シーンのはじまり

80年代前半。日本ロックバンドシーンの黎明期。 “ジャパニーズ・へヴィ・メタル”と称されたバンドたちが次々とメジャー・シーンへ登場した。“ロックバンド”が市民権を得て、いわゆるビジネス的に大きな成功を得ていくようになる80年代後半~90年代だが、日本でのロックバンドのあり方を、このジャパニーズ・へヴィ・メタルのシーンで活躍した多くのバンドたちが示した。

そもそも、“ジャパニーズ・へヴィ・メタル”というシーンは、70年代末~80年代初頭に、関西で大きな勢いを持つロックバンドたちの活躍に端を発している。海外進出も果たしたLOUDNESSがそのシーンの中心的存在ではあったが、ギターの高崎晃、ドラムの樋口宗孝が在籍した前身バンド、LAZYの経緯を含め当時の状況を増田氏はこう話す。

「これは難しいところがあって……当時の“ジャパメタ”と呼ばれたバンドはデビューがだいたい……80年代に入ってからなんですが、中には70年代から活動しているバンドもいて、ずっとライヴハウスでやっていたわけなんです。で、80年代に入ると地元の関西で火がついて、44MAGNUMやEARTHSHAKER、MARINOといったところが頭角を現してきて、“関西にこのバンドあり!”みたいな存在がいくつかいる中で、バンド3組くらいで“関西へヴィ・メタル殴り込みギグ”みたいなライヴを、新宿ロフトでやったりという動きがあったんです。当時は明らかに西高東低な感じがあって、東京で気を吐いていたバンドといえばANTHEMと、あと、SABBRABELLS、十二単とか、そのくらいで、マグナム、シェイカーに匹敵するような実績は得られていないという。で、LAZYっていうのは70年代にアイドル的な活動をしていたバンドなんですね。当人たちの本意云々はともかく(笑)。そのLAZYの高崎晃と樋口宗孝が本気でへヴィ・メタルをやる。“世界に通用するへヴィ・メタルを目指すんだ”と、メジャーな活動を前提として始まってるのがLOUDNESSなので、シーンの中から出てきたっていう印象ではないわけですよね。かと言って作られたバンドというわけでもないんですけど。そもそも、LAZYが結成されたのは、高崎晃がまだ中学生の頃で、高校生の頃に、関西のテレビ番組のアマチュアバンド出演のコーナーで、かまやつひろしさんに見染められてるんですね。ここでスカウトされて東京に出てくることがなければ、地道に関西で活動してたはずで。もしそうだったら、関西へヴィ・メタルのシーンの流れは違ったものになったかもしれないですね。人脈的には、二井原さんは元もとEARTHSHAKERで歌ってたわけですし、そこで“ハイトーンな声の持ち主がいるらしい”という噂から、LOUDNESSに誘われていたりするので、人脈的にはつながっているんですが、LAZYからの流れがあるのでLOUDNESS自体は、いわゆる当時の“関西メタル”と括られていたものとは全然別のところから出てきた感じがあるわけですね」

そして、世界の音楽シーンの大きな波も、もちろん大きく関係している。

「LOUDNESSがデビューしたのが、81年なんですね。81年っていうと、レインボーとかマイケル・シェンカー・グループが大人気で武道館公演をしていたり、へヴィ・メタルの新世代を象徴していたアイアン・メイデンがデビューした翌年でもあって、“New Wave Of British Heavy Metal”と呼ばれた流れもあった時期なんです。だから日本でも “新しい波”が求められた……といった流れだったんだろうと思います。また、海外での活躍っていうことになると、どうしてもLOUDNESSを基準に語られがちですけど、BOW WOW(のちにVOW WOWと表記を変更)は実は彼らより先にイギリスのフェスに出演したりもしていたんです。それこそ海外のへヴィ・メタル・マニアの中には日本のバンドを輸入盤で買っている子たちがいるわけなんですけど、メタリカのドラマー、ラーズ・ウィルリッヒとかは、頭文字がBの時代の彼らを知ってましたからね」

そして、当時日本中のバンド少年が憧れ、三大バンドと呼ばれたのがLOUDNESS、44MAGNUM、EARTHSHAKERだった。

「ギターヒーローがいて、特徴的なヴォーカリストがいてっていう。レッド・ツェッペリンの時代からの系譜というか。そういうバンドとしてLOUDNESSがドーンと出てきて、EARTHSHAKERも、同じようにMARCYとSHARAというすごいヴォーカル&ギターがいて……ただゴリゴリのへヴィ・メタルというよりは、歌ものハードロックみたいなものとの間にあるというか、メインストリームに近かった。その流れで、更に同時期に44MAGNUMが出てきたわけですけど、彼らはいちばん破壊的で派手で……という感じですよね。そもそもは音楽的には、モントローズであるとか、マイケル・シェンカーであるとか、ギタリストのJIMMYなんかは、マイケル・シェンカーに相当傾倒してましたし、一時はコスチュームなんかも近かったし、そういったアメリカとヨーロッパのバンドのいい部分をかけあわせつつも、KISSみたいなコンパクトでわかりやすく、派手に煽りながら……MCとかもそうですね。アジテーションに近い。それこそ後の、主にビジュアル系のバンドの“ついてこれるのか”とか“かかってこい”みたいなMCのルーツって、意識してないでしょうけど、44MAGNUMのPAULさんかもしれないですね」
(つづく)

増田勇一(ますだ・ゆういち)
音楽雑誌『BURRN!』副編集長、『MUSIC LIFE』編集長を経て、現在フリーライターとして活躍中。制作を手掛ける雑誌『MASSIVE』Vol.20(表紙巻頭特集=THE MORTAL)が10月13日に発売される。

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