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2018.03.14

渥美幸裕インタビュー 後編——『Japanese Guitar Song Book』が切り拓く新しい邦楽の未来

日本の伝統音楽をモチーフとしたメソッド「邦楽2.0」を提唱するギタリスト、渥美幸裕。彼の最新ソロアルバム『Japanese Guitar Song Book』と「邦楽2.0」の世界を巡るインタビュー後編です。音楽への向き合い方、ミュージシャンシップ、そして想い描く未来を語ってくれた。

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渥美幸裕 by SMART USEN



——渥美さんがギターというアートフォームを選んだきっかけは?

「10歳の時にX(X JAPAN)のHIDEが僕の中に登場して。それがかっこよくてギターだ!ってなって。漠然と音楽、ミュージシャンとしてやっていくと自分の中ではその時から決まっていました。本当は宇宙飛行士になりたかったはずなんですけど(笑)。実際にギターを弾き始めるのは友達のお兄さんからギターをもらった13歳です」

——それ以前の音楽体験は?

「小5の頃に母校の90周年で、生徒から記念歌を募るというのがあって。母といっしょに作ったんですけど、それが採用されて今でも歌われています(笑)」

——早熟ですね(笑)。どんなご家庭だったんですか?

「母は小学校の先生でピアノを、父は会社員ですが箏を弾いています。ふたりともプロじゃないんですけど。家ではよく箏の音や邦楽が流れていて。思春期の頃はそれがあまり好きじゃないと思ってたんですけどヨーロッパの地で邦楽を新たに創るべきだと思ったときは愕然としましたね。宝の山が家にあるじゃん!て」

——それ以降の音楽体験は?

「小学生の頃に吹奏楽でトロンボーンをやる機会があって、中学生でパーカッション。オーケストラの勉強を自分でして知識と経験を蓄えたりしていました。高2の時はロック。決勝が横浜スタジアムという高校生のバンド大会があったので出てみたりして。決勝まで行けたのでいい経験だったんですけど、その後にバンドが解散してしまって。そこでジャズに出会いました。ジャズは自由に弾いていいし、バンドを組まなくてもできたので。その1年後くらいには“弾けます”ってハッタリ言ってバーで弾いてました。渋谷、新橋、立川、横浜とかストリートもいろいろ行きましたけど注意されるまで演奏したりして」

——ギター以外の楽器も?

「いろいろ触れました。ドラムは中学生の吹奏楽の流れで。ベースとかも並行してやってましたね。当時はカセットMTRで宅録したりしてました。楽器には全く拘りがないんです。いまもほとんど人から貰ったギターしか使ってなくて。巡り合いですね。エレキのエフェクターも高校生で最初に買ったやつのままで。しかも今聴いても音が良い(笑)」

——当時と比べたら機材は各段に進歩していますが……

「いろいろ試すんですけどね。そういう意味だとワーミーペダルが導入されています(笑)」

——近年のデジタル化をどう感じていますか?

「世界と繋がることが容易になったのは良いことだと思います。僕みたいな個人として音楽表現を追求しようという人には、やりやすい時代になってきた。最終的には「邦楽2.0」のオーケストラ編成を作りたくて。一方でそういう大きいものを作る時には組織としてしっかりした方が動きやすいんだなとも」

——影響を受けたアーティスト、尊敬するアーティストは?

「ジャズであればマイルス・デイヴィス、ロックならジミヘン、フォークとかポップスならジョン・レノン、ビートルズ、レゲエだったらボブ・マーリーですね。スピリットに共感できること、その分野のパイオニアであること。その人たちの音楽はものすごい好きなんですけど、それをやろうとは一切思わないというか……僕が死んだ後に、もしその人たちに会ったらお前はお前の”それ”をやっていたなと言われる存在でありたいとは思っています」

——共演者の中にもすごいと思う人はいますか?

「みんなすごい……サイコービジョンズで関わっていただいている忌野清志郎さん周りの方たちも本当に尊敬しています。「邦楽2.0」で共演してくれる仲間たちは楽器の唄い方、グルーヴ感、コントロール能力も高くて、むちゃくちゃ上手です。宮本武蔵の“我以外皆我師(われ以外は皆わが師)”っていうやつですね」

——琴線に触れるメロディが印象的ですが、どのように生み出されるのでしょう?

「楽曲ごとに制作過程は違うので一概には言えませんが、直感で弾きだして曲になっているものもあれば、Conguero Tres Hoofersの『Musical Traveler』のように旅先の街が曲になっていたりするものもあります。記号論みたいな感じで各土地の要素、キーワードを出していって——たとえば、パリであればラテン系の民族、凱旋門の風景とか——それを曲として表現するとはどういうことか、印象をメロディに置き換えたりして。結構ロジカルな作業だったりもします」

——ソロ作の『Japanese Guitar Song Book』はどうでしょう?

「『Japanese Guitar Song Book』は、インスピレーションに任された部分が多いです。たとえば水が滴るその瞬間の打点、風を触る感触とかを音で表現すると、どういう風にしたら自分が納得できるか感じるんです。表現ひとつひとつの細かな具体的手段としては自分の中で試行錯誤して突き詰めるんですけど、いまのところはそういう作り方がメインです」

——レコーディングとライブでの演奏に違いはありますか?

「やることに関してはいっしょです。ライブでは録音物の再現性も全く拘りません。基本的に録音物は、ライブでできないことをしたいというスタンスです。『Next World Satellite Tracks』は、まさにそうで、スピーカーミュージックの醍醐味を表現しています」

——音源とライブで主従関係はない?

「ときとして入れ替わるというか、拘りもなくなりました。ライブは生ものなので、今日が晴れか雨かだけでも楽器の出音が違うし、会場も違うとなると創れる音も音源と同じ音にはならない。そういう意味では、ライブは決めたことと違う何かが突然起こってもいいと思っています。だからこそ、今までは初めてできた曲はライブをする前にレコーディングしたい派でした」

——なぜレコーディングを先に?

「ライブをやるほど曲は成長するので。最初の姿と違う変化を遂げることがあるので初期衝動や最初の印象とかを収めておきたくて。ライブの前にレコーディングして曲を育てていくというのが順番だったんですけど最近そこは曖昧で(笑)。ある程度演奏するうちにアレンジの完成形が見えてきて録音するのもいいなって」

——ではライブの醍醐味は?

「瞬間そのものを体験、体感することですね。もちろん好きな音楽を聴いて心地がいいことは大事なんですが、マインドのリセットやリフレッシュにもいい場所だとも思っていて。煩雑さや日常的な何かを一瞬でも思考から切り離すことは無意識であっても、心にプラスの効果があるんじゃないかなと思います。音楽に集中している間、シンプルにいまという瞬間を体感できる時間を持つことによって人間は生きやすくなるのかななんて思います」

——ある意味、装置のような?

「はい。音楽は色々な装置で、ニュートラルに在ることができる装置の役割もあると思っていて。ですからライブにどんな感想を持っていただいても構いませんし、それぞれ曲に没入したからこそ体感できるものもあるので。十人十色にニュートラルな時間を持てる場としてライブがあって、音楽で僕も人も地球環境も豊かになるように、その3つがWIN-WIN-WINになるように交流する活動を心がけたいです」

——エシカルですね。

「20代半ばまでは自分の音楽を聴いて欲しいとか、他の人ができないことをしたいとか表現のエゴを追求しすぎて孤独になってしまって。ジャズもアメリカからの借りものだ!とか(笑)。僕が自分の音楽を表現したいという欲求と、人が僕の音楽を聴きたいという気持ちのバランスが良くないと音楽をやって生きていくのは不可能だと感じて。趣味で作りたいのであればいいんですけど、僕は音楽を接点として世界と交わりたいというのが強くあるので」

——エゴだけでは生きていけないことに気づいた?

「そうですね。表現がオリジナルであればあるほどエゴなのか真理なのか紙一重になるのかもしれません。音楽で生きていくことを考えたときに、僕が楽しんでやれる、創りたい作品が求められている、かつ、活動によって人や世のためになるというバランスが大事だなと。音楽表現だけではなく生活の姿勢の話ですが、たとえばポイ捨てしないとか。人として真っ当に生きて自然と調和するように生きるということです。世界を保つためにそれぞれがやるべきことがあるということですよね。人間が本当の意味で真に生きやすい世界を創るために皆さんも日々自分なりに試行錯誤しているのではないでしょうか」

——古典邦楽の仕組みについて、渥美さんの解釈を聞かせてください。

「古典邦楽が持っている、日本らしさを表現している作曲方法や形式、和楽器の特性を最大限活かせるために築かれたルールということです。古典邦楽や民謡は、理論的には学際的な横の繋がりが薄く、例えば長唄と人形浄瑠璃などは似ていても全く別のものとも言えるほどルールもアプローチの仕方も違います。それぞれルールが独立しているので、同じ三味線でも人形浄瑠璃の方が津軽民謡を弾けはしないんです。多岐にわたる仕組みをひとつひとつ知るのは大変ですが、言い換えれば宝の山ということでもあります。「邦楽2.0」を創るうえでは、それぞれの仕組みを応用して曲を書くことで邦楽に聴こえると思って。例えば、「纏う」は三味線の仕組みを使ったり、曲ごとに使っている仕組みが違うんです」

——邦楽と洋楽では聴こえたかたが違うということですね。

「古典邦楽はハーモニーがあまり発展していないかわりに、旋律の一音の弾き具合が少し違うということによって色を変えているというのが、邦楽のハーモニーの発想で。リズムも明治以降、クラシックやダンス音楽が入ってきたことによって僕らは洋楽的なリズムをダンサブルなものとして認識していますが、人形浄瑠璃の演目「寿式三番叟」で人形が躍る「鈴の段」のパートなんかは実はものすごくダンサブルなんです。日本にもそういう要素があるのでそこをちゃんと使います。実際に、3月21日配信の新作『NIPPON NOTE 2.0 / ニッポンノオト 2.0』には「鈴の段」のギターアレンジを収録しました。そしてこの「鈴の段」がさらにDJ KRUSHさんの新作にもサンプリングされているという……」

——現代音楽の最先端じゃないですか。それは興味深いですね。では、ハーモニーやグルーヴはどうでしょう?

「西洋音楽のよい部分だと思っていますが、いまの人はハーモニーありきで音楽を聴いたりするのでハーモニーがない古典音楽などは退屈に感じたりする人もいるかもしれません。そこにハーモニーをひとつ加えることで、聴きやすくしたときに古典というバイアスを外してその曲のメロディそのものを味わえる状態というのを作ろうとしています。根幹にあるグルーヴのことですが、邦楽においては極論一本締め。これ日本人はできるんですけど、アメリカの人にはカウントが必要で日本人のようにできないそうです」

——洋楽はカウントの音楽ですからね。

「これも極論ですが、邦楽は歌の音楽。まず歌があって伴奏がついてくる。その精神がDNA的に残っているのでJ-POPもいまのようにある意味日本らしく発展していて。洋楽はカウントの上にどうノるか。日本よりもっとアメリカのポップスのノリがタイトなのはそういうことかもしれません」

——10年後、渥美さんはどういうアーティストになっていたいですか?

「日本の音楽の今を発信し続ける、世界の渥美幸裕として各地を巡り続けているでしょうかね。日本を大事にした音楽を創り続けたいですね。僕は、元々ブルース、ジャズ、ロックに憧れた分、すごいコンプレックスがありましたが、「邦楽2.0」のおかげで解き放たれました。日本人の僕がいくらやっても、ああいう風にはならなかったというか……いまはもっと僕なりの、風土に根ざしたオリジナルな表現で世界へ音楽を届けたい。そのためにも日本の音楽をもっとちゃんとやるべきだなと思っています」

——最後にSMART USENで渥美さんの特集を聴いてくれている人たちにメッセージを。

「「邦楽2.0」シリーズ第1弾の『Japanese Guitar Song Book』と、第2弾の『NIPPON NOTE 2.0 / ニッポンノオト 2.0』がそれを体現した作品です。ぜひ僕なりの新たな邦楽提案をお楽しみください」



(おわり)

取材・文/encore編集部



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渥美幸裕『Japanese Guitar Song Book』
発売中
JGSB-01/2,000円(税別)
NIPPON NOTE RECORDS


Conguero Tres Hoofers『Musical Traveler』
2018年2月10日(金)発売
CTH-003/1,852円(税別)
DOUBLEFIVE


サイコービジョンズ『ベストビジョン』
発売中
SKV-00315/2,778円(税別)
VISION RECORDS


渥美幸裕『NIPPON NOTE 2.0 / ニッポンノオト2.0』
2018年3月21日(水)配信
2,400円(税別)
NIPPON NOTE RECORDS


渥美幸裕 by SMART USEN



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