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2017.08.23

桑田佳祐『がらくた』アルバムレビュー――片仮名や英語に逃げない日本語のポップス

前作『MUSICMAN』以来6年ぶりとなる桑田佳祐のニューアルバム『がらくた』。言うまでもなく、サザンオールスターズのフロントマンでもある桑田が、ソロ活動30年を経て新たに産み落とした小品たちは、果たして彼自身のニュースタンダードたり得るのか?ライター/エディターの内田正樹によるアルバムレビューをお届けします。

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『がらくた』は、今年ソロデビュー30周年を迎えた桑田佳祐がリリースする6年ぶりの新作である。タイトルは、ありとあらゆる要素が無作為に交錯する現代社会の見立てから名付けたものであり、自身のオフィシャルサイトにおけるインタビューでは「ポール・マッカートニーの「junk」という曲の存在が頭の片隅にあったのかもしれない」とも語っている。

1曲目は「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」。マジカルなバンドサウンドとノリの良いボーカルに気持ちが踊るロックンロールだ。若手の人気バンド、ONE OK ROCKをイジり、かつ羨みつつ、名を馳せたポップスターがかつての栄光を憂うという、自らのキャリアと年齢を逆手にとったようなシニカルな歌詞も痛快だ。

「何らかの精神性を突き詰めるような作りではなく、ガチャガチャみたいに何が出て来るのか、どんな科学反応が起こるのかを楽しんでみたいと思った」

肩の力を抜いた小品の詰まったアルバムを目指し、桑田は今回、これまでもレコーディングやライブを共にしてきたキーボーディストの片山敦夫、エンジニアの中山佳敬、そしてプログラマー/マニュピレーターの角谷仁宣と4人でユニットを組んでスタジオに入った。なかでも片山は全15曲中11曲で共同編曲者として桑田とクレジットを連ねている。

「「ヨシ子さん」のアレンジも片山君の功績でした。特に彼とは一度がっつりと組んでみたかった。昔の邦画の趣味とか、僕より歳下なのにカルチャー的な老け方が僕と似ていてね(笑)」

バンドではなくユニットという点は『がらくた』を紐解く上で重要だ。つまりギターやベースといった竿物の醍醐味で引っ張るロックバンド然としたセオリーによるアプローチではなく、キーボード主体でマニピュレーターをも駆使し、自由な発想で音を放り込んでいくようなレコーディングが行われたのである。

だからたとえば、前述の1曲目からはリトル・リチャードやジェリー・リー・ルイスに代表されるピアノが主体となってアレンジを構築したようなロックンロールの構造や、ビートルズやビーチ・ボーイズを想起させるアレンジの構成とサウンドマジックが感じられる。

そうかと思えば、NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」主題歌の「若い広場」には、藤山一郎の「東京ラプソディ」や坂本 九の「明日があるさ」のような、歌謡曲という言葉が定着する以前に愛されたかつての流行歌を彷彿とさせる、皆で歌いたくなるような親しみやすさがあるし、「Yin Yang(イヤン)」は、70年代の和製R&Bのようなパンチの効いたアレンジがこの上なく痛快な一曲である。

「愛のプレリュード」と「オアシスと果樹園」にはハワイを想起させる南国の風が吹き、往年の歌謡曲よろしく哀愁のサビが切ない「大河の一滴」、歌謡とファンクのミラクルな融合で酔わせる「愛のささくれ~Nobody loves me」からは街の喧騒が聴こえてくる。

「百万本の赤い薔薇」と「あなたの夢を見ています」からは愛しき人へのピュアな想いが溢れ、「君への手紙」はかけがえのない人々への敬愛と惜別の念が胸を打つ。無論、「ヨシ子さん」然り、SNS社会を風刺した「サイテーのワル」という曲の存在が物語っているとおり、2ndアルバム『孤独の太陽』やライブの定番曲「ROCK AND ROLL HERO」同様、彼一流のジャーナリスティックな視点も健在だ。

「僕は歌い手だけど、歌詞を書く時はどこか作家や脚本家という職業への憧れが顔を出す。言わばその昔、ジョン・レノンがチャック・ベリーになりきろうとしていたような物真似ですね。上手くなりきれた時はすごく快感なんです。そんな曲を今回は産み落とせた気がします」

特筆すべきは、道ならぬロマンスを描いた「簪 / かんざし」と、人生への慈しみが込められた「ほととぎす[杜鵑草]」だ。ここにあらためて書き連ねるまでもなく数多の名曲を生み出してきた桑田だが、実は――特に日本語の――歌詞に愛着とこだわりをもって接し始めたのは近年になってからだという。片仮名をほぼ用いることなく歌詞が書かれたこの2曲の筆致は、そんな近年の桑田のこだわりが辿り着いた到達点であると感じさせられた。

「片仮名や英語だけじゃ折り合いのつかない想いが僕の中で増えた。日本語のポップスには片仮名や英語に逃げちゃいけない局面があると思うようにもなりました」

61歳の桑田だからこそ、書けて、歌えた。そんな15の掌編が詰まった大人のポップアルバムは、島 健による弦楽アレンジが美しい「春まだ遠く」で幕を閉じる。

「僕にもまだ歌っていない言葉やテーマがあったと気付かされた。メロディーを優先していた自分が、ようやく作詞、作曲、歌唱のひとり三権分立を心から楽しめるようになってきました」

サザンオールスターズの一員として、文化祭のヒーローみたいなノンポリシーの象徴としてデビューした桑田も61歳になった。自身が憧れてきたポールやエリック・クラプトン、植木 等や加山雄三といったアイコンたちのエッセンスが和洋折衷で奇跡的にブレンドされ、他の誰にも似ていない巷の人気者=ポップスターへと昇華したその姿と音楽は、またしても多くのリスナーに元気と勇気をもたらすだろう。しかも決して短くないそのキャリアの中で、いままたこの『がらくた』で、どこか懐かしくもやはり新しいという、言わば自身のニュースタンダードを確立させたのだ。つくづく破格の存在だと思う。

「音楽業界も芸能界も政界も、油断していると裏まで引っ剥がされてしまうようなご時世だから、何だかみんなビクビクしている。それじゃあ若い人は大人に夢を見ない。それは寂しいじゃないですか。別に正しかるべきじゃなくていい。だから時には「ヨシ子さん」で歌番組を賑やかしてみたくもなる。僕は音楽しかできないから、せめて自分が昔から聴いてきた素晴らしい音楽を、自分なりに新しく整え歌うことで、僭越ながらいまのリスナーに向けて多少は面白く伝えられるんじゃないかと試してみたくなるんです。そこには新しい発見があるし、何よりも自由でわくわくするんですよ」

『がらくた』はそのタイトルと相反するように、きっと多くのリスナーにとって宝石のような輝きを放つ一枚となるだろう。桑田は今秋、全国10ヵ所18公演のアリーナ&ドームツアーをスタートし、2017年を大晦日まで駆け抜ける。そしてさらに来年はサザンのデビュー40周年イヤーが控えている。

走り続ける桑田佳祐から、これからも目が離せない。

(おわり)

取材・文/内田正樹



『With Music』2017年10-12月号(非売品)



桑田佳祐『がらくた』
2017年8月23日(水)発売
初回生産限定盤A (CD+Blu-ray)/VIZL-1700/4,800円(税別)
初回生産限定盤B (CD+DVD)/VIZL-1701/4,500円(税別)
初回生産限定盤C (CD+DVD)/VIZL-1702/3,500円(税別)
通常盤(CD)/VICL-65000/3,300円(税別)
アナログ盤(LP)/VIJL-61800/61801/4,300円(税別)
タイシタレーベル




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