sp_170113_davidbowieis_02_main

特集
2017.01.13
大回顧展『DAVID BOWIE is』とデヴィッド・ボウイの小宇宙

後編「デヴィッド・ボウイが遺した音楽」

デヴィッド・ボウイ特集後編は、前編に引き続きボウイ縁の人物に知遇を得ていたライター/編集者の内田正樹による『DAVID BOWIE is』レビュー、そのレファレンスともなるディスクガイドをお届けする。

<PR>
音楽アプリ「スマホでUSEN」のデヴィッド・ボウイ特集は1月6日スタート
今なら14日間無料――詳細はこちら(配信期間は1月6日から2月3日まで)



ついにデヴィッド・ボウイの大回顧展『DAVID BOWIE is』がスタートした。後編では、本展のレビューとともに、彼の音楽について語ってみたいと思う。

結論から言えば、想像以上に素晴らしい展示だった。

若き日の肖像が、直筆のデッサンや歌詞が、山本寛斎のボディスーツをはじめとする数々のコスチュームがそこにある。“DAVID BOWIE is”の後ろに“HERE”と続けたくなるくらい、まさに彼の肉体以外の全てが“ここ”にあると言っていい空間だった。

とにかくキュレーションが秀逸なのだ。本展はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催された展示の巡回版である。日本開催に際し、キュレーションを務めた同館のヴィクトリア・ブロークスとジェフリー・マーシュが来日して記者会見の場に立った。

この会見で、ヴィクトリアは本編の見どころとして、若き日のボウイについての展示を挙げていた。「広く知られたアイコンとしての衣装もさることながら、まだ世間から認められる以前の彼が、どのようなプロセスを踏んでアーティストとして形成されていったかを知ることができるはず」という彼女の言葉どおり、展示の序盤では、デヴィッド・ロバート・ヘイウッド・ジョーンズが、どんな青年時代を過ごし、どういったプロセスを経てアーティスト“デヴィッド・ボウイ”となっていったのかが紐解かれていく。

特に60~70年代前半についての展示は、ボウイが体験した当時の音楽シーンや世相との関連性にも触れることができる。ボウイがキューブリックの『2001年宇宙の旅』に触発されて制作した『スペイス・オディティ』発表前後のアポロ関連の新聞記事や、後にアップルのスティーブ・ジョブズが「インターネットの前身」と評したサブカルファン垂涎の雑誌「ホール・アース・カタログ」など、当時の世相の一端を包括的に体感できるキュレーションには思わず膝を打った。

ボウイのコアなファンという向きにとっても貴重なアイテムは数知れず。映画化――そもそもはジョージ・オーウェルの小説『1984』に触発され、ミュージカル化を希望していた――の構想があったと語られてきた『ダイアモンドの犬』の絵コンテをはじめ、ベルリン時代のアパートの鍵やコカイン摂取用のスプーン(!)まで、大小さまざまなアイテムが展示されている。

この他にもイラストやデッサン、前編でも触れた三島由紀夫の肖像画などボウイ直筆の品が数多く展示されているのだが、分かっちゃいたけど、この人、絵がウマ過ぎる(笑)。会場で、キュレーターのジェフリーと短い立ち話をする時間に恵まれたのだが、話題がボウイの絵心に及ぶと「でも彼は当時のイギリスの大物ミュージシャンによく見られた傾向とは違っていて、アートスクールの出身ではなかったんだよね。その点も非常に興味深いんだ」と語っていた。

そして物書きのはしくれとして、直筆原稿の文字にはやはりグッとさせられた。「ジギー・スターダスト」、「スターマン」など、かの名盤名曲のどこをどう直し、書き換えていたのか。筆致を目で追うだけで時間がどんどん過ぎて行く。ビート文学の影響や、カットアップ・メソッドを発展させたプログラムの構築など、新たなソングライティングへの飽くなき実験を繰り返していた様子もまた興味深い。

多くの来場者にとってキャッチーなのはやはりコスチュームだろう。ジギーが、シン・ホワイト・デュークがそこにいるのだ。山本寛斎やアレキサンダー・マックイーンなど稀代のファッションデザイナー達の手掛けた作品の数々は圧巻の造形美である。ちなみにジェフリーは「ボウイのウエストが26.5インチとあまりに細くて、展示用のトルソ(マネキン)の準備に苦労した」と語っていた。26.5インチってつまり67センチ !?

筆者は過去に一度だけボウイに会ったことがある。取材で、と言いたいところだが、96年にフィレンツェで行われたビエンナーレにヨウジ・ヤマモトの取材クルーとして帯同した際、隣のブースで偶然にもボウイがインスタレーションを展示していたのだ。モデルにして細君のイマンと共に会場を訪れたボウイを見つけた私は、ボウイに駆け寄りサインをねだってしまった(苦笑)。すぐさま二人の屈強なSPに遮られたのだが、何とボウイ自身がそれを制止して、快くサインをしてくれたのだった。今回、展示で彼のサインを見つけて、間違いなく自分が所有しているそれと同じだと確認できて、それもまた嬉しい収穫だった。

さて、そろそろ音楽の話題に触れなくては。『DAVID BOWIE is』を鑑賞するにあたって聴いておくべきアルバムや楽曲とは? コアなファンには釈迦に説法だろうから、ここはあえて初心者~中級リスナーを対象に語ってみるが、この展示、ぶっちゃけてしまえば全アルバムを網羅せずとも十分に楽しめる。

そりゃ全作制覇が理想だけれど、たとえば昨年11月にワーナーからリリースされた2枚組オールタイムベスト『レガシー~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ』でも十分フォローできると思う。とは言え一応さらっていくと、アルバム単位で言えば初期の『スペイス・オディティ』、『ジギー・スターダスト』、あとは本展のキービジュアルになっている稲妻メイクのジャケ写で知られる『アラジン・セイン』、『ダイアモンドの犬』にジョン・レノンとレコーディングした「フェイム」収録の『ヤング・アメリカンズ』あたりまでは押さえておくといい。

あとはブライアン・イーノが参加したベルリン三部作とその背景(薬物との決別~ベルリン滞在時代)は押さえておきたい。アルバムで言えば『ロウ』、『ヒーローズ』、『ロジャー』。80年代は『スケアリー・モンスターズ』と何と言っても『レッツ・ダンス』。90年代は展示とリンクするという意味では『アウトサイド』とユニオンジャック・コートの後ろ姿がクールな『アースリング』ということになるか。

さらに、ボウイの盟友イギー・ポップ関連の展示もあるので、イギーのアルバム『イディオット』を。さらに日本独自企画として、映画『戦場のメリークリスマス』でボウイと共演した北野 武と坂本龍一のインタビュー映像が流れているので、同作を観つつ、坂本の「メリー・クリスマス ミスターローレンス」を聴いておくと感慨もひとしお。

ただ、前編でも少し触れたが尚も誤解を恐れずに言えば、例えば『レッツ・ダンス』か『スターマン』などの代表曲を一曲だけ知っていて、それを良い曲だなあ、好きな曲だなあと思える人ならそれでもう十分だと思うのだ。なぜなら、この回顧展自体がボウイの立体聖典であると同時に、どんなベスト盤よりもボウイのベスト盤的な機能を果たしているからである。

もっと言うと、往年のファンはもとより、個人的には美大や専修学校に通う、アートやファッションに興味のある若い人にどんどん足を運んでほしいと願う。キュレーターのヴィクトリアが「自分の頭の中に入って自分だけの世界を見つけ、それを追求すること。それが彼の遺したメッセージだと思う」と語っているが、生涯を賭して取り組んだその変幻自在の音楽性とビジュアルのアプローチからは、必ず何らかの収穫があることを約束する。

“DAVID BOWIE is……”。あなたならこのisの後ろにどんな言葉を続けるか? 私の答えはいまのところ“Beautiful”だ。志を貫き、時に悩みながらも、最後まで華麗な姿だけを私たちに見せて去った痩身美麗のスターマン。末期の本当の苦しみを決して見せなかった――ラストアルバム『★』には死を予感させる詞も読み取れるのだが――という意味合いも含めて、Beautifulという言葉が頭をよぎった。

あなたはどうだろうか? 『DAVID BOWIE is』で、ぜひその答えを見つけてほしい。

文/内田正樹



73年のアラジン・セイン・ツアーで着用したストライプスーツ。デザインは山本寛斎

97年リリースの『アースリング』のジャケット・アートワークより

74年『ダイアモンドの犬』のプロモーションフォト

鋤田正義が撮影した『ヒーローズ』のジャケットを思わせるセルフポートレート



『DAVID BOWIE is』デヴィッド・ボウイ大回顧展
開催期間:1月8日(日)~4月9日(日)
※1月9日、3月20日、3月27日、4月3日を除く毎週月曜日は休館
会場:寺田倉庫G1 ビル



デヴィッド・ボウイ/オリジナル・ニューヨーク・キャスト『ラザルス』
発売中/SICP-31020/31021/3,333円(税別)/ソニー ミュージック


デヴィッド・ボウイ『★』
発売中/SICP-30918/2,500円(税別)/ソニー ミュージック


デヴィッド・ボウイ『レガシー~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ』(2CD)
発売中/WPCR-17561/17562/3,000円(税別)/ワーナーミュージック・ジャパン


デヴィッド・ボウイ『レガシー~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ』
発売中/WPCR-17560/2,500円(税別)/ワーナーミュージック・ジャパン


「スマホでUSEN」のデヴィッド・ボウイ特集は1月6日スタート(2月3日まで配信中)



アプリのダウンロードはこちらから

Get it on Google Play
Get it on Google Play