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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



長らくパリのランウェイを席巻したストリートのムーブメントが沈静化して以降、ここ2シーズンは様々なトレンドの芽が混在し、大きなトレンドが不在だった。前シーズンはテーラードが本格的に復権したが、今シーズンはその流れがさらに加速。ストリート時代とは正反対の気障で着飾ったエレガントなスタイルが台頭し、ひとつの大きな流れになりそうだ。

その筆頭的存在が「ディオール」。一昨年に急逝したロンドンの伝説的なスタイリスト、ジュディ・ブレイムにオマージュを捧げたコレクションは、これまでキム・ジョーンズが生み出してきた数々の作品の中でも圧倒的にエレガントだ。ジャケットやコートの袖を肘までまくり、ビジューやパールで飾ったロンググローブを露出。コートのインナーにはロングシャツを女性のワンピースのように合わせ、ブルゾンやコートの胸元にはスカーフをコサージュのように飾る。久しくパリのランウェイで見ていなかった気障でダンディーなスタイルは、とびっきり新鮮だ。「ステューシー」と「ジョーダンブランド」と協業したストリート感あふれるプレフォール2020メンズコレクションとのギャップは凄まじく、キムの感性の振り幅の広さを改めて感じた。

ディオール


Photo By BRETT LLOYD FOR DIOR



エレガンスといえば、「エルメス」も外せない。Radical(急進的)をキーワードに据えた今シーズンは、最上級の素材と品格という軸はそのままに、デザイン性の強いアイテムを増やしている。その象徴が、左前身頃が二重になったテーラードスーツとコート。エルメスにしては冒険的なアプローチだと思うが、素材と仕立てが洗練されているだけに違和感なく馴染んでいる。素肌にジャケット(つまりVゾーンは裸)のスタイリングで、品良く見えるのは流石というほかない。

エルメス
Photo By Filippo Fior



「ルイ・ヴィトン」「オフ-ホワイト」を手掛けるヴァージル・アブローも、ストリートからテーラードに軸を移した。ルイ・ヴィトンでは、ビジネススーツに近いプレーンなスーツを見せた一方で、ラペルや袖元をフリルで飾った装飾的なスーツを提案。1930~40年代に流行したスペードソール(ソールの形がスペード形になっている)を連想させるシェイプのレザーシューズも、ドレスアップの気分を巧みに演出している。オフ-ホワイトで見せたのは、片方のラペルがまるでネズミに齧られたような遊び心に溢れたスーツ。身頃には穴も開いている。といっても、仕立てや素材は上質で、ラインは体に沿ったジャストフィット。十八番のオーバーサイズは封印している。

ルイ・ヴィトン
Photo By Ludwig Bonnet /Louis Vuitton

オフ-ホワイト



「ドリス ヴァン ノッテン」の今シーズンの着想源は、ニューヨーク・ドールズやストゥージズ、ラモーンズなどの1980年代初めの前衛的なパンク。いつものドリスの品のある世界観と、どこか妖艶でパンキッシュな要素を融合させている。特筆すべきは、サステイナブル一辺倒のこの時期にファーの魅力を改めて訴求したこと。狐の頭と尻尾が残ったフォックスファーは、もちろんフェイクだが、何か得体の知れないパワーを秘めていた。誰もがそういうものを嫌悪する時代に、あえて見せる。「この姿勢こそがパンクだ!」と膝を打った。

ドリス ヴァン ノッテン



若手でもっともドレス寄りのコレクションを披露したのは、パリの新星「カサブランカ」。富裕層が休暇を過ごすイタリア・コモ湖のライフスタイルに感化されたコレクションは、エレガントで力強く、どこか往年の「フレンチ・フィルム・ノワール」(フランスのギャング映画)の匂いがする。ブリティッシュテイストのスーツやピンクのシャネル風スーツ、シグネーチャーのシルクシャツのクオリティーも上々で、パリでの注目度もウナギのぼり。ラストにはスキーウェアも登場した。

カサブランカ



ドリス ヴァン ノッテンのプレスリリースには「ルールを気にすることなく、着飾ることに誇りを持ち、思うままに楽しむ」と書かれている。服好きを鼓舞するような嬉しい言葉だが、いくらテーラードを主体としたエレガントなスタイルが台頭しようと、一度ラクな方向に触れた世の流れを変えるのは容易ではないだろう。デザイナーはもちろん、それを取り扱うセレクトショップの提案力も問われるシーズンになるのではないだろうか。

(おわり)

取材・文/増田海治郎
増田海治郎(ますだ かいじろう) ファッションジャーナリスト。雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める“デフィレ中毒”で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。著書に『渋カジが、わたしを作った。』(講談社)がある。



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