしまったことが問題になり始めていて。アメリカのシンガーソングライターものも、76年頃にはダメになって。マイケル・フランクスが出てきたりするんだけど、AORというジャンルも最終的に物足りないというか、ミエミエの音楽に思えていたんですね。それで僕らは、ロキシー・ミュージック、10cc、スパークスなどのブリティッシュに転向せざるをえなくなっていく。でも何か違うな、と思っていた。そんな状況の中で、セックス・ピストルズが出てきて、パンクムーブメントが起こります。パンクを体験したあとに、僕らは、(細野さんが結成した)YMOとか、(大滝さんの)『A LONG VACATION』を聴いてるんですよね。ただ単に、素直にYMOとか大滝さんを聴いていたファンもたくさんいると思うけど、細野さん、大滝さんが体験している音楽の荒波、時代の変化を本当の意味で考えるためには、パンクを通らないと疑似体験できないし、『A LONG VACATION』での大滝さんの変化は分らないかもしれない。リスナーの感覚としては、海外の音楽シーンの、パンクによる挫折と再生を体験し、それでまたはっぴいえんどに戻っていくということなんですね。
松本さんに関しては、細野さんや大滝さんとはフィールドが違うって我々も認識していました。“ちょっと遠くに旅をしているんだ”と思っていましたね。だから、はっぴいえんどのメンバーで歌謡曲を作るようになって――80年以降ですよね――“絆がもどった”みたいな感覚がありました」

はっぴいえんどの4人が全員関わることになったアーティストが、松田聖子だ。「風立ちぬ」「天国のキッス」など、松本、細野、大滝らの手によるヒット曲は多いが、A面のサウンドプロデュースを大滝が、B面を鈴木が担当したアルバム『風立ちぬ』を、特別な作品として捉えているはっぴいえんどのファンは多いかもしれない。

「『風立ちぬ』には、“VENUS”というフレーズをもつ60年代の洋楽ポップスをモチーフにした楽曲が、コーラス含めて2曲作られているんですが、大滝さんは、松田聖子を80年代の“VENUS”にしようとしていたんじゃないか?って思うんです。自分が一番好きなアルドン・ミュージック系のアイドルを80年代に作るぞっていう意気ごみが、そこに隠れているんじゃないかと」

〈アルドン・ミュージック〉とは、50~60年代にアメリカで大きな成功を収めた音楽出版社だ。大滝詠一が愛してやまない、キャロル・キング、ジェリー・ゴフィン、フィル・スペクターらを契約作家として擁し、「Will You Love Me Tommorow」「Locomotion」など、数々のヒットを生み出し、ガール・グループ/ガール・ポップのブームを巻き起こした。

「自分が一番好きなアルドン系のアイドルを作りたい……この大滝さんの意気込みこそが、作家陣としてのはっぴいえんどが80年代の日本のアイドルをルネサンスできた大きな理由になっているんじゃないかと、僕は大げさに捉えているんです。60年代初頭のほうにポップスの時間軸を移して、そこにはっぴいえんどの4人が集まってきたと考えられないかな、と思っているんです。(アメリカで)20年前に起こっていたアイドルブームのメタファーでありルネサンスが、(80年代初頭の)あの時期に(日本で)起きていたことなんじゃないか?って」
(つづく)

プロフィール
サエキけんぞう(さえき・けんぞう)
ミュージシャン、作詞家、プロデューサー/1958年千葉県生まれ。〈ハルメンズ〉のメンバーとしてデビュー。その後、窪田晴男らと結成した〈パール兄弟〉で活動。『ロックとメディアと社会』(新泉社)、『ロックの闘い1965-1985』など著書も多数あり、様々なメディアで活躍中。(オフィシャルHP ⇒オフィシャルHP

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風立ちぬ

『風立ちぬ』(ソニー・ミュージックダイレクト)
A面(レコードでは1~5曲目)を大瀧詠一が、B面(同じく5~10曲目)を鈴木茂がプロデュース。大瀧のプロデュースサイドは、同年にリリースされた『A LONG VACATION』との深い関わりを連想させる
(オリジナルリリース:1981年10月21日)

Candy

『Candy』(ソニー・ミュージックダイレクト)
大瀧詠一はもちろん南佳孝、原田真二らが作家として参加した作品。そして、「ブルージュの瞳」「黄色いカーディガン」で細野晴臣が松田聖子作品に初参加となった
(オリジナルリリース:1982年11月10日)