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特集
2015.09.04
『70年代シティ・ポップ・クロニクル』をめぐって

“シティ・ポップ”というキーワード

著書『70年代シティ・ポップ・クロニクル』を去る8月に発売した萩原健太さんを迎え、9月の特集は、ここ一年ほど、音楽ファンなら時おり耳にするであろう70年代“シティ・ポップ”をテーマにお送りします。聞き手は田家秀樹さん。音声版とともにお楽しみください。

手探りで新しい音楽を求めていた時代の記録

この十数年だろうか、強迫観念のように取り付かれている思いがある。それは”音楽の語り方”だ。
音楽はもっと多様な語り方があるのではないだろうか。これだけ情報が豊富になり音源の入手が自由になって行く中で、その楽しみ方や聞き方の手助けになる語り方はないのだろうか。過剰になる情報が、逆に音楽の豊かさを薄くしているのではないだろうか――。

そんな中で奮闘しているひとりが評論家の萩原健太氏だろう。83年に書いた『はっぴいえんど伝説』は、聞き手の思い入れや愛情と資料を駆使した客観性が一体になった名著だった。去年書いた『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』は、アルバムを1枚ごとに取り上げて論評、マニアックに神格化されがちなディランに真正面から取り組んだ一大労作だった。

そして、彼が書いた新作『70年代シティ・ポップ・クロニクル』が発売になった。
はっぴいえんどの『風街ろまん』に始まり、大瀧詠一、南佳孝、吉田美奈子、シュガー・ベイブ、荒井由実、細野晴臣からサザンオールスターズまでのアルバム15枚を取り上げ、自分の経験談も交えて考察論評、そこから派生する100枚のアルバムも紹介している。

「とりあえず『風街ろまん』から始めるということだけ決めて、そこから10枚選ぼうと思ってたんですけど、収まりきらなくなっちゃって(笑)。12枚というのはどうかというのもあったんですけど、最終的に何を残すかっていうのは僕に任されてたんで。最初はそれだけでいいかなって思ってたんですけど、ただなんとなく、せっかくなんでね、派生して出てくるものもあったし全部合わせて、100になるような感じに。もう本当、最後ぎりぎりになって100枚揃えてはみたんですね。ただ、やっぱりこれ、そういう指摘をしてくださった方もいるんですけど洋楽ファンの本なんですよね。70年代の洋楽ファンが、日本でも洋楽と同じような音楽があればいいのにという思いの中で、探してた音楽の本みたいな感じなんですよね」

“70年代の洋楽ファン”というのが、この本の重要な視点のひとつだろう。まだ洋楽と邦楽には厳然とした差があった時代だ。その中で洋楽の好きな音楽ファンが胸をときめかせた邦楽のアルバム。アーテイストも聴き手も手探りで新しい音楽を求めていた時代の記録。彼は、10代の時に通った渋谷のロック喫茶の話を交えながら話を始めている。いきなりはっぴいえんどの『風街ろまん』ではない。“はっぴいえんど前史”からだ。60年代から70年代の日本のロックがどう動いていたのかも体験としてられている。彼が中学生の時、サム&デイヴの69年の東京公演を見ていたとこの本で初めて知った。

「ほんと、個人的な思い出話でしかないんですけど(笑)。でも、僕がどういう洋楽を聴いていたかというのがあれば分かりやすいんじゃないか。たまたまですけど、70年代っていうのは中学、高校、大学と通っていた時期なんで、こんな人もいたんだなと思ってくれれば(笑)。ざっくりした話なんですけど、音楽って、基本リスナーが作るもんじゃないですか。シーンにしても歴史にしても。その頃の聴き手の勝手な受け止め方と、そこからどうやって音楽が育っていったのかっていうことを、多少でも書き残せればなと思ったんですね。でも、忘れてることは多いです(笑)」

70年代についての本は少なくない。その頃のアルバムのガイドブックもある。ただ、この本はいくつかの点でそれらとは決定的に違っている。そのひとつが“シテイ・ミュージック”というカテゴリーだろう。80年代のAORの流れで語られることの多い音楽を“70年代”という時代のキーワードとして使ったことがある。

「それは編集者の方から出てきた言葉なんですね。僕は当時はあんまりシティ・ポップっていうふうには思ってなかったんですが、今、70年代のあの辺の音をシティ・ポップというらしいと。まあ、CEROみたいな人たちが気にしてる音楽に70年代の音楽が多くて、それをシティ・ポップと呼んでるようだということで、タイトルとかはお任せというか。だから僕、本の中で、シティ・ポップという言葉は使ってないと思うんですよ。とは言っても、はっぴいえんどのベスト盤が“CITY”というタイトルだったりとか、“風都市”という彼らの事務所があったりとか、もちろん“風街”でもいいんですけど、やっぱり、街とか都市とかっていうのが、大きなキーワードにはなってたんだろうな、と。自分は浜野サトルさんにも大きな影響を受けてますから。『都市音楽ノート』というあの本が大好きだったんで、都市音楽という言葉がすごく頭の中にあったのは確かですね」

今の音楽ファンにとってのキーワードが、彼の中の都市音楽と重なり合った。どんなアルバムがどんな視点で選ばれているかについては来週のお楽しみだ。
(つづく)

【プロフィール】
萩原健太(はぎわら・けんた)
早稲田大学卒業後、早川書房に入社。退社後フリーとして、執筆、テレビ出演を通して音楽評論活動を行っている。米米クラブ、山崎まさよし等の音楽プロデュースも手がける。著書に『はっぴいえんど伝説』(シンコー・ミュージック)、『ロック・ギタリスト伝説』(アスキー・メディアワークス)、『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』(Pヴァイン)、『萩原健太のポップス・スクラップブック』(主婦の友社)などがある。

田家秀樹(たけ・ひでき)
1969年にタウン誌のはしりとなった『新宿プレイマップ』の創刊編集者。雑誌、ラジオなどを通じて、日本のロック/ポップスをその創世記から見続けている。『夢の絆/GLAY2001ー2002ドキュメント』、『オン・ザ・ロード・アゲイン/ 浜田省吾ツアーの241日』(以上角川書店)、『豊かなる日々/吉田拓郎・奇跡の復活』(ぴあ)など、著書多数。

(左)田家秀樹氏、(右)萩原健太氏

(左)田家秀樹氏、(右)萩原健太氏