約3年半ぶりとなる通算3枚目となるフルアルバム『ゆくえ』を携えた東名阪クアトロツアーの初日公演。9年目の結成記念日の当日である今年6月に東京・EX THEATER ROPPONGIにて行われた『桜TOUR 2023 FINAL<しめたん>』以来、約半年ぶりとなるワンマンライブ。バンドはキーボードとパーカッションを迎えたアコースティック編成で、雅功はいつもの通りにアコースティックギター、彪我はアコギに持ち替えることなく、エレクトリック・アコースティック・ギターに専念するニュースタイルで、来年6月に迎える結成10周年イヤーに向けて、新たな魅力を存分に見せつけたライブとなった。

オープニングを飾ったのは、前回のワンマンライブのアンコールの最後に歌った「辛夷(こぶし)のつぼみ」。たとえ別々の道に進むことがあっても、再会した時はお互いが今よりも強くなっていようという決意を込めたメッセージソング。雅功のパワフルでエモーショナルな歌声と彪我の優しく穏やかな歌声が重なった瞬間に開放感に溢れたサウンドが広がっていき、ミラーボールが煌めくフロアからは自然とクラップが沸き起こった。続いて、ドラマ「高嶺のハナさん2」のオープニングテーマ「simple」で雅功が<そのまま届けよう/あなたの胸に>という満員の観客が詰めかけたライブの始まりにふさわしいフレーズを響かせ、「渋谷―!」と大声で叫びながらも、これまでにないほどのウィスパーヴォイスも駆使して静から動へとダイナミックに展開。ピアノのイントロで歓声が上がったピュアなラブソング「はじまるきせつ」では、勢いを増したバンドサウンドに観客のクラップがさらに大きくなり、雅功が楽しそうに笑顔で飛び跳ねる横で、彪我はステージ前方に歩み寄ってのギターソロを披露。雅功の「今日は一緒に汗をかきにきました! いっぱい歌うんでよろしくお願いします」という言葉に導かれた「ケセラセラララ」では、テンションが上がった彪我が珍しく観客に向かっておまじないをかけるポーズを繰り出したことで歓声が上がり、盛大なクラップだけでなく、<ケセラセ・ケセラセ・ケセラセラセラ・ララ>大合唱も巻き起こった。

最初のMCでは、彪我が本公演のチケットがソールドアウトしたことを報告すると、雅功は「ソールドアウトが一番好きな言葉だわ」と喜びの声を上げた。そして、最新アルバムに収録されているネオシティポップ「Iroto-Ridori」ではキーボードの多彩なサウンドによって煌めきと色彩が増し、パーカッションはカホーンやサンプリングパットを駆使して爽快なグルーヴを生み出していた。また、シンガーソングライターのコレサワが提供した「届けそこねたラブソング」では雅功はがなるように荒々しく、彪我はナイーブにセンチメンタルに歌唱。失恋に対する後悔や未練というテーマに対して異なるアプローチで表現し、2人組だからこその複層的なヴォーカル表現とこの二人でしかなし得ないハーモニーを見せてくれた。

ここで雅功は、まだ高校生だった5年前にコレサワから受け取ったデモ音源を最近、聞き直してみたことを話し始め、「当時は、コレサワさんのデモのままリリースできるじゃんって思ってたんですけど、今回、自分たちのライブのリハ音源も聴いてみて、負けてないなと思ったんですよ。もちろん、コレサワさんは歌も上手いし、可愛いし、僕らはまだまだ完全ではないけど、それでも負ける気がしないなと思ったんですよ。コレサワさんに限らず、同世代のいろんなバンドにも。完全である必要もないなって。不完全な僕らが歌うからこそ伝えられるものがそこにはあるんじゃないかなと思っていて。だからこそ、勝てるって、改めて思いました」と胸を張った。そして、「みんなもたとえば落ち込んだ時に、不完全でもいいなって思ってくれたらいいなと思います」と呼びかけ、ドラマ「高嶺のハナさん2」のEDテーマ「ブルースター」を切々と歌い上げ、<未完成な明日でいいんだ>というエールを観客一人一人の心に向けて届けた。続く、“桜”をモチーフにした卒業ソング「花びら、始まりを告げて」にはコロナ禍に学生時代を過ごした二人の葛藤が込められており、<今日が始まりならいいのに>というフレーズは、対面で会えなかった時期のもどかしさも込められているようで胸に迫ってきた。雅功が高校1年生の時に描いた楽曲で、これまではライブのみで披露されており、ニューアルバムで待望の音源化となった「天つ風」の<君を想う夜は明けないようだ>も誰もがコロナ禍を経験した現在ならでわのニュアンスで心に触れるものがあった。

ファンキーなアレンジが施された「かぜいろのめろでぃー」からライブは後半戦へと突入。彪我の超ロングトーンも飛び出したコール&レスポンスを経て、ずっと歌が歌えますようにという願いが込められた「おたまじゃくし」では、雅功が<このうた、ちゃんとみんなにきこえてるかな?>というフレーズを変えて<聴こえてますか!>とシャウトすると、観客は「YEAH!」と叫びながら手を挙げて呼応し、ワクワクとドキドキを届けた「えそらごと」では観客のジャンプに誘われた二人もジャンプしながら歌おうとするが、ギターを演奏しながら歌い、さらに飛び跳ねるのは難しく、ついに歌えなくなるシーンもあったが、心地よい一体感をもたらせてくれた。そして、バスドラの4つ打ちビートに観客によるクラップが鳴り響いた「My Sunshine」では力強いエネルギーと光に満ちた歌声で会場全体を開放感で包み込むと、バンドによるソロ回しでは彪我がステージにひざまづいて、歌うようなギターソロをプレイ。そのままシームレスで彪我のリフが印象的なギターロック「わがままでいたい」でフロアの熱気を一段と引き上げると、自分に自信がない人の背中を押すエールソング「なるため」ではシンガロングが起こり、本編ラストの「エンディング」へ。彪我が作詞作曲を手がけたアルバムのリード曲でダンスビートに合わせて観客は手をあげてクラップを鳴らし、サビの<愛想笑う日々にエンディングを>というサビのフレーズでは再び合唱も起こり、ステージとフロアの距離がさらに近くなり、笑顔が広がっていく中でライブは曲名通りにエンディングを迎えた。

鳴り止まないアンコールの声に応えて、再びステージに登場した二人は、アルバムのリリースイベントを振り返り、「久々のワンマンライブがソールドアウトして本当に嬉しいです。ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えた。さらに、雅功は「ブルースター」を演奏する前のMCについて再び触れ、「本当に未完成のままでいいって思っていて。当たり前ですけど、音楽に関しては、自分が、僕らが一番だと思ってるんですよ。僕らの音楽を聞いてる皆さんも一番なんですよ。自信を持ってもらいたいというか……生きるのって大変じゃん。でも、人間的には弱い僕らでも、こうやって一生懸命に歌えてるので、みんなも楽しい、最高って思える時間がどこかしらにはあるし、それが僕らが歌ってる時間だったらいいなと思ってます。これからもそうです。一生、歌い続けます」と強い決意を表明。「これからもいっぱい楽しい時間を積み重ねていきましょう」と約束すると、会場からは温かく大きい拍手が贈られた。

そして、6年前に開催した初めてのライブハウスツアーに向けて作った「青春の唄」で<今、この一瞬>を刻み込んだ情熱を込めた歌声と勢いよくかき鳴らすギターで観客のボルテージを引き上げると、雅功は「もう1曲だけやっていいですか!」と叫び、ファン人気も高いラブソング「ひだりむね」へ。中学生の頃の彪我は首にぶら下げたタンバリンを叩いていたが、そのビートを観客が担当。会場全体が1つとなったような合奏で幸福感に包まれたままで、東名阪ツアーの初日公演の幕は閉じた。

終演後に雅功は「超いいスタートが切れたと思います」と語った後、本編の「My Sunshine」の途中で気分が悪くなり、一時退出したお客さんのために急遽、二人だけで再び演奏した。1番だけではあったが、雅功がアコギ、彪我がエレキとアコギの音色や奏法を両立させたエレクトリック・アコースティック・ギターになったことで、ギターのフレーズやアンサンブルだけでなく、二人の歌い分けも変わっていることに気づいた人も多かったのではないか。この先の更なる変化や新たな挑戦の第一歩となる意義深いツアーとなったように思う。

なお、さくらしめじは1229日(金)に東京・大手町三井ホールにて、恒例行事となっている忘年会ライブ「きのこりあんの集い Vol.8」を開催する予定となっている。

写真:鈴木友莉
文:永堀アツオ

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Release Information

さくらしめじ『ゆくえ』

2023年1018日(水)発売
ZXRC-21023,300円(税込)
SDR

さくらしめじ『ゆくえ』

Live Information

さくらしめじの忘年会ライブ「きのこりあんの集い Vol.8」

2023年1229日(金) 東京 大手町三井ホール
<1部> 開場14:15/開演15:00
2部> 開場17:45/開演18:30

さくらしめじの忘年会ライブ「きのこりあんの集い Vol.8」

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