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特集
2017.01.06
大回顧展『DAVID BOWIE is』とデヴィッド・ボウイの小宇宙

前編「デヴィッド・ボウイ周辺のカルチャーと日本」

今なお多くのアーティストやクリエイターに影響を与えているデヴィッド・ボウイ。彼を取り巻くカルチャーと日本との関係について、ボウイ縁の人物に知遇を得ていたライター/編集者の内田正樹氏に語ってもらった。

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まず今回の前編では、大回顧展『DAVID BOWIE is』の展示とリンクする形で、デヴィッド・ボウイを取り巻く周辺のカルチャーと日本との関係に絞って語ろうと思う。

まずは「HOW TO READ LIKE BOWIE – DAVID BOWIE’S TOP 100 BOOKS」というリストを紹介したい。文字どおりボウイの愛読書100冊のリストである。これを編んだのはヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のヴィクトリア・ブロークスとジェフリー・マーシュ。両氏はともに『DAVID BOWIE is』のキュレーターである。

2000年代には10年ほどの沈黙があったものの、音楽を軸にクロスカルチャーを体現するように駆け抜けてきたボウイの69年間の生涯は、様々なアーティストと表現フォーマットとの邂逅で彩られてきた。だからこそ、コアなファンではない向きにとって、そのルーツを捉えようとする行為は難しいのかもしれない。

そこでこのリストである。コミックや雑誌、学術書やSF、史実ものに評論集と、そのセレクトはやはり多岐に渡る。日本の読書家に馴染みのありそうな作品を抜き出してみると、かつてアボリジニが辿った道を旅したブルース・チャトウィンの『ソングライン』、ニューヨーク派の詩人、フランク・オハラの詩選集、ケルアックの『路上』、カポーティの『冷血』、ナボコフの『ロリータ』、フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』、アンソニー・バージェスの『時計じかけのオレンジ』といったマスターピースが並ぶ。

そしてこのリストには一冊だけ日本人の作品が記されている。三島由紀夫が1963年に発表した長編小説「午後の曳航」だ。親日家としても知られるボウイは、いくつものインタビューでフェイバリットのひとりに三島の名を挙げている。ボウイが70年代に描いた三島の肖像画も存在している。数ある三島の長編のなかでも少年の残酷性を描いた『午後の曳航』が選ばれているのは、本稿の趣旨とはまた別の観点からも興味をそそるが、ともかく彼のルーツに日本文化が大きな影響を与えているという、ファンならずとも広く知られた事実の一端を、あらためて確認することができる。

ボウイが日本文化に興味を持ったきっかけのひとつは、60年代に師事していた舞踏家のリンゼイ・ケンプからの影響だったと言われている。ケンプに学んだパントマイムは、後のステージにおけるパフォーマンスや演技において活きてくるわけだが、『地獄門』(1953年)で知られる衣笠貞之助の無声映画に影響を受けていたケンプは、この頃、ボウイに武満 徹を薦め、共に能や歌舞伎を研究していたという。ボウイは1973年の初来日時には歌舞伎の公演に通い、五代目坂東玉三郎に女形の化粧を教わっている。また、彼が京都をよく訪れていたことも広く知られている。

ロンドンのセレクトショップで見つけたジャンプスーツをきっかけに、ボウイは『ジギー・スターダスト』(1972年)から『アラジン・セイン』(1973年)にかけて、ステージで山本寛斎の衣装を着用した。漢字で”出火吐暴威”と描かれたマントや、刺青や浮世絵を想起させるボディスーツを纏い、歌舞伎の引抜を応用した衣装の早替えにチャレンジするなど東洋と西洋の邂逅をいち早く体現した人物だった。

自ら衣装をディレクションして、さまざまなデザイナーのコスチュームを身に纏ったボウイは、寛斎の他にも数々の有名デザイナーの衣装を着用した。1997年の『アースリング』のジャケット写真に見られるユニオンジャック柄のコートは、故アレキサンダー・マックイーンが手掛けた。フォトセッションを共にしたポール・スミスは、昨年日本で開催された自身の回顧展においてボウイの追悼コーナーを設けていた。ディオール・オムを率いたエディ・スリマンのコスチュームをツアーで披露したこともあった。グッチのデザイナーを務めたフリーダ・ジャンニーニもボウイからの影響を公言している。

奇抜な衣装のみならず、スーツ姿も披露したボウイ。80年代のダブルのスーツは時代を反映していたルックであった。ジョルジオ・アルマーニにスペンサー・ハート。笑顔とハットが印象的だったジミー・キング撮影による生前最後の公式写真ではトム・ブラウンのスーツを着用していた。エキセントリックなファッションとダンディな佇まいが絶妙に同居していたのも、ボウイの大きな魅力のひとつだった。そしてファッションとは決して消費財ではなく、アイデンティティを映し出す装置であり、カルチャーであることを示してくれた存在でもあった。

そうした彼の姿を数々のフォトグラファーが写真に収めてきた。ブライアン・ダフィー、デヴィッド・ベイリー、ジュスタン・デ・ヴィルヌーヴ、ミック・ロック、テリー・オニール、マーカス・クリンコなど錚々たる大御所はもちろんだが、やはり鋤田正義を外して語ることはできない。およそ40年以上に渡ってボウイを撮り続けた鋤田とボウイの関係性を象徴するのが、77年の来日時に、スタイリスト・高橋靖子のアシストによって撮影された『ヒーローズ』(1977年)とそのアートワークをアレンジした『ザ・ネクスト・デイ』 (2013年)のジャケットデザインだ。

筆者は昨年、雑誌「SWITCH」の企画で鋤田に話を聞く機会に恵まれた。その際、とりわけ興味深かったのは、当時の鋤田が効率と集中を重視してスタジオ撮影にこだわった結果、その写真が、ミック・ロックに代表される当時主流だった屋外撮影によるロック写真のオルタナティヴとなり、時代に左右されない永年性を獲得したという話だった。さらに驚いたのは、あまり英語を話せなかった鋤田とボウイの信頼が、ほとんど感性の共鳴だけで築かれていたという事実だった。時代を超える写真の背景にあったのは、言葉を超えた信頼だったのだ。

アートのコレクターでもあり、自身も絵画を描き、立体作品も創作しているボウイは、71年にニューヨークのファクトリーへ、アンディ・ウォーホルを訪ねている。もちろん、後年、映画『バスキア』(1996年)でウォーホル役を演じるとは知る由もなかったであろう。俳優として数々の映画に出演してきたボウイだが、日本では83年に公開された大島 渚監督の『戦場のメリークリスマス』が有名だ。大回顧展『DAVID BOWIE is』では、日本独自のコンテンツとして、同作で共演した北野 武と坂本龍一の撮り下ろしインタビュー映像も上映される。世界のキタノとサカモトからどんな話が聞けるのかは、ぜひ会場で確かめてほしい。

かつて筆者が大島にインタビューした際、「なぜ予想もつかないキャスティングを決めるのか」と問うたところ「じゃあ君はなぜだと思う?」と逆に問われ、答えに窮したことがあった。大島は「難しいだろ? そのぐらい繊細で難しい問題なんだよ」と声を荒げた。筆者はその時の原稿の書き出しに「大島渚とは美と義の人である」と書いた。すると後日、スタッフを経由して「合格です」という伝言が監督から届いたのだった。

この「美と義の人」という形容は、大島をボウイと置き換えても有効だろう。ボウイと大島は、確実に美と義の魂で結ばれていた表現者だった。人とは違ってもそれを貫くことが美学であり、自分が正しいと思うやり方を曲げないことが義である。多くの人が知るように、彼らはそれに極めて忠実だった。もっと言えば、これはボウイと寛斎、ボウイと鋤田にも当てはまる形容だと思う。揺るぎない美学が根幹にあったからこそ、いつの時代にも、どんな表現でも、ひときわ輝くセンスを発揮することができたのだ。

たったひとりの人間が内包する世界の、この小宇宙にも似た奥行きと可能性はどうだ。敢えて音楽的な足跡を省いても、まだまだ書き足りていないことが山ほどある。デヴィッド・ボウイという表現者の魅力とその真髄に、あらためて敬服するばかりである。ボウイのファンはもちろん、「スターマン」や「レッツ・ダンス」くらいしか聴いたことのないリスナーも、本稿に登場した作品や人物の名称にひとつでもピンときたならば、大回顧展『DAVID BOWIE is』はあなたにとって間違いなく楽しめる展覧会であることを約束する。

――“DAVID BOWIE is……”。さて、あなたならこのisの後ろにどんな言葉を続けるだろうか?

後編では『DAVID BOWIE is』のレビューとともに、彼の音楽について語ってみたいと思う。

(つづく)

文/内田正樹


後編は1月13日(金)公開予定です。お楽しみに!





『DAVID BOWIE is』デヴィッド・ボウイ大回顧展
開催期間:1月8日(日)~4月9日(日)
※1月9日、3月20日、3月27日、4月3日を除く毎週月曜日は休館
会場:寺田倉庫G1 ビル



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