デビュー30周年のアニヴァーサリー・イヤーを迎えている古内東子。これに先駆け昨年2月に、ピアノ・トリオ編成による最新オリジナル・アルバム『体温、鼓動』をリリースし、10月に30周年記念ライヴを行った彼女が、早くも次なるオリジナル・アルバム『果てしないこと』をリリースする。本人が「今、声をかけるなら、この人たち」と語る、TomoKANNODr)、山本連(B)、石成正人(G)、松本圭司(P)、井上薫(Key)からなるバンドを編成してレコーディングされた、アダルトでスタイリッシュなアルバムだ。これを携え3月8日からは、ビルボードライブを回るツアーがスタート。“ラヴ・ソングの女王”の真価を伝えるステージになるに違いない。本人に話を聞いた。

――まずは、昨年の30周年記念ライヴについて、お聞かせください。たくさんの曲を披露していましたし、やはり、感慨深いものがありましたか?

「曲選びの時点で、“なるべくたくさんやりたい”って言っていて、結局25曲歌ったんですけれど、それでもまだまだ網羅できていないところもあったかなっていうくらいでした。気がつけば、ずいぶん曲を作ってきていたので。でも皆さんに喜んでいただけたので、大阪と東京だけでしたけど、やってよかったなと思っています」

――アルバム『体温、鼓動』から1年で、早くもニュー・アルバムがリリースされます。アニヴァーサリーということで、初めからアルバムを2枚と考えていたのですか?

「『体温、鼓動』を作っていた時には、さすがにそんな話にはなっていなかったんですけど、完成した時ぐらいですかね。“1年後に、もう1枚出しましょう”ということになりました」

――今回はバンド編成に変わっていますね。

「『体温、鼓動』をピアノ・トリオで作れたので、もう1枚を1年スパンでとなったら、やっぱりバンドかなと」

――メンバーは、どのようにして選んだのですか?

「“今、声をかけるとしたら、この人たちかな”というミュージシャンですね。今までの30年間を振り返ると、自分で作詞作曲をしてきたので、デモというものを最初に自分で作るわけですよね。それをアレンジャーさんやプロデューサーさんにお渡しして、アレンジしてもらう。だから、アレンジャーさんやプロデューサーさんがミュージシャンを選ぶことも多いんです。私は直接ミュージシャンを選ぶということが、初めてではないにしても数回しかないので、“今一緒にやりたいな”っていう人に、お声かけしました。その気持ちが、アルバムの音にも反映されていると思います」

――30周年記念ライヴの時のメンバーが多いのですか?

「そうですね。ほとんどです」

――今回もセルフ・プロデュースということですね。

「そういうことになりますね」

――聴かせていただいて、“洗練”とはこういうことかと思ったというのが、率直な感想です。今作の音作りという点で意識したことを教えてください。


「バンドとしての一つひとつの音を、私の好きな音にしたかったんです。それは、楽器が近く感じられるサウンドということです。あとは、皆さん8曲全部演奏されるので、“この曲はこういう音にしよう”とか、“この曲ではこの鍵盤がいい”、“この曲ではこのシンバルを使いたい”とか、そういうこだわりがそれぞれにあったので、それをいかして音作りをしていきました。間近で見ていて、すごく面白かったですね。たとえばアルバムで1曲しか演奏しないのであれば、そこで自分を全部出そうとされると思うんですけど、皆さんに8曲分のスペースがあったわけで、いろいろな引き出しをそれぞれが開けることができる環境だったというか。それを楽しんでいる感じが私も楽しかったし、見ていて勉強にもなりました」

――前回は“せ〜の”でレコーディングされたとのことでしたが、今回もそうですか?

「ほぼ“せ〜の”ですね。スペースの問題で、後からダビングしたものもあるんですけど、ほとんどがそうです。それじゃないとバンド編成にした意味がないとまでは言いませんけど、ベース、ギター、ドラム、ピアノと、私の歌を一緒にレコーディングすることにはこだわりました」

――サウンド面でのインスピレーション源としては、ざっくり言えばソウルにR&B、ジャズといったところでしょうか?

「まあ広い意味でブラック・ミュージックですね。でもあまり、ジャンルを意識しているわけではないんです。今のものも、昔のものも聴きますけど。まあ、CD屋さんのカテゴリーだとJ-POPでしょうし、“この曲、ジャズっぽいね”とか言われることもありますけど、ジャズではないですし。今回は制作の人が“ジャパニーズAORだ”って言っていましたけど、どうでしょう(笑)」

――古内さんが東京で生まれ育ったことや、ニューヨークなどの都会が好きなことが、曲に反映されているのではないかと僕は思っているのですが、違っていますか?

「東京生まれといっても、すごい都会というわけじゃないですし、都会っぽい曲を作ろうとしているわけでもないんです。たとえば地下鉄とかタクシーとか、ビルとかは、自分にとっては当たり前で、よくある景色なんだけれど、聴く人によってはすごく都会っぽい歌だと感じるのかもしれないですね」

――それはあるかもしれませんね。

「生まれたところと、今生活しているところが変わらないということには、ちょっと悔しい気持ちもあるんです。故郷を思う気持ちや、故郷にいた自分と今都会にいる自分とのギャップを歌った曲とか、あるじゃないですか。そういうのが、うらやましいと感じることもありますし。ライヴで“凱旋公演”って、いいなあとか(笑)」

――そうなんですね。たとえば田舎の田園風景を見て、なんの刺激にもならないとかではないと。

「そんなことはないです(笑)。行きたいと思うし、いいなと思うし、“こういうところで物心つくまで育ったら、どんなにきれいな心になるのかな?”とか考えたりします」

――ちょっとさかのぼりますけど、デビュー曲の「はやくいそいでは、確か10代のころに書かれているんですよね?

「そうです」

――なんか、若いころの古内さんは妙に大人っぽかったですし、大人になってからは時が止まっているかのような印象を受けるんですね。特に歌詞なんかを見ると。何なんでしょう、これって。

「年齢を隠してきたわけでもないし、そこまで気にしていないし、そんなに抗おうとも思っていないんですけれど、よくデビューのころは言われましたね、すごく大人っぽいと。30ぐらいまで言われ続けていました」

――嫌だった時期もありますか?

「“どこが大人っぽいのかな?”って思っていました。“でもそういう人は、だんだん実年齢に近づいていくのよね”みたいなことも言われていましたね。自分では背伸びしていたつもりもなく、今も変わらない感覚ではいるんですけど、今はもしかしたら実年齢に追いついていないかもしれないです。どこかで実年齢が精神年齢を追い越したのかな、みたいな(笑)」

――たとえば「素肌」という曲にしても、“恋をしているな”って感じる人は、たくさんいると思うんですよ。語弊がある言い方になってしまうわけです。

「「素肌」に限らずなんですけど、すべての言葉は自分の中から出てきたものじゃないですか。経験からのものかもしれないし、経験したことじゃないけど、ずっと心で思っていたものかもしれない。ただひとつ言えるのは、自分の中から出てきた言葉ということで、正直な気持ちを書いているつもりです。だから、線引きがなかなか難しいんですよね」

――実体験にせよ、そうじゃないにせよ、ご自身のリアルであるということですか?

「そうです。リアリティは追求したいんですけど、じゃあリアリティが今現在の気持ちだけかというと、そうではないような気もして。“今この瞬間、恋をしていますか?イエスですか?ノーですか?”ということではなくて、その言葉や気持ちが自分にとってリアルであれば、嘘にはならないと思うんです」

――なるほど。よくわかりました。メジャー・シーンで、古内さんの存在のオンリー・ワン感が増している印象を強くしたのですが、ご本人は今作に、どんな手ごたえを感じていますか?

「いろんな意味で嘘がなくて、かっこいいアルバムだなと。生身の人間が作ったという感じが、すごく私はしていて。私の曲もそうですし、皆さんの演奏もそうで、ちゃんとそれぞれが関わり合って、1曲ずつ作れたなと。きれいなだけじゃなくて、生っぽい、人間っぽいアルバムになったと思います」

――バンド・サウンドなんですけど、隙間がとても心地いいと感じました。

「私と今回のミュージシャンの方たちとの間に、“あの時代のこの感じってかっこいいいよね”みたいなものが、なんとなく共通認識としてあったんですよね。だから、ガチガチに音が詰まっていなくて、それぞれの音がちゃんと分離されて聴こえて、ゆえに言葉もよく聴こえるっていう。話し合わなくても、音を埋めていくということをしないで、お互いの音を聴きながら自分を出しつつ、スペースを残すという、いい意味での見えないルールみみたいなものがあった気がします」

――共通認識の例を挙げていただくことは、できますか?

「やっぱり年代で言うと、70年代なんですかね。私が思い浮かべていたのは、マリーナ・ショウやスティーリー・ダンのアルバムでした。いまだに、本当に若い子にも語り草になっているような、それぞれの演奏も歌もかっこよくて、というのを目指したかったんです。まあ私の曲なので、そんなふうにはならないんですけど、でもいい余白加減は保たれかなと思っています」

――ライヴが楽しみなのではないですか?

「そうなんですよね。ビルボードライブのツアーは、本当に観ていただきたくて。おこがましい言い方になるんですけれど、今作のミュージシャンの方々は、それぞれに活躍されていながら、なかなかアルバムで全曲を演奏するっていうことがなかったようなんですね。お話を聞いていると、数曲のみとかで。だから、アルバムで全曲演奏した同じメンバーで、その楽曲をライヴで初披露するっていう経験もないんじゃないかなと思っていて。どう表現してくれるのか、気持ちをどうぶつけてくれるのかが、すごく興味があって楽しみなんです。どんな顔で演奏してくれるんですかと(笑)。これはぜひ、間近で目撃してほしいです。そういう想いが渦巻くライヴになるはずなので」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

RELEASE INFORMATION

古内東子『果てしないこと』

2023年38日(水)発売
初回生産限定盤(CD+Blu-ray Disc)/MHCL-302030217,700円(税込)
通常盤(CD)/MHCL-30223,300円(税込)
ソニー・ミュージックレーベルズ

古内東子『果てしないこと』

LIVE INFORMATION

TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY Billboard Live Tour 2023

ビルボードライブ大阪(1日2回公演)
2023/3/8(水)
1stステージ 開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ 開場19:30 開演20:30
詳細はこちら >>>

ビルボードライブ横浜(1日2回公演)
2023/3/11(土)
1stステージ 開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ 開場18:30 開演19:30
▼詳細はこちら >>>

ビルボードライブ東京(1日2回公演)
2023/3/17(金)
1stステージ 開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ 開場19:30 開演20:30
▼詳細はこちら >>>

TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY Billboard Live Tour 2023

Toko Furuuchi Acoustic Live 2023 『果てしないこと』

【日程・会場】

2023年3月26日(日) 静岡 LIFE TIME
▼詳細はこちら >>>
2023年4月8日(土) 名古屋 BOTTOM LINE
▼詳細はこちら >>>
2023年4月30日(日) 広島 LIVE JUKE
▼詳細はこちら >>>

2023年5月12日(金) 大分 BRICK BLOCK
2023年5月13日(土) 熊本 Restaurant Bar CIB
2023年5月14日(日) 福岡 ROOMS
▼詳細はこちら >>>

TOKO FURUUCHI SPECIAL ACOUSTIC LIVE

【日程・会場】
2023年41日(土) 新潟 新潟市音楽文化会館

TOKO FURUUCHI SPECIAL ACOUSTIC LIVE

関連リンク

一覧へ戻る