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――シューベルトのこの長大な作品のレコーディングでいちばん心配りをしたのは?

クリストフ・フランケ「そうですね、録音でもっとも重要なことは、実はサウンドそのものではなく、音楽だということです。なぜなら、いい音楽こそ、いいサウンドになるからで、その逆では決してないからです。もちろん、サウンド自体は大切なのですが、次第にマイクロフォンのことや音のバランスなどの技術的なディテールのことは忘れて、どのように音楽を伝えられるかに重きを置くようになります。感情、美しさ、悲しみ、情熱などをいかに伝え、録音セッションの中でいかにそれを保てるかということです。

私の役目としては、ミュージシャンたちに心おきなく音楽の世界に没頭してもらえる環境を整えることだと思っています。一方、録音というのは、繰り返し聴かれるものなので、細かすぎる傷などは気にすることなく、繰り返し聴かれることに耐えうるようなバランスのとれた内容になっているかに気をつけています。とても難しいことですが、録音においては、やりがいのある部分でもあります」  

――今回のこのメンバーによる演奏はいかがでしたか?

フランケ「私にとっては、このアンサンブルと仕事をするのは、まさに夢のような出来事でした。シューベルトの八重奏曲には、室内楽を完璧に演奏できる技術と、一方で交響楽的な濃密なサウンドを作れることが必要で、このメンバーのように、全員が同等に最高峰のレベルにいる演奏家がいっしょに演奏し、音楽のひとつひとつのパッセージ(経過句)を練り上げていき、常に最高の結果を求めていく様は、本当にこれ以上にない夢のような経験でした。あえてメンバー個人の名前をあげる必要はないぐらい全員が素晴らしいプレイヤーであり、チームでした。」

――フランケさんは、八重奏団の各メンバーとのレコーディング経験もありますね?

フランケ「はい。メンバー全員となんらかのコンビネーションで室内楽などの録音経験があります。それに、私はよくベルリン・フィルの録音を担当しているので、オーケストラの全てのメンバーのことをよく知っています。特にコンサートマスターの樫本大進さん率いるベルリン・フィルとは、何度も録音していますし、たとえば、私がふいにコントロール・ルームに入って、目を閉じて聴いていても、彼がファースト・ヴァイオリンをリードしているのだと、すぐに判別できますよ。

クリストフ・イゲルブリンクさんとは、ベルリン・フィルの12人のチェリストたちと、少し前に素晴らしい録音をしましたし、ヴェンツェル・フックスさんともさまざまなコンビネーションで録音しています」

――ベルリン・フィルと長く仕事をされているフランケさんは、今のベルリン・フィルをどう感じていますか?

フランケ「私がベルリン・フィルをよく知るようになったのは、8年ほど前のデジタル・コンサート・ホールの立ち上げを通じてです。もちろんそれ以前からメンバーのことはよく知っていましたけれど――最初に私がベルリン・フィルのコンサートを聴いたのは1987年ですね――もちろんそこからさまざまな進化を遂げていると思います。今のオーケストラには本当に多様性があると感じています。たとえば先週はジョン・アダムスの新作を録音したのですが、複雑なリズムが多用される難しいものでした。一方、同時期にロマン派やバロック音楽も演奏しています。このようにメンバーの一人ひとりが常にオープンマインドでいることは素晴らしいことですね」

――このベルリン・フィル八重奏団も、オーケストラも、いろいろな国籍のメンバーがいて、それ故に多様性があると思うのですが、たとえばドイツ人のみのアンサンブルとの違いはあるのでしょうか?

フランケ「難しい質問ですね。メンバーの国籍よりも、その団体にあるスピリットが大切なのではないかと思います。オーケストラの中で、代々培われる精神性のようなものが、引き継がれていき、音楽の色を決めていくのではないでしょうか。オーケストラが作り出すサウンドについては、個々のメンバーの資質が作り上げるもので、それが、まるで奇跡のようにひき継がれていくものです。国際的であるということは、そこに多様性が生まれ、常にオープンマインドなオーケストラであると言えると思います」

――はじめてオーケストラを聴いたときもベルリン・フィルのスピリットのようなものを感じましたか?

フランケ「最初のベルリン・フィルの公演を聴いたのは、サイモン・ラトル指揮によるマーラーの交響曲第6番だったのですが、まだ“サー・サイモン”にはなっていない頃で、ラトル自身にとって初のベルリン・フィルとの共演だったのです。私はそのころ、ベルリンでトーンマイスター(録音、音響技術と音楽知識に関するドイツの教育制度)の修行をしている学生で、ホールに入った途端、オーケストラの圧倒的なパワーと音圧を感じて、“ワオ!私もここにいたい!ここで働きたい!”と感じましたので、すでにその精神は感じ取っていたと思います。

もちろん、それから30年もの時間と経験を経て、私のオーケストラ評はもう少し批判的になっていますので、当時と今で何が違っているかを語るのは難しいですけれど(笑)。でもとにかく圧倒されたのは確かです」

――フランケさんがベルリン・フィルとの活動で学んだことは?

フランケ「ベルリン・フィルとの仕事を通じていちばん驚かされるのは、彼らは絶対に何事にも満足しない人たちということです。たとえば、素晴らしいコンサートのあとすぐに、彼らは楽屋で“50小節目のあそこが揃っていなかった!”と言い出して延々と話し続けるのです。私としては非の打ちどころのない演奏だと思ったのに、彼らはすぐに向上すべき点を見つけ出すのです。そのことこそが、音楽や人生そのものに向き合う際に忘れるべきではない姿勢で、彼らから学んだ、活かすべきことだと思っています」

――今回の録音について、8人のメンバーはチャレンジングだったと言っていましたが。

フランケ「そうですね。私にとっても録音に費やしたすべての時間とプロセスがとても充実したものでした。ファーストテイクを全員で聴いて、何かそれぞれ言うことがあって、私が聴衆の耳となって、9人目のメンバーとして彼らにフィードバックをして、何を改善すべきかに気づいてもらうのです。和音があっているか、バランスはとれているか、技術的な面を修正し、音楽が最終的にきちんと流れているかに気を配りました。そうしたプロセスを経て、後半のテイクでは、長いパッセージでも、求めていた答えを見つけ出し、最終的に皆がイエスと言える録音になったので、これから編集作業をするのがとても楽しみです」

――コアな室内楽ファンだけではなく、たとえばYouTubeを見たり、インタビューを読んだりした人たちに、オクテットの9人目のメンバーとして、この作品の魅力をを伝えてください。

フランケ「シューベルトの八重奏曲には、音楽が持つべきすべてのものが詰まっていると思うのです。室内楽であるということは、少ないメンバーがそれぞれあらゆる事に対応できて、お互いが呼応しあい、音楽を作りますが、サウンド自体はリッチで、フォルテッシモなどでは、完全なオーケストラのような大きな音が鳴り響きますし、ピアニッシモはこの上もなくソフトで、ダイナミックレンジが広いのです。第2楽章はシューベルトらしい歌曲ですし、曲の冒頭はとてもドラマチックです。最終楽章はオペラのように劇的で、恐ろしさすら感じられます。

素敵なメロディーもたくさん出てきます。大進さんが演奏しているヴァイオリンの高音部は、軽々と弾いているように思えますが、本当はとんでもなく難しいものですし、そういった妙技を味わうこともできます。各メンバーにソロパートがあり、クラリネットやチェロやコントラバスにも素晴らしい見せ場がありますので、さまざまな楽器の良さを味わうこともできます。

そしてこの曲は、心に直接迫ってくる、素晴らしい音楽だと思っています!大進さん、アミハイ・グロスさんも言っていたように、この曲には、悲しみと喜びの両方がつまっています」

――これまでデジタル・コンサート・ホールなどいろいろななお仕事をされているフランケさんですが、今後の目標は?

フランケ「そうですね、10歳のころ思った夢が叶ったので、今やっていることに幸せを感じています。たまにちょっと忙しすぎると感じることもありますが(笑)。将来何をしたいかと聞かれると、難しいのですが、私としては、今後もデジタル・コンサート・ホールを拡大していきたいですし、八重奏団との仕事もたくさんしたいです。

そして新しい技術を開発して、新しいサウンドスケープを生み出したいですね。現在の、22.2chのサラウンド以降の世界を目指したいです。音楽の響きを余すことなくキャッチするような技術にはまだたどり着けていない気がします。ステレオは素晴らしいのですが、やるべき事はまだまだあるし、先は長いですね」

(つづく)

取材・文/伊熊よし子
構成/encore編集部

後編は11月15日(水)に公開予定です。



ベルリン・フィルハーモニー八重奏団『シューベルト:八重奏曲』
2017年11月15日(水)発売
初回仕様限定盤/BPOC-1/3,000円(税別)
ウィステリアプロジェクト


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