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選曲家の声
2019.04.25

『フリー・ソウル』の25周年と街鳴りの音楽

1990年代、日本の音楽シーンにコンピというフォーマットを根づかせ、かねてより“街の音楽を美しくしたい”という理想を掲げていた『フリー・ソウル』プロデューサーにして「C-32 usen for Free Soul」、「D-03 usen for Cafe Apres-midi」の監修・選曲を手がける橋本徹が語る、街鳴りの音楽の25年史。

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「平成という時代を振り返ると、ちょうどCDの時代と重なっていたんだなと強く感じます」。そう語るのは、この春に25周年を迎えるフリー・ソウル・ムーヴメントの立役者である橋本徹だ。彼が自身の音楽仲間たちの間で支持されていたグルーヴィー&メロウなソウル・ミュージック周辺の音楽を、DJパーティーとディスクガイド、そしてコンピCDという三位一体でプレゼンテーションしたのは1994年春のこと。「それまでの日本におけるソウル・ミュージックをめぐる価値観について言うと、例えばスティーヴィー・ワンダーやリロイ・ハトソンといったアーティストが、当時の感覚ではジャズ的なアプローチを用いているといった理由で軽視されていたり、ヴォーカルがディープなことが重要でトータルなサウンド・プロダクションに関する視点が抜けていたり、ということがありました。そこに違和感を感じていたんですね。どちらも僕らの周りの音楽好きや、イギリスやアメリカの音楽ファンの中では当たり前に愛されていた音楽だったので」。

そんな橋本の思いを込めた『フリー・ソウル』は、それまでになかったフレッシュな感覚と自由な価値観を提示し、若い世代を中心として爆発的なヒットを記録した。有名なエピソードとしては、1990年代半ばに“渋谷系”の総本山と言われていたHMV渋谷の邦楽売り場でウィークリーチャート1位を記録――当時は洋楽が邦楽をこえてヒットするのは異例の事態だった――するなど、フリー・ソウルはオリジナル・ラヴやピチカート・ファイヴなどの“渋谷系”アーティストとの共振性を強く持った時代の音となった。フリー・ソウル・コンピレーションは、アーティスト編、レーベル編、地域編、現行の音楽を橋本流のフリー・ソウル的なフィーリングで捉えた「90s」や「2010s Urban」なども含め、シリーズ関連CDがすでに120枚以上を数える。2014年にはUSENの「usen for Free Soul」チャンネルも開設され、こちらも今年5周年を迎える。

時代が昭和から平成、そして令和へと移り変わる30年で、音楽を“聴く”状況は大きく変化した。メディアはレコードからCD、配信へと移行した。パソコンやスマートフォンで音楽を聴く状況が当たり前になり、現在では動画サイトやサブスクリプションの普及により、リスナーがプレイリストを作ったり聴いたりして音楽を楽しむスタイルが一般化している。「終わることのないコンピレーションを個人が作れるし聴けるという感じですよね。でも、その源流をたどれば、ひとつはフリー・ソウルのコンピCDに行き着くのかもしれません」。

橋本が語る通り、フリー・ソウルのコンピレーションは、それまで知られていなかったり、あまり光が当てられていなかったりしたアーティストや楽曲を取り上げることで、リスナーの価値観の刷新や、さらなる探究心の刺激へとつながったという一面がある。テリー・キャリアーにアリス・クラーク、シュギー・オーティスやニック・ドレイクといったアーティストがここまで日本で愛されるようになったのは、フリー・ソウルの功績以外の何者でもない。そして、フリー・ソウルは街で流れる音楽や空間BGMの基準値を上げ、また熱心な音楽マニアのみならず一般的なリスナーのセンスをも鍛えた。それに関しては、橋本も「90年代後半以降、明らかに街の中で流れている音楽のクオリティーが上がりましたよね。空間BGMだけでなく知り合いのクルマに乗せてもらったときにかけてくれる音楽が、曲順も含めて聴き手やシチュエーションのことをよく考えたものになっていたり。そういうことは21世紀に入って飛躍的に増えたと思います」。その結果、「今ではごく普通のコーヒーショップやスーパーマーケットでも、例えばロジャー・ニコルスやケニー・ランキンといった、初期の「usen for Cafe Apres-midi」チャンネルで定番だった曲が流れてますよね。そういう状況は世界でも日本だけだと思うんですよね」。まさしく、街のBGMが無血革命のように様変わりしたのだ。

橋本に「25年にわたってフリー・ソウルが支持されてきた理由とはなんだと思いますか?」と聞いてみた。その答えは「やはり音楽そのものが持っている魅力、これに尽きると思います。フリー・ソウルは音楽的に幅広いのでひとことで定義するのは難しいですが、あえて一般的なイメージも含めて言うならば、ポジティヴで前向きな気持ちになれたりとか、生きる喜びやせつなさを感じさせてくれたりする音楽だと思います。だからこそ多くの人に長年愛され、それぞれの時代に寄り添ってきたんじゃないかな」。さらに、フリー・ソウルとは「ふたり以上のシチュエーションでも、より機能する音楽」だとも。「数多くのコンピレーションを作ってきて、さまざまなスタイルの音楽を提案してきました。その中でフリー・ソウルというのは、ひとりで聴いてももちろん人生を後押ししてくれるんですけど、誰かと共有することによって輝き、そのメロウネスやグルーヴがより意味を増す音楽だということをある時期から意識するようになりました」と言う。「よく海外のアーティストが“マーヴィン・ゲイでも聴いてリラックスしようよ”って、定番的なフレーズとして使いますよね。その言葉に象徴される感覚、音楽が作り出してくれる親密な雰囲気やそれによって繋がれる感じというのが、フリー・ソウルにはあると思います」。

「usen for Free Soul」で流れる楽曲は、そのどれもが街や空間を輝かせ、聴く人の心を潤す魅力を宿している。音楽を耳にした途端、元気づけられたり、その曲にまつわる記憶や感情が鮮やかによみがえるリスナーも多いことだろう。6月5日にはシリーズの最新作となるコンピレーション『Heisei Free Soul』(平成フリー・ソウル)がリリースされる予定だ。平成31年間のそれぞれの年の代表曲を並べ、フリー・ソウルというフィルターを通して振り返るレトロスぺクティヴ企画であるが、そこで選ばれているのは、時代や世代をこえて光を放ち続ける名曲群だ。「僕は選曲をするときに、今聴いて素晴らしいという視点はもちろん、将来のエヴァーグリーンであるだろうというある種の確信を持って選んでいます」と、力強く橋本は語っている。25周年というタイミングでフリー・ソウルと平成という時代が歩んできた時間、その豊かさについて改めて振り返ってみたい、そんな気持ちになるのは僕だけではないだろう。

(おわり)

取材・文/waltzanova
写真/柴田ひろあき





橋本 徹(SUBURBIA)
1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。渋谷の「カフェ・アプレミディ」、「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』、『メロウ・ビーツ』、『アプレミディ』、『ジャズ・シュプリーム』、『音楽のある風景』、『グッド・メロウズ』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは340枚をこえ世界一。USENでは「D-03 usen for Cafe Apres-midi」、「C-32 usen for Free Soul」を監修・選曲。

  NEW!
V.A.『Heisei Free Soul』

2019年6月5日(水)発売予定
2CD/UICZ-1710/1711/2,400円(税別)
ユニバーサルミュージック
V.A.『フリー・ソウル・インプレッションズ』

マーヴィン・ゲイ『フリー・ソウル・クラシック・オブ・マーヴィン・ゲイ』

V.A.『アルティメイト・フリー・ソウル・モータウン』

V.A.『アルティメイト・フリー・ソウル・90s』

V.A.『フリー・ソウル~2010s・アーバン・メロウ』

V.A.『フリー・ソウル~フライト・トゥ・ハワイ』


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