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「クリスチャン・ディオール」オートクチュール部門のアトリエ責任者、エステル(ナタリー・バイ)は歴代のデザイナーたちが描いたデザイン画を立体化させる仕事に人生のすべてを捧げてきた。
キャリア最後となるコレクションが間近に迫っていたある朝、通勤中のメトロの地下通路でギターを弾く少女、ジャド(リナ・クードリ)に目を留めていた隙にハンドバッグをひったくられてしまう。
ジャドは、「取り返してくる」とエステルにギターを預け、走り去る。

リナ・クードリが演じるジャド
ナタリー・バイが演じるエステル

ひったくった犯人の少女、スアド(ソマヤ・ボークム)は、ジャドとグルで、そのまま逃げてしまう。
途方に暮れたエステルはギターを抱えてアトリエに出勤する。
苦笑が漏れてしまいそうな、なんとも滑稽なシーンだ。

さて、パリ郊外のサン=ドニ地区の団地から市内に窃盗という名の小遣い稼ぎに来たジャドとスアドは、金目の物を売り飛ばすつもりだったが、盗んだエステルのバッグの中には、家宝のネックレスとドレスのデザイン画が入っていた。
ユダヤの五芒星のネックレスに恐れをなしたスアドに説得されて、ジャドは持ち主(エステル)にバッグを返しに行くことにする。

ジャド(左)とスアド(右)

ラグジュアリーブランドが軒を並べるモンテーニュ大通り。
ジャドは自分が暮らす団地とは全く違う独特な雰囲気に気圧されながら、エステルにバッグを渡す。
疲れ切って機嫌の悪いエステルと、罪悪感でピリピリしていたジャドは路上で口論となる。
しかし、エステルは警察に突き出す代わりに、彼女を自分の後継者として育てる決意をした。
あの朝見かけた、ギターを弾くジャドの滑らかな指使いが、繊細なドレスを縫い上げる卓越した技術を受け継ぎ、美しいものを作る指になると感じていたからだ。

カトリーヌを演じるパスカル・アルビロ(右)

翌日から、ジャドは見習いお針子としてアトリエに通うことになった。
幼い頃から鬱病の母を世話するヤングケアラーのジャドにとって、仕事を得て、社会に羽ばたく大きなチャンスだ。
アトリエの次期責任者となるカトリーヌ(パスカル・アルビロ)とは、同じサン=ドニ出身ということもあり意気投合。
貴重な生地を扱う際のルールや道具の扱い方、縫い方の種類を親身になって教えてくれる。
同じ年頃のアデルや専属モデルのグロリアとも、すぐに仲良くなった。
エステルはスポンジのように美と技術を吸収するジャドに、ディオールを支えるお針子の魂と美意識を惜しみなく伝える。
エステルにとって最後となるショーまで、残り1週間。
ところが、朝から大忙しのアトリエにエステルが現れない。
自宅へ駆けつけたジャドは、意識不明で倒れているエステルと、床に転がる大量の薬を発見した。
彼女にいったい何が起きたのか? エステルなしでショーに間に合うのか?

近年日本でも話題となっているヤングケアラー問題、親子の葛藤、都市と郊外の格差社会、「何のために働くのか」といった仕事観や人生観など、様々な問題提起を含みながら、未来に希望を見出せなかった少女が学び成長する様や華々しい職業人生の最後に老いてもなお消えない情熱など人生の悲喜交々を描き出す。
オートクチュールという最高位のラグジュアリーを舞台にしたからこそ、よりクリアに炙り出された社会課題も見える作品へと仕上がっている。

3月25日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ ほか全国公開予定。

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