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――インタビュー前編ではアルバムの全体像についてうかがいましたが、後編では楽曲についてうかがたいと思います。まず「ZZ」という楽曲ですが、剣さんならではの遊び心に加え、歌われている内容がすごくポジティブで、個人的にとても気に入ってます。

「ありがとうございます。これはもう本当、歳を重ねるってことを肯定的に描きたかったんですね。クラシックカーのレースとかで堺 正章さんなんかと遊んでいると、ご年配の方ばかりなんですけど(笑)、本当、面白いんですよ。みんな現役感があるし、ちっとも懲りてないし、ヤンチャでチャーミング。要するに、経験を重ねることで、絞られていくどころか増えていく感じがして、すごく楽しいんです。そういう人たちって、イマドキのものにもちゃんと対応してる。僕と堺さんはガラケーなんですけど、ほかのおじいちゃんたちはスマホを駆使してて、“何でガラケー使ってるんだよ”って逆に言われちゃうぐらい。とにかくみんな冴えてるんです」

――歳をとるのが楽しみになるというか、この曲で描かれているようなことが、楽しく生きていくコツなのかなって思いました。

「そうですね。若い人が見たらわからないかもしれないけど、絶対俺らのほうが楽しいよってことを言ってます。まあ、物語の舞台は架空の場所ですけど。LAに引っ越したっていう想定で。僕は日本がいいんですけどね(笑)」

――「883」というタイトルもいろいろと妄想が膨らみます。

「“パパサン”ですね。これはわりと年相応のときめきみたいなものを描いた楽曲で。ここに出てくる女性は、僕の中ではバツ1という想定で、娘さんがいてっていう。で、その娘さんに向かって、“お母さんをお嫁さんにもらっていいかな?”みたいな。娘さんのほうからお母さんを説得してもらうっていう。実はこれ、自分の経験でもあるんですよ。僕が小6と中1の間のときに母親が再婚したんですけど、そのときいまの父親に“君のパパになってもいい?”って言われたんです。それが印象に残ってたんですよね。しかも結構印象が良くて、合格!とか思ったんで(笑)」

――剣さんが横山さんになった瞬間ですね。

「そうそう。横山さんに言われてね。ヨコワケ・ハンサムでいいなって思ったんです(笑)。しかも、カーマニアで、アウトドアライフも好きな人だったので、これはいいファミリーになるなと思って。喜んで!みたいな感じだったんです(笑)。だから、そういうときは直接本人に言うんじゃなくて、娘からアプローチしていくのも大事なんじゃないか?と。娘とか家族がOKしてくれないと、やっぱりなかなか受け入れてはもらえない。っていうのをイメージして。僕個人にそういう恋愛があったわけではないです(笑)」

――楽曲が生まれたきっかけが、まさか剣さん自身の経験だったとは。

「ハーレーダビッドソンにスポーツスター883というモデルがあって。それが通称“パパサン”って呼ばれてるんですよ。で、パパサン……パパさん……いいなって。最初の最初はそれ(笑)。僕がいま乗ってるのは1200なんですけど、スポーツスター系ではあるので、パパサンに惹かれるんですよね」

encore編集部「僕は最初、そっちを想像していまして。先ほどの「ZZ」も、ジェミニのことかな?と」

「さすが!実はそうなんです。僕、ジェミニが大好きなんですよ。ZZとか、イルムシャーとか、いろいろかっこいいのがありますよね」

――ほかにも車やバイクがモチーフになっている楽曲がありますか?

「「Going To A Go-Go」にバラクーダって車が出てきたり、「ぽんこつ」など車やバイクを彷彿とさせる単語はいろいろ出てきますけど、タイトルに具体的な名称が出てくるのは「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」くらいで、ダブルミーニングみたいなものは、「ZZ」と「883」の2曲だけですね」

――車を離れたところでは、「LOCOMOCO」という曲も印象に残りました。小錦、武蔵丸といったハワイ出身の力士の名前が登場するほか、ハワイの楽しいだけじゃない一面にフォーカスされていたりして。

「僕、ハワイだと日系人のいるエリアが結構好きなんですよ。初めて行ったハワイで感じたのが、思った以上にオリエンタルな記号が多いなってことで。ドライブインとかに行くと、ロコモコが丼に入って出てきて、レンゲで食べるっていう。びっくりしましたね。日系人を見て、なんでこんなにいっぱい日本人がいるんだろう?でもみんな英語喋ってるみたいな、すごく不思議な感じがして。この曲では、そのときに感じた空気をそのまま出してみました。悲しい過去があったっていうのも、ちょっと滲ませながら。ハワイは陽光が映えてるだけに、余計に切なく感じるんですよね」

――ここまでは私が個人的に気になった楽曲についてうかがいましたが、逆に剣さんがもっとも気に入っているの曲は?

「やっぱりアルバムのタイトルでもあり、1曲目を飾っている「GOING TO A GO-GO」ですかね。ちょうどMVも出来上がってきて」

――そうなんですか。今回はどんな仕上がりに?

「とくに奇抜なものでなく、メンバー全員で演奏してるってだけなんですけど。俳優さんに出ていただいたこともあったけど、ただ単に演奏してる姿こそ最高なんだなって改めて思いました」

――CKBそのものを見せる、と?

「そうそう。全員出演。僕だけ香港に行って撮影してきたりとかすると、各メンバーのファンから文句言われるんで(笑)。僕は一緒に行きたいのに予算の都合やスケジュールが合わないだけなのに、ボーカルだからって自分だけ目立とうとしてる!とか言われて、冗談じゃないよね。なので、今回のMVで、全員出演するのがいちばんいいっていうのを証明しました(笑)」

――そしてアルバムのテーマは「支離滅裂」とのことですが、これはどの段階で見えてきたものなんですか?

「制作をスタートしたときは、どんなアルバムを作ろうってことより、やっとアルバムが作れるという気持ちが先に出ちゃうんです。先にコンセプトを決めて作ったこともあるんですけど、コンセプトどおりになった試しがないのでそれは止めようってなって(笑)。メンバーとミーティングしても机上の空論というか、スタジオに入るとミーティング以上の音が出ちゃったりするので。それに勝るものはないですから。そうやっていくうちに、毎回レコーディングの途中でコンセプトが見えてきます。これが今回は“支離滅裂”だった。それから“24時間営業”」

――24時間営業?

「24時間営業で生きるっていう。というのも、ハワイでよく行く焼き肉屋が24時間営業なんですけど、朝行くと、朝なのに夜が続いてるんです。空気の消し忘れ感というか、不知火とか蜃気楼のように朝まで夜が残ってるんです。で、夜に行ったら行ったで、日中の火照りがそこに燃え残ってる。この感じ、たまらないなあとずーっと思ってて。何て言うんでしょうね……印刷で言うところの、版ずれと同じ。版ずれの色気というか……」

――編集を生業にする私たちにとっては耳が痛い言葉です(笑)。

「すみません(笑)。でも、昔のタイのレコードとかね。そうしたくてしたわけじゃないけど、写真の輪郭がちょっと滲んでる感じとか、色味とかがいいなと思ったり。そういうのがすごいスタイリッシュだなと思っていたら、信藤三雄さんがフリッパーズギターの最初のアルバムでカラーコピーの手法を出してきて。そういう、何か滲んでる感じっていうのが24時間営業にはあるんですね。ずっと動いてるわけだから、どうしても残像が残るんです。その残像みたいなものが、深みになり、味になる。僕らで言うと、新しく刷新したつもりなのに、何か時代の残り香みたいなものが残ると、長くやってるバンドの味になるのかなって。ジェームス・ブラウンとかもそうですけど、ベテランの人が急に新しい音楽スタイルに変えましたって言っても、絶対どこか古くさいところが残ってるじゃないですか。お店でも、看板に古い屋号が日焼けでうっすら残ってるとかね。ピチカート・ファイヴが2人組なのにピチカート・ファイヴだったり、チャンバラトリオも5人なのにトリオだったり。そういう名残みたいなものにグッときちゃうんですよ。24時間っていうのは、そういう感じ。今回のアルバムは、そういうサウンドになったんじゃないかなって」

――まさしく。アルバムを聴いて言葉にできなかった印象を言葉にしていただいた気分です。

「本当ですか(笑)」

――そして、それこそが20年間続けてきたCKBの現在地なんですね。

「そうですね。やっぱり、どこかしら頓珍漢なところがあって。メンバーも11人いて、たとえば、“俺はこう言ったつもりだよ”ってことも、それぞれの捉え方が結構違って、それがおいしいってことがよくあるんです。僕のスーツなんかにしても、昔、韓国でオーダーしたとき、なぜか新宮虎児のデザインと中西圭一くんのデザインが混ざったものが僕のスーツになって上がってきたことがあって、こりゃダメだ!と思ったけど、穿いてみたらすごくかっこよくて、いまだにその型紙を使ってるくらい気に入ったものになってるっていう(笑)。“偶然完全”って「GOING TO A GO-GO」の歌詞にもありますが、そういう偶然に勝るものはないなって思うんですよね。で、その偶然を呼び込むためには、いろいろ現役で稼働してないと。常に動いてるってことが条件になるわけです。ただ、常に動いてると余計なものを拾っちゃったりすることもあって。ときどき断捨離をしないといけないけど、断捨離したはずなのに何か残っちゃってる。それが、さっき言った24時間とか、版ずれだったりするんです」

――なるほど。『GOING TO A GO-GO』というタイトルは、そこからきているんですね。アルバムを作り終えたいま、率直にどんな気持ちですか?

「また先が楽しみになったのもありますし、ちょっと思いやられるのは、ライブをまったく想定せずにスタジオで遊んじゃったので。“ツアー、どうするの?これ!”っていう問題が、まさにいま、あります(笑)」

――3ヵ月に及ぶ全国ツアーやデビュー20周年記念スペシャルライブが予定されていますが(笑)。

「そうなんです(笑)。すでに練習を始めている曲もあって、「GOING TO A GO-GO」は成功しそうですね。で、「そうるとれいん」は……これがちょっと時期尚早だったかなという感じで、一旦引っ込めました。でも、新曲ばかりのツアーっていうのも、どうなのかなと思って。この中から、ライブでこそ映える曲を厳選して。逆にリスニングミュージックとしていい曲というのもあるので、何でもかんでもライブ仕様にすればいいってものでもないと思うんですよね。それに、ライブでは、いままでのアルバムの曲でも絶対に外したくないっていうのがあるんですよ。困ったことに」

――しかも、CKBの場合はそれが大量にありますよね。

「そうそう。少しずつ育ってきて、やっともうすぐ熟成する。ここで止めるわけにはいかないっていうのもあるんです。本当、楽曲の中にはアルバムで完成ではなくて、ライブで完成に至る曲もありますから。『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』に収録されている「空っぽの街角」なんて、いまがいちばんよくてですね……やっとグルーヴが出てきた。なんで20年もかかったんだろう?って思うんですけど(笑)」

――楽曲もエイジングが必要なんですね。

「ああ!いい言葉ですね。エイジング。なれ鮨とかね。ちょっと臭うぞ、みたいな(笑)」

――臭うくらいがおいしかったりもしますし(笑)。

「そうそう。アンチじゃなくて、エイジング。『GOING TO A GO-GO』も、そういうことに肯定的なアルバムですから。それで「ZZ」という曲もできましたし」

――『GOING TO A GO-GO』の楽曲も、20年後、30年後にどう変化しているのか楽しみですね。

「どう響くんでしょうね。でもね、『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』から20年経ちましたけど、いま聴いても、ついこの間の曲って感じしかしないんですよ。むしろ、まだまだ育ってる最中だから、懐かしいという気持ちに至らないんです。じゃあ、その後の10何枚をどうするんだ!?ってくらいやる曲がいっぱいあるっていう。なので、解散するチャンスが絶対にないですよね(笑)」

(おわり)

取材・文/片貝久美子
写真/柴田ひろあき







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