伊藤啓子(いとう・けいこ)エルーラ ディレクター/マネジャー

新卒から25年以上アパレル業界に携わり、ユニクロ、JINSなどでの勤務を経て、アダストリアに入社。2019年より現職。40~50代向けのレディスブランド「エルーラ」を立ち上げる。

「悩みに効く」サービスとスタッフのキャリアアップ

初のパーソナルスタイリングイベントの場として選んだのは、アトレ恵比寿。

昨年11月に2週間の催事を開催し、大好評を得たことによる。

「こんなブランドを探していたというお客様がたくさん来店し、催事では過去最高の売り上げ」(伊藤啓子ディレクター)となった。

今年は期間限定店の出店を決め、エルーラだからこそ提供できるサービスを思案した。

エルーラの2022年冬キービジュアル。身長・年齢の異なる、社会で自分らしく活躍する3人の女性を起用。前田典子さん(中央)、鳳山えりさん(右)、猪鼻ちひろさん(左)

エルーラのデビューは2019年10月。

アダストリアとしては初めて40~50代を対象としたブランドで、ECと同社の主要ブランド「GLOBALWORK(グローバルワーク)」でのコーナー展開でスタートした。

身体のラインを拾わないデザイン、顔艶を良く見せる素材、首が細く見えるディテールなど、細やかな気配りを反映した商品が、それぞれに悩みを持つ大人女性の共感を得た。

翌年からは直営店を展開。

しかし、まもなく新型コロナウイルスの感染が拡大し、実店舗は厳しさを余儀なくされた。

ECを強化し、ポップアップを積極化する一方、改めて注力したのが「大人の悩みに効く」ブランドに相応しい接客スキルの向上だった。

スタッフ全員がカラー診断やスタイリングを学ぶ一方、昨年からはブランドとして資格取得の支援も始めた。

とくにカラーに関する知識の習得に力を入れ、1年間で正社員スタッフの3割に相当する20人がパーソナルカラリストに合格。

パーソナルスタイリストの資格は2人が取得している。

「それまでは経験と感覚でお客様に似合う服を提案していましたが、資格を取得することで裏付けを持ってお薦めできるようになりました。お客様にとって化粧品のようにカウンセリングを受けて商品を購入することはやはり、体験価値として大切だと実感したんです。"大人の悩みに効く"提案を追求していく中で、オンラインではできないこと、エルーラらしいサービスとして、自然発生的にパーソナルスタイリング診断のイベントが組み立てられていった」と伊藤さん。

イベント化の背景にはもう一つの理由がある。

「エルーラには主要ターゲットと同じ40~50代の販売スタッフが多く、みんな経験豊富です。しかしそのスキルが見える化されていないというか、"20年やっています"といったことを言えるだけなんですね。資格を取ることで何ができる販売員なのかを明確にし、より経験を生かしてキャリアップへの道筋を作りたかった」。

1時間でメインコースの事前予約の全てが埋まる

体験価値の提供とスタッフのキャリアアップ。

この2つを目的として、「大人のためのパーソナルスタイリング診断」が企画された。

期間は10月11~31日。

カウンセリングとスタイリング提案を行う30分のブロンズコース、これにカラー診断を加えた90分のゴールドコース、さらにヘアメイクも付いた120分のプラチナコースからなる。

エルーラはアトレ恵比寿本館5階の期間限定店(9月2日~11月27日)でパーソナルスタイリングを提供し、パーソナルカラーの診断とヘアメイクのアドバイスを4階のイベント会場で行っている。

アトレ恵比寿本館4階、フォンテーヌ広場のイベント会場

カウンセリングとカラー診断は日本カラリスト協会のプロカラリストとエルーラの資格保有スタッフが担い、ヘアとメイクはそれぞれ、アトレ恵比寿が展開する「ピークアブー アヴェダ」「ボーテスタジオケイポート」と協業した。

客はカウンセリングやカラー診断を受けた上で、エルーラの店舗でスタイリング提案を受け、試着を通して似合う服を選んだ後、再び4階でヘアセットやポイントメイクのアドバイス、メイクアップを受ける。

イベントは無料で期間中の平日のみ開催。

ウェブで事前予約を取ったところ、90分・120分コースは1日9組限定だが、予約開始からわずか1時間で全日が埋まる人気となった。

これにより、30分コースは随時受け付けられるようになった。

  • 肌の色みと顔立ちから「似合う色」を導き出すパーソナルカラー診断
  • パーソナルカラーをベースに、ショップでパーソナルスタイリング
  • 自分に合ったヘア&メイクのポイントを教えてもらえる

「幅広い世代のお客様が利用し、普段はどうしても自分が好きな服や似合うと思っている服を着がちなので、自分に合う色を知りたいという声が多いですね。トレンドになっている服でも自分ではチャレンジしにくいので薦めてもらいたいとか。時間内で何回試着してもいいので、日頃は着ない服を着ることができて嬉しいという声もあります。ヘアメイクも、ちょっとしたことだけど気になっていたことを気軽に相談できると喜ばれています」

結果、店舗では「商品の購入は必須ではないのですが、購入していただいています」と言う。

「お客様はファッションに何を求めているのか、何で悩んでいるのかをキャッチアップし、今後の商品企画やサービス、プロモーションなどに反映していきたい」とする。

様々な女性の輝き方が生まれるブランドに

エルーラは現在、ショッピングモールを中心に常設店14店舗、期間限定店3店舗を展開している。

大人女性の悩みに応えることがミッションだけに、通常のアパレル店舗よりも心理面に踏み込んだパーソナル対応が必須となる。

一人ひとりにとっての最適解を導く各店舗のスタッフもパーソナリティー豊かだ。

20~50代と幅広く、スリム、普通、ぽっちゃりなど様々なタイプで構成されている。

「個性を生かしてリアルな提案をしやすいことはエルーラの強み」と言う。

アダストリアが運営するオンラインストア「.st(ドットエスティ)」の人気コンテンツ「スタッフボード」にも各スタッフがお薦めのコーディネートを積極的に投稿することで、客にとって等身大のファッションを提案し、実店舗に誘客している。

  • 「スタッフボード」でのエルーラスタッフによるコーデ紹介
  • エルーラの常設店(写真はテラスモール湘南店)

「スタッフは100人いれば100通りの個性があっていいと思っています。各人がチャレンジしたいことをやっていければいいし、フォローするほうが得意という人はそれでいい。女性の活躍というとマネジメント側に入るというイメージが強いですが、みんなが大谷翔平選手みたいな存在でなくていいんです。様々な女性の輝き方のパターンがエルーラというブランドを通して生まれてきたらいいなと思っています」

その輝き方を支える一つの要素として、パーソナルカラリストやパーソナルスタイリストの資格がある。

現在は20人が各店舗でそのセンスと裏付けを持って接客に当たっている。

「自店でもイベントを開催したい」という声もあり、コロナ禍が落ち着いてきて何か新しいことに取り組みたいというディベロッパーからの開催要望も寄せられていることから、「来春をめどに別の地域での開催を検討中」と言う。

しばらく控えてきた出店にも改めて意欲を見せる。年内には大阪にオープンするららぽーと堺に出店予定だ。

写真/遠藤純、エルーラ提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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