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2015.12.08

松田聖子に松本 隆が与えたもの

2015年、デビュー35周年を迎えてさまざまな活動を行なった松田聖子。そんな彼女のアイドル時代の作品を数多く手がけた松本 隆が、彼女に与えた(要求した?)こととは? そして彼女はその要求にどのように応えたか?

2015年、松田聖子はデビュー35周年を迎えた。
1980年に「裸足の季節」でデビュー。出世作となる「青い珊瑚礁」が同年7月発売ということは、多くの人が彼女の歌に触れ、松田聖子という存在を認識してから(聖子ちゃんカットの流行ったこと!)35年もの歳月が流れたことになる。

アニバーサリー・イヤーということで彼女の活動も実に精力的だった。数々のテレビ番組出演の他、全曲の作詞作曲を行ったニューアルバム『Bibbidi-Bobbidi-Boo』発売、そして日本武道館公演を含む全国ツアー開催……これまで35年間の歌手生活で歌い続けた名曲たちに新たなスポットを当てつつ、それを今の松田聖子を通して見せていくキャリアのアップデート作業が行われたのが2015年だったと言えるだろう。

さて、そんな松田聖子であるが今年、彼女のこのアニバーサリーを理解するのに欠かせない、もうひとつの重要なアニバーサリーがあったことをご存じだろうか?
そう、松本 隆の作詞活動45周年である。松本は伝説のロックバンド・はっぴいえんどのドラマーとしてデビューし、日本語ロックの可能性を切り開いた後、作詞家に転向。数々のヒット曲を生み出し、歌謡曲黄金時代を彩った人物である(これまで作詞した曲は2,100曲以上、オリコンベストテン入りした曲は130曲以上!)。
松本は歌の歌詞を書くという以上に、そのアイドル/アーティストをどう見せていくか、どう世間に打ち出していくかというプロデューサー的資質にも長けていたが、そんな松本にとっての最高の素材が松田聖子だった。松本は当時すでにトップアイドルだった彼女をデビュー翌年の「白いパラソル」から手掛けると、そこから14枚連続でシングルを担当。キラ星のような名曲を次々と産み落としていく。

松本が松田聖子に与えたのはまず、今も記憶に残るさまざまなストーリーの中のヒロインの姿だった。たとえば奥手なボーイフレンドにじれったさを感じながらも“あなたについてゆきたい”と誓う「赤いスイートピー」の女の子。別れの場面で雨に打たれながら“私はもっと強いはずよ”と自分に言い聞かせる「瞳はダイアモンド」の女性。卒業式の日、ずっと片想いしていた同級生に告白しないことを決め、“ただのクラスメイトだから”とつぶやく「制服」の女学生……松本は松田聖子をアイドルからアクトレスに昇華させた。彼女の中にある多種多様な女の表情を汲み取り、引き出し、演出することで、“主演・松田聖子”の名作ドラマを私たちに魅せてくれたのである。

松本が彼女に与えたのは歌詞だけではない。数々の優れたミュージシャンを“プロジェクト聖子”に引き込んだ功績も忘れてはならない。はっぴいえんどの盟友である細野晴臣(「天国のキッス」「ガラスの林檎」など)、大瀧詠一(「風立ちぬ」など)を筆頭に、チューリップの財津和夫(「白いパラソル」など)、佐野元春(Holland Rose名義で「ハートのイヤリング」を手掛ける)などこの時期の楽曲の作曲者欄には錚々たる名前が並ぶ。中でももっとも強い印象を残したのは呉田軽穂名義で参加した松任谷由実だ。「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「蒼いフォトグラフ」「Rock’n Rouge」……曲名を挙げればキリがない。松本 隆~呉田軽穂~松田聖子の組み合わせは最強のトライアングルであり(さらに編曲に松任谷正隆を加えれば文句ナシ)、メロディーと言葉のアシストを受けて彼女はまばゆいばかりの歌姫となったのである。

そして2015年――松本の作詞家45周年と松田聖子のデビュー35周年が合致したことで、私たちは思いがけない奇跡に立ち合うことになる。今年10月に発表されたシングル「永遠のもっと果てまで」でなんとその黄金トリオが復活したのだ。新曲という意味では1984年発売の「時間の国のアリス」以来31年ぶり。しかもその内容は“生きてるって素晴らしい/両手広げ叫ぼう”と歌う人生讃歌。31年の時を経て再び巡り合えた歓びが日本の歌謡史に新たな1ページを刻んだ瞬間であった。
さらにアニバーサリー・イヤーの最後に松田聖子は大きなプレゼントを用意してくれた。これまでの活動を総括する『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』をリリースするのだ。この原稿で挙げた楽曲もすべて収録した本作は、まさしく究極のベストアルバム。アイドル時代からシンガーとして羽ばたいていく松田聖子のすべてがここには収められている。
いや、ここに収録された50曲はすでにひとりのアーティストの成果という範疇を超えている。私たちは松田聖子という歌い手を通して、日本の歌謡曲の一番豊穣な部分を味わうことができるのだ。その至福の時間旅行に、改めて出発してみてはいかがだろうか。

文/清水浩司

松田聖子をはじめとした80年代歌謡曲と、はっぴいえんどとの関係について、サエキけんぞうさんが語る記事はこちら。
「はっぴいえんどが開いた世界」~第3回〈松田聖子のアルバム『風立ちぬ』〉~


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『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』

『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』
初回限定盤A
12月9日(水)発売
UPCH-29201
4,400円(税別)
EMI Records

『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』

『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』
初回限定盤B
12月9日(水)発売
UPCH-29211
4,800円(税別)
EMI Records

『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』

『We Love SEIKO -35th Anniversary 松田聖子究極オールタイムベスト 50 Songs-』
通常盤
12月9日(水)発売
UPCH-20405/7
3,400円(税別)
EMI Records
※写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト