――前作「Plastic Smile」から7ヵ月ぶりとなる通算7枚目のシングル「Starcast」の制作はどんなところかスタートしたんですか。

「久々のノンタイアップということもあったので、どんなテーマでいこうか?というところから出発しました。ライブに紐づいているシングルでもあったので、ライブ向けの曲にするのか、どんな曲にするのか、いろんな案が上がっていて。その話し合いの中で、次にいつノンタイアップのシングルが出せるかわからないし、ソロアーティストして3年間やってきたタイミングでも合ったので、自分自身のこととちゃんと関連しているものがいいんじゃないかと思ったんです。そこで、じゃあ自分ってなんだろうなって考えて」

――答えは出ましたか?

「私が一貫してずっと言ってきたのは、ファンの皆さんと心の距離が近いアーティストになりたいっていうことだったんです。だから、“心の距離”をテーマにすれば、自分自身とも紐づけられるし、ファンの皆さんにも共感してもらえるんじゃないかなと思って。私自身は、こういう状況でなかなかファンの皆さんにも会いづらくなってしまいましたし、オンラインお渡し会でお会いしたファンの方々からも大切な家族や友人と会いづらくなってしまっていることを聞いていたので、そこらへんをうまく結びつけられるものができないかなというのが出発点でした」

――歌詞は「キミしきる」に続き、2度目のタッグとなるやなぎなぎさんが手がけてます。

「元々、この曲を選んだ時、最初は全然違う歌詞が入っていたんです。割とストレートに思いをぶつける、失恋ソングみたいな内容だったんです。それはそれで素敵ではあったんでけど、今回はテーマが違うので使えなくて。ストレートさがある歌詞というよりは、ちょっと考えさせられるというか。答えがそこに描いてあるわけではなく、一人一人の状況で聞こえ方が変わるというか、それぞれに答えるを委ねるような歌詞も素敵なのかなと思いまして。いろいろと考えた結果、やなぎなぎさんが一番ぴったりなんじゃないかなと思って、スタッフさんを通してお願いしたところ、快く引き受けていただいて、一緒にやらせていただくことになりました」

――歌詞を受け取ってどう感じましたか。

「初めて見た時は1コーラス分だけだったんですけど、その段階でもう、行動としては歌詞を読んでいるんですけど、絵本を読んでいるような気持ちになりましたね。綺麗で幻想的な世界の中にちょっとした寂しさがある。でも、読み進めていくうちに、前向きになろうとする姿が見えてきて。この先の展開がものすごく知りたい!と思ったのが、最初の印象でした。自分の作品を作ってはいるものの、この物語のファンとして、この先どうなっていくんだろうっていう期待やワクワクを感じられた歌詞でした」

――どんなストーリーが思い浮かんでましたか。

「最初は寂しさから始まっていくんですけど、どんどん引っ張っててもらえるというか。雨に濡れて冷たいとか、悲しいとかじゃなくて、人の温かさも感じていて……なんて言ったらいいんだろうな。ただただ寂しいとか、ただただ明るいとかじゃないんですよね。確信に触れてないところもあるので、私はこう感じ取れるけど、人によっては全然違うものになるんじゃないかっていう歌詞なんですよね。わかるようでわからないみたいな」

――絵は浮かびますよね。傘を逆さにして雨のような言葉を溜めてるところとか。

「そこは私も好きなパートです。その前に<雨の音が言葉を撃ち落としていく>というところから始まって。撃ち落とすという言葉もこの曲からは想像できなかったですよ。パワーが強すぎて。でも、いざ、読み進んでいくと、撃ち落とされたのは自分だけど、距離は離れていても心が近い相手が見えて。傘を逆さまに持って、その言葉を受け止めてくれるという温かさを感じるところが素敵です。<雨の音で言葉を撃ち落とす>ことは現実的にはできないけど、イメージできる。とてもファンタジーで、すごく可愛いけど、胸をグッと掴まれるところがあって。ストレートでわかりやすい文章ではないけれども、心にダイレクトに訴えかけてるフレーズだなと思って。あとは、<向こう岸で手を振ってかた/答え合わせをしよう>も印象的です」

――そこはどんな絵が浮かんでますか。

「個人的には天の川かな。織姫と彦星のような情景を想像してました」

――なるほど。冒頭は<雨が星になって>から始まりますが、この“雨”は何を表してると思いますか。

「なんですかね。最初は単純に雨が降った後に晴れて、星が見えるという感じかなと思ったんですけど、雨自体が“願い事”のようにも受け止められますよね。私の好き嫌いで言うと、雨は暗かったりして、嫌なものだと思っていたんです。でも、この歌を聞いてから、決して雨は悪いものじゃないというか。捉え方を変えさせてもらったなと思いますし、聞いてくれるかた一人一人に想像を膨らませてもらいたいし、その人それぞれの捉え方をしてもらえたらいいなと思います」

――では<願い事>とはどんな願いですか。

「この歌では、お互いに会える日を願ってるのかなと思いました。距離的に近くなかったとしても、お互いを思い合い、お互いのことを考えている時間のことを歌ってるのかなって」

――その願いはご自身の願い事とも重なる?

「そうですね。それこそ大阪とか名古屋とか、いろんな地域に行けなくなってしまっている現状もあるので、みんなに早く会いたいっていうのが、私の願い事のひとつであって。でも、この曲では“君”も限定はしてないんです。私にとっては、ファンの方はもちろん、私自身の家族や全然会えなくなってしまった友達のことも想像しました。皆さんにも、大切な人、会いたい人を思い浮かべながら聴いてもらいたいです」

――その<会いたい>ってことを言わずに描いてるんですよね?

「はい。<会いたい>とは直接的には言ってないんですよ。いつもすごいなって思ってます」

――タイトルはどんな意味ですか。

「オーバーキャスト=曇り空という単語から、今回の曲に合わせて、スターキャストとつけてもらって。星がいっぱい散らばった空という感じですね。大切な人が同じ空にいて、いっぱい輝いているっていニュアンスかなと思っていました」

――順番は逆になってしまいますが、曲自体はどう感じましたか。冒頭は歌とピアノだけでしっとりと始まり、意外な展開をしていきますよね。

「そうですね。最初、コンペで聴いた時に、“あれ?バラードをお願いしたわけじゃなかったんだけどな”っていうところに興味を惹かれて。どんどんスピードが上がっていくし、1番と2番と3番でサビ以外は同じメロディラインがないので、いつの間にか物語の波に乗って、吸い込まれるなあって思いました。あと、これまでにミドルテンポくらいのバラードは歌ったことはあったんですけど、ここまで静かなバラードには挑戦したことがなかったんです。一見バラードじゃない曲で挑戦するのも表現として面白いし、自分もどういうふうにアプローチしたらいいんだろうって考えるのが楽しそうだなと思ったので、すぐにこの曲にしようって思いました」

――レコーディングではどう歌おうと考えていましたか。

「ストーリーに沿って気持ちを変化させていくように作っていきました。最初はネガティブじゃないですけど、静かに寂しく歌いはじめて。あまり声も出さないように、抑えて抑えて、伸ばさないように意識してて。リズムが乗ってきたら、<心は振り子>という歌詞に合うように、大きく揺れ動くように、流れるように歌っていきました。サビは張って伸びやかに歌うところと、できる範囲で抑えて歌うところを混ぜてて。1ブロックごとに色が変わるように歌うように心がけました」

――声色がとても多彩ですよね。クールに抑えた歌声もいいなと感じました。

「ありがとうございます!ここまで切なさを出しつつ、伸びやかに歌うことはほとんどなかったので、新しい自分に出会えそうで、挑戦することがすごく楽しかったですね。最後の高音も、いつもだったら使わないキーだったんですけど、あえて引き出してもらったりもしてて。私自身、新しいことに挑戦するのが大好きなので、この歌詞のように、最終的にはワクワクするような気持ちで歌いました」

――新たな挑戦が詰まった曲を歌い終えて感じたことは?

「ほんとに、私にとっては、ほぼ全部が挑戦みたいな曲だったので、んですね。“こう表現できたらいいな。でも、やったことないから、やってみないと、できるかどうかわからないな”みたいなことをいっぱい盛り込んでて。だから、歌い終わって、いざ、落ち着いた場所で取りっぱなしの音源を聞いた時に、ちゃんとできてるわ!と思って。自分自身の成長を感じました。あと、自分の声質――声優をやっているので自分の声は好きは好きなんですけど――はこういう歌に合ってるかもと感じたし、自分の声に自分でも魅力を感じるなって思えた曲でしたね。いろんなことを教えてくれた曲だったと思います」

――自分の声が好きで魅力的だと言えるのは素晴らしいことだと思います。ミュージックビデオはどんな内容になっていますか。

「感情がすごく現れてる歌詞で、幻想的な曲調なので、感情はジャズダンスで表現しよう!ということになりまして。幻想的に見せたかったので、森の中や街の中でいっぱいライトを照らして、星を感じるような雰囲気の中で踊りました」

――ご自身でジャズダンスを踊ってる?

「そうです!実は私、幼稚園生くらいの時にャズダンスをやっていて。そこから、すごいブランクが空いてて、当時できてたものが、できなくなったりしていたので、苦手意識があったんです。この仕事を始めてからは、自分がジャズダンスをやることはもうないだろうなって思ってたんですけど、この曲に当てはまるものがジャズダンスしか思い浮かばないくらいピッタリだったので、意を決して、トライしてみました」

――幼稚園生以来のジャズダンスってすごいですね!踊ってみてどうでしたか?

「最初は、あんまり普段は使わない体の動かし方なので、全身筋肉痛になるくらい苦しかったし、難しかったです。でも、振り付けを歌詞に合わせて作ってくださったり、歌詞から膨らまして、新たな動きを作ってくださったのをみていたので、面白さも感じていて。しかも、ジャズダンスは苦手で、踊るのはもうちょっとやだなって思ってたけど、撮影を見てくださっていたメイクさんや衣装さんが、“いや、全然踊れてるし、めちゃくちゃカッコいいよ。もしかしたら、今までやってた中で一番向いてるかも”って言ってくれたんです。そう言ってもらえたものも嬉しかったですし、何よりも体がちゃんと動いて、曲をダンスで表現しきれたことがすごく嬉しかったです」

――声だけじゃなく、体や表情でもこの曲を表現してるんですね。

「そうですね。2番はダンサーの方が一人きてくださるので、1番や3番とは違う見え方をして。二人の距離が近づいたり、離れたりすることで心の距離を表してます。傘を逆さまにもつような動きを組んだりもしているので、今までの曲にはないMVにはなったと思います」

――カップリングについても聞かせてください。Honeyworksさんによる「わざと触れた」が収録されてますが、表題曲とは一転して……。

「そうなんです。甘酸っぱい青春になってます。私は勝手に高校生くらいの主人公かなと思ってて。私自身は、高校生もかなり前になってきてるので、可愛いなって思いながら歌詞を読んでいました。すごく明るい曲調というわけではないけど、ポップでちょっと切なくて、でも、爽やかな青春感がある。だから、「Starcast」は自分の等身大ですけど、ちょっと年齢を下げて歌ってます。あと、歌詞にハニワさんらしい、セリフみたいなフレーズが出てきて。どうやったらセリフっぽく聞こえるかという実験をしながら歌ったのも楽しかったし。今のリアルな高校生には、“今の私だ!”と重ねてももらえると思いますし、高校生以上の方には、懐かしくて、甘酢っぱくて、キュンとするなって受け取ってもらえたらいいなと思います」

――タイトルにもなってますが、女子の方からわざと少し手を触れてみる仕草は共感しました?

「あー!共感というよりか、当時、少女漫画を見て、“何これっ!”ってタイプです。自分自身ではできないけど、人がやってるのを見たら、“きゃー!”って手で目を塞ぎながら、指の隙間から見てるみたいな感じですかね(笑)」

――あはははは!それ、わかります。ご自身にとって、このシングルはどんな1枚になりましたか。

「いろいろな選択肢が多くて、悩みながら作った曲ではあったんですね。ほんとにリリースできるかな?って思ったりしたんですけど、いざ出来上がると、悩んだ分だけ、とても可愛いらしく思います。あと、「Starcast」は年齢や性別を問わず、いろんな人に共感してもらえたらいいなと思います。社会を変えるような大きい影響はないかもしれないけれども、少なくとも誰かの心に響いて、温かくなったり、切なくなって涙したり、いろんな感情の変化をもたらしてくれる曲になってくれるんじゃないかなって思います。あなたは一人じゃないっていう、誰かがそばにいることを教えてくれる曲だし、大切な人を思い浮かべたり、いろんなことを思い出したり、さまざまな感情になってもらえたら嬉しいです」

――最初に“ライブに紐づいている”という言葉もありましたが、2022年3月に2daysのワンマンライブが決定してます。

「まだ形はできてないんですけど、公演が2日間があるので、初日と二日目で中身や系統が違った、コンセプトや演出の異なるライブができたらいいなと思っています。ツアーではない、結構レアなケースだなと個人的に思っているので、まだ何ができるかわからないんですけど、今までやってこなかったことに挑戦するタイミングになったらいいなと願っています。見にいくのが楽しみだなというステージにしますので、ぜひ遊びに来てください!」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑慧嗣




C-26「a-FAN FAN」――11月22日(月)~28日(日)のアーティスト・セルフ・ポートレートは石原夏織!
USEN440/SOUND PLANET (有線放送)番組情報サイト―― music.usen.com



LIVE INFO石原夏織 LIVE2022

「Starcast」-Vega- @TACHIKAWA STAGE GARDEN(東京)
 
┗2022年3月12日(土)DAY/14:00開演、NIGHT/18:00開演

「Starcast」-Altair- @神奈川県民ホール 大ホール(神奈川)
 ┗2022年3月27日(日)DAY/15:00開演、NIGHT/18:45開演

石原夏織オフィシャルサイト

DISC INFO石原夏織「Starcast」

2021年11月24日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/PCCG-02068/1,925円(税込)

石原夏織「Starcast」

2021年11月24日(水)発売
通常盤(CD)/PCCG-02069/1,375円(税込)
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