――16歳でBMSGからデビューを果たしたedhiii boiさんですが、この1年でかなり環境が変わったのではないでしょうか。

「がらっと変わりました。地元が関西だったので、上京してきて、今は毎日音楽と共に過ごしているんです。とてもいい環境に変わったように感じています」

――encore初登場なのでプロフィール的なこともお伺いしたいのですが、HIP HOPへの憧れはいつ頃から?

「HIP HOPをやりたいというよりは、K-POPがすごく好きだったんですよね。当時はBIG BANGが大好きだったので、BIG BANGになりたいという気持ちが強かったんです。それもあって、ラップの真似をし始めました」

――小学生の頃ですね?

「はい。BIG BANGを知ったのが小学2年生の頃で。「FANTASTIC BABY」が流行っていた頃でした」

――しっかりとアーティストになりたいという輪郭が見えてきたのは?

「小学4、5年生の頃ですね。当時は、まわりに音楽をやっている人がすごく多かったんですよ。その人たちはスタジオを持っていたので、よく遊びに行ったりして、音楽についてたくさん教えてもらいました。毎日のように学校が終わったら遊びに行って、その人たちと曲を作っていました。そこで、音楽を作れる人ってかっこいいなって思うようになりました」

――めちゃくちゃいい環境に身を置いていたんですね。

「そうですね。でも、中学生になる時に、引っ越しをして関係が途切れてしまって……その時に1人じゃ何もできないことに気が付いたんです。それから、Garage Bandを見つけて、自分で制作する日々が始まりました。気がついたら1日に10曲くらい作るようになっていて(笑)。学校の友だちと一緒に曲を作ったりもして、中学の卒業式が近づいて来た時に制作を始めて、「Foever Friend」が生まれたり、いろいろ繋がっていきました」

――それから機材をいじるようになったんですか?

「はい。もともと機械をいじることが好きだったんですよ。小さな頃から、おもちゃも説明書を読まずにとりあえず作っていたりしました。なので、今もいろんなアプリを試しながら、自分に合うやり方を模索しています」

――機材もお金がかかりますしね。

「そうですね。本当はPro Toolsが欲しいと思っているのですが、僕にはまだ高価で買えなくて、Logic ProをPro Toolsと同じになるようにカスタムして、キーボードの配置も買えたりして。そういうのが大好きな子供だったんです(笑)」

――素質は十分でしたね(笑)。楽器はやっていましたか?

「当時はピアノとギターを習っていました。でも、引っ越すタイミングでそれもやめることになって。もともとダンスも習っていたのですが、どうしてもchekeさんに教えてもらいたくて。でも中学生からしかレッスンを受け入れないと書いてあったので、小学校を卒業したと同時に、chekeさんの在籍されているスクールに通いはじめました。chekeさんと出会っていなかったら、たぶん、全部の曲が生まれていなかったんじゃないかなと思うくらいの恩人なんですよ」

――そこまで惹かれたのはどうしてなのでしょうか?

「僕自身、人に影響されやすいタイプなんですが、chekeさんは他のダンスの先生と概念が違って、とにかく規格外だったんです(笑)。BMSGの所属が決まった時も、“行ってくればいいじゃん”って背中を押してくださって。先生のおかげでダンスも変わったし、聴く音楽もがらっと変わったんです。先生がスクールで流していた曲を一生懸命調べたりして。それからはHIP HOPばかり聴くようになりました。先生はあまり言葉数が多い方ではないのですが、でも背中で見せてくれるんです。その姿もまた、かっこいいんですよね」

――そんな環境下で、オリジナル曲も並行して作っていたんですね。

「はい。中学の頃から。僕は勉強が本当にできなくて学校で最下位くらいだったんです。これは音楽を突き詰めていかないと人生が危ないって思ったんです。それから、腰を据えて音楽を作るようになりました」

――焦燥感が曲作りに向かわせていたんですね。

「友達やお母さんとケンカをしても、それを歌詞にすることで吐き出していたんです。それならもう、本当に俺には音楽しかないなって思ったんです」

――トラックは、サブスクから引っ張って作っていたとありますが、そのなかで、どうやって自分らしさを出そうしましたか。

「言葉の詰め具合とオートチューンですね」

――たしかに、尋常じゃない言葉の詰め込み具合ですよね。

「いつもリハで自分のリリックにやられています(笑)」

――それでも、言いたいことがある?

「はい。言葉を削って、削っても、まだ言葉が詰まっているんです。何かを考えると、とめどなく言葉が出てくるんですよ。ですが、最近は制作スタイルも変わってきたんですました。今まではフリースタイルでメロディを作って、そこからリリックを書くことが多かったんですが、上京してからは、プロデューサーさんと作ることが多くなって、もっと人に聞いてもらうことを考えなくちゃいけないって思ったんです。それからは、本を書くみたいにリリックを書くようになりました」

――最初にプロットをしっかりと作ることで、より明確化できているのかもしれないですね。

「そうですね。自分の中に主人公を作るというのはすごくいいことなのかなと思っていて。あくまでもじぶんではなく、別の人を立てた方が、感情移入しやすいですし、広い視野でリリックを書けるのですごくいいなと思っています」

――リリックを見ていると、言葉選びがとてもポジティブですよね。

「たぶん、ネガティブなリリックも書こうと思ったら書けるんですが、使えない言葉が多すぎて(笑)」

――あはは!それをうまい具合にまだ中和できない?

「そうですね。でも、もともと争いごとは好きじゃないですし、そういう歌詞を書く年齢でもないのかなと思っていて。まあ、そこまで意識して書いているわけでもないんですけどね」

――純粋に思っていることが、今のリリックになっているんですね。

「そうですね。それが正解だと思います」

――リリックって、年齢を重ねるごとに代わってくると思うのですが、昔と今を比べてだいぶ変化があったのではないでしょうか。

「そうですね。なので、リリースするもので書き直した曲は多いですね。今回の「NO」と「宇宙」もサビ以外全部書き直したんです。曲を寝かしてしまうと、飽きちゃうんですよね。時間が経つと賞味期限切れになる感覚というか、作った時の気持ちを思い出せなくなっちゃうんです」

――書き直したことでがらっと変わった曲はありますか?

「「Forever Friend」は、本当に卒業ソングとして作ったので、友だちのことしか書いてなかったんです。それをエールソングになるように書き直しています。「edhiii boi is here」は、もともとはラブソングで書いていましたが、アレンジしてロック調になったときに、このサウンドにラブソングはちょっとなと思い、リリックを書き直しました。自由に書いていると、ラブソングばかり書いてしまうんですよね。それも片想いの(笑)」

――1stアルバムを制作するとき、驚きはありましたか?

「「NO」を最初に送ってアレンジしていただいたときは、こんなにかっこよくなるんだって衝撃を受けましたね。「edhiii boi is here」も、KMさんと一緒にスタジオに入り、“こういうのがやりたいです”と話したら、ものすごいクオリティの曲になって返ってきて驚いて!」

――その後に自分が作るトラックやリリックは変化がありましたか?

「実は、自分で作るトラックに、自分がリリックを書くことってないんです。決めているわけではないんですが、自分のトラックにはリリックが浮かばないんですよね」

――面白いですね。

「不思議ですよね。僕はふだん、リリックを書くことが多いんですが、それだけだと疲れちゃうんです。そこでプロデューサーさんの気持ちになってみたいということもあり、勉強としてトラックを作ってみたらすごく楽しかったんですよ。自分で作れるようになると、“こういうのを作ってください”と言葉にしやすくなるので、いい効果にはなっています」

――1stアルバムを聴いた人たちに、どんなアーティストだと思ってもらえたらうれしいですか?

「何者かわからない人が良いですね。本当は顔出しもしたくなかったんです(笑)。人間って人を知ってから聴くと感情移入しやすいからこそ、いい意味でも悪い意味でも作用してしまうんです。でも、だからこそ、勝手に想像して、聴いてもらえたら嬉しいなと思っています。なので、謎な言葉もたくさん入れるようにしています。想像させるのが好きなんですよね」

――いろんな楽しみ方をしてくれたらいいですよね。それにしても、本当に視野が広がった1年だったんですね。

「そうですね。上京前は、どちらかというと人が嫌いだったんですよ。他人も自分も嫌いで。なるべく1人でやりたかったんです。でもいざ曲を配信をして聞いてくれる人たちがいることを知ると、応援してくださる方が一番大事だということに気付きました。さらに裏で動いてくださるスタッフさんもすごく大事だと気づいたんです。それからは、もっと人とコミュニケーションを取らなくてはいけないって思うようになったんです。」

――たとえば今後コラボレーションをしてみたいアーティストはいますか?

「プロデューサーだと、Chaki Zuluさんとは一緒にやってみたいですね。Nobel Coreくんが一緒にやっていて、そのときの話を聞いて、絶対に一緒にやりたいって思ったんです。あとはMasayoshi Iimoriさんともご一緒したいんです。彼はハウスやテクノを得意とされているんですが、本当にかっこいいんですよ」

――4つ打ち系のハウスですか?

「はい。あとは、ジャンルを8個くらい使った曲を作りたくて。ロック、シンセ、メタル、エモ、ドリル、ハウス、レゲエとヒーリングピアノを合わせたものを作りたいんです」

――レゲエとヒーリングピアノだけでもすごいのに!

「いまはビートチェンジが流行っていますよね。でも、今僕の年齢でそういったものをやると、“憧れてやったんだね”って見られるんです。それがすごいイヤなんですよね。なので、つねに新しいことをやっていきたいんです」

――いま、年齢の話も出ましたが、2007年生まれというのは、いまはデメリットに感じますか?それともメリット?

「いまはデメリットとしか考えていないですね。まず門限がありますし(笑)、イベントも年齢制限があるので……でもあと2年経つと、ライバルはぐっと増えると思うんです。それに、若さというフィルターがかからなくなることも、正直怖いですし。でも、それも含めて勝負だと思うので、今年はライブをたくさんして腕を磨いていきたいですね」

――社長であるSKY-HIさんもたくさん話を聞いてくれるのではないでしょうか。

「そうですね。社長もそうですし、いろんな先輩が、ご飯に連れてってくれます。みんなに悩みを話すと、“俺もそう言うことがあったよ”と言ってアドバイスをくれます。偉大な先輩方も同じ道を通ったと思うと、元気をもらえるんです。このまま、負けずに自分らしい道を歩んでいけたらいいなと思っています」

(おわり)

取材・文/吉田可奈
写真/野﨑慧嗣

DISC INFOedhiii boi『edhiii boi is here』

2023年3月22日(水)発売
初回生産限定盤(CD+Blu-rey)/POCS-23912/3,850円(税込)
通常盤(CD)/POCS-23031/2,200円(税込)
BMSG/Virgin Music Label and Artist Services

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