2021年の前作から新作までの間にリベラは、大きな試練を経験した。創設者であり、リベラに無償の愛を注いできたロバート・プライズマンを失ったのだ。新作『絆 FOREVER』は、総指揮官が不在のなかでの制作だったが、彼の後継者となったサム・コーツがその大役を果たしている。日本盤の冒頭を飾る村松崇継の書き下ろしによる「永遠の絆」から始まり、アルバムにはプライズマンが遺した楽曲や卒業生のジョシュア・マディーン作曲の新曲などが収録されている。

リベラの音楽は、ボーイソプラノのピュアヴォイスで織りなすハーモニーに魅力がある。リベラの初期、作品でいうと、「リベラ」と「ルミノーサ」で歌っていたサムも「ハーモニーのパートを歌うのが大好きでした」と言う。そのハーモニーの美しくも、儚さ漂う高揚感がほのかな希望をもたらしてくれる。それが聴き手を優しく浄化してくれるのだ。新作ではそこにポップ感が加わり、楽曲から放たれる色彩も明るく、心軽やかになれる。それが新たな魅力となっている。

そんなリベラが南ロンドンで発足したのは、前身となるグループを含めると1980年代まで遡るようだ。それでも、ボーイソプラノのグループとしては新参の部類だ。ロンドンには先日のチャールズ国王戴冠式の会場となったウェストミンスター寺院をはじめ、格式高い教会にはボーイソプラノの聖歌隊がいる。また、世界にはウィーン少年合唱団のような歴史あるグループもいる。

そのなかで、発足当時のリベラは異質な存在だったように思う。メンバーは、地域の学校から推薦された子供達であり、全国オーディションで選抜されたエリートではない。そんな音楽に関してまっさらな状態の子供達を育成するなかで、プライズマンが重視したのは「子供をクローン化しない」こと。2004年に初めてインタビューした際に、このポリシーにリベラの魅力と同時に将来の可能性が感じられた。

その一方で、ボーイソプラノは、変声期を迎えると、離脱せざるを得ない運命だが、その後の人生の方が長い。その時点で音楽から離れてしまうのか。そのことをプライズマンに聞くと、「低音部の担当としてグループに残ったり、音楽の勉強を深めながら、裏方として制作面で支えてくれる卒業生もいるよ」と教えてくれたのだが、その人こそがサム・コーツなのだ。

「僕は、優秀なソリストではなかったけれど、音楽オタクなところがあって、変声期を迎えた後は、低音のパートを歌い、さらにレコーディングに関わるようになりました。この10年は全アルバムのプロデュース、アレンジに共同で携わり、ツアーにも同行してきました。なので、現在の役割を担うのは自然な流れでした。プライズマンの願いは、リベラの存続でしたので……」

4月に行われた韓国公演を観た日本の担当者によると、コンサートでの指揮からキーボードとピアノの演奏、音楽監督、舞台監督、ミキサーなど全てのポジションがリベラの卒業生で構成されていて、コンサートのクオリティが下がることなどなく、特別なファミリー感と結束力を感じたという。この結束力もプライズマンの功績である。サムも「プライズマンは、未完成の楽曲をいくつも遺していきました。それらを引き継ぎ、完成させた数曲が新作の出発点となりました。作曲家とアレンジャー、さらには再び楽曲を提供してくれた村松崇継さんなど、結束力の強いチームが明確なアイデアを持ち寄り制作したアルバムです」と、チームワークに言及している。

そのうえで、「いつものようにプライズマンがプロデュースしていたら、もう少し違って聴こえるかもしれませんが、でも、きっと彼も満足してくれていると思います」と付け加えた。この「もう少し違って」の部分にチームの若々しい感性と、そこから生み出される明るさ、軽やかさが表れていると思う。

さて、具体的に収録曲に触れていくと、プライズマンが遺した楽曲がM7「トリニティ」、M9「カム・マイ・ウェイ」の2曲。さらに古いレパートリーのM11 「シング・フォー・エヴァー」も、今回新たにレコーディングした。このなかで、プライズマンの心を受け取れるのがやはり「シング・フォー・エヴァー」だ。発足から世界的に有名になるまで、リベラの運営は資金面で大変だったはずだ。初めて日本で会った時の彼は、誤解を恐れずに言うと、彼は地味で質素な印象だった。なぜこれほどまでにリベラに情熱を傾けられるのか。その疑問への素直な答えが「シング・フォー・エヴァー」にあると思う。歌詞にある<ずっと歌い続けましょう、あなたのために>がプライズマンの情熱の根源にあるものだろう。そして、今回サムがあらためて取り上げたのは、「リベラはずっと歌い続けますから」という思いを込めて、プライズマンに捧げたかったからなのではないか。

そして、卒業生であり、今回コ・プロデューサーでもあるジョシュア・マディーンが作曲したのがM6「ライトハウス」とM10「海の導き」。後者の「海の導き」は、プライズマンが遺した多くの楽曲をジョシュが聴くなかで、インスパイアされて作曲したもので、サムは、「リベラのパスティーシュのような1曲」と言うが、その模倣を含めて、歌詞から感じ取れるのは恩師プライズマンへのオマージュだ。そして、「ライトハウス」については「今までにない曲調ですが、エキサイティングな新しい音の世界であり、少年たちにぴったりだと思います」と。この言葉どおりリベラの第2章の幕開けを印象付ける新曲のひとつだ。

ほかにはビーチ・ボーイズをカバーしたM3「神のみぞ知る」やカトリーナ・アンド・ザ・ウェイヴスのカバー、M14「ラヴ・シャイン・ア・ライト」がある。この2曲が意外だったので、聞いてみると、「僕達は、新しいスタイルに挑戦することを恐れていないし、世界中にリベラの歌が届くようになってからはより幅広いジャンルを網羅するようにしてきました。ブライアン・ウィルソンの楽曲は以前にも「Love and Mercy」を取り上げましたが、彼が書くメロディとハーモニーは、リベラにとてもマッチすると思うし、この「神のみぞ知る」は、歌詞が美しく、新たな意味を歌にもたらすことができると思いました。

もう1曲の「ラヴ・シャイン・ア・ライト」は、カトリーナ・アンド・ザ・ウェイヴスが1997年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストで優勝した時の曲で、イギリスにとって特別な存在です。昨夏にフェスで歌うための明るく爽やかな曲を探していた時に、昨年の優勝国ウクライナに代わって、今年イギリスがユーロヴィジョン・ソング・コンテストのホスト国になると知ったので、それもあって歌うことに決めました」と語る。

そして、もう1曲大切な曲がM1「永遠の絆」である。NHK土曜ドラマ「氷壁」の主題歌であり、今回も2023年ヴァージョンとして収録されているM4「彼方の光」を作曲した村松崇継が書き下ろした新曲だ。「村松崇継さんは、最初どんな曲を書こうか迷ったそうですが、でも、リベラとプライズマンのことを思い出すなかで自然に曲が降りてきたそうです。新作の原題は「FOREVER」ですが、日本の担当者が僕達の意図を汲んだ言葉として“絆”を提案してくれました。まさに新作はリベラ、プライズマン、リスナーを結ぶ絆の証であり、僕達の気持ちそのものを反映していると思ったので、“絆”をテーマに「永遠の絆」の歌詞を書き、アルバムの邦題にも“絆”がつくことになりました」

サムはこんな風にタイトルに込められた思いと共に語ってくれた。そして、アルバム全編を通じて感じるのは優れたソリストの存在だ。発足当時は、学校に推薦してもらっていたのが、成功した今では志願者が激増している。そのなかにはイギリスのボーイソプラノのコンテストで1位に輝き、ソロでも活動しているルカ・ブルニョーリもいる。

新作『絆 FOREVER』から始まった第二章、期待が大いに募るなか、10月には4年ぶりの来日公演も予定されている。

(おわり)

取材・文/服部のり子

EVENT INFOリベラ『絆 FOREVER』 来日セレモニー&記者発表会

2023年5月31日(水)都内某所

CD購入者の中から抽選で10名様をご招待。

応募方法:5月17日発売のニューアルバム『絆 FOREVER』の帯裏についている応募券をはがきに添付し「③5月31日セレモニー参加」とご記入ください。
応募締切:2023年5月22日(月)消印有効

LIVE INFOSMFLグループpresents LIBERA Angel Voices Tour 2023 絆~Forever

10月24日(火)フェスティバルホール(大阪)
10月26日(木)KT Zepp Yokohama(横浜)
10月27日(金)LINE CUBE SHIBUYA(東京)

LIVE INFO

MEDIA INFO日比谷音楽祭2023 独占生配信!(U-NEXT)

6月3日(土)祝・日比谷野音100周年 日比谷音楽祭2023
6月4日(日)祝・日比谷野音100周年 日比谷音楽祭2023

DISC INFOリベラ『絆 FOREVER』

2023年5月17日(水)発売
LIBE-0015/3,300円(税込)
Libera Records


関連リンク

一覧へ戻る