1950年代前半、アメリカ西海岸の都市ロスアンジェルスは朝鮮戦争による軍需景気に沸いていた。そしてロス近郊ハリウッドでは映画産業が勃興し、映画音楽のためのミュージシャンが大勢必要となっていた。好況の西海岸に仕事を求め、全米からジャズマンが集まり、また譜面に強い白人ミュージシャンは映画音楽制作に関わる傍ら、余暇に彼らジャズマンたちとジャム・セッションを行った。

そうした社会状況を背景にして西海岸に興ったのが「ウエスト・コースト・ジャズ」で、特徴としては白人中心のアレンジに意を払った洗練されたスタイルだ。だが、ウエスト・コースト・ジャズに影響を与えたのは白人ミュージシャンばかりではない。1940年代の末、アドリブ中心の熱狂的スタイル、“ビ・バップ”に対する反動から、アンサンブルにも凝った“クール”なスタイルを生み出したマイルス・デイヴィスのアルバム『クールの誕生』(Capitol)のサウンドが、ウエスト・コースト・ジャズにも影響を与えている。

このアルバム『クールの誕生』にサイドマンとして参加している白人のバリトン・サックス奏者、兼アレンジャーであるジェリー・マリガンは、ウエスト・コースト・ジャズを代表するミュージシャンだ。彼が同じく白人トランペッター、チェット・ベイカーと組んだ『ジェリー・マリガン・カルテット』(Pacific Jazz)は、ウエスト・コースト・ジャズの名盤として知られている。

彼らのバンドにはピアニストがおらず、マリガンの巧みなアレンジによって高音域を担当するトランペットと、低音のバリトン・サックスが素晴らしいアンサンブルを生み出している。チェット・ベイカーは歌も歌い、アルバム『チェット・ベイカー・シングス』(Pacific Jazz)に収録された《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》は大ヒットし、チェット・ベイカーは一躍スターとして注目された。

ウエスト・コースト・ジャズのミュージシャンはビッグ・バンド出身者が多く、白人アルト・サックス奏者、アート・ペッパーもスタン・ケントン楽団のメンバーとして活躍した後、独立してスター・プレイヤーとなった。アルバム『サーフ・ライド』(Savoy)は初期のアート・ペッパーの代表作だ。ウエスト・コースト・ジャズの2大プレイヤー、チェット・ベイカーとアート・ペッパーが共演したアルバム『プレイボーイズ』(Pacific Jazz)は、アレンジされたアンサンブル・パートと、それぞれのスター・プレイヤーの個性的ソロが巧みに組み合わせられた名盤として有名である。

バド・シャンクも白人アルト・サックス、フルート奏者で、『バド・シャンク・カルテット』(Pacific Jazz)の《ネイチャー・ボーイ》は名演として知られている。同じく白人ドラマー、シェリー・マンのアルバム『マイ・フェアー・レディ』(Contemporary)に参加している白人ピアニスト、アンドレ・プレヴィンはクラシック・ピアニストとしても一流という珍しいジャズマンだ。ジャズというと黒人ミュージシャンのイメージが強いが、こうした白人ミュージシャンたちの活躍するウエスト・コースト・ジャズの魅力にも触れてみてはいかがだろう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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