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2019.10.16

スピッツ『見っけ』アルバムレビュー――次なる“見っけ”に出会えたとき

スピッツの16thアルバム『見っけ』がリリースされた。本作には、先日最終回を迎えたばかりの連続テレビ小説『なつぞら』主題歌である「優しいあの子」も収められているのだが、そうしたクリティカルな要素を抜きにしても、初期衝動に溢れた素晴らしい作品になっている。音楽ライター/ラジオパーソナリティにして小説家でもある清水浩司によるディスクレビュー。

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スピッツ16作目のオリジナルアルバムが発売になる。

ただし、今回の作品はこれまでのものと比べ、多少変わった聴かれ方をするだろうことが想像される。というのも、ご存知のようにスピッツは今年の4月から放送された連続テレビ小説『なつぞら』の主題歌を担当していた。朝ドラの主題歌といえば、それだけでも世間の話題を集めるものだが、『なつぞら』は“記念すべき100作目の朝ドラ”という勲章まで与えられた作品。その主題歌に抜擢された彼らは当然ながら国民的な注目を浴びることになり、半年間のドラマを彩った「優しいあの子」は改めて“この国にスピッツあり”という事実を日本中に知らしめることになったのだった。

その『なつぞら』の放送終了が9月28日。ニューアルバムの発売日が10月9日……つまり「優しいあの子」も収録したこの『見っけ』は、何度目かの再評価の波に乗って、スピッツの音楽がより多くの人に届けられることが予想される一枚なのである。

では、『見っけ』とはどういう作品なのか?

ここではその内容をわかりやすく説明するため、彼らの別の作品と並べてみたい。前作『醒めない』である。『醒めない』はスピッツにとって原点回帰のアルバムだった。思春期の頃、自らが受けたロック音楽、そしてロックスピリッツの再確認。それはアルバム1曲目に「醒めない」というタイトルトラックが置かれていることにも表れていて、ここで彼らはスピッツらしいバンドサウンドに乗せて<まだまだ醒めない/アタマん中で/ロック大陸の物語が/最初ガーンとなったあのメモリーに/今も温められてる>と歌っている。ティーンの頃の初期衝動がまだまだ“醒めない”今の自分……そうした想いを踏まえ、改めてスピッツの足元を確かめるように作られたのが『醒めない』という作品だったのである。

そこから3年がすぎて発表される新作『見っけ』。ここでも1曲目には「見っけ」というタイトルトラックが置かれ、彼らは一層ラウドに、きらびやかになったバンドサウンドに乗せて、今度はこう歌ってみせる。〈再会へ!消えそうな/道を辿りたい/すぐに準備しよう/人間になんないで/くり返す物語/ついに場外へ〉。バンドのソングライター、草野マサムネの書く歌は基本抽象化され、どのようにでも解釈できる深みがあるが、このフレーズは消えそうになる初期衝動を何度も“見っけ”し、再会する、くり返すロック愛の物語の開幕宣言のようにも受けとることができる。

つまり『醒めない』と『見っけ』は根底の部分で非常によく似ているのである。別の視点から見れば、『見っけ』は『醒めない』の延長線上にあり、その現在形であるとも言える。彼らは今年バンド結成32年でメンバー4人も52歳の年――全員同級生!――であるが、50歳前後のこの時期は自分たちの来し方を振り返り、これまでの活動の意味や理由、自分たちが好きだった音楽について問い直すモードだったのかもしれない。

ということで『見っけ』もまた『醒めない』同様、自分たちの原点を見つめ直すような楽曲が並んでいる。それは聴きようによってはスピッツらしい楽曲が続くようにも感じられるが、彼らにとってこれは“ひと回りしてやはりここに落ち着いた”ということになるのだろう。いかに余計なギミックを加えず、自分たちの身体から素直に出るものを信じられるか、バンドがナチュラルに志向するものを抽出できるか……近年のスピッツはそこに注力しているのであり、本作には五十路すぎのアイデンティティ追求の中で生まれた全12曲が収められている。

冒頭は前述した「見っけ」。ダイナミックなギターを強調した音作りは、やはり本作がロックンロールに関する物語の幕開けであることを示している。続いて「優しいあの子」。ホルンやチューブラーベル(鐘)をさりげなく配したアレンジも気が利いているが、ここは草野の書くメロディの美しさだろう。この学校のチャイムを思わせるメロディは普遍のものとして長く愛されていく気配がある。「ありがとさん」は年齢を重ねたからこそ生まれた、彼らの新しい側面かもしれない。スピッツ流の別れの歌。素直で物悲しい歌詞をサビのコーラスが優しく包み込む。

素直といえばラジオへの愛を率直に歌った「ラジオデイズ」はストレートな楽曲だ。これは昨年から草野がラジオ番組をはじめたことも関連しているのだろうが(TOKYO FM「SPITZ草野マサムネのロック大陸漫遊記」)、未知なる音楽を教えてくれるラジオの存在は彼らにとって“見っけ”の象徴でもあるのだろう。「花と虫」で繰り返し歌われる<終わりのない青さ>には近年のテーマである思春期の自画像が表れており、「ブービー」――後ろから2番目を意味する――、「快速」――この歌のなかでは新幹線や特急に追いつこうと懸命に走る普通電車として描かれる――といった曲名からは“まさにスピッツ!”といった、デビュー時から連綿と続く弱者=小さな生き物への共感のまなざしが感じられる。そこに孤独と反骨心を加えた「はぐれ狼」まで含め、このあたりの楽曲が本作を“スピッツらしいスピッツ”と思わせる要因になっているのかもしれない。

もちろんアルバムには新たなトライアルも散見される。16ビートの「YM71D」(これは“やめないで”と読むのか?)はどこかしら80年代末のトレンディドラマ的なロマンチックさがある。「まがった僕のしっぽ」は組曲構造というか、突然のテンポチェンジと雄大なストーリーテリングに驚かされるが、こちらは古典小説のような浪漫感あふれる味わい。「初夏の日」は初夏のまぶしい光の中で切ない追憶が切り取られる。そしてラストは再びロック感全開の「ヤマブキ」。バシャバシャしたリズムとうなりをあげるギターは冒頭の「見っけ」と符合し、本作をロックンロール・アルバムとして締めくくろうとしているように見える。

『見っけ』に収められたのはそのような楽曲たちだが、本作を聴いて個人的にはひとつ気になることがあった。それは「ありがとさん」、「初夏の日」の2曲が“今はもうそばにいない君”に宛てて歌われているのではないか?ということである。それは解釈によっては鬼籍に入った人たちへの思慕ともとれるが、実はこうした要素は『醒めない』の時点でも漂っていた。「みなと」、そして「雪風」。これらの曲で草野はもうここにはいない誰かに向けて、あてない想いを馳せていたようにも思えるのだ。

こうした要素の背景として、草野は「醒めない」の制作に彼らのアイドルのひとりであるロックスター=デヴィッド・ボウイの死が影響していると話していたが、齢50を超え“死”や“終わり”といったテーマに彼らが敏感になっているのは、まず間違いない。いつまでも続くように思えた音楽の旅もいつか終わりを迎える。ラストシーンに至るまで、はたして自分に何が残せるのか? このバンドは何を伝えることができるのか?……おそらく彼らが現状、自分たちのルーツを探り、自身が得た初期衝動を確かめようとしているのは、こうした想いが根底にあるからである。

スピッツはどこから来て、どこへ向かうのか?スピッツとは一体何者で、どうしてここまで生き延びてこられたのか?……彼らは今、未来を眺め、過去を探り、答えを知ろうとしている。“見っけ”の連続できたこれまでの音楽人生に深く納得し、次なる“見っけ”に出会えたとき、スピッツはまた新たなステージに辿り着くような気がしている。

(おわり)

文/清水浩司





スピッツ『見っけ』
2019年10月9日(水)発売
初回限定盤(SHM-CD+Blu-ray)/UPCH-7518/5,280円(税別)
初回限定盤(SHM-CD+DVD)/UPCH-7519/4,780円(税別)
通常盤(CD)/UPCH-2194/3,000円(税別)
アナログ盤(LP+7inch)/UPJH-9080/3,980円(税別) ※完全受注限定生産盤
デラックスエディション Spitzbergen会員限定盤(SHM-CD+Blu-ray)/PDCJ-1116/8,980円(税別) ※完全受注限定生産盤
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