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特集
2019.02.13
槇原敬之『Design&Reason』インタビュー

僕のついた溜め息で大嵐が吹くぐらい

槇原敬之22枚目のアルバム『Design&Reason』が完成した。彼自身が“描きたいと思った景色や空気をそのまま音にしたい”というこだわりを持って作り上げた作品は、とてもポジティブな空気に満ちている。

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──『Design&Reason』は“描きたいと思った景色や空気をそのまま音にしたい”というこだわりを持って制作されたそうですが、なぜそうしてみようと思ったんですか?

「来年でデビュー30周年なんですが、それを前に、改めて原点回帰をしてみたいなという気持ちがあって。ここ15年ぐらいはわりと歌詞先行というか、自分でも力が入っていたことに気づいたんですけど、もっと曲にも――別に片手間でやっていたわけではないですけど(笑)――フォーカスしてもいいんじゃないかなと思ったんですよね。そこがいちばんの理由だと思います」

──歌詞はもちろん、サウンドにもこだわりたかった?

「はい。あと、最近ちょっと思うところがあって。ファッションも音楽も90年代のものが流行っていますけど、この間、プロデューサー/アレンジャーの本間昭光さんと“90年代っていろいろやったよね”という話になって。僕らにとって――少なくとも僕にとっての――90年代の遺産って、J-POPなんですよね。実を言うと、当時はJ-POPって言われるのが嫌だったんですけど(笑)」

──そうだったんですか?

「だって、こっちはポップスを作っているつもりだったから、“Jとかつけないでよ!って(笑)”。でも、20年ぐらい経った今思い返してみると、J-POPって他のポップスと全然違うんですよね。造りも、そこに含まれている情報量も全然違う。そう思ったときに、これは誇らしいものだなと。言ってみれば、SONYがウォークマンを作っているようなことを僕らはやっているというか。この小さい中にどれだけのものを詰め込めるのかっていう。それを考えたときに、J-POPってつけた人、天才!って。それもあって、今回はJ-POPの良さを満載にしたかったところはありましたね」

──描きたいと思った景色や空気をそのまま音にするという上で、曲作りもここ最近の流れとは違う方法をとったんですか?

「根本的に違うのは、ここ10年はずっとひとりでやっていたんですよ。絵で言うと、デッサンから色塗りまで全部自分でやっていたけど、今回はアレンジの作業にシンセオペレーターを入れて、ソフトウェアではなく実機を並べて録ったんです。そこも90年代的な原点に戻るというところでもあるんですが、やっぱり大きかったのは、ひとりで完結しなかったこと。僕としては、音楽はそもそも楽しいものなんだっていうことをすごく大事にしたかったんですよ。もちろん、苦悩して作るものもすごく意味深いと思うけど、曲を作ってアレンジをする作業に関しては楽しくなければいけないなと思ったので、これはちょっと人の手を借りてみようと」

──実際にどう進めて行ったんですか?

「エンジニアとシンセオペレーターと僕の3人でやっていて。ツアーにも出てくれているメンバーなので、元々コンセンサスは取れているんですけど、シンセの音って口でうまく説明できないんですよね。“なんかもっとふわーっとしててさ”とか“谷川俊太郎さんのあの詩の感じなんだよね”とか。そうやってコミュニケーションを取りながら固めていくのが楽しくて。そうやって、人としての原点というか、人は人と関わっていかないといけないというところのうれしさや楽しさを、音を作る面では大切にしていましたね」

──槇原さんはいつも詞先で曲を作られますが、そこに関しては変わらずですか?

「変わらないですね。ただ、これがまたおもしろい話で。僕、最近、夜型だったのを朝型に変えたんです。1曲目の「朝が来るよ」は夜型の名残で書いたんですけど、今回の曲は全部昼間に作っていて。なんで今までやってなかったんだろうと思ったんですけど、曲は夜ご飯までに作る、そこで漏れたものはご飯を食べた後に作って、12時までには絶対に終わらせるっていう。それも大きく作用していますね。ロジカルというよりは、生理的なものが変わったというか。だから、明るい曲が多くなりました。陽が落ちない歌が多い」

──確かに陽の光が見える曲が多いですね。

「やっぱり健康状態って曲作りにすごく影響するんですよ。ポップスを作ることって、曲作りにはアートな要素があるけど、詞を書くことはまたちょっと違う感じがするんですよね。僕はその頭が完全に分かれているんですけど、歌詞を書く部分においては、もうちょっと健康になりたい。じじくさいですけどね(笑)。あと、もっとみんなといっしょの景色を見たかったんだと思います。一般に暮らしている人たちの街の情景とか、その人たちが考えていることって、やっぱり夜には見えないし、想像の範疇になってしまうので」

──“景色や空気をそのまま音にする”ということは、そこにあるものをそのまま肯定するというか。肯定して、受け入れて、どうしていくのかというメッセージを歌詞から感じたのですが。

「肯定というか……まあ、愛しているんでしょうね、単純に。今回は、自分がかわいいと思えるものしか入れたくなかったんですよ。そこもちょっと自分の中では90年代っぽさなのかも」

──それこそ原点といいますか……

「まるまる90年代をやっているわけでもないんですけどね。そこからいいことも嫌なことも知って、歌にするならハッピーというよりは、かわいいものしか入れたくないなって。かわいいと言うとキュートという意味に捉えられがちだけど、僕の中でのかわいいは“可愛い”なんですよ。愛することができるという意味で。それは、僕の中では評価としていちばん高いものなんです。だから僕が思ういいと思うもの、嫌だけどおもしろいと思うもの……たとえば「だらん」みたいに、目は口ほどに物を言うとかいうけど、“いやいや、腕もだよ”っていう」

──ハグした相手の腕が自分の背中に回って来ず、だらんとぶらさがったままになっているという。

「傷ついたー!みたいなね(笑)。だから、共感を得ようというものではないんですけど、その人にはその人の好きなものがあるということを認められるからこそ、自分の好きなものをちゃんと書ける、みたいな感じに近いのかな。あと、僕らはアーティストって呼ばれているじゃないですか。だから、自分の心に引っかかったもの以外は絶対に書いちゃダメだし、それを実践してみてこれは本当にそうだなって思えること以外は書けないじゃないですか。それが今回はちゃんとできたし、それを書いたら肯定の部分が多かったという感じですかね」

──冷めていく愛情も、年を重ねていくことも、そのすべてが愛おしいというか。

「だから、50を手前にしての作品ではありますね。「朝が来るよ」にも書いたんですけど、40代半ばぐらいの頃に、人生の先輩にいろいろ聞いたんですよ。“50歳になるってどう?”って。そこで答えてくれたことをそのままに歌にしているんですけど」

──<出来ることと出来ないことが わかるから楽しい>という?

「正直なことを言うと、当時は意味がわからなかったんです。まだできることがたくさんあるとか、今からでも外国に留学できるぐらいの気持ちでいたんですけど、変な話、今はその気持ちがないんですよね。だけど、その気持ちを手放したときに、自分の中に残っているものを眺めてみることができて、まあ、そんな何にもないわけじゃないんだなって思った。それを今度はみんなに伝えていかないといけないなって。そこは本間さんと話していたときにも思ったんですよね。僕たちがやってきたのはこういうものだというのを残していきたいっていう。あともうひとつ、大きなことがあって」

──何だったんですか?

「NHKの「SWITCH」で、美術家の篠田桃紅さんと、聖路加病院の日野原重明先生が対談されていたんですよ。日野原先生はもうお亡くなりになったんですが、当時先生が104歳で、篠田さんが103歳で。その番組の中で篠田さんが“若い人が歳をとりたくない、大人になりたがらないのは、大人の私たちがかっこ悪いからよ”って。今はかっこいい大人がいないから、子供たちは大人になりたくないと思ってるんだと思うということをおっしゃってるのを観たときに、ガーン!って」

──重たい言葉ですね。

「すごい言葉ですよね?そのときに、そろそろ自分もそういうふうにならなくちゃいけないなって。自分が歳をとっていくことの命題がわかったというか、これから先の頑張りどころがすごくわかった気がしたし、それは今回のアルバムを作るにあたっても、この先のことを考えるにあたっても、すごくキーワードになりましたね。篠田さんの作品を観たときも、息を飲むぐらいすごかったんですよ。うわあ、歳をとるってかっこいいんだ!って。自分がそう思ったことを、僕は僕らの下の人たちにどう伝えていけるかな?って。そう思っているところもあります」

──歳を取ることについては「微妙なお年頃」でも歌われていますけども。

「まさにです(笑)。これがめっちゃ推し曲なんですよ」

──この流れで突然この曲が来ると、どきっとします(笑)。

「僕の中で、70年代の歌謡曲って消しゴムでは消せない思い出として残っているから、ちゃんとやらなくちゃダメだろうと思って、かなり研究して作りましたね。詞に関しては、“若さこそすべて”っていう風潮が日本にはあるじゃないですか。老いていくことが、まるで腐っていくことのように捉えられていて、忌み嫌われているなと思って。だから、歳をとっていくのってかわいいものだよ?っていうのをコミカルに書こうと。この詞、2年かかりましたからね」

──2年!

「じっくり時間をかけましたよ。やっぱり失礼にあたってはいけないので。でも、楽しくないといけないから、どこまで書けるかなって」

──それこそ可愛らしいというか、なんかこう、無邪気な感じもありますよね。

「そうなんですよ。いい歳のとり方をしたおじさんおばさんのいいところって、邪気がないんですよね。もうしょうがないなあっていう。でも、明日は我が身だよ?って真顔で言うっていうね(笑)。この曲は、弦のアレンジをトオミヨウくんがしてくれて、サウンドもすごく気に入っていますね」

──サウンド面でいうと、タイトル曲の「Design&Reason」は、宇宙や生命というワードが頭に浮かんでくるすごく壮大な雰囲気があって。ただ、その途中でノイズやドラムマシーンの音が入っていて、そういうギャップみたいなものも含めて全体の空気感がおもしろいなと思いました。

「あの曲は、壮大な宇宙と――このマグカップみたいに――身近にあるものの関連性を繋いでいくような感じというか……その間で何かがいろいろと起こっていく感じをアレンジしたかったんですよね」

──ミクロとマクロを繋ぐというか。

「そこが今回のテーマでもあるんです。その間にあるパーテーションを取り払っていくというか。僕のついた溜め息で大嵐が吹くぐらい、みんなが信じられない小さなところから大きなところまでが、本当は全部繋がっている。すべてはデザインとリーズンで繋がっているんだというのは、今回すごく留意して作っていたんですよね」

──でも、なぜまたノイズやドラムマシーンの音を入れようと思ったんですか?

「ドラムマシーンやシンセサイザーって、中に鉱物が入っているわけじゃないですか。トランジスタとかもそうですけど。だから僕は、シンセサイザーって、まだかたちになっていない楽器の音を出す楽器だと思っているんです。それは水晶がずっと正しく、同じ周波数を刻む感じだったり。雅楽であれば笙の音が光だったりしますけど、そういう感じで僕はいつもシンセを使ってるんですよね。だから、もちろん音は作るんですけど、シンセサイザーのほうが気持ち的にはもっとアーシーというか、そこら辺にあるものを全部使って音を作るイメージがあるんです。実際に、全部地球にあるものを使ってできているわけだから」

──機械的のように見えて、実はとても自然的というか。

「なんか、規則正しいものってヒューマニティーとは違うものだと捉えがちだと思うんですけど、絶対に朝は来るし、絶対に夜も来るじゃないですか。だから、規則正しいもののほうが自然な気がする。移ろっているのは人間ばかりですよ。ニワトリだって朝5時ぐらいになると鳴くし、ウチの犬だって朝9時ぴったりに鳴きますからね(笑)。本当にびっくりする。こいつらは何を感じて生きているんだ!?って。だから、エレクトリックな音も、僕にとってはわりと自然なものなんですよ」

──ドラムマシーンも、言ってみたら心電図っぽいといいますか。鼓動も規則正しくあるものですし。

「そう考えると簡単だと思います。不整脈はやばいですからね(笑)」

──確かに(笑)。この先の命題が見えたというお話もありましたが、完成させてみて槇原さんにとってどんなアルバムになったと思いますか?

「もう可もなく不可もなく、今の自分をそのままアートとして、音楽作品として作れたんじゃないかなあと思いますね」

──先ほどお話にもありましたけど、全体的に明るい雰囲気がありますよね。

「今、気分も明るいんですよ。めちゃくちゃ前向きですね。決して昔が後ろ向きだったわけではなくて、今のほうがもっと前向き。なんか、腹を括った感じですよね。これしかできないし、もっとやっていくか!っていう。“ポップスにできることはもうない”という人もいますけど、いやいや!と思うんです。だって、ポップスの歴史なんてたかだか60、70年ぐらいしかないわけですよ」

──人類の歴史の中ではまだ短いですよね。

「そうですよ。年表でいうと小指の爪もないぐらい。それをいかに広げていくか、その歴史をみんなで作っていくのかという上で、やっぱり人との関わり合いって大事だよなと思って。僕は人と関わり合うことがあまり得意ではないんですけど(笑)、その勇気がやっと出てきたのかもしれないです。化学反応を起こしていこうっていう。あとは、これもやってきたことではあるんですけど、やっぱり本当に自分の好きなものしか作りたくない(笑)。それがもしかしたらすごく暗いアルバムになったとしても、それはそれで僕なんだっていう。結局、自分の見えている世界は自分にしかないものなんですよね。隣同士、並んで同じものを見ていても、それをどう捉えるのかは人それぞれであって、それが愛おしいか、愛おしくないと思うのかは僕次第じゃないですか。そういうことが少しずつわかっていけたらいいなと思っています」

(おわり)

取材・文/山口哲生





■LIVE INFO「Makihara Noriyuki Concert Tour 2019 “Design&Reason”」
3月2日(土) 川口総合文化センター・リリア メインホール
3月9日(土) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
3月10日(日) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
3月16日(土) 府中の森芸術劇場 どりーむホール
3月21日(木) 島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール
3月23日(土) 岡山市民会館
3月24日(日) 鳴門市文化会館
3月30日(土) 東京エレクトロンホール宮城
3月31日(日) 東京エレクトロンホール宮城
4月6日(土) 神戸国際会館こくさいホール
4月7日(日) 神戸国際会館こくさいホール
4月11日(木) 札幌文化芸術劇場 hitaru
4月12日(金) 苫小牧市民会館
4月14日(日) 旭川市民文化会館 大ホール
4月20日(土) 新潟県民会館
4月21日(日) 新潟県民会館
4月27日(土) NHKホール
4月30日(火) 東京国際フォーラム ホールA
5月5日(日) フェスティバルホール
5月6日(月) フェスティバルホール
5月10日(金) 上野学園ホール
5月11日(土) 上野学園ホール
5月17日(金) なら100年会館
5月18日(土) 和歌山県民文化会館
5月23日(木) iichikoグランシアタ
5月25日(土) 都城市総合文化ホール 大ホール
6月5日(水) 兵庫県立芸術文化センター
6月6日(木) 大阪狭山市文化会館SAYAKAホール
6月15日(土) 大宮ソニックシティ 大ホール
6月16日(日) 桐生市市民文化会館
6月21日(金) 金沢歌劇座
6月22日(土) まつもと市民芸術館
6月29日(土) ロームシアター京都 メインホール
6月30日(日) ひこね市文化プラザ
7月5日(金) 福岡サンパレス
7月6日(土) 福岡サンパレス
7月12日(金) 神奈川県民ホール 大ホール
7月15日(月) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
7月20日(土) リンクステーションホール青森
7月21日(日) 盛岡市民文化ホール
7月27日(土) NHKホール
7月28日(日) NHKホール



槇原敬之『Design&Reason』
2019年2月13日(水)発売
BUP-18/3,000円(税別)
Buppu Label






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