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2018.02.23

渥美幸裕インタビュー 前編——『Japanese Guitar Song Book』が切り拓く新しい邦楽の未来

origami PRODUCTIONS時代のthirdiq(サーディク)、中村キタローとのサイコービジョンズ、Conguero Tres Hoofers(コンゲイロ・トレス・フーファーズ)といったサイドワークをこなしつつ、日本の伝統音楽をモチーフとしたメソッド「邦楽2.0」を提唱するギタリスト、渥美幸裕。彼の最新ソロアルバム『Japanese Guitar Song Book』と「邦楽2.0」の世界を巡るインタビューを前後編でお届けします。

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渥美幸裕 by SMART USEN



——encore初登場の渥美幸裕さんです。まずは自己紹介を。

「ギタリストとして日本音楽の伝統と今の時代の音楽観を繋いだ、その先にある「邦楽2.0」を創作するために活動しています。現在の活動拠点は京都です」

——「邦楽2.0」とは?

「日本では、奈良時代から江戸時代までに確立された雅楽や長唄、人形浄瑠璃、また箏(そう)、三味線などの和楽器により発展した様々な古典邦楽、民謡が持つ仕組みと、明治期以降に吸収してきた世界中の様々な音楽の仕組みが統合されました。「邦楽2.0」は、その先にある2010年代以降の日本の音楽のひとつの姿を表現するメソッドで、新しい日本の音楽の仕組みとして考案しました」

——「邦楽2.0」のメソッドについてもう少し詳しく教えてください。

「最大の特徴は“間”の在り方。そして1200年以上の歴史を持つ雅楽のグルーヴの仕組みや和の旋律と西洋リズム、和声との融合です。また古典邦楽曲の発想の源泉である自然界のグルーヴやハーモニーの音楽的変換、楽曲と自然界の共存、共生等が盛り込まれています」

——Japanese Guitarとは?

「「邦楽2.0」から生まれた日本のギター音楽の姿です。ボサノヴァ、ブルースギターのように、その土地に根ざした文化や歴史が音楽の要素に内包されたギター音楽が、日本の現存する伝統音楽の歴史の上でどんな新しい姿を表すのか模索しています」

——渥美さんは「邦楽2.0」以外にもいろいろなプロジェクトを手掛けていますね。

「タップダンスとパーカッション、ギターによるトリオ、Conguero Tres Hoofers、中村キタローさんとの日本語ポップ・ロック・ユニットのサイコービジョンズ、3歳児を対象としたワークショップ、「おとあそびワーク」というプロジェクトも行っています」

——Conguero Tres Hoofers(コンゲイロ・トレス・フーファーズ)はフジロックやGREENROOM FESTIVALなどのフェスにも参加していますね。

「はい。その後に、長期のヨーロッパツアーにも行ったりして、国境を越えるごとに大きく変わる文化に刺激を受けました。今年、世界を旅して創った『Musical Traveler』をリリースしました。バンド名は、Congueroはコンガ奏者、Tresはスペイン語の3と3本弦のトレスギターから、Hoofersはタップダンサーの俗語に由来しています。シンプルな楽器と体を使ったフィジカルなライブパフォーマンスをしています」

——ベーシストの中村キタローさんとのユニット、サイコービジョンズは?

「小さい子どもから大人まで楽しめるシンプルな歌詞が集まったアルバム『ベストビジョン』をリリースしました。MOJOCLUBの三宅伸治さんなど忌野清志郎さんのバックを務めた音楽家を中心に、石塚英彦さん、うないぐみ、山崎まさよしさんも参加してくれています」

——「おとあそびワーク」も興味深い活動です。

「子どもの音楽体験の充実を図るために、全国の保育園、幼稚園で3歳児と即興で曲を創作するワークショップを行っています。音楽がもっと豊かに楽しまれる社会、もっと音楽が生活に近い社会になった方が音楽のクオリティも幅も広がると思うんです。それぞれに音楽のカラーと役割があると思うので、マイノリティな音楽が良いというわけではなくて。それぞれがフラットに社会にあがって欲しくて」

——ある意味、ポジティブなマーケティングですね。

「コマーシャルなものや、人の目に多く触れているものが良いという見方だけではなくて、入ってきた音を自分の価値観で感じて、自分の好きな音を探せる大人になって欲しいという気持ちはあります。子どもは迷いがないから、発音のスピード感としては超一流のフリージャズプレイヤーみたいです。20年後が楽しみですね。他にもSonic Architectureというプロジェクトがあって、ホテルなどのリラクゼーション施設や学習塾等、環境の最適化を図る空間音設計していたり、音楽を通して日常が豊かに彩る提案や平和的文化交流も実践しています」

——渥美さんは、origami PRODUCTIONS時代のthirdiq(サーディク)の印象が強いと思いますが?

「いろいろな音楽性を勉強していた時期で、演歌以外のスタイルには触れてみたりして。当時は、オリジナルな表現、新しい音楽であることを大事にしていました。結果、いろいろなジャンルに触れてみたのですが、骨を埋めるジャンルが見つけられなかったんですよね。thirdiqという名前は響き先行で(笑)。当時は3という数字が好きだったのでthirdとIQをかけて。リスナーにさまざまな想像をしてもらえる言葉にしたくて」

——thirdiq時代のサウンドは、10年早いと言われていましたよね。当時と今ではリスナー層の違いなどは感じますか?

「今出ているサウンドを聴いたりすると確かに早かった(笑)。僕のやっていることにはまだシーンがなかった(笑)。thirdiqの1作目は、実は即興性が高く、生まれてからそれまでの好きな音楽的要素がぐちゃっと詰め込まれているというか……無我夢中でリリースした作品ですね。今では、日本文化にアンテナを張っている人や場所に邦楽を提案出来る機会は多くなりました。同じ音楽のフィールドでも新しい環境に出会えてうれしく思います」

——現在聴いてみてもオリジナルなサウンドですが。

「当時はジャズの進化形がオリジナルかとも思ったんですが、日本にはその土壌がないようにも感じたので、2011年にヨーロッパ移住を計画してパリ、ベルリン、オランダ、ロンドンなど音楽都市を周っている時に“オリジナルな表現”というのが引っかかってしまって。世界でオリジナルなことをやろうと思ったら、日本人である宿命をポジティブに音楽に変換できている必要があると気づいたんです。日本人である以上、日本の音楽文化を昇華した音楽を生み出さないと世界にオリジナルだと提案できないと思ったんです」

——活動拠点を東京から京都に移されたそうですが、きっかけは?

「後押ししてくれたきっかけは、オランダのゴッホ美術館に行ったんですけど、そこでゴッホが収集していた浮世絵のコレクションを観た時ですね。それが、凄いビビッドで力強くて」

——世界から見た日本ですね。

「近年、世界での日本は、おもてなし、奥ゆかしい、わびさびといった“静”がフィーチャーされていますけど、中世ヨーロッパにおいてアグレッシブな“動”のジャポニズムが大きな影響を与えていたというのが衝撃で。それ以降、“動”という意味で世界に通用している日本のものってあまりないなと思って。これだ!って」

——それで京都に行こうと?

「はい。ヨーロッパ移住は延期にして京都に行こうと思ったんですよね。幸いにも縁があって、江戸時代の生まれの方が建てたであろう築130年の古民家が見つかって。すぐに移住しました。知識だけだと新しいものができないので、音楽的なことを習得するよりも、当時の生活背景や制作環境を感じたいなと思って。住んでみてわかったのは昭和生まれの僕らの生活様式との違い。四季への対応の配慮が違うとか、当時日本人が生活するうえで大切にしていたポイントですね。たとえば、東京だと衣替えに出遅れたりするんですけど、出遅れることができないんです(笑)。きっと江戸時代の作家は、四季や自然に寄り添い生きる感覚を当然に感じていたんですよね。邦楽の神髄は自然の音と調和しているということにも気づいたりして。邦楽者との距離も近くなって、実際に雅楽の演奏者に音楽的仕組みを習いに行ったりもしました」

——その古民家はどんな場所になっているんですか?

「古民家はコミュニティになっていて農家、大工、機織、焙煎職人、鍛冶屋などがいます。能力を交換しながら営む大きい家族みたいな。いわゆる“ムラ”ですね。そのコミュニティで、僕は昔あった仕事歌の代わりに収穫の時期には作業に集中出来るような音楽を作ったりしています。あと地域の民謡の作曲ですね。自分たちのコミュニティに歌があることが根本的に音楽が近い土壌を育てると思うんです」

——そういえばアーティストビジュアルもそうですし、今日も足袋を履いていますが、何かムラ的な理由があったり?

「「Japanese Guitar」に至る経緯の中で、日本の物を身につけたかったんですが、着物を着るとギター侍になってしまうので(笑)。今の足袋は凄い進歩していて。エアーインで履きやすくて。でも本来は“足元を見直す”という意味です。サイコービジョンズでは三宅伸治さんにも関わっていただいているんですけど、当時、三宅さんがタイマーズで足袋を履かれていて。懐かしがって清志郎さんとの昔話をたくさん教えてくださいました」

——Japanese Guitarというフィルターを通した『Japanese Guitar Song Book』もリリースされていますね。

「『Japanese Guitar Song Book』が形になるまでは京都に移住してから3年くらいかかって。その頃は、気分的にもジャズ、ロックもぜんぜん弾けなくて。オリジナルという観点からだと、外から来た借り物という認識で、そういうものにも手も出せず。とは言え、邦楽を弾く知識も経験もなかったので、その差を埋めるしかないって。本当に石の上にも三年ということで(笑)。ハードでした」

——今回配信を開始した3タイトルからそれぞれ聴いて欲しい曲を挙げていただけますか?

「『Next World Satellite Tracks』から「Into Dreams」。打ち込みだからこそできるリズムを作りたくて。新しいリズム、グルーヴの可能性の提案みたいなものでもあります。Conguero Tres Hoofersの『Musical Traveler』は「FAR EAST」。長唄の形式を使っているんですが、メロディは西洋で。ひとつのテーマがセクションごとにいろんなアレンジで登場します。東京をテーマに作った曲でもあり、日本の新しい音楽の提案です。『Japanese Guitar Song Book』の「纏う/ Matou (Wear it)」は津軽三味線の仕組み、グルーヴ感の発展形に、コードを“纏う”という意味だったりもします。邦楽2.0の代表的楽曲ですね。幸い、国内外でも評判が良いので」

——楽曲制作において大事にしていることは?

「あまり作ろうという発想ではなくて、インスピレーションが来たら生まれるというか、クリエイティブってそんな気がするというか……」

——ある意味、受身なんですね。

「確かに。作為を持って作ってないですね。日本人はある物事の神髄まで極めようとすることに“道”と名付けてきました。その神髄にある共通ロジックが日本では禅と呼ぶ発想になるのかなと。華道とか茶道とか入口は違えど、最終的には禅に辿り着くというか。そこには作為がありません。思い浮かんだメロディが頭の中に一生残ってるなら曲にします。あえて細かくメモとかも取らないです。一過性のものとかもあるじゃないですか。中学生の頃なんかは学校の帰り道にメロディを思いついて、ずっと忘れないように歌ってたりしていましたけど、そういう感覚に近いかもしれませんね」

(つづく)

取材・文/encore編集部



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渥美幸裕『Japanese Guitar Song Book』
発売中
JGSB-01/2,000円(税別)
NIPPON NOTE RECORDS


Conguero Tres Hoofers『Musical Traveler』
2018年2月10日(金)発売
CTH-003/1,852円(税別)
DOUBLEFIVE


サイコービジョンズ『ベストビジョン』
発売中
SKV-00315/2,778円(税別)
VISION RECORDS


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