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特集
2015.09.18
『70年代シティ・ポップ・クロニクル』をめぐって

“あの頃の夢の結晶”~シュガー・ベイブ

“『SONGS』は僕らにとってマスターピース”――萩原さんはシュガー・ベイブについてそう話してくれました。そして同時に、ある種の“喪失感”も感じていたと。その喪失感とは? 今回も聞き手は田家秀樹さんです。音声版とともにお楽しみください!

“あの頃の夢の結晶”~シュガー・ベイブ

萩原健太著『70年代シティ・ポップ・クロニクル』は、洋楽好きだった彼が10代で衝撃を受けた日本のアルバム15枚が中心になっている。71年のはっぴいえんど『風街ろまん』から、78年のサザンオールスターズ『熱い胸騒ぎ』までの15枚。南佳孝『摩天楼のヒロイン』、吉田美奈子『扉の冬』、久保田麻琴『久保田麻琴II~サンセット・ギャング』には、にんまりする人も多いだろう。南佳孝と吉田美奈子は、はっぴいえんど解散コンサートに登場していた。

「やっぱり、あの解散コンサートでの衝撃が大きくて。吉田美奈子さんにしても、南佳孝さんにしても、ジャンルのよくわからない音楽じゃないですか。あれにはドキドキしたんですよね。その頃、ニルソンとかジム・クウェスキンとか聴いていて……ノスタルジーものなんですけど、でも“ノスタルジー”って言っても、知らないものに対する郷愁なんです。行ったこともないのに、アメリカの1920年代の音楽を“懐かしい”って、おかしいじゃないですか。記憶とは違う。そこに懐かしさがあるとしたら、絶対的な何かがあるわけでしょ。それが不思議でしょうかなかった。そのころ、ジミー・ロジャースとか、1920~30年代のミュージシャンの7枚組のハコ買ったりしてね。それが活きて、はっぴいえんどの〈空色のくれよん〉とか “これなんだ!”とわかるんですけどね。
日本でもそうです。落語とかやけに聴いていたし、美空ひばりさんもものすごく聴いてた。いったいどこが気持ちいいのか、どこが安らぐのか。73年ごろ、高校生の時にそんなことを考えてたんで、はっぴいえんどの解散コンサートではやけにそのことが気になりました」

音楽の中のノスタルジーとは何か。それこそが音楽の不思議でもあるのだろう。でも10代の多感さは永遠の課題を直感的に探り当てたりする。それは“原点”ともちょっと違うかもしれない。

「うちなんかは、全然、音楽を聴かない家庭だったんですが……ソノシートでクラシックの全集はありましたね。それくらいで“硬い”レコードは全然なかった。あとは、アニメのレコードを、これもソノシートで買ってもらった覚えはありますね。自分で買ったのは〈霧のカレリア〉が最初かな。それから、訳詞ポップス。弘田三枝子さんが好きで。〈子供ぢゃないの〉って曲の最初に“ウェル 私は~”ってあるじゃないですか。この“ウェル”の発音が無茶苦茶かっこよかった。日本語でこういう発音ってなかなかないでしょ? それが初めて音楽に衝撃を受けた記憶かもしれない」

そうやって選ばれている15枚には大きな流れがある、はっぴいえんどに始まるポップミュージックの系譜。その中で、やや違う印象を持たれるのが74年のサディスティック・ミカ・バンド『黒船』ではないだろうか。

「ミカバンドの『黒船』にするか、矢野顕子さんの『JAPANESE GIRL』にするかで揺れたんです。結局、『JAPANESE GIRL』は細野さんの『泰安洋行』に吸収合併という形で。ただ加藤和彦さんは大きい存在だったので、触れないわけにはいかなかった。加藤さんがテレビで紹介したりしていたものがね、けっこう大きかったので。代表的なものを15枚ピックアップするっていうことだったんで、あまりひとつに固まらないように、とも思ったんですけど」

71年から78年に出た15枚。74年発売が4枚、75年発売が5枚。70年代中期が厚いのも本書の特徴だろう。

「やっぱり、その頃、完成した感じがしますよね……シュガー・ベイブの登場とともに。僕らにとって『SONGS』はマスターピースですからね。大学の生協で買ったんですけど(笑)、大ベストセラーでした。『SONGS』は、みんな持ってました。僕は放送研究会というところにいたんで、音楽の仲間だけじゃなくていろんなヤツがいたんですけど、シュガーベイブは誰の家にもあって。誰の家に泊まりにいっても、シュガー・ベイブは聴ける(笑)。それも“加川 良とシュガー・ベイブを持ってる”とか、不思議な感じで。シュガー・ベイブは、あの頃のある種の夢の結晶みたいなところがあって。それまでの日本の音楽にはなかったような……『SONGS』というアルバムは、歌詞が全体的に暗いでしょ? 喪失感があるというか。時代的に70年安保の後で、全共闘世代は僕は少し後追いでしたけど、75年って、そういう時代じゃないですか。喪失感が全体にあるというか。それが“シラケ”という言葉でざっくり語られることはあったんだけど、ファンキーで、すごく洗練されたサウンドで“喪失感”を、これみよがしにではなく歌うシュガー・ベイブが、ものすごく理想的に感じられたんですよね。“ついにこういう音楽が出てきたんだ”って」

シュガー・ベイブを“喪失感”という言葉で語るのはまさに“同時代”の感覚以外の何物でもない。伝説以前の新しい音楽を好きになる人には、自分なりのこだわりや根拠がある。単独のアーティストで一番多い数のアルバムが紹介されているのはユーミン。こだわりのポイントはコーラスである。関連作品として掲載されている『OLIVE』の“山下達郎がコーラス参加した最後のユーミン作品”という紹介はその真骨頂だ。

「『MISSLIM』に関しては、コーラスでやられたって感じですからね。“こんなコーラス、これまで日本で聴いたことなかった”って。それは大滝さんのものだろうが、何だろうが、もう全然違うと。ビーチボーイズのコーラスの響き……日本では接したことのない抜けた感じとか、そういう感覚を日本で初めて体験したのが『MISSLIM』でした。そういう聴き方って、変わってると言えば、変わってるんですけど……でも、すごく楽しかった(笑)」

話の端々に「楽しかった」が登場する。そんなクロニクルの話は来週が最終回ということになる。
(つづく)

シュガー・ベイブ『SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-』
シュガー・ベイブ
『SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-』
2015年8月5日(水)発売
WPCL-12160/1
ワーナーミュージック・ジャパン
2,800円(税別)